4話 来るよね?
やっとホラー展開。
「ダメだ!!」
突如響く怒声。
一緒に住み始めて、初めて聞いた声だった。
「お、おじさん? どうしてダメなの?」
家に帰り、夕飯食べた後に叔父さん夫妻に夏休み初日に肝試しに行っていいか相談した所、初めて怒られた。普段は温和な人で怒るなんてことはしてこない方だったのでかなり驚いた。
「理由は今は言えん。だが、切比古神社には言ってはダメだ」
そう言うと口を堅く結んで黙ってしまった。
燈中源太さん。実父の弟さんで一人ぼっちになった俺を引き取ってくれた神様みたいな人だ。
「ごめんね、桂馬君。ちょっとこれには事情があってね」
そう言いながら、暖かいお茶をくれたこの方は叔父さんの奥さんで燈中薫子さん。
叔父さんと同じく俺を文句言わず預かってくれ、いつもニコニコしてる優しい方だ。
「理由もわからないんじゃ断ろうにも断れないよ……」
結果として、叔父さん達の言ってることは正しいのだがこの時はわからなかった。
ましてや、中学生ともなると変にカッコつけたいお年頃。参加できると言った手前断るのはビビってると思われるようで嫌だったのだ。
「すまんな、桂馬。この話が出来るのは桂馬がきちんと物事の分別ができる大人になってからと兄さんたち、桂馬の両親とも相談して決めていたんだ」
「え……お父さんとお母さん? 一体あの神社に何があるって言うの?」
「桂馬君、思わせぶりな事を言って本当に申し訳なく思うの。ただ、今言えるのはあの神社は昔から燈中家と縁がある神社でね。私たちでもあそこに行くことができない場所なの」
そう言う二人は心底申し訳なさそうな顔をしていた。
これが嘘だったら、もう人間不信になるけどこの二人はそんなつまらない嘘を吐いてまで人を傷つけるよな人達ではない。
何よりそんな人達だったら、まず俺を引き取らないだろうし引き取ったとしても碌な扱いはしないだろうから。
この二人は俺を引き取ってくれてから、親としてではなく家族として扱ってくれている。その証拠に、小学生低学年の頃は両親の死をあまりわかっておらず、頻繁になんでお父さんお母さんの所に返してくれないの!?とぐずっていた。
そんな俺を叔母さんはごめんね、ごめんねと泣きながら優しく抱きしめてくれていて、叔父さんも桂馬、すまんと泣き止むまでずっと俺の側にいてくれた。
あの時は嬉しかったし子供ながら救われた気持ちだった。
高校になった今でも子供でまだ迷惑をかけているが、少なくとも中学生になってから極力この二人には迷惑かけたくないと誓うぐらい感謝していた。
「……わかった。俺も叔父さんや叔母さんに迷惑をかけてまで行こうとは思わないから、肝試しの約束は断るよ」
「ごめんね、せっかくの夏休みなのに」
「桂馬は俺らの前じゃ迷惑かけないよう大人ぶるからな。イジメとか無いよな?」
「ないない! 授業はだるいけどそういうのは一切ないよ!」
心底心配してくれる二人を見て、俺が捻くれなかったのはこの二人のお陰なんだよなと心底感じる。
もっとも、HKKに入った今は偉大な先輩としても更に顔が上がりませんが。
そう、この二人もHKKのメンバーなのだ。
「なら良かった。あと桂馬、約束する。切比古神社の事は桂馬が成人にしたら必ず話す」
ごめんね、叔父さん。
一週間しないうちに知ることになるんだわ。
「切比古神社にはいってはダメと言うのはわかった。でも、それならなんで言ってくれなかったの?」
「変に言って興味持たせたくなかったからね。小学生の頃は休みの日も友達とゲームしてたから行かないなと思ってたけど、中学生になってからは行動範囲も広くなったし、そろそろ言わないといけないかなって叔父さんと相談してたんだよ」
「叔母さん、じゃあギリギリだったね」
そういうと、苦笑いしながらそうねーとほんわかに返してくれた。
叔父さんも桂馬は俺みたいに捻くれてないからなーと苦笑いしてた。
「叔父さんは、桂馬君ぐらいの年に同じように切比古神社に肝試しに行くって言って、周り止めたのに無理やり行ったのよ?」
「ちょ、ちょっと薫子!」
「結局大人の人たちに捕まってこってり朝まで怒られたんだけどね?」
「あの時のことは思い出したくないんだけど……」
はぁ、と普段は芯が強そうなイメージを与える叔父さんがこの時はイタズラがばれた子供みたいに落ち込んでた。
「桂馬君、今の切比古神社はネットの普及もあって県内でも心霊スポットとして有名だけど、一応あそこは誰かしら大人の人が夜でも見まわってるから注意しなさいね」
切比古神社の巡回業務。
HKKの定期業務としてあったのだが、これは現在無くなっている。
「わ、わかった」
何故なら、巡回をしてまで様子をみていた元凶がいなくなるからである。
「さ、時間も遅いし明日も学校でしょ?早くお風呂入って寝ちゃいなさいな」
「ありがと。それじゃあ、先お風呂に入るね」
そういって、俺は着替えを取って来るため二階の自分の部屋に向かった。
「さて、じゃあ風呂に入るか。って、ん?」
部屋に戻ってスマホを見たらチカチカ点滅してた。
見たら佐々木からメッセージが届いていた。
ご丁寧に肝試しに行くメンバーでグループが作られていた。
「ふんふん、なるほどね」
そこには、当日の詳細が記載されていた。
返事も見る感じ皆行く感じだな、あっ、でも中には俺と同じく引き止められたって人が数人いた。そのうち、一人の女子がキャンセルすると返信してる。
「これはチャンスだな」
そう思い、俺も家族に相談したけどダメだったんで行けない旨を書いて送信した。
すぐに佐々木から返信が来た。
「臆病者、か」
なんと言われようと、叔父さん達の様子を見た後でさすがに行こうとは思えなかった。
なので、すまん。とだけ送ってスマホをベットに投げた。
「仕方ないよな……」
この時は中学生だったので、やっぱり断ったことにモヤモヤはしていた。
明日学校行ったらなんか言われるかなとか気にはなる。
それに、美音の事もある。
「美音に送っとくか」
美音に個別で行けなくてごめんねと送ろうとしてスマホを取ったら、ちょうどメッセージが来た。
スマホが画面にポップアップを出していた
佐々木からの《来いよ》のメッセージを。
「いや、だから俺行けないって」
全く、と少し呆れているとまた新着メッセージが来た。
スマホが画面にまたポップアップを出していた。《来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来い》で途切れていた。
気になってメッセージをタップして、本文を確認する。
「来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよ来いよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよこいよ なあくるよな」
「うわああああああ!!!」
思わず、スマホを投げつけた。
ガタン!と勢いよく壁に当たりベットに落ちていった。
「どうした桂馬!?」
と、音を聞きつけて部屋に駆けつけてくれた叔父さん。
その顔を見て、少し落ち着いた。
「な、なんでもない! ちょっと虫が天井から落ちてきて!」
しどろもどろに嘘を吐いた。
なんで嘘を吐いたのかは今でもわからないが、ただこのメッセージがバレると何か嫌な予感がしたからだ。
「そうか? ならいいんだが……」
そう言い、一階のリビングに戻っていった叔父さん。
それを確認して、もう一回メッセージを見た。
送信元は佐々木だった。個別チャットのほうで送られてきた。
「あ、あの野郎!」
あいつ、なんだ!?行けなくなった事の腹いせか!?
そう悪態を吐きながら、早くなった心臓の鼓動が耳に聞こえていた。
危険だと、今すぐ逃げろと伝えているかのように。
「こんなふざけたメッセージ送ってきやがって!」
震えていた手をなんとか動かし、佐々木に《お前こんなふざけた事送るのやめろ!!》と送った。
結局既読にはならなかったが、どうせ明日会うしその時に言えばいいやとこの時思ってた。
「あ、そうだ美音に送ろうと思ってたんだ」
思いだして、美音に行けなくなってごめんと送った。
すぐに返事が来た。
「他にも来れない人達いるし気にしないで!か」
この時、美音の一家は美音が小学生の頃に別の県から引っ越ししてきたからこの街にはあんまり詳しくない事を思い出した。
なので、切比古神社には地元の人間は行こうとしない事やウチの叔父さん達の事を話した。
そして、その返事が来た。
「ホラー好きだけど、そこまで言われるとさすがに怖くなってきた。断ってくる。か」
誰もいない部屋、一人溢す。
心霊スポットとして、他の人たちが行って帰ってきている以上は行った所で何もないだろうと思っている。ただ、それ以上に叔父さん達の態度が気になっていた。
あと、佐々木のメッセージも。
「一体、切比古神社に何があるんだろ」
一回気になると、止まらないものだ。
まあ、好奇心旺盛の中学生なのだからしょうがないのだが。
「ひとまず、風呂に入って来るか」
いつまで考えてもしょうがない。
今日の所は風呂入って寝よう!
そして、明日学校で佐々木にメッセージの事を聞こう。
そう決めて、深く考えず寝たのだった。
☆☆☆
「え?佐々木が来てない?」
次の日、学校に行ったら佐々木が来ていなかった。
中一から無遅刻無欠勤のアイツが休むなんて考えられなかった。
「朝練来てないんだよ。何か聞いてる?」
一個上の先輩が聞いてくるが、生憎知らない。
昨日までは元気だったのに。
「何も聞いてないですね。昨日一緒に帰りましたけど普通に元気でしたよ」
「んー、なんだろ。ともかくいないものはしょうがない。練習始めるぞー!」
そう先輩が全体に声をかけ、朝練が始まった。
「気になるけど、今は朝練だな」
その日はとにかく朝練をこなすことに集中した。
そして、朝練が終わり教室に向かったところで担任の先生から声を掛けられる。
「燈中君。ちょっと」
「はい、なんですか?」
「ちょっと佐々木君の事で聞きたいんだけど」
「あ、佐々木、今日の朝練に来てなかったですね」
「そうね。先ほど、佐々木君のお父様から連絡があって佐々木君が部屋から出てこないって連絡が来たの」
「え!?」
この時驚いた。
佐々木はまず部屋に閉じこもる奴ではない。休みの日も外に出かけてるようなアウトドアの権現みたいな奴だったからだ。
「そこでね燈中君に聞きたいのが、佐々木君と仲いいでしょ?彼、誰かに虐められてるとか話って聞いたことある?」
「イジメ?いやあり得ないと思います!」
そこそこ付き合いのあるほうだが、あいつがイジメられているってのは聞いたこともないし、まずアイツはお調子者だけど誰でも仲良くなれるやつなので考えられなかった。
「そう……。聞かせてくれてありがとね。もし、何か小さい事でも思い出したら先生に言ってね」
そう言い残し職員室に戻る先生。
「一体どうしたんだ?」
そう呟いて思い出した、昨日の不可思議なメッセージ。
もう一回見てみると、俺から送ったメッセージが既読になっていなかった。
「アイツ、大丈夫なのか?」
気になった俺は授業と部活が終わった後、佐々木の家に向かうのだった。
帰り道ふと小波山を見ると、夕暮れが山に沈みこもうとしており、周りを見ると何故か夕暮れ時に見るいつもの焼け爛れた真っ赤な空なのは変わらないが……何故か周りが紫色に染まっていた。
「なんだ、この色……?」
酷く不気味だった。
これから何か起こるようなそんな予感をあの時感じていた。
この夜、俺が知っていた日常が消えることになる。
そして、長い長い夜が始まったのだった。
カワイイ咲耶を…早くカワイイ咲耶を私に書かせてください…
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