0話 プロローグ おいでませ
投稿シリーズ、処女作です。
拙い所はありますが皆様に楽しんでもらえるよう頑張ります!
「あー……やってらんないよ」
『うっさいねー、少しは黙りなさいよ!』
頭の中から聞こえてくる勝気な若い女性の声。
ここ数年いつも聞いてる声だけど、さすがに今日は勘弁してほしい。
「今日、期末テストの最終日よ? 俺、寝不足なのよ?」
『そんなの知らないわよ。それに日頃から勉強していけば何も問題ないでしょ?』
今は7月の半ば。高校二年生である俺にはもうすぐ夏休みがやってくる。
期末テストも色んな意味で終わり、後は補習にならないことを祈るのみだ。
「俺、今年は遊びたいから頑張ったよ? 咲耶も見てたろ、俺の頑張り」
夏休み。高校二年生の夏休み。
今年は遊ぶと決めてるんだ!去年は、せっかく高校入ったし友人も出来たしで楽しい夏休みになると思ったのに……あー!思い出すだけでムカついてくるわ!
『見てわよ。てか、頭の中うっさい。これだから若い奴は』
「おっと、その発言はいただけませんねー。知ってる? 今の時代そういう言葉は使っちゃダメなんですよー」
そして頭の中に最近見たアニメをワンシーンを思い出す。
ほら、どうよ?アニメでも似たような事言ってるしょ?
『アンタさ……昔の人間だったアタシが言うのも難だけど、ちゃんと情報は自分で確認しなよ』
「テレビでもネットでも同じこと言ってるし、多分間違いないでしょ。大丈夫だいじょうぶ!」
『はぁ、なんでアタシこいつに憑りついたんだろ』
呆れたように呟いたが聞こえると、俺の目の前に綺麗な女性が現れた。
――半透明でプカプカ地面から浮いてるけど。
「なんでこんなに綺麗なのに性格残念なんだろ」
『ちょっと! 残念ってどういうことよ!!』
「だってよ? 咲耶、幽霊だけど艶のあるロングの黒髪に顔だってモデルみたいに整ってるし、スタイルだって……」
自然と目が行ってしまうその……ボリューミーなお饅頭。
幽霊とはいえ眼福眼福。
『色気づいたエロ猿め!! これだから!若い奴は!』
「はいー、2アウト。次言ったらそのボリューミー饅頭もぐぞ」
『はっ、もげるもんならやってみな!!』
そういって突き出されるボリューミー饅頭。
……ま。そうされても俺にはできないんだけど。
「はいはい、俺が悪かったよ。で、ターゲットはぼちぼちかな」
そうこぼしながらスマホを見る。
手元のスマホには《お兄ちゃん頑張って!》の文字と画面いっぱいの大好きなキャラの素敵すぎる笑顔。
そして、0:32の現時点の時刻が映っていた。
『気配は感じるけどね。だんだん濃くなっているのは間違いないね』
咲耶がそう呟いたと途端。
――サアアアアアアアア……
春になれば桜のトンネルが出来るであろう並木道の街路樹が騒ぎ出した。
『桂馬、来るわ!』
今いる場所は昼間のこの時期ならバーベキューをやる人たちが腐るほどいるただの河原。
休みの日なら小学生達がサッカーの試合したり、ご老人の方々が町内会でやるゲートボールをしたりするんだろうけど、今はただ桜の木々が何かに怯えるようにただ葉っぱを揺らしていた。
「じゃあ、今日も始めますかね」
そして、音が止んだ。
精神的におかしくなるほどの無音。
そんな普通じゃない場に現れた。
『……フフ』
女性だ。
ただし、咲耶と同様地面から浮いて両足が無いのだが。
「これはまた……」
『おめでとう。予想通りね?』
「やっぱ地縛霊か。普通の説得は危険と判断。咲耶、《鞭》使うぞ」
そういうと、素早く頭の中で呟いた。
――体感
その瞬間。
頭の中に一瞬にして咲耶の《生涯の記憶》が流れ込んでくる。
「くっ……!!」
人の一生分の記憶だ。
良いこと、悪いこと。全部俺の中に入ってくる。
『毎度の事ながら悪いねー』
「っ!そう、思うなら……来世は、ちゃんと幸せになれやバカ野郎っ……!!」
『はいはい、アンタが死ぬまでは成仏できないから考えるのはあとあと』
人の一生を見るのは正直苦痛だ。
だが、俺の一族は人の一生の記憶を閲覧して、一つに纏めあげて《人の生涯の結晶》と言う不思議な物を作れる技術を持っている。
その技術を使い、この世に留まっているもの……霊などを成仏させてきた。
他にも役割があるんだが、それは今は割愛。
「ふー、設定完了。咲耶! 行くぞ!」
『任せなさい!』
さて。俺の一族は人の生涯の結晶と言う奇特な物を作れるだけではない。
ここからが本来の技術の使用方法。
「純記塊《鞭》!!」
そう叫ぶと、目の前にいた咲耶は消えて俺の右手には紅と黒が入り混じった一本の鞭がそこにあった。
「説得、開始!」
霊力はあっても生身で霊に対抗は出来ない。
なら、同じ霊の力を借りる他ない。
『ねぇ、あなたも私と遊んでくれる?』
「は、お断りだよ! こちとら咲耶でお腹いっぱいだ!」
『ちょっと、人を高カロリー食品みたいに言わないでくれる?』
抗議をあげるように右手に持っている鞭が点滅しだした。
全く、深夜だからか眩しいのなんの。
「咲耶、深夜に光んな。視力下がったらどうすんのよ?」
『アンタの場合、もう手遅れでしょ?』
否定しきれない事を言われたが、今は気にせず目の前の人物に向き合いながら改めて考える。
純記塊《鞭》
それが悪霊・霧高咲耶の生涯の結晶であり、俺こと燈中桂馬がこの世界に入ったきっかけを作った物でもあった。
純記塊。それはその人の生涯の結果。
そして、その結果を霊力を通して他の霊に対抗できる能力や武器に変換できる。
その為に必要なのが、証。
証はその人の生涯を表す言葉。
純記塊と証があって初めて俺は、と言うより俺の一族は力を発揮する。
「さ、向き合おう。一つの現実と」
目の前には無表情で浮かんでいる女性。
こっちは夜中に鞭を持っている高校生。
あまりにもシュールな光景だが、さすがに慣れた。
「警察に通報される前に終わらせよう」
いつだったかの苦い記憶を思い出しつつ、今日も俺にとっては日常の仕事をこなしていくのだった。