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3.襲撃


 さて、私の目的だった『エレシアを手に入れる』という目標は達成された。


 これからどうするか。

 私達はそれについて話し合うことにした。


「私は死霊術を使った。近いうちに指名手配されると思う」


 死霊術は特殊な魔力を必要とする。

 それは周囲の人間にも悪影響を及ぼすほどの残滓となって、聖属性の魔法で祓わない限り、その場に残り続けてしまう。


 特定されるのは時間の問題だ。

 もちろん、なるべく気づかれないようにと細工はしてあるけれど、聖属性の適性を持っていない私では完全に隠し切ることはできなかった。


「そこで、だ……。この国から逃げようと思う」

「この国を捨てるのか。……しかし、」


 エレシアは渋い顔をした。

 私の忠実な花嫁になったとしても、まだ忠誠心とか愛国心とかは残っているのかな?


「ここには私とアンリとの思い出がある。そう簡単に手放したくない」


 彼女が発した言葉は、私が全く予想していなかったものだった。

 思わず言葉を失ったよ。


「…………エレシア」

「なんだ──っ、ちょ! アンリ!?」


 あまりにも可愛い言葉だったから、考えるより先にエレシアの唇を塞いでしまった。

 不意を突かれて焦った顔が本当に可愛い。ずっと苛めてあげたくなるけれど、今は話し合いが最優先だからここでやめておこう。


「私は別にここを捨てても構わないと思っている。これから私達は今まで以上の思い出を積み重ねていけるんだ。たかが数年の思い出くらい、微かなものでしょう?」


 そりゃあ幼少期の思い出も良いものだと思う。

 でも、それは私達の心の中に残り続けていればいい。どうせ屋敷は取り潰されているんだ。エレシアと出会った

場所も、庭園も……。あそこには何もない。


「それに、ここに残り続けていれば必ず私は特定される。こっちにはエレシアが居るけれど、流石に国を相手にするのは分が悪いからね。私の細工が暴かれる前に、別の場所に身を隠しておきたいんだ」


 ただでさえ、このレスタ王国には厄介な奴が二人もいる。


 一人は王国騎士団長。エレシアの上司だ。

 戦場で数々の偉業を成し遂げた過去を持ち、今も尚、その栄光を作り続けている。『剣鬼』という異名で恐れられたこともある男だ。


 そしてもう一人は──剣聖。

 レスタ王国最強と言えばこの人物で、魔族との戦争をたった一人で終わらせたとか、斬撃を飛ばして山を文字通り消し飛ばしたとか、人間技じゃないことを当たり前のようにやってしまう、正真正銘の化け物だ。

 こいつと戦ってはいけない。

 そうなったが最後、私とエレシアだけでは絶対に敵わないだろう。


 ましてや騎士団長と剣聖、その二人同時に相手することになれば……間違いなく瞬殺される。


 エレシアだけならまだ逃げ延びることはできるかもしれない。

 でも、私は運動音痴で戦い上手でもないから、絶対にエレシアの足を引っ張ってしまう。


 私達は心も体も繋がっている。

 私が死ねばエレシアも死に、エレシアが死ねば私も死ぬ。

 そのような縛りを設けなければ、いつか私は最愛の人を残して天命を迎えることになっていた。永遠を誓い合うことはできなかったんだ。


「剣聖は魔王軍との戦争に出ているらしい。逃げるなら奴がこの国に居ない今が」


「それは見逃せませんね」


「っ! だれ──!


 空が見えた。ありえないことだ。

 私達は、私の別荘の中にいたはずなのに……空が見えるなんて絶対にあるはずがないんだ。


 ──だったらどうして?

 その疑問はすぐに分かった。


 斜めに切断された別荘の壁。

 それを可能にしたのは、たった二人の侵入者。


「騎士団長、あれが貴方の探している新人で間違いありませんか?」

「ああ、エレシア・クレイマンだ」


 神々しささえ伺える白銀の軽鎧と、岩石のような重戦士の全身鎧。

 王国では有名な鎧。国民の誰もがそれを見ただけで歓声をあげ、希望をその瞳に宿す。


「しかし、おかしいですね。彼女からは生気を感じない。まるで死んでいるかのよう……やはり、あの直感は間違いではありませんでした」

「フィリン殿に感謝する。……おかげで厄災の早期発見ができた」

「いえいえ。私も私でやるべきことがあったので。私が守護しているこの国から大罪人を見逃したとあれば、剣聖の名が廃りますから」


 騎士団長──ランドローク・バレスタ。

 剣聖──フィリン・ライトソード。


 今まさに出会いたくないと思っていた人物が──そこに居た。


「ど、う……して……」

「どうして? ……ああ、世間ではまだ、私が魔王軍との戦争に出ていると思われているのですね。そんなのすぐに終わりましたよ。その日帰りで休息していたところ、あまりにも不気味な魔力を感じたので様子を見に来た……という訳です」


 ──っ、化け物が!


「エレシア、逃げ──!」


 風が凪いだ。

 そう思った瞬間、真横にいたエレシアの体は遥か後方に吹き飛ばされていた。


 何が起こった? 何をされた?


 全てが見えなかった。

 ただ一つ分かったことは、フィリンが剣を引き抜いた状態でいたことだけ。


「禁忌を犯した容疑により、あなた方の身柄を拘束します。抵抗しないほうが身のためです。この場で切り刻まれたくないのであれば、ね……」

「よくも俺の可愛い部下を巻き込んでくれたな。この罪に必ず報いを。貴様は絶対に許さない」


 ダメだ。もう逃げられない。

 剣聖と騎士団長。この二人を相手にして抵抗しろと言うほうが無理な話だ。


「な、なんのことか分からないな。禁忌を犯した? こんな平凡な私が、恐ろしい死霊術を使ったと言うの!?」

「おや? この世には様々な禁忌が存在します。私は一言も『死霊術を使用した』」とは言っていませんが?」

「っ、くそっ!」


 追い詰められて動揺してしまった。

 こんな簡単な誘導に引っかかるなんて、我ながら馬鹿すぎる。


 どうする?

 どうすればいい?


 ここでおとなしくやられる訳にはいかない。

 まだ始まったばかりなんだ。永遠を誓い合ったばかりなんだ。こんなところで終われない!


「アンリ……逃げ、ろ……」

「そんなの無理だよ! エレシアを見捨てて逃げるくらいなら、私はここで一緒に!」

「【光源よ爆ぜろ】!」


 視界を白く塗りつぶす眩い光。

 咄嗟に腕で目を庇った時、唐突な浮遊感が私の体を包み込んだ。

 気づけば私は天高くまで上がっていて、三人の姿はすでに遠くて、豆粒のように小さくなっていて。


 エレシアに投げられたんだとすぐに理解した。

 私を、私だけを逃がすために、囮になって────。


「どうして! エレシアぁ!」


 手を伸ばす。

 もう、それは絶対に届かない。


「──────」

「っ!」


 エレシアの口が微かに動いた。

 私が見た彼女の姿は、それが最後だった。


『面白い』『続きが気になる』

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