表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

自動運転車の事故責任

 自動運転レベル4。高度運転自動化が達成をされた。徐々に自ら運転をする人の割合は減っていき、居眠り運転が社会問題として扱われるようになっていたが、それも「そこまで神経質になるような事か?」といった意見が出始めていた。

 自動運転車が事故を起こす確率は非常に低く、居眠り運転でも問題ないと考える人が増えていたのである。

 が、そんな折に事件が起こった。

 

 ある男が自動運転車に運転を任せている状態で大事故を起こした。横断歩道を歩く数人の列に突っ込み、一人が死亡、4人が重軽傷を負った。事故を起こした男の身柄は確保され、間もなく逮捕起訴される見通しとなったのだが、そこで男はこのように主張したのだった。

 

 「運転は自動運転に任せてあった。確りとメンテナンスも受けているし、ディーラーのチェックも通っている。

 自分に一切の過失はないはずだ」

 

 自動運転車には自己診断機能があり、もし何らかの不具合があったのならアラーム通知するようになっている。そのような場合は自動運転機能は使えない事になっているのだが、当然、そのようなアラーム通知はされていなかった。

 自動運転車の管理責任は所有者にある。だから仮に問題を起こしたとしても、管理責任の点から事故の責任を問われるのは所有者というのが一般的だ。

 がしかし、彼は法律上の定められた手続きの上で自動運転車を管理しており、何かしら問題があるようには思えなかった。

 つまり、今回のケースは完全な自動運転車側の落ち度であるように思えたのだ。

 

 この事件は大きくニュースで取り上げられ、男は人々の同情を集めた。そして、裁判が行われた結果、この事件のケースにおいて男の責任は問われない事が決定した。そして賠償責任は製造元の自動車メーカーが負う事になったのだった。

 この顛末に疑問を抱く人は稀だろう。男は何も悪くない。だから、自動車メーカーが責任を負う。

 正しい。

 正しいようにしか思えない。

 

 ――しかし、事はそれほどシンプルではなかった。

 

 発生確率は極めて低く、また重大事件に繋がるケースもほとんどなかったのだが、所有者側の管理責任を問えないような自動運転車のトラブルはそれからも起こった。先の裁判以降、それら事件の賠償責任は、全て自動車メーカーが負う事になったのだが、それによって自動車メーカーの損失は徐々に大きくなっていき、遂には経営が困難になるレベルにまで達してしまったのだった。

 これに疑問を抱く者もいた。果たしてこれら事件の全てのケースで、本当にメーカー側の過失責任が問えるのか?

 実は自動運転技術を嫌がる利権団体が日本には存在する。自動運転技術が進めば、運転免許はいずれ必要なくなるだろうが、そうなると運転免許絡みの利権団体は維持できなくなってしまう。また、道路交通利権とも相性が悪い。道路のインフラを前提として自動運転を考えていた官僚や企業にとっては、インフラ設備の必要のない自動運転技術は目の上のたんこぶなのだ。

 つまり、過剰に自動車メーカーに責任を負わせ、優れた自動運転技術を持つ自動車メーカーを追い出そうとしたという疑惑があるのだ。

 

 自動運転技術が完全ではなく、時に事故を起こす事があったとしても、それでも人間が事故を起こす確率に比べれば随分と低い。

 自動運転レベル4、高度運転自動化がストップした事によって、再び交通事故が増えていた。

 もちろん、事故死者も。

 また、諸外国との“競争”の問題もある。有用な技術を活用しなければ、当然、競争には負けてしまう。

 

 ――母親が泣いている。

 飲酒運転していた男が事故を起こし、子供が死んでしまったのだ。

 もしかしたら、その事故を起こした本当の犯人は、自動運転技術の普及にストップをかけた人間達なのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 色々と考えさせられる内容でした。 様々なサイドの人間の思惑や利権が絡み合っている間にも、確かに事故は起こってそれで悲しむ人がいる。 ラストのケースにおいては運転者にも大きな過失があるように思…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ