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Life Design Teacher!   作者: 松本隼龍
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一時間目 「そもそも学校とは?①」

一時間目「そもそも学校とは?」


入学式から数日、今日はこの学校で初めて導入されるLDTライフデザインタイムの授業が行われる。入学式であんなに啖呵切ってた先生はどんな授業をするのかな?


私は牧野愛美まきのまなみ。13歳の中学2年生。発育以外は多分平凡な女子生徒だ。あだ名では苗字と名前の頭文字を取って「ママ」とか呼ばれている。この年でママにはなりたくないなぁと思っているが、小学校の時に付けられかけた頭文字が「ダブルM」で「DM」とかよりはマシ。SNSちゃうっつーねん。


「ママー!おはよー!」


ドスン! と胸に突っ込んで朝の挨拶を交わす彼女は大奈奏おおなかなで。保育所からの幼馴染でこの挨拶も最早慣れたもの。男子が羨ましそうにこちらを見るのも朝の日常だ。女子は普通に彼女の事を「奏ちゃん」と呼ぶが男子の間では名前の読みを変えて「ダイナソー」と呼ばれている。彼女自身、生き物や恐竜が大好きなので別段気にしておらず、むしろ自己紹介のネタに悩まないと喜んでいる。サイドテールが今日も可愛い。


「おはよう。今日も元気だね。」


「今日はワクワクしてるからね。どんな授業をしてくれるんだろうね?」


彼女も私と同じなようで昨日の夜もLINEで同じ事を言っていた。そうこうしていると予鈴が鳴り、担任の先生が入ってきた。例の先生も一緒だ。


「えーみんなも知っての通り、今日のLDTの授業はこちらの先生に行ってもらうわ。私は事前に少し授業内容をお聞きしたけど触りだけでもとても興味深かったわ。皆大いに学ぶようにね。」


「はーい。」


担任の松本未来まつもとみく先生は出欠を取り、他のクラスに自分の授業をしに向かった。


本鈴が鳴り響き、クラス委員の私は号令をかける。


「起立!礼!着席!」


「おはよう!」


「おはようございます!」


入学式での怒ったような雰囲気とは打って変わって先生は明るい挨拶だった。


「まずは軽く自己紹介。この街で今は議員をやっている平泉聖ひらいずみせいだ。年齢は34。肉体年齢は23。」


意外な自己紹介に笑いが起こる。それ言う必要ある?笑


「いいねぇ。良い雰囲気になってくれた。流石に俺もちょいと緊張してたんだ。やっぱりおっさん連中と話しているより若い子達の笑顔の方がやる気が出るな。続いて職歴としてはこの学校のOBであり、高校を卒業して陸上自衛隊の戦車部隊に配属、その後はこちらに帰ってきて青少年育成委員会の理事をやりながらアパレル、ラジオパーソナリティー、酪農家、そして今の議員を行っている。それまでの経験から必要性を感じ、この自分で自分の人生をデザインする時間「LDTライフデザインタイム」を導入させ、今回に至っているわけだ。

趣味はカードマジック、ものまね、ヨーヨー、お笑いと多数。長くなったが大人というよりは「部活の先輩」ぐらいの感覚で気軽に質問してくれ。」


多種多様という言葉がピッタリの自己紹介にクラスの緊張は解かれた。あの入学式の挨拶に身構えていた生徒は結構いたけどそれ以上に「面白そう」の気持ちが上回った様な空気を感じる。


「では第一回目の授業を始めよう。テーマは「そもそも学校とは?」」


学校とは・・ あれ?何だろう?学ぶ場所?友達作る場所? 


「明確にこれだ!って答え持っている子はいるかな?」


クラスの誰もが困惑してなかなか手が上がらない。1人が恐る恐る手を挙げて答える。


「ふっ普通に学ぶ場所?」

「間違ってはないけど何を学ぶのかな?」

「え?各教科の内容・・」

「その内容を社会に出て使うと思う?」

「えっどうだろう?・・分かりません。」


きっと誰が手を挙げていても同じような状態になっただろう。明るくなった教室が静まり返る。


「ありがとう。では使うかどうかも分からない内容を覚えさせてこういう状態になっている事が良い状態か悪い状態かといえば悪い状態の方だと思う人。」


クラスの面々がゆるゆると皆手を上げていく。


「だよね。では何故国が指定してまでこの教科を習わせているのか考えた事がある人。」


今度は打って変わって一切手が上がらない。


「この様に理由も説明されず、使うかどうかも分からないものを習わされる事に君たちの2度と帰って来ない学生という時間を費やしてしまっている。考えさせず、こなすだけの人間を作り上げれば雇うのも安く雇えるし、企業が儲かる様に出来る。サラリーマン養成所を国ぐるみでやっているわけだ。疑われる事なくね。」


確かに今まで疑って来なかった。急に恐怖というか徒労感というかとにかく「負」の感情が心に湧き出てくる。


「安い賃金で働いて、こなすだけならAIが取って変わる職業もわんさか。入学式で言った『バブル期能天気世代』の受け取る年金も、その世代は5人で1人を補っていたのを我々は1人か2人で担わなきゃならない。俺たちの世代で2000万以上、君たちの世代で3700万円以上は払い損になり、制度見直しで俺らには当たらない可能性が高い。上がる税金、その上家族も作らないと国が成立しなくなるから伴侶も子供も養わなきゃならない。潰れて人生リタイアする人間が多く出る事・・想像できるかな?」


社会に出た時に自分の身に起こる事と考えたら恐ろしくてしょうがない。一生をこのように過ごすの?前の世代は何をしているの?


「まだまだ一例で今後の授業で言っていくけども、こういった事態に直面した時に耐える能力を学生の内に養っておきたいと思わない?」


「はい!思います!」


男子の1人が勢いよく返事をする。その勢いを見るにこの緊張感に耐えられなかったのかも知れない。


「良い返事をありがとう。少し身の上を話させてもらうけど、さっき言った『潰れて人生リタイアした人間』に・・・俺の同級生がいる。」


クラス一同の空気が更に凍りつく。


「役所に勤めて真面目に仕事をして子供もいた。俺が議員になってすぐの頃に様子がおかしくなっていて、話を聞くためとリフレッシュを兼ねてプチ同窓会をセッティングして連絡した時には・・もう間に合わなかった。」


先生は目にうっすらと涙を浮かべる。


「この中学でいじめ等が横行していた学年があり、教師も匙を投げて放置した程の地獄を一緒に乗り越えた戦友だった。その戦友に相談もできないような状態にされてそいつは逝った。役所勤め、つまり『この街に潰された』んだ。 そんなのもう・・見たくないじゃないか。」


始まったばかりなのにクラスの空気がもはやお通夜状態。今にも泣き出しそうな子もいる。この先生はそんな悲しみを抱えながら授業をしてくれているのか。


「これが皆に教えようと思った大きな理由の一つ。暗い空気にさせてしまったけど、俺は「経験者」として他の皆んながそのラインを超えないための「壁」でありたいんだ。だから微力だと思うけども参考程度にはして欲しい。」


そんな思いを抱えてまで前を向いて私たちに接してくれている人の言葉が「微力」であるはずがない。聞き漏らさない。絶対為になる筈!と思った。ノートを取るシャーペンに力が入る。一同が落ち着くのを待ってから先生は授業を再開させた。


「さて暗い話はここまでにして。このテーマ『そもそも学校とは?』だけども「何故学校に来なきゃならないのか?」「勉強をしなくてはならないのか?」他の先生に聞いた事ある子いるかな?」


「はい。「将来の為」って言われました。」


私は何故か自然とスッと手を上げて答えた。


「そう。大体の先生がそれで「片付ける」んだ。ただ間違いではないが「具体性」が無いんだよね。それもその筈、「片付けられて」来た人が「他の職業を経験せず」に「先生になるための行程」を歩んできて先生になっているから。他人の将来の為の事なんて具体的に話せるわけがないんだよね。問われた段階でそのカテゴリーやジャンルを学び直して伝えたり、道筋を整えてくれる先生は本当にいい先生だけど生徒分全部やれると思う?とても時間足んないよね。先生自身の生活もあるし。」


それはそうだ。言われてみれば確かにと思う。成程だからこの先生は外部の手助けがいると考えてこの授業制度を導入させたのか。


「そこまでやってもらえて当たり前と思ってる、自分の為に動いてくれて当たり前ボーダーが高い「平和ボケ人間」が、生徒側なら「甘えん坊」、保護者側なら「モンスターペアレンツ」になる。先生からしたら迷惑極まりない。こういう人間達を増やさない為にはコミュニティの状態を理解する必要がある。」


すっごい悪口ばっかり言ってる気がするけど分かりやすいな。そしてそのまま先生はある図を描き出した。描かれているのは3つの円。一番小さく内側にある円には「家」、それを取り囲むようになっている円には「学」、更に全体を取り囲む円に「地域」と書かれている。


「この図で分かるように、次世代の成長コミュニティは「家庭」「学校」「地域」の順で広がっていく。その起点である「家庭」で教えるべき事が出来てないと次の学校の所で衝突が起きたり、問題が発生したりする。そして平和ボケ人間は発生した問題に「それは学校で習う事でしょ。」とか「学校がやってくれなきゃ。」とか言ったり思ったりで自分にその責任がないと主張するわけだ。「自分たちもそうされてきたから」と他人のせいにする人も非常に多い。」


自分も親に「そんなことも学校で教えて貰ってないの?」と言われた事がある。その時は知らんものは知らなかったから適当に「うん。」と答えたがあれがそもそも間違いなのか。


「今の話とこの図で気付いた子いるかな?この「家庭」で教科の内容を教えても別に構わないんだとしたら、「学校」いらなくね?」


いらなくね?あれ?じゃあなんであるの?


「では学校ってなんであるの?って思ったよね。その答えをまず最初に言っちゃいます。」


長々とした前口上だったがここでようやく本題に。色々思いが伝わったからいいけど。

先生の言ったその答えは・・


「学校とは「基本的な能力と人格の育成の場」である。」

 


続く


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