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12.侮れない者(魔王視点)


 その時、魔王城が震撼した。

 発生源は城の真下。地下墓地がある辺りだ。


 息が詰まるほどの濃厚な魔力。

 魔族ならば、いや……これほど強大な波動ならば、魔録に通じていない者でも容易に感じ取ることはできるだろう。


 ならば我々が感じ取れない訳がなく、


「へ、陛下! 今のは!?」

「落ち着け。皆の者」


 執務室にて余と共に仕事をこなしていた配下どもは、その気に当てられたことで浮き足立った。

 気分を害している者。小動物のように震える者。発狂しかける者。それぞれが異なる反応を見せる中、幼馴染であり余の腹心でもあるラスティアだけが、唐突に発生した異常の確認に動き出していた。


 しかし、それでも恐怖心は隠し切れていない。


 額には脂汗が滲み、その表情は硬い。

 それに声も若干だが上ずっている。この状態で普段通りの仕事ぶりを発揮できるとは思えないな。


「……魔王様。もしや先程の反応は」

「ああ。十中八九、あの者が何かしたのだろうな」


 と言いつつ、すでにある程度の予想は立っている。


 あの者、アンリが何かしたのは確実だ。

 あれがやれることと言えば、地下墓地にある死体を蘇らせるだけ。そして、魔族をここまで恐怖させる存在が蘇ったのであれば、心当たりは一つだけだ。


 …………父上、先代魔王の復活。


 なんら、おかしなことではない。

 地下墓地には全ての魔族が眠っている。それは魔王も例外ではなく、先代魔王も同じ場所に埋葬した。


 ただ、魔王は良くも悪くも周囲に影響を及ぼす。

 それは死体になっても同じことが言える。埋葬して放置しただけでは、配下どもが先代魔王に残った魔力に意識を持っていかれてしまうため、ラスティアに命じて父上の死体とその気配を巧妙に隠させたのだが……。


「ハッ、運がいい奴め」


 それは偶然なのか、あの者の実力なのか。

 おそらくは後者なのであろうが、まさか期限内に見つけ出し、しかも見事アンデッドとして手駒に加えるとはな、案外、人間も馬鹿にできないらしい。


「いかがいたしますか? 一度、私が様子を見に」

「よい。どうせ明日には出てくるのだ。あの者がどれほど成長したか、それを楽しみに待つのも一興だと思わないか?」


 そう笑い飛ばすと、ラスティアは呆れたように溜め息を吐き出した。


「あのですね、魔王様。アンリは人間の身ではありますが、もし本当に地下墓地の死体全てをアンデッド化したのであれば、その脅威は無視できません。もし裏切りが起これば、我が魔王軍でもあの軍勢を相手にするのは」


 ラスティアお得意の説教を、手で制す。


 あの者が裏切りを企めば、魔王軍での対処は難しいだろう。

 アンデッドは不死だ。並大抵の攻撃では滅ぶことはなく、確実に細切れにさせなければ術者の手ですぐに復活させられてしまう。

 それに加えて、あの者の手中には先代魔王がいる。

 同じ魔王である余と対等に戦える相手だ。それを敵に回すと考えただけでも被害は甚大だろう。


 たしかに、アンリは軽視できない存在となった。


 しかし、それを加味しても尚、余は問題ないと考える。

 裏切りが絶対に無いとは言い切れないが、その可能性は極めて低いだろう。


「……なぜ、そう言い切れるのですか?」

「あの者は想い人しか眼中にない。ならば、その二人の邪魔をせず、二人が望む空間を提供し続けていれば……少なくともアンリは満足するだろう」


 人間とは欲深い生き物だ。

 どこかで疚しい気持ちが芽生えることもあるだろうが、その一瞬の迷いでその先の未来を決めるほど、あの者は愚かではないと余は見ている。


 陰謀渦巻く世の中で、人は三種類に分類できる。

 信頼できる相手と、そうではない相手、関わる必要のない相手。

 この見極めが魔王として存在し続ける秘訣でもあり、幸い、そういった他者を見定める観察眼には自信があるのだ。


 反旗を翻されたのであれば、それは余の失態。

 その時は全力で奴を迎え撃ち、運命に身を委ねるとしよう。


「まぁ、それでもまだ疑い深いと言うのであれば……貴様自身で見極めろ」


 そのくらいの勝手は許す。

 魔王軍の頭脳と言われるラスティアのことだ。まずは友好的に近寄り、最も安全な位置で相手を見極めるつもりなのだろう。変に刺激して相手の機嫌を損ねるような真似はしないはずだ。


 それでもダメだった場合は……面倒だ。当事者達に任せる。

 余は魔族を束ねる魔王であって、母親ではないからな。その程度のことは自力で解決しろと、お互いの気が済むまで殴り合わせるのが一番手っ取り早い。


「かしこまりました。では、そのように」

「一応言っておくが、くれぐれもやり過ぎるなよ」

「私を誰だと? 魔王軍の頭脳ですよ?」


 自信満々にそう言い切ったラスティアは、余が最も信頼する腹心に相応しい表情を浮かべていた。


「しかし、たま〜にドジるからなぁ……料理も不味いしなぁ」

「それは今関係ないでしょう!?」


 自信がある表情から一転、顔を真っ赤にさせて叫ぶラスティア。

 そのやりとりを見ていた他の配下達から笑い声が上がり、その赤色は首にまで到達していた。


「くっくっくっ、冗談だ。……ほら、貴様らいつまで休んでいるつもりだ。残業したいのか?」


 あの者が何を成し遂げるのかは気になる。

 だが、それは後の楽しみに取っておくとしよう。


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