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9.無視はつらい(フィリン視点)


 三日後に騎士エレシアの処刑が決まったと報告を受けた時、私は間食でお餅を食べていました。

 あまりにも早すぎる日程。驚きでお餅が喉に詰まりそうでした。


「ん、く……随分と急ですね」


 そのことを報せに来てくれたのは騎士団長です。

 おそらく、陛下から言われたことを直接伝えに来てくれたのでしょう。後で呼び出されて聞かされるよりは楽なので、その配慮はありがたいのですが……ちょっと待ってくださいと私は言います。


「なぜ陛下は、そんなに急いでいるのでしょう?」

「警戒しているのだろう。一刻も早く国民に通達しなければ、民は死霊術士の存在を警戒することなく生活することになり、そこに漬け込んだ死霊術士が、無実の民を利用して更なる被害を出すかもしれない、と」

「……あー、なるほど。確かに一理ありますね」


 死霊術士が出現したことを知っているのは、まだ極僅かな人物のみ。

 他の人達は普段通りの生活を送り、あまりの平穏な日々に頭まで平和ボケしていて、最低限の警戒しかしていません。

 本当に何もなければそれで問題ないのですが、今まさに国中を揺るがす大問題が起こっていることを知っている我々からすれば、「忙しい時に間抜け面を晒しやがって」と思ってしまうほど。


 ならば、さっさと事実を言って警戒させたほうが皆のためにもなると、陛下は考えたのでしょう。


「だからって三日後ですか……うーん」

「何か問題でもあるのか?」

「いや。そんな急に処刑日が決まっちゃって、件の死霊術士が現れてくれるのかなぁ……と思いましてね」

「……どういう意味だ?」

「相手は一度、剣聖である私と、騎士団長の貴方、この国を支える二人と対峙しました。ならば、奪い返す時も我々と再び合間見えることを想定して動くでしょう」


 さらに私はあの時、絶対的な力を見せつけてしまいました。

 当然、相手は警戒します。この国の全てを敵に回す覚悟で、あちらは戦力を整えてくるはず。

 それには準備期間が必要です。騎士団長だけならまだしも、私までも相手にするとなれば、三日程度の準備で終わるかどうか…………正直、厳しいところですね。


「もしかしたら諦めてしまうかも?」


 どんなに大切なものを取り返したくても、結局は自分の命が一番大切ですからね。絶対に勝ち目がないと分かりきっている戦いに身を投じるのは、ただの馬鹿か自殺志願者のすること。


 普通なら満足するまで準備を整え、その後で戦いを挑むものです。

 しかし、相手に与えられた期限はたった三日だけ。


 私だったら諦めますね。そりゃあもう潔く。


「処刑の期限を引き延ばすことは?」

「すでに、騎士に通達し終わったところだ。ここから予定変更するのは難しいだろう」

「……むぅ」


 唸り、最後のお餅を口に放り込みます。


「どこへ?」

「ちょっとエレシアさんのところに。貴方も来ます?」

「…………いや、俺はまだやることがある。遠慮しよう」

「そうですか。では」


 客間を出て、地下牢へと足を運びます。

 その最も奥にある扉。そこにエレシアさんは監禁されています。


「剣聖様。面会ですか?」

「こんにちは。ええ、ちょっとお話ししようかと。彼女の様子はどうです?」

「ずっと黙ったまま動きもしません。食事も必要ないのか、一切手をつけず……」


 つまり、変わりないってことですね。


「了解です。ちょっと席を外していただけますか?」

「はっ! 何かあればすぐにお呼びください」

「はーい。分かりましたよー」


 まぁ、もし何かあっても大抵のことなら私一人で事足りますが。

 そう言ったら看守さんを困らせてしまうので、空気を読んでお手手をひらひらさせます。


「……さて、ご機嫌いかがです?」

「……………………」

「貴女の処刑が決まったみたいですよ? 三日後です」

「……………………」

「貴女は死霊術で蘇ったアンデッドですからね。聖属性魔法でその身を焼かれるのでしょう。癒しの力が牙を剥くのって、どんな気持ちです?」

「……………………」

「そろそろお話ししません? 無視は流石に寂しいです」

「……………………」

「…………」

「……………………」


「「……………………」」


 え、彼女、こんなに無口なんです?


 喋れるのはすでに分かっています。あの時普通に喋っていましたからね。死霊術で蘇ったアンデッドの中でも、彼女は特別な存在なのでしょう。

 でも、困ったことに全然喋ってくれません。

 騎士団長から聞いていた話だと、人付き合いの良い子だと聞いていたのですが、蘇ったことで性格が変わったのでしょうか。それとも死霊術士の命令で行動が制限されてる? それか本当に無視されてるだけ?


「まぁ伝えたかったのはそれだけです。これから三日間、再び死ぬ恐怖に震えていてください」


 そう脅してみますが、彼女の瞳には強い意思が宿っていました。

 まさか、まだ諦めていないのでしょうか。


「貴女のご主人様は来ないと思いますよ」


 もし本当に来ても、確実に殺します。

 あちら側にどんな事情があろうと、死霊術は絶対に滅びるべき禁忌ですから。


「また来ます。今度は少しお話しできると嬉しいですね」


 さようならと手を振り、扉を閉めます。

 その背後で僅かに動く気配がありました。……なんだ。自分で動けるじゃないですか。


「やっぱり、無視だったんですねぇ……」


 そのことに、ちょっと……本当にちょっとだけ悲しくなりました。


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