3話 切比古神社
咲耶の過去編です。
「なぁ桂馬。お前切比古神社って知ってるか?」
「切比古神社?あの心霊スポットで有名な?」
ちょうど今ぐらいの時期だったのを覚えている。
もうすぐ夏休みって時に、同級生の佐々木からとある話を持ち掛けられる所から始まる。
授業も終わって確か部活に行くかって時に話しかけられた。
「そうそう。せっかくの中二の夏休み。来年には俺ら受験で忙しいじゃない? だから今のうちに思い出を残しておこうぜ!」
「思い出って……なんで心霊スポットがその思い出に関係してくるんだよ?」
「ふっ。よく聞いてくれた心の友よ!」
ビシッとこっちに指さしながら満面の笑みを向けてくる佐々木。
こいつとは小学生の時からの付き合いだけどお調子者だから、たいていこう言う時は碌でもない事に巻き込まれると経験談から知っていた。
「断る」
「んでな、心霊スポットでっておい! 人の話は最後まで聞けよ!」
「俺がそういった話で何回嫌な思い出を残してきたと思う?」
「大丈夫だって! 今回は楽しいから!」
ゲスイ笑顔を向けてくる。
周りにいた友達数人も興味を持ったのか、集まりだしてきた。
「はぁ、今回は何を考えたんだよ?」
「ムギュ、だ!」
「……は?」
「だから! ムギュ、だ!」
自分の体を抱きしめながらムギュムギュ行ってる佐々木。
今思い出しても控えめに言ってキモイ。
「俺たち、中学生になったんだぞ!? なら、こう、甘酸っぱい事したいじゃないか!」
周囲の友人たちもおぉ!と色めきたった。
それでわかった。コイツは肝試しにいってハプニングを起こしたいと。
「俺たち、モテないじゃん? 運動も並み、勉強も並み、見た目も並み。彼女できるのはカーストが上な奴。理不尽だと思わんか!!」
そうだそうだ!と周りから声が上がった。
女子からは男子って本当にキモイと冷ややかな目を向けられていたが。
それはそうだろう。要は心霊スポットに肝試しに行ってあわよくば女子から抱きつかれたいと言ってるようなもんだから。
「佐々木、言いたいことはわかった。それでだ。仮に肝試しに行くとしても現在進行でクラスの女子から煙たがられてるけど、それはいいのか?」
「ふっふっふ。既にメンバーは獲得している!」
おお!とまた周囲が湧いた。同時に女子からの視線の嫌悪感が増したが。
「こういう時は行動早いな、佐々木。そういうの、もっと別の事に役立てればいいのに」
「楽しいことにステータス全振りしてっから俺は!」
もうワクワクが止まらないんだろ。両手を忙しくなく動かし、よほど楽しみにしているのがわかる。
これはストッパーが必要かなと思い渋々言った。
「わかったわかった。佐々木をこのままにしていくのも危ないし、俺も行くよ」
「お。来るか心の友よ!」
この真夏に抱き着いてくる佐々木。
汗かいている男に抱きつかれて更に蒸し暑くなった。
「あー、もう暑苦しいわ! で、他に誰が来るのよ?」
「予定では女子は四人確保出来た!別クラスだけど。あと男子は残り俺とお前。あと二人はまだ決まってない!」
それを聞き、周りの友人たちが俺も行く!と騒ぎ始めた。
不純な動機が見え見えなのでなんとも言えない。
「わかったわかった。他の二人はくじ引きで決める! さあ、くじを引くのだ!」
ちゃっかり準備してたくじ引きを参加希望者に引かせて周り、そして残りの二名も決定した。
「よし、決まったな!じゃあ、待ち合わせは夏休み初日、時間はまた後で連絡する!」
まだ中学生だったので各々門限の時間もあり、結局19時集合になり20時に解散する予定だった。
女子は危ないので、男子が各女子の家の近くまで送り迎えすることになった。
これも「真夏のハプニング」を期待した佐々木が考えた下心満載の案だったのだが。
「いやー、楽しみだな、桂馬!」
「俺は不安しかないよ」
「そういうなって!」
ははは!と豪快に笑いながら、じゃ俺部活行くわ!と教室から飛び出していった。
この時、止めてればと本当に後悔している。
「とりあえず、俺も部活行くか。帰ったら叔父さん達に相談しなきゃ」
そして俺は当時やってた軟式テニス部の部室に向かった。
☆☆☆
「桂馬くん!」
「ん?」
部室に行き、ジャージに着替えてコートに向かう時、知り合いの女子に声をかけられた。
それが、当時同じ部活に入っていた美音だった。
「美音。おつかれ」
「お疲れさま! ね、佐々木くんから聞いたよ?桂馬君も来るんだってね、肝試し!」
ひょこひょこ後ろから走ってきて話しかけてきた美音。
その姿は小動物みたいで愛くるしくて可愛いと一部の男子から人気があった。
佐々木、よく美音を誘えたなとその時はびっくりした。
「え?美音も来るのか?」
「うん。私、ホラーとかそういうの好きだから一回行ってみたかったんだー」
手に持ってたラケットを手元で回して、ワクワクが止まらないといった様子だ。
ホラー物とか苦手だと思ってたのでこの時かなりびっくりした。
「お前ホラー物好きなの!? 一年の時から同じ部活だし話してたけど全然そういう話してなかったじゃん!だからてっきりそういうの苦手なのかと」
「ううん、逆。好きだけど、他の人にドン引きされるかなと思って内緒にしてたんだ」
「その一面……ここで出していいの?」
「好奇心に勝てなかったよ」
てへっと笑いながらラケットで顔をポリポリ恥ずかしそうに掻いている。
汚いからやめなさいなと思ったが、純真無垢な美音らしいとも感じていた。
「美音……」
「そ、そんな変な目で見ないでよ桂馬くん!」
「いや、意外だったから驚いただけ」
この時の美音は、やたらファンシーな物を集めていた記憶があるので、ホラーとかとは無縁のかわいらしい女子だと当時思っていた。
……食べ物は激辛が好きだったり、興味があれば猪突猛進な所があったり、驚きの一面を知ることになるのだがそれは今は割愛する。
「ほんとに? まあいいや。それで桂馬くんにお願いしたいことがあって」
「お願い?」
「女子は危ないから男子に家の近くまで送り迎えしてもらうころになってるでしょ?」
「あ、あぁそう聞いてるけど」
「それ、桂馬君にお願いできないかなって」
そういい、ラケット持ちながらお願い?と両手でこちらに拝んできた。
ラケットを今にもこちらに面!と言いながら振りそうな体制で一瞬びっくりしたが、美音の家はわりかし近いし、美音のご両親にも部活の大会の時に何回も会ってるから顔見知りだし、俺が適任かなとこの時判断した。
「俺でよければいいよ」
「よかった! 興味が勝って参加って言ったけど知ってる人が誰もいなかったらどうしようと思ってたんだ」
「ただ!俺自身も今日話聞いたから、帰ってまず叔父さん達に確認してから出ないと本当に参加できるかわからないけどね? 多分いいとは思うけど」
俺は小学生の時に両親が事故に遭い、天涯孤独になった。
その時、父親の弟。叔父さん夫妻が「うち、子供いないし桂馬くんが良ければ来る?」とありがたい言葉をかけてくれ、それ以来叔父さん夫妻の下でお世話になっている。
「わかった!じゃあ大丈夫そうなら私のエスコートお願いねー」
そう言いながら、美音も女子テニスが練習しているコートへ走っていった。
この時期、俺は御多分にもれず中二病を発病していたので、自分の中でどんな時でもクールぶってるのがカッコいいと思っていた。
なので。さして表情には出さないようにしていたが、気持ちは隠せず同い年の女子と夜に肝試しに行けると言う非日常をわずかばかり楽しみにしていたんだ。
「桂馬ー、何ニコニコしてんだよー」
そして、横から現れた同じくジャージに着替えた佐々木に横腹をラケットのグリップで突っつかれた。
佐々木も実は同じ軟式テニス部だった。
「わ、笑ってないし!!」
「ほんとかー? さっき澤原さんといい感じだったじゃねーか」
「……気のせいだろ?」
「そうかねー? あーあ、これは桂馬と澤原さんをペアにするしかないかな」
「ペア?」
「言ってなかったけ? 肝試しは男子と女子のペアで回るって」
「聞いてないよ!?」
だから、佐々木はムギュとか言ってたんだなと理解した。
それと同時に、悔しいがこいつにありがとうと言いたくなった自分がいた。
「本当はくじにしようかと思ってたけど、送り迎えしてきた男子と女子のペアでいいかもな。桂馬、お前澤原さんを送り迎えするだろ?」
「聞こえてたのか」
「あれだけ騒いでればな。他の奴らはどうするかわからないけど、決まらなそうなら……くじでいいかな」
にしし、と悪い笑みを浮かべながらあれこれやと考えている佐々木。
当時、実は佐々木の事を羨ましく思っていた。調子に乗るところがあるが、何においてもポジティブで楽天的な所はあるがムードメイカーな所があるからか、いつも友達に囲まれていて。
それに比べ俺はクールの方がカッコいいと思っている中二だし、佐々木みたく自分の中にあるものを押し出しているのではなく押し込めているので、根暗と周囲から思われていたらしく、友達も掌で収まるぐらいの人数だった。
高校生になった今思っても、友達は自分が信用できる人だけでいいと思うけど、もし佐々木みたいにいつも友達に囲まれていたら何か変わったのかなとふとした時に思う。
俺は佐々木にはなれない。ただ、性格は真似ることは出来る。
何故なら、憧れを持っていたから。
だからこそ、今回の事件をきっかけに変わろうと思ったんだ。
「ま、とりあえず今はいいかな。今は部活だ!」
「そうだな。まずランニングからか」
「よし行くぞ桂馬! 俺が勝ったら帰りにジュースおごれ!」
「ちょ、佐々木!お前フライングだろ!」
「俺がルールなんだよ!」
佐々木が大人になったらどんな感じになるんだろ。
ふと大人と言う漠然としたものを浮かべたがわからなかったので今はただ、その後ろ姿を追いかけることにした。
「佐々木ー、ぜってー追い付くからなー!」
「勝てるもんなら勝ってみな、全敗くん!」
「っの野郎……絶対今日こそ追い付く!!」
その後に美音に聞いたが。この時の事を美音たち女子テニス部が見ていたらしく、男子ってなんであんなにうるさいのかなーとか、高校生の先輩の方がよっぽどカッコいい人いるよ!とか散々言ってたらしい。
美音は気にせず練習してたらしいけど。
そして、時間が経ち部活終わった後。
俺は佐々木と学校近くの自販機にいた。
「じゃあ俺はレモッティね。ゴチになりまーす!」
「今日も負けた……」
真に遺憾だがこの日も負けた俺は佐々木にジュースを奢らされることになった。
しかし、このレモッティ。80円のジュースなのだが、味がレモネードと甘ったるい紅茶を混ざたような何とも言えない飲み物で、一口飲んですぐ噴き出して以来飲もうとは思えない飲み物。それを佐々木は美味そうに飲んでいるのだ。バカ舌なのか?と当時は常々思っていた。
「部活終わりのレモッティはいいねー!」
「俺にはわかんない。その良さが」
美味そうに飲んでるのを軽くひきながら眺め、俺も自分用に買ったお茶を一口飲んだ。
高校になった今でもそうだが、お茶はやっぱり落ち着く。
「そういや、佐々木。切比古神社が心霊スポットなのは知ってるけど、あそこってお化け出るのか?あんましよくわからないのよね」
切比古神社は平木波市でも結構有名な心霊スポットだった。
神社自体はそこまで広くないが、小高い山に作られており境内に入るためには100段以上の階段を上らないといけず、お年寄りには厳しい神社だ。
階段を上り切っても、大人三人が横に並んでも入れそうな鳥居をくぐり、すぐ両側にお決まりとも言える狛犬がおり、それを抜けると左側に手水舎。そして少し参道歩くと小ぶりの本殿がある。
街の中でも外れの方、山の方にある為かあまり普段から人は訪れてなさそうで、神主はいないみたいだが……見た目は無人の神社にしては綺麗で誰かしらが管理しているものと当時考えていた。
管理してたのはHKKなんだけど。
「俺も詳しくは知らないのよ。知ってるのはこの街に住んでる年寄りは「あそこに近づいてはならん!」って神社を恐れていること。後、心霊スポットとしても県内では有名で俺らと同じく肝試しに行った人たちの中で心霊現象にあったって騒いでる人たちがいる事ぐらい」
「ネットで今見てるけど、書いてるのは女の人の声が聞こえた!とか人魂が浮いてたとか。嘘くさっ」
この時は、霊とかそういうものは全く信じていなかった。
いるのかもしれんけど、俺には関係ないと思っていた。
「俺がそこを選んだのは、俺らの住んでる地区から自転車でそんなに時間がかからない事とどうして年寄り連中はあそこを恐れているのかが気になるから」
「確かに気にはなるな」
俺自身、叔父さん夫妻からあの神社の話は聞いたことがなかった。
今まで興味もなかったけど、ただ今は……なんだかその神社が無性に「気になる」。
今にして思えば、俺は呼ばれていたんだろうな。
もちろん、佐々木も。
「今考えてるのは、階段上るのがきついけど上り切っちゃえば後は小さい神社だけだから、その中をぐるっと一周して戻ってくる。10分ぐらいで終わるよ」
「そんな短時間で終わるの?それなら4ペアで回ってもかかっても一時間ぐらいか」
「そんな時間かかっても親に怒られるだけだしな」
苦笑いしながら答える佐々木。
「と言うか、佐々木。お前、切比古神社に行ったのか?」
「うん?あぁ、たまたまこの間の休みの時に近くを通ったら気になって入ってみたのよ。昼間だったけど結構雰囲気あってそん時にこの神社が心霊スポットなの思い出して、夏の思い出に肝試しやろうと思ったわけ」
ふーん、とこの時は流していたが、心底後悔している。
「ともかく、じゃあ当日よろしくな!」
「あいよ」
実はこの佐々木が、最初の犠牲者なのだから。
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