母の墓~豪華絢爛ver~
ルカディオに手を引かれて、クリスティアは母の墓に足を踏み入れた。
最早これが墓と言っていいのか何なのか分からない形をしている。
大神殿と言われたら納得してしまうような太い柱の立ち並ぶ神殿の中に入ると、両脇には何かの祝賀会が始まるのではないかというぐらいの花々と、美しい彫刻、高価そうな壺やら剣のレプリカやら、輝く宝石やらが並んでいる。
「お、お墓……」
「安心してくれ、クリス。君の母の骨を掘り起こし、こちらに持ち帰り安置してある。共同墓地だからな、他の骨が混ざっていたら問題だ。掘り起こした骨は人型に一度戻し、没年を鑑定して君の母のものだとはっきりさせている」
「え、あ……え……? え……?」
「ん?」
「い、いえ……」
どうしよう。
ルカディオの言っている言葉の意味がさっぱりわからない。
やっぱり自分には学がないから──と、クリスティアは落ち込んだ。
落ち込みながら、骨、鑑定……? と単語を反芻したが、やっぱり分からなかった。
神殿の奥に進むと、どういうわけか厳かな音楽がなりはじめる。
神殿の中は天窓からの光が降り注いでおり明るい。
明るい神殿に音楽。すぐにでも聖歌隊の歌唱がはじまりそうである。
もちろん、クリスティアの長年過ごしていた大神殿とはなにもかもが違う。明るいのだ。まるで、クリスティあの信じている、死者の国エデンのように。
楽隊が演奏するような音楽が鳴る中を進んでいくと、広い空間に辿り着いた。
「こちらに」
ルカディオに手を引かれて中央まで進むと、足元からどういうわけか白い煙がたちのぼってくる。
白い煙とともに、床が動いた。
ぱっかりと床が開いて、そこから天使たちの像が棺を持ち上げて浮かび上がってくる。
そして──その棺の背後にせりあがってきた像は、女性の姿をしていた。
「……!? ……!?!?」
もう、声も出せなかった。
この状況は一体何だろう。この奇妙な光景は。
床がひとりでに開いて、人もいないのに石像が浮かび上がってくるなんて。
白い煙で広間は満たされて、くるくると色とりどりの花が舞い、空にはきらきらと星が瞬いた。
「こ、ここが、エデンなのでしょうか……」
「聖廟だ、クリス。君の母のために作った墓だな。夜はうるさいだろうが、昼は寂しいだろう。だから、毎日日中は日替わりで流行の曲を奏でるようにしてある。自動オルゴールという魔道具だな。人が訪れると、神秘的な演出と共に墓がせりあがってくるようにしてみた。気に入ったか?」
「え、あ……」
「君の母上の姿を生前を知る者に聞いて、彫刻もつくった。君に似て美しい人だったようだな」
「お母様……」
女性の石像は確かに、クリスティアに似ている。
クリスティアは母の姿を知らない。
こんな風に──姿を知ることになるなんて。
想像もしていなかった。というか、できないだろう。どれほど想像力が豊かでも、スモークと共に母の棺と石像が床からせりあがってくるとは思わない。
「お母様……こ、こんなに立派なお墓を、つくっていただいて……」
「これでいつでも墓参りができるぞ、クリス。君の好きなときに。俺の使用人たちも聖母に花をささげたいと言っている。これからはずっと賑やかだ」
「は、はい、ディオ様……」
「聖母ステア、クリスティアを生んでくれてありがとう」
ルカディオは深々と、棺に礼をした。
クリスティアも両手を合わせて母に祈りをささげた。
聖女になってからずっと、墓参りができていなかった。
──三年ぶりの、母との再会だった。