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7.いざ魔王城へ


 私は魔王と手を組んだ。

 人間と魔族。ずっと昔から争い続けてきた種族が協力するのは、多分これが初めてのことだろうね。


「それで、どうやって剣聖を相手するのさ。正直なところ、あれに勝てる未来が見えないんだけど」

「余に案がある。まずは余の城に其方を招待しよう」

「…………魔王の城に?」


 それこそ「どうやって?」だ。

 魔族の本拠地は『魔大陸』という名前の大陸にある。当然、魔王の城も魔大陸にあって、そこに行くためにはいくつもの国を通って、とても広い海を渡らなければならない。考えただけで気が遠くなる距離だ。


「なに、簡単なことだ」


 そう言って、魔王は指を鳴らした。

 すると世界が変わった。湖の中ではなく、見ているだけで息が埋まりそうなお城。それが私の目の前に広がっている。


【空間転移】

 空間と空間を繋げて、疑似的な瞬間移動を可能とする魔法だ。


 世界一の魔法使いと名声が高い大賢者が、その生涯をかけても到達できなかった魔法の極致。それを魔王は、まるで息をするかのように自然とやってしまった。

 その行動一つだけで、彼女も十分な化け物なのだと理解した。

 流石は全種族を敵に回す絶対悪の存在。人間の叡智が全てを賭けても到達できなかった壁を、当然のように越えてくるんだね。


「ようこそ余の城へ。歓迎するぞ、人間の協力者よ」

「…………ああ、はい。どうも」


 すでに疲れた。

 もちろん精神的に、だ。

 でも、魔王はそんな私の気持ちを知ってか知らずか、さっさと歩いて城の中へ入っていく。


「いつまで座っているつもりだ。置いていくぞ」

「分かった。分かったってば!」


 これは、あれか。

 魔王にとってはこれが当然だから、さっさと慣れろってことか。

 いや、ふざけんな。こっちは死霊術がちょっと得意な一般人なんだよ。立て続けに化け物どもの力を見せつけられて、普段通りでいられるかっての。


「其方には少し忙しいことをしてもらう」

「それくらいの覚悟はしてるよ。私はここで何をすればいいの?」

「剣聖との争いがあったことは言ったな。そこで失った兵のことも」


 魔王の座を狙う邪魔者を、戦争を利用して一掃した。そのついでに今後脅威となりえる剣聖の実力を試したんだっけ。──って、まさか。


「戦争で死んだ魔族を死霊術で再利用する。それが私の仕事?」

「うむ。身の程を弁えない愚か者だったとは言え、数が少ない魔王軍にとって奴らは貴重な戦力だった。そう思っていたところに死霊術の使い手が現れたのだ。有効活用しない手はないだろう」

「でも、普通に蘇らせたアンデッドへの命令権は私にあるよ。その権利を譲渡することもできない」

「構わぬ。どうせ剣聖相手に対した成果も得られなかった愚物だ。それは余に協力してくれる礼だと思って其方の好きに扱えばいい」


 元とは言え、自分の配下だった魔族のことだ。

 そんな適当でいいのかと思ったけれど、剣聖との争いで死んだ魔族は裏切りを計画していたんだし、またそいつらが自分の下につくのは気分的に嫌なのかな……って、勝手に納得しておく。


「──魔王様!」


 と、廊下を歩く私達の前から一人の魔族が走ってきた。

 眼鏡を掛けて、キッチリとした服を着込んだ真面目そうな女性だ。格好からして魔王の秘書的立場の人なのかな。


「おお、ラスティア。今帰ったぞ」

「帰ったぞ、ではありません! 何も言わず急に居なくなるのはやめてくださいと、そう何度もお願いしているではありませんか──って、なぜ人間がここに居るのです! まさか『面白い奴』って彼女のことですか!?」


 ああ、この会話だけで理解したよ。

 この人は苦労人だ。それも、かなりの……。


「この者は協力者だ。剣聖を倒すことで互いの利益になると考え、勧誘してきた」

「協力者ぁ? しかも剣聖って……ただの人間に何ができると?」

「見た目で人を判断するのは愚か者のすること。この者は数少ない死霊術士だ。その魔法にどれほどの価値があるかは、貴様でも理解できるだろう?」

「っ! ……なるほど。それならば私はもう何も言いません。しかし、他の者にはしっかりと説明をお願いしますよ。ただでさえ彼らは気性が荒いんですから、戦争の後処理で忙しい今、余計な面倒事を起こされては困ります」

「分かった分かった。明日にでも緊急召集を行い、この者のことを周知させる。それで問題ないだろう」


 二人の会話を横で聞いていた感じ、私を招き入れたのは魔王の独断だったらしい。

 そりゃあ驚くのは当然だよ。急に上司が居なくなったと思ったら、帰還と同時に敵対しているはずの人間を連れ帰ってくるんだから。

 これはちょっとだけ彼女に同情しちゃうかな。


「えぇと、人間の貴女。お名前は?」

「アンリ。魔王の紹介にあった通り、死霊術士だよ」

「……アンリですね。私は魔王様の秘書をしています、ラスティア・レジストです。先程は人間だからと不躾な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」

「いやいや、別に気にしてないから大丈夫だよ。急に人間が来たら警戒するのは当然だって」


 第一印象に先入観が邪魔をしてくるのは仕方のないことだ。

 私だって話している相手が魔族だからどうしても警戒しちゃうし、今でも「急に襲われたらどうしよう」と内心ドキドキしている。


 だから、さっきの彼女の態度は当たり前だったと思う。


「そう言っていただけると気が楽になります。何か困ったことがあれば私に言ってください。可能な限り、すぐに対応いたします。よろしくお願いしますね」

「それは助かる。正直不安だったからさ。仲良くしてくれると助かるよ。今後ともよろしくね、ラスティアさん」

「呼び捨てで構いません。私もアンリと呼ばせていただいても?」

「いいよ。私も変に畏まられるよりは、そっちの方が楽だからさ」


 ラスティアは話が分かる魔族だった。

 魔王みたいに魔族のみんなが傲慢だったらどうしようかと心配していたけれど、それは杞憂だったようで一安心だ。


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