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97草

前回のあらすじ「新しいクエストはダンジョン探索」

―「リゾート地ガルシア・高級リゾート地」―


「おお……これは凄いな」


 王様達が用意してくれた建物の前にやって来たのだが……海沿いの2階建てコテージであり、すぐに海に遊びに行けるようになっていた。


「ここってかなり高額な宿泊代になると思うんだが……どれくらいだったんだ?」


「一ヶ月、金貨5枚。それと諸々のオプション付きで10枚だそうよ」


「普通の宿泊だったら半年以上は泊まれる値段かよ……」


 今回のこの宿泊自体が報酬だと思っていたが……どうやら当たっていたようだ。そもそも諸々のオプション付きと言っていたが、どんなオプションが付いているのだろうか。


「あの~……私達も出した方が……」


「いいのよ。ここは王様のご好意に甘えなさい……それに、状況次第では遊べずに帰ることになりかねないわよ?」


 期限は一月。その期限内でグリフォンを討伐出来なければ依頼は失敗となり、王都に帰ることになる。


「ダンジョンの踏破は依頼に入っていないが……そこはどうするんだ?」


 事前に話を聞いていたが、イポメニの古代神殿は地下に潜るタイプのダンジョンであり、30階層となっている。ちなみに他の冒険者達によって何度も踏破されているダンジョンである。


「うーーん……出来れば踏破したいね。やっぱり冒険者としては」


「私達もしたいですね。Aランクパーティーですけど……未踏破でして」


 ビスコッティのその言葉に、フォービスケッツの他の3人も頷く。


「Aランクになるのに、ダンジョンの踏破とか無いんだな」


「冒険者ギルドはあっちこっちにありますからね。ここまで来ないと受けられない試験なんて、冒険者ギルドの運営にも支障をきたしちゃいますよ」


「それは……そうだな」


 俺も資格試験を受ける際に、5ヶ所ある試験会場の中で最寄りの試験会場が都内だったので、近くの宿で1泊してから試験会場に向かったことがある。交通手段が豊富な日本で1泊する時があるのだ。まともな交通手段が無いこちらで、パーティーのランク上げの条件にそれが含まれていたら、冒険者達からブーイングが起こるだろう。


「そうしたら踏破も目指していきましょう。幸いにも時期に恵まれているしね」


 このイポメニの古代神殿には踏破するのに最適な時期というのがある。それは春から秋の中頃までと冒険者ギルドから設定されていて、冬になってしまうとダンジョン内の水が氷のように冷たくなり攻略するのにさらに一苦労するらしい。


「そうしたら、まだ日があるし……荷物を置いたらダンジョンの下見に行きましょうか」


「今から行くのか? 俺は明日でもいいんだが?」


 快適な馬車の旅……なのだが、長距離の移動で疲れているのは間違いないはず。それに、明日にでもダンジョンに向かうのだ。わざわざ出向く理由などないはずだが……。


「いいね! 早速遊びに行こうぜ!」


「うん? 遊び……?」


 アマレッティのその言葉に理解できない俺。ダンジョンの下見のはずだが……?


「じゃあ、さっそく行きましょう!」


 ドルチェの掛け声に俺以外の全員が喜々して賛同する。俺は誰かに質問する暇もなく外へと連れ出されるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―10分後「リゾート地ガルシア・イポメニの古代神殿」―


「着いたわよ。ここがイポメニの古代神殿よ」


 俺達が宿泊するコテージから徒歩で10分。海沿いに建てられた古代のギリシャ神殿のような白い建物であり、人の手によって管理されているのだろう古代神殿という割にはくすんだ白という訳ではなく、純白といえるような白さだった。そして……。


「ねえねえ! あっちに美味しそうなお店が……」


「ガルシア名物! トゥルボの浜焼きはいかがッスか!!」


「浮き輪……あ、あそこで売ってるよ!」


「……賑やかだな」


 神殿内部はたくさんの出店があり、神殿の周りも海水浴客で一杯だった。これがモンスターの出るダンジョンとは到底思えない。


「ふふ~ん! ウィードに行ってなかったけど、イポメニの古代神殿は観光スポットなんだよ! ウィードを驚かせようと思って黙ってたの!」


「なるほどな……エポメノの崩壊した塔みたいに周辺は賑やかって訳か……」


「いいえ……2層まではこんな感じよ」


「……え?」


 言葉を失う俺。そのまま皆が神殿内へと歩き始める。すると、すぐに下へと下りる階段があり、他の観光客と一緒に下りていく。


「おお……」


 階段を下りてダンジョンの1層目に到着……周囲を見渡すと四方が水の壁で覆われており、少しの出店とその水の壁を使ったマリンスポーツを楽しんでいる海水浴客がいた。


「この建物の光景自体が感動ものだが……それを楽しむ奴らにも驚くな。しかし、これってダンジョン内部なのか?」


「内部よ。だから10層ごとにある転移魔法陣を使用すると、先ほどいたあの場所にある冒険者ギルドの仮施へと飛ばされるの」


「ふーーん……ちなみにこの水の壁って外の海につながってるのか?」


「うん。それとこの下の層も同じ作りだから、泳ぎが得意なら外の海から2層目まで来ることが出来るよ」


 まさか、30層中2層が戦わずに素通りできるとは……この人々が賑わう様子もあって、もはやここはアミューズメント施設なのではないかと思ってしまう。そんな思いで周囲を見渡していると、ある不自然に気付く。


「なあ。グリフォンが出たという割には人が多くないか?」


「それは……どうなんだろう? 私達が来たのは今の時期だけど、20年前のことだし……」


 そう言って、ドルチェは黙ってしまう。他の皆も同じような理由で答えることが出来ない。しかし、今現在でもレジャーを楽しむ人々で賑わっているように見えるのだ。


「とりあえず、戦闘が無い2層目まで行ってみましょう。ダンジョン攻略の最前線なら何か分かるかもしれないわ」


 賑わっている海水客を横目に俺達はさらに下へと続く階段を下りていく。階段を下りた先……そこは冒険者達がダンジョン攻略に向かうための準備を整える場所であり、そんな冒険者達相手の出店などが多くある……はずだった。


「ふむ……これっていつもの風景ではないよな」


「恐らく……こんな風景が日常なら大変だよ」


 そこにあったのはケガした冒険者達とそれの治療に当たる医者、後は被害状況を記録しているのだろう冒険者ギルドの職員の姿があった。


「おい! ここは関係者以外は立ち入り禁止だ! 今すぐ立ち去りなさい!」


 階段を下りきると、2人の冒険者ギルド職員に呼び止められる。今の皆の格好だが武器を持たず、かつ軽装である。とても冒険者とは思えないのだろう。


 すると、そこに冒険者ギルド職員が着ている服に似ていて、それよりも装飾の多い服を着た1人の初老の男性がこちらへとやってくる。見た感じなかなかガタイが良さそうだ。


「どうした?」


「ギルドマスター。彼女らが入って来たので注意をしていたところです」


 その報告を聞いた初老の男性……ガルシアの冒険者ギルドのギルドマスターが口を開く。


「彼女達はいい。彼女達は彼らと同じ冒険者だ。しかも先日起きた宿場町ココットに現れたアクア討伐も成功させている高ランクのパーティーだ」


 ギルドマスターの話を聞いた職員達はすぐさま俺達にお詫びを入れ、道を開けてくれた。


「ようこそ。フォービスケッツのメンバーの諸君……まあ、2名と……その植物は別のパーティーだが……」


 困った表情を浮かべるガルシアのギルドマスター。事前に俺達の事は話は聞いていたのだろう。ただ、実際に見た俺がここまで植物の姿をしているとは思っていなかったのだろう。それ以外にも俺達にパーティー名が無いのも困った1つかもしれない。


「(……なあ、ドルチェ。俺達もパーティー名を考えた方がいいのか? ギルドマスターが困ってるぞ)」


「(はは……それは後でね)」


 俺がドルチェとそんな話を小声でするなか、ビスコッティとココリスの2人がギルド証をギルドマスターに見せつつ自己紹介を始める。


「フォービスケッツのリーダーのビスコッティです」


「ココリスよ。今日ここに着いたばっかりで、観光しつつとりあえず状況を確認しに来たのだけれど……」


「なるほどな。俺の名はフェイン。ここのギルドマスターだが呼ぶ捨てでいい。様付けとかどうもなれなくてな……とりあえず、こちらに来てくれ」


 ギルドマスターのフェインの後を付いていく俺達。その間に、周囲にいたケガ人達を確認するのだが、多くの奴らが何か鋭い刃物で切られたようなケガをしていた。


「ここにいる奴らって全員がグリフォン討伐の奴等か?」


「ほとんどがな。中には向かう途中で他のモンスターにやられた奴もいるがな」


「うぷ……」


 すると、どこから現れたのか分からないが、ローブを着た恰幅のいい女性がのしのしとお腹を

揺らしながら通り過ぎていく。よく見たらローブのお腹部分が破けていておへそが丸見えである。


「なるほど……うん? ここって神殿の外に転移魔法陣があるんだよな……どうしてここにケガ人が集中しているんだ?」


「それはここに転移する魔道具を全員が所持しているからだ。冒険者ギルド内にある転移魔法陣の方へ行かれると色々変な噂が広がってしまうからな。っと、ここだ」


 そう言って、フェインがテントへと入っていく。俺達も続いてその中へと入っていくと書類で一杯のテーブルに何かの作戦方法が書かれたいくつものボードなどが目に入る。すると、フェインはあるボードの前に立ち状況を説明する。


「グリフォン……正式名称はヴェントゥス・グリフォンだが、長いからなグリフォンで説明させてもらうぞ」


 この後、フェインからグリフォンについて説明を受ける俺達。グリフォンは海から2層目の水の壁を泳いで侵入。その後、冒険者達や中のモンスターを蹴散らしながら、そのまま最奥まで……つまり30層のボス部屋を乗っ取り、今はそこと29層を往来しているということだった。


「本来のボスを討伐すると得られるドロップアイテムが手に入らず、このままだとダンジョンの運営にもかかわる一大事でな。他にもグリフォンがいることでリゾート地に客が来ないという事態が既に起きつつある……すまないが明日にでも仕事を始めてもらえると助かる」


「いいわよ。さっさと仕事を終わらせてバカンスを楽しみたいしね……皆もいいかしら?」


 ココリスの問いに、皆が同意する。


「ありがとう。他にも必要な物があるなら行ってくれ。なるべく要望に応えるとしよう」


 そう言って、フェインが頭を下げる。冒険者ギルドで偉い地位にいる奴がこうやってお願いするという事は、どうやら大分困った状態だというのがそれだけで伺える。


 俺達はそこでフェインと別れコテージに帰宅し、明日の探索の準備を整えるのであった。

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