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親指から始まる終幕への一手  作者: 仲井戸なるみ
一章 咲耶
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8話 自由きままな誘い

『主……いや、桂馬。これより、燈中家一族に名を連ねるものとして、力の使い方を伝授する』


「紅様、お待ちください! 桂馬は何故、純記塊(クリア)《誘》に選ばれたのですか!?」



 叔父さんが手をバタバタさせながら紅に問い詰めた。

 確かに俺自身にとっても疑問だったが、それよりもこの数時間で俺の日常がアップデートされていき、既に脳みそは煙を吹くかの如く混乱し続けていた。



『知らん。先にも言った通り、私は《誘》に関しては詳しいことはわからないのだ。呪い(ちから)は授けたが、それはあくまで個々の才能を開くきっかけにしか過ぎない。私には記憶を見ることも出来ない上に、仮に出来たとしても《誘》に選ばなければ扱うこともできん。力技の方法はあるが、それをやると《誘》は必ず壊れる』



 ちなみにと紅は話を続ける。



『桂馬がまだ1歳の頃。桂馬の両親共が私に一族の新しい命が生まれたと挨拶をしに幽禍の支所へ来たときに桂馬は《誘》に選ばれた。朱鳴越しに話をしている最中にそれは突然起きた。私は千里眼を使い実際に見ていたので、あの時の事はよく覚えている』


「そ、そんな話、兄さん達からは一言も……」


『当たり前だ。私がこのことを誰にも言うなと指示したからな。《誘》は詳しくわからない上に何もしなければ基本は本人の意思関係なく周囲から霊や妖を集めるだけの能力しか出さん。なので危険と判断して桂馬の霊力を封印することにして、関係者や一部の者を除いて情報統制した。桂馬の能力を悪用されんようにな』


「兄さん達は自分の子供を危険に合わせたくないと桂馬をこの非日常の世界に入れないようにしているのを見てきました。そのために紅様にお願いをして霊力を封印してもらったと。危険はありますから、過去にも同じような事が行われていたと聞いていましたが……」


『誤解ないように言っとくが、それは本当の話だ。桂馬が《誘》に選ばれた時。元々桂馬の両親は過去の一件以来、自分たちが狙われているのを知っておったから、それに巻き込まれないよう私に保護を求めてきたのでな。それも、その為なら自分たちの命を捧げると来たもんだ。さすがに私も驚いた』



 この時、俺は両親の気持ちを初めて知ることが出来た。

 両親は幼い頃に亡くなった為、記憶の中では顔も既にぼやけつつあり、どんな声だったか、どんな話をしたかも所々忘れていることもある。

 それでも大事にしてもらったのは覚えていた。

 俺が話すと嬉しそうに聞き、俺が泣き出すと泣き止むまで抱きしめてくれたり、側にずっといてくれたり。

 記憶は薄れているが、それでも思い出すと心が温かくなる。

 

 だからこそ、紅の話を聞いて堪らなく嬉しかった。



「兄さん、義姉さん……」


『今回の一件が無ければ、この世界に立ち入れないようと私は考えていた。あやつらは私たちにそれだけのことをしてくれたらな。だが、こうなってしまっては最早違う』



 そう呟くと、右手に持っていた勾玉が宙に浮き、俺の眼前で止まった。

 まじまじと見ることになったが、相も変わらず神々しく茜色に輝いており、その光を見ていると落ち着くような……だけど、どこか心の何処かで恐れるような不思議な感覚がした。



『桂馬、お前はこの世界に入る必要がある。それは《誘》に選ばれたからとかではなく。もっと簡単な理由だ。お前の両親は確かに現実世界で命を落としたが、二人の霊魂はまだ成仏していない。つまり、まだこの世に留まっているのだ』


 「え――」



 言葉を、失った。

 前の俺だったら、この世界を知らない俺なら素直に墓参りに行き、天国にいるであろう両親にちゃんと顔を向けられただろう。

 だが、今は違う。

 天国に、お父さんやお母さんはいない。

 まだこの世にいる。



「紅さま、その話はっ!!」

『偶然とはいえ、この世界に踏み入れてしまった。それなら知るべきだろう? 自分の両親の事を』



 気持ちが揺れていた。

 自分の一族がこんな非日常の世界にいた事や今までの常識を覆された事。

 それに加え、自分の事や両親の事。


 

『もし、非日常(こっち)の世界に来るなら、この一件が終わった後に桂馬の両親の事を話す』



 ――桂馬、だいすきよ。


 お母さんの声が、聞こえた気がした。

 優しくて、いつも笑っていて、安心を与えてくれていた大事な存在。


 ――桂馬、お前は必ず俺たちが守るからな。


 そうだ、思い出した。

 俺が泣いていると、いつも抱っこして背中をさすってくれていたお父さん。

 髭が当たって、くすぐったかったけど……それでも、大好きだった。


 そんな人達が……天国にいない?



「紅、さま」


『なんじゃ?』



 目の前に浮いている茜色の勾玉を見つめた。

 それは小さな夕日みたいで、これからこの世界に入るんだと思うとその光景はまるで。



「まだよくわかって、いません。難しいことを考えるのは止め……ました。」


『ふふっ、無理に敬語使わんでいい。桂馬、お前はどうしたい?』


「……紅。俺は両親がまだこの世にいるなら探したい。だから、俺に力の使い方を教えてくれ」



 人が逢魔が時に別の世界に入り込んでしまうような、そんな感じがした。



『ふ、ふふ。ふふふふふ。これだから人間は』



 ≪好きなんじゃ≫

 そう呟くと、茜色に輝いていた勾玉がその赤みを増していく。

 そして。紅の勾玉は文字通り紅色に染まっていった。


 瞬間。


 ――ズンッ!!!


 周囲の空気……と言うよりも空間そのものが重たくなった。

 体を動かそうにも、少し動かすだけでもまるで体の周囲をコンクリ―トで埋められてしまったかのようにビクともしない。

 肩が痛い。両肩に何か得体のしれない物体が覆い被さっているように重く、足が地面に沈み込むように重力を感じているのがわかる。

 なのに体が固まっているからか倒れることも出来ず、その場にただ立ち尽くすしか出来なかった。



『さーて。桂馬、まず現状の確認じゃ』



 そんな中でも、軽い口調で話し始める紅。

 ふわふわと浮いている勾玉から発せられる一言一言がやけに体に響く。

 目しか動かせなかったが、右を見ると叔父さんや警官達はもちろん、さっきまで突撃してきた幽霊たちすらも地面に伏していた。



『ちゃんとこっちを見ろ。桂馬、詳細はわからないが現状、切比古神社に封印されていた怨霊 咲耶に狙われている。それもお前の友人達を人質に取られている。対してお前はまだこの世界に踏み入れたばかりで、持っているのは使い方の知らない燈中家の能力と厄介者を集めるだけの役に立たない純記塊(クリア)《誘》』



 両親も気になるが、まず目の前の事を解決しない事には何も進めない。

 ただ、この時の俺は一般人に毛が生えただけ。それでどう対処すればいいのか。

 それを悩んでいたが、紅はあっさりと言い放った。



『桂馬、お前は今から純記塊(クリア)《誘》を使いこなせ』


「は、はあ!?」


『言い忘れていたが、私達妖は基本的に人間の世界への直接干渉をするのを控えている。理由はさっき話した穏健派と過激派は原因だ。過激派が一方的に霊力を奪い取り、穏健派は人間達に力を与え仲間を増やしていった結果、力がお互い大きくなりお互い損害がかなり出てしまったので、穏健派と過激派との間で人間界への直接干渉をしないことに停戦協定を結んでいるからだ』


「いや……散々、干渉していないか?」


『表立っては干渉することは無くなったが、裏では過激派が霊力を奪い取ることを止めなかったからな。穏健派も動かざる得ないのだ』



 すると、この時感じていた重苦しさが無くなった。



『ふぅ。お主たちを守る為の防壁と幽霊達の動きを止める。多分これが限界じゃろ』


「何が?」



 俺は体を動かしてみた。

 ちょっと固まってはいたが、なんとか動けた。

 周りを見ても叔父さん達が少しづつ立ち上がっていた。



「紅様……勘弁、してください」


『すまんすまん。今こっちの動き止めながら神社の動きを探っていてな』



 え。こっちで普通に話してましたよね?と思ったが、これも紅の能力だった。



『そしてわかったわ。この一件、過激派が絡んでいる』


「過激派が!?」


『元々、過激派は咲耶の上質な霊力を欲していたしな。予想はしていたが、間違いなく直接干渉をしているのも確認した。なので、こちらも大義名分を得て悠々と使わせてもらった』



 はははと笑う紅を勘弁してください!と怒る叔父さん。

 苦労、しているんだなと心底感じたので、この一件が終わった後しばらく叔父さんの好物を叔母さんに教えてもらいながら作ったのはまた別の話。



『さて桂馬。さっきまでは私が集まってきた霊を防いでいたが、次はお前の番だそ』


「俺の、番? 何も出来ないけど!?」


『今から教えるから大丈夫だ。いいか、純記塊(クリア)《誘》は本人が意識しなくても自動的に霊などを集めるしてしまう能力だ。他にも封印能力もあるらしいがそれは置いとく。肝心なのは《誘》は意識的に使えば敵を遠ざけることもできる、と言う点だ』


「遠ざけることができるの!? それなら早くそれをおし」


『慌てなさんな』



 ゴッ!と後頭部に軽い痛みを感じた。

 目の前に浮いていた朱鳴が俺の頭に突撃してきた。



「いたっ! その勾玉大事なもんなんだろう!?」


『うっさいわ!』



 また突撃していた朱鳴。というか紅。



『ほらほら、早くしないとここにいる連中も含めてやられるぞ?』


「桂馬、ここは俺に任せてお前は逃げろ!」



 冷や汗だろうかもしくは暑いからなのかわからないが、汗ダラダラ流しながら警官達と一緒に幽霊たちと対峙している。

 ガタガタ震えているのが暗い中でもわかる。



『バカ、お前はこの状況に向いた力を持っておらんだろ!』


「しかし!」


『大丈夫じゃ。桂馬!力の使い方を教える!』



 いよいよか、と覚悟を決めた。というか、どうにでもなれ!と自暴自棄になっていただけだが。



『いいか?純記塊(クリア)は変換すれば力や能力に代わる。だが変換させるには記憶を理解する必要なのだ』


「記憶を理解するって?」


『そもそも純記塊(クリア)は一個一個に名前がある。《誘》みたいにな。それは、純記塊(クリア)はその命の記憶の答えだから。当たり前だが、どんな生涯を過ごしたのかによってその命が生み出す結果は違う。例えばあやつが持つ純記塊(クリア)《石》だ』



 そう言うと、フワフワと叔父さんの所に飛んで行った紅。

 なんでもいいけど、やっぱり勾玉が自由に飛んでいる光景にまだ違和感を感じていた。



純記塊(クリア)《石》の生涯は我慢の連続だった。子供の時は親から虐待を受け、それを耐えても学校ではいじめを受け続け、社会人になっても上司からのパワハラをひたすらに受け。泣き言も言わなかったが最後に我慢しきれなくなり自分の人生に絶望をして死んでいった』


「何故、紅様が知って……」


『お前の妻がお茶飲みながら教えてくれたわ。ともかく、この《石》の記憶の持ち主はそんな生涯を通して出した答えが、例えどんな激流でも黙って自分の身を削り、誰かに蹴られてもただ蹴られ続けている石に自分を見立てたのだ』



 この時叔父さんが、あいつ!そんな近所の奥様同士の感覚で大事なことを話しやがって!と憤慨していた。

  後日、叔母さんと叔父さんの好物+欲しかったものをプレゼントしたのはいい思い出だ。



『そして出来た、純記塊(クリア)《石》の能力は周りを守る盾を作り出すこと。制限があるが、地面から石で出来た巨大な盾を作り出し、使い手の意思の気持ちが折れるまで壊れない特性を持っている』


「なるほど」



 普段から俺や叔母さんを守ってくれている叔父さんらしい能力だなと感じた。

 それと同時にやっぱり叔父さんもこの非日常の世界の住人なんだなと認識させられた。



『これは純記塊(クリア)《石》の記憶を理解したからこそ能力を使えるが、何も知らないければもちろん使えない。《誘》は例外で理解していなくとも自動で発動するが、理解していればこの力を自由に使えるようになる』


「そもそも。この純記塊(クリア)《誘》って俺が今持っているんだよな? でも俺はそもそんなものを持った覚えがないし、どこにあるのかも知らないけど」


『霊魂じゃ』


「は?」


純記塊(クリア)は霊魂、魂に憑りついて霊力を吸収することで力が発動される。まあ《誘》は勝手に憑いて勝手に霊力吸い取って勝手に使うから、尚更こいつを使えるようにしないと自分が困る事になる』



 今までは私が抑えていていたんだがな、と偉そうに言っていた紅にムカついたがそのまま話を続けた。



「魂!? なんて迷惑な………。それで《誘》を使えるようにならないとこの場も切り抜けられないことはわかったが、どういう風にやればいいんだ?」


『あぁ、最初は私がサポートしてやるから大丈夫だ』



 言うや否や、紅の朱鳴が怪しく輝きだした。



『いいか桂馬。まず、霊力を感じる事だ。今、主と私の間で霊力を循環させている。ちょうど可視化もさせているがまず感じることだ』



 見ると俺と紅の間にピンク色の靄がふわふわと行き来していた。

 それと同時に自分の中で何かが抜けていく感覚と入り込んでくる感覚があった。



『うむ、いい感じだ。次はこのまま記憶を閲覧するぞ。力を発動させるには……所謂≪呪文≫が必要でな。純記塊(クリア)を発動させるにも≪石≫などの記憶の結果が必要になるようにな。そして、記憶を閲覧する場合の呪文は体感アタックだ』



 そこまで聞き、俺は意を決してその呪文を唱えてみた。



体感アタック



 次の瞬間、暗い奥底へ落ちるように俺は意識を手放していた。


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近況につきましては、Twitterにて報告しております↓


https://twitter.com/nakaidonarumi

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