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31.打ち砕かれる(フィリン視点)


『不幸ほど積み重なってやってくるもの』

 これは今私が考えた言葉ですが、我ながら中々に的を得た発言なのではないかと思います。


 それほどまでに私は今、不幸に見舞われています。

 死霊術士の登場。魔王軍の襲来。久方ぶりの大怪我。そして、消耗した状態での魔王との一騎討ち。


 あーあ、私ってばどうしていつも、こう……損な立ち回りばっかり押し付けられるのでしょうか。


 私が剣聖だからってのもありますが、元より私は不幸体質だったのでしょう。だから安月給の割に仕事量が多い。ああだこうだ御託を並べられては戦場に駆り出され、立ちはだかる敵を倒して倒して倒して、任務が終わらせて疲れて帰って、貰った報酬で酒を飲んで、美味しいご飯をいっぱい食べて、カジノで豪遊して…………って、あれ? 貯金が無いのって私のせいでは……?


 ま、まぁ気にしては負けです。


「こんにちは魔王。こうして顔を見合わせるのは久しぶりですね」

「…………」

「貴女も無視ですか。ほんと貴女はいつ見ても変わりませんね。……せめて、もう少し笑ったらどうです? その無駄にムカつく偉そうな顔も、少しは可愛くなるのでは?」

「………………」

「貴女自ら動くのは珍しいですね。まさか、死霊術士と手を組むとは……予想外です。相変わらず拾い物が趣味なご様子。その度に貴女の腹心達を困らせてきたと思うと、ちょっとばかり彼らの気持ちは理解できます。私も昔から、陛下に困らされてきた一人ですからね」

「……………………」

「それで? いったい彼女をどう誑かしたのです? 世界征服が成功した暁には、世界の半分をあげるとでも言ったのですか? 確かに魔王らしい言葉です。お似合いすぎて笑えてきますね。──しかし、死霊術がどんなに強大な力でも禁忌は禁忌。それは周囲をも不幸にさせる。それを貴女も理解しているはず。それすらも覚悟した上で、貴女は何故──彼女を?」

「…………相変わらず、ペラペラと舌が回る女だな」


 おっ、ようやく口を開きましたね。


「残念だが、貴様の駄弁に付き合ってやるつもりはない。余は暇ではないのでな」

「……さよですか」


 本当に、その顔に似合わない毒舌ぶりですね。

 ですが彼女の意見には同意です。ここは戦場。この国の命運を分ける戦いです。一分一秒も惜しい。

 挑発してあちらの情報を聞き出そうと思いましたが、それも失敗に終わりましたし、神のご加護を維持するのもキツいですし…………さっさと始めてしまいましょう。


「ふむ。余の記憶では、貴様は人間の中でも賢い方だと思っていた。だからこそ問う。──何故、貴様はまだ戦う? 戦況は絶望的だ。最早貴様ら人間が勝つ見込みなどない」


 ……たしかに、その通りですね。

 魔王がここに来たということは、外はすでに魔王軍によって包囲されていると見て間違いない。内部もアンデッドだらけ。死者より生者の方が少ないでしょう。


 ここから私一人で立て直すのは到底不可能。


 でも、それでいいのです。

 なぜなら、私の目的はもう────


「ああ、そうだ。貴様に手土産を持ってきたぞ」


 ふと、思い出したかのように魔王はそう言い、腰の後ろに下げていた『何か』をこちらに放り投げます。

 それが地面に落ちると同時にベチャッと嫌な音が鳴りました。数は二つ。丸い物体。ゴロンゴロンと少し転がったそれはピタリと止まり──私と目が会いました。


「……ぁ……、…………?」


 意識せずに、喉から声が漏れていました。

 自分で言っちゃいますが、私は常人よりは精神が図太いと思っています。そんな私が現実から目を逸らしたくなるものが……そこに転がっている。

 それほどに信じられないものでした。信じたくないものでした。


「へい、か……?」


 それは見覚えのある人物。

 騒動が起きたと同時に騎士団長と共に逃がしたはずの人物。


「あ、あぁ……ああ!」


 王都が滅ぶ。

 魔王軍に支配される。


 それでも構わなかった。


 陛下さえ生き残れば、まだ負けじゃない。

 陛下さえ逃げてくだされば、再建の機会はある。


 そう思っていた。


 だから私は時間稼ぎに徹していました。

 死霊術士相手に切り札を使った時点で、魔王軍全てを相手にするのは不可能。私が敗北するのは確実です。それを理解したからこそ、陛下と騎士団長が国外まで逃げ延びられるまで耐えようと──。


 しかし、これは何なのでしょうか。


 どうしてここに、陛下と騎士団長の生首が転がっているのでしょうか。

 彼らは逃げられなかった?

 魔王に殺された?


 …………なら、私は今……何のために戦っているのでしょうか。


 陛下のための時間稼ぎをしようと思っていました。

 たとえ私が負けても、陛下さえ生き残っていれば十分だと、そう思っていたのに……。


「全て、無駄だったってわけですか……」


 ゆっくりと、彼らの元へ歩み寄ります。

 想像以上に堪えていたのでしょう。ただ前に歩くだけの動作に苦労して、まるでお酒で酔い潰れた時のようにふらふらして、ようやく辿り着いたと思った頃には、何時間も歩いた後のような疲労感が体に重くのし掛かっていました。


「ああ陛下……こんなお姿になっちゃって……」


 間違ってお顔を潰してしまわないように、そっと優しくその首を抱えます。

 …………軽いですね。何度か遊びで陛下を抱っこしたことはありますが、今までで一番、軽いです。ダイエット成功ですよ。良かったじゃないですか。ずっと悩んでいましたもんね。


「今まで、お疲れさまでした。どうか安らかに……お眠りください」


 お二人の生首を布で包み、それを異空間に収納します。

 収納魔法と言われているものです。異空間の中は時が止まっているので、仕舞っておけば腐ることはないでしょう。

 ポイポイと中に色々な物を放り投げていたため、そこら中に物がとっ散らかっているとは思いますが、少しだけ我慢してください。すぐにあなた方に相応しい葬いをしてあげますから。


 でも、その前に──やるべきことを終わらせましょう。


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