00『プロローグ』
自分、白石楓は魔法使いである。
現代の日本では、というより世界的に見ても珍しい魔法使いの生き残りである。
というのも、自分の家は代々続く魔法使いの家系なわけで、自分はその21代目にあたる。
だから自分は魔法が使える、当然だけど。
大体の人が魔法が使えるとさぞいい暮らしが出来るだろう、と思うかもしれない。実際そうだ。テストのカンニングとか余裕である。他にもちょっと記憶を弄ったりとか、意外と細々とした所で魔法は活躍する。
しかし、それだけである。ただちょっと便利なだけで、特に刺激的な暮らしが送れるとかではないのだ。
悪の組織とかない。そもそも目立つような魔法の使い方をする奴がいない。故に魔法使い同士の勝負とかもない。
だって、現代では魔法使い自体が貴重なのだ。わざわざ数を減らすようなこと、だれもやらないだろう。
従って、必然的に自分の暮らしは平々凡々としたものになる。普通に学校に行って、友達と話し、何となく部活に勤しんだりしている。
そのような生活の中では、当然ながらせっかく覚えた攻勢魔法を撃つ隙なんてないし退屈だ。
何と戦う訳でもないが、自分は長年かけて魔法を学んだ。家の事情と言えば仕方ないし自分も魔法が好きだったから別にいいのだが、大量の時間を費やしたのは事実である。そのおかげで、大分魔法は使えるようになった。火を起こしたり記憶を弄るくらいならお茶の子さいさいで、やろうと思えば日本を消すくらいなら出来なくもない...が、そんなことする機会も理由もない。
とは言え、やってはいけないことをやってみたくなるのが人情である。ぶっちゃけると、太平洋あたりにでも...欲を言えばヒマラヤ山脈とかにデカめの魔法をぶち込んでみたい。めっちゃ気持ちよさそうだと思う。
そんなことやったら破門されるし、世界中の魔法使いに追い回されて消し炭にされるかもしれない。いや、されるな、間違いなく。
そうなるのは分かりつつも、どうしようもなく自分の気持ちを抑えられなくなっている今日この頃である。
「あぁ...撃ちたいなぁ」
だめだ、油断するとすぐに手元に魔力を練ってしまう。気が付いた時には手が青白く明らんでいた。まだ魔力を練っただけで魔法陣は構成していないので、ギリセーフだ。
「山...とか、ちょっとだけ......」
おや、いけない。ついうっかり陣も組んでしまった。あとは自分の気分次第で撃ててしまう。
「う~ん...流石にまずいよな。家族のこともあるし」
とは言いつつも、無意識のうちに魔法陣を活性化させてしまっていた。幾重にも重なった円環が球形の魔法陣を構成し、それぞれが勢いよく回転している。綺麗だ。
こんなに綺麗で、生き生きしてて、いじらしい魔力の塊を留めて霧散させるのは人のする所業だろうか?いや、そんなこと自分には...。
「一回だけなら、事故で済むかな?済むよな?うん、大丈夫だ」
ごめん、父さん、母さん、あと一応妹も。自分、ちょっとだけ犯罪者になるかもしれないです。
暴発ギリギリまで活性させた魔法陣から、大分ヤバめな音がしている。めっちゃ綺麗だ。
「あぁ、今楽にしてあげるからね。いくぞぉ!」
狙いは定めた。寸分の狂いもない。多分人もいない(一応探知はした)。犠牲になるのは山だけだ。
テンションが上がったせいか、何故か自分の体もまばゆく光りだしている。
「はぁぁぁあ!」
とうとうやってしまった。手元から放たれた魔力の奔流が、目標を消し炭にせんと勢いよく飛び出した。やばい、綺麗過ぎるぞ。すっごい。もしかしてこれが青春ってやつか!?
「いいぞ!行け、行くんだ!」
あと少しで着弾...というところで視界が光に包まれる。
「これは...何かの魔法!?」
今までテンションが上がり過ぎて気付いていなかったが、さっきから体が光っていたのは誰かの魔法のせいだったらしい。
「くそっ、あとちょっとだったのに」
着弾の様子を見ることなく、自分の意識は薄れていった。