10.魔王の死体1
私はすぐ行動に移った。
やることはここに来る途中で考えていた。あとは実行するだけ。
まず私は、骨だけになった死体と、まだ辛うじて肉が残っている死体、大きく分けた二種類で死体を分類した。
骨は内側を組み立てるのに沢山必要だし、肉や皮は外装を整えたり、より実戦的な動きを可能にさせたりと機能面を強化するための重要な素材になる。
スケルトンの形は何でもいい。人型があれば獣型もあるし、色々な型をごちゃ混ぜにした合成獣型もあるし、ちょっと頑張って竜種のような型も作ってみた。竜型のスケルトンはしっかり飛べるように肉や皮を翼にくっ付けて、竜種特有のブレス攻撃が出来るようにと心臓部分に核となる魔石も仕込んだ。
こうして作り出したスケルトンは全部で一万。
ただの人型でも成人男性の倍以上あるし、獣型も人を丸呑みしちゃいそうな大きさだ。竜種は翼竜や地竜、御伽噺で最も有名な竜と、用途に合わせた色々な形を作った。
その他にも沢山の形を作ったけれど、全てを紹介すると長くなるから省略。
スケルトンを十分すぎるくらいに作った次は、そいつらの司令塔になるアンデッド作りに取り掛かる。
基本的な命令を下すのは私だけど、それが軍勢で、しかもその時その時に細かな指示が必要になる戦場だった場合、私一人の発言だけでは素早く全体に行き届かせるのは難しくなる。
だから、知性を持った行動ができる司令塔が必要なんだ。
アンデッドの中で特に強力な力と知性を持っているのは、デュラハンやリッチ、ノーライフキング辺りだ。
デュラハンは近接戦闘に特化していて、リッチは魔法戦に特化している。
ノーライフキングもどちらかと言えば魔法特化だけど、こいつは先程挙げた二種類よりも知性が高く、司令塔を更に纏める『総司令』の役割を担ってもらおうかなと思っている。
デュラハンとリッチは、スケルトンよりは手間だけどすぐに作れる。
幸いなことに今私がいる場所は魔族の墓場だ。ここには多くの歴戦の猛者が眠っているから、その中でも特に死の香りが強い死体を探し出せばいい。
そういう訳でデュラハン二十体、リッチ十体。
合計三十体の司令塔を手に入れることができた。
この時点で消費した魔力ポーションは百。
これが必須とは言え、流石に百本の小瓶を飲み干すのはキツい。どうしても腹にたまるし、何度お手洗いに行ったことか。……しばらくはポーションがトラウマになりそうだ。
「っと、あったあった」
作業に一区切りついて小休憩しながら、私はとある探し物をしていた。
それは王の墓。
先代魔王の遺体が眠っている墓だ。
やっぱり、魔王だから特別扱いされているのかな。
そこだけは人の王族と同じような立派な墓があるし、腐食防止の魔法が掛けられているのか汚れ一つない。
墓地は馬鹿みたいに広いし、魔王の墓は結界のようなもので隠されていたから発見に手間取ったけれど、これで必要なものは全て揃った。
ノーライフキングは『不死者の王』って呼ばれるくらい強力なアンデッドだ。
その分、元になる死体も考えて選ばなきゃいけない。不十分な死体を使ったら魔力の無駄になるし、もし作成に成功しても何かしら欠陥していたり、私の命令を聞かずに暴走されたりと、面倒なことになる可能性がある。
だから魔王の死体が必要だった。
「あとは、私の呼び出しに応えてくれれば嬉しいんだけど……」
知性があるということは、自分で考えて行動できるということ。
デュラハンやリッチ程度なら強引に支配して従わせる荒技ができるけれど、ノーライフキング……それも元が魔王ともなれば私の支配でも完全に抑えつけられるか分からない。
最悪、この墓地一帯が戦場になる可能性も考えるべきかな。
……いや、もしそうなったら私は終わりだ。私自身、ノーライフキングとやり合えるほどの力は持ってないし、控えさせている軍勢を犠牲にして抑え込むのも無しだ。
だったら、先代魔王をノーライフキングとして蘇らせる前に、助っ人として現魔王を呼んでおこうかな。そうすればもしもの時の保険になるし、無駄に被害を広がらせる心配もなくなる。
『おい』
でも、魔王が手伝ってくれるかな。
あれは相当意地が悪い。私一人でどうにかしなきゃ今後すぐに見限るだろうし、頼れば後でグチグチとうるさそうだ。
『おい小娘』
安全を取るか、信頼を取るか。
悩ましいところだけど……。
『聞こえているのか小娘。その耳は飾りか?』
って、うるさいな。
誰だよさっきから私の思考を邪魔して…………って、うん? ここには私一人のはずなのに、どうして他人の声が?
『ここだ。貴様の目の前にいるだろう』
「私の目の前、って……」
そこには先代魔王の墓があった。
むしろ目の前にはこれくらいしかない。……いや、まさかね。
『そのまさかだ。我は先代魔王、それに残された思念体である』
墓の中から、ぽわっと霊体が浮かんできた。
それは頭から禍々しい角を生やした、妙に偉そうな魔族の男で──その風貌にはどこか、あの魔王と同じものを感じた。
『問おう。小娘、貴様は何故、我の──魔王の墓を掘り起こした』
返答によっては貴様をこの場で断罪する。
先代魔王の思念体はそう言って、私を上から見下ろしてきた。
死んでも尚、その威厳は失われていない。
基本、思念体は生者に危害を加えることは出来ないはずだ。
でも、その自信満々な態度から、彼がハッタリを言っているようには思えない。
…………なるほど。魔王って奴はどいつもこいつも、人の想像を遥かに超えてくる規格外の化け物らしい。