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94草

前回のあらすじ「若返り施術確立!」

―式典後「リアンセル教会・本教会 応接間」―


「お疲れ様でした」


「お疲れ~……」


「疲れた……」


 聖女達が帰ってきたことのお披露目が終わり、リアンセル教会の一室でくつろいでいる俺達。ボルトロス神聖国の奴らか、それと関わりのあるボーデン王国の貴族からの横槍が入って来るかとか、聖女達が若返って帰って来たことによる不満や抗議の声が上がるのではないかと、式典前に色々心配していたが……何事もなく終えることが出来た。


「ああ……暑かった」


「うん……」


「ほら。タオル」


「ありがとう。あ、それとクリーンを掛けておくわ。2人もいる?」


「いる」


「お願いします」


「私達も~~……」


「分かりました。ドルチェさんとココリスさんも……モカレートさんはどうします?」


「私はいいです。ウィードさんやこの子達と一緒で涼しい教会内でのお手伝いでしたし」


「それじゃあ……いきますねクリーン」


 そう言って、回復魔法の一種である身体や物を清潔にする魔法クリーンを使うクロッカ。夏の時期になってから一番暑かったので、モカレートとマンドレイク達を除いた全員が汗だくになっていたのだろう。


 ちなみにだが、教会内は温度調整の魔道具が設置されているため暑くもなく涼しくもない状態とのことだった。


「飲み物がいるなら、俺も持ってるぞ……夏本番前に例のアレを完成させたしな……」


「アレ?」


「これだ」


 俺はそう言って、収納から容器を取り出し、そこに靄のように濁った液体を入れていく。


「何これ?」


「スポーツドリンクだ。アスラ様を若返らせる作業中に作っていたんだが……ようやく出来たところだ。飲んでみろよ」


「まあ……ウィードの旦那の飲み物なら問題ないだろうし……」


 そう言って、話を聞いていたアマレッティが容器を手に取り、入っていた俺自家製のスポーツドリンクを飲み始める。


「お。これ……いいな。何か喉の渇きが取れるし」


「へえ……私もいいかしら?」


「もちろん。味の感想も頼む」


 俺は皆にスポーツドリンクを提供する。皆が勢いよく飲んでいく中、モカレートとマンドレイク達だけはゆっくり飲んでいた。


「……皆さんが言うほど美味しい気がしないんですが?」


「そうかしら? 結構、イケるわよ?」


「でも……マンドレイク達からも不人気ですね」


 マンドレイク達も飲んでいたが……配った分を飲み終えたら、もういらないといと言いたげな動作をしている。


「ふむ……それなら成功だな。あくまで水分を失った奴の水分補給を目的とした飲み物だからな。喉が渇いていない奴が飲みたくないなら上手く出来ている証拠だ。これを健康体の人が飲み過ぎると体を壊すしな」


「そんな飲み物があるんですね……」


「ああ。それと……これ以外にももう1つあってな。経口補水液っていうのがあるんだが……これも今のうちに作り終えたかったんだが未完成だ。酷い脱水状態の場合にはこれが一番なんだがな」


「へえー……」


コンコン……!


「失礼します。ウィード様いらっしゃいますか?」


 皆がスポーツドリンクの試飲会をしていると、ミラ様が室内に入って来る。


「ここだ。何か俺に用か?」


「はい。実はウィード様へ神託があったということでアスラ様がお呼びです」


 ミラ様のその言葉に賑やかだった室内が静かになる。そんな急に静かになるような内容なのだろうか?


「神託……か」


「神託……それって、どんな物なんだ?」


「聖女になった者のみが得られるアビリティでして……神様からのお言葉をいただけるという物です。それでアスラ様に神託があったそうです」


「俺に関する神託ね……ここで伝える内容じゃないのか?」


「それなんですが……『祭殿まで来て欲しい』というのが神託なんです」


「ほうほう……分かった。そうしたら俺をそこまで運んでくれ。皆はここで休んでいてくれ」


「1人で行くの?」


「神様は俺だけをご所望のようだしな。それに……フリーズスキャールヴのように、俺にしか聞こえないように話すかもしれないしな」


「それは……行っても仕方ないかも」


「ということだ。ここで待っててくれ」


 俺はそう言って、ミラ様に祭殿まで運んでもらう。時間帯は夕方……教会内にある窓から夕陽が差し込んでいる。そんな廊下をミラ様と一緒に進んでいく。


「こんな内容の神託って珍しいのか?」


「はい。普通は私達、聖女がその内容を聞いてお伝えするのが普通なんです。このように祭殿に来てなんて初めてですね」


「ふーーん……一体、何が待ち受けていることやら……」


「そこは……私にも分かりません。アスラ様も戸惑ってましたから……」


 ミラ様は困った表情で質問に答えてくれた。ミラ様の話が本当なら、今回の神託は異例中の異例とも言える内容だという事になる。


 そもそも、フリーズスキャールヴの時点で異例だし、そのような存在が関わっているとは思っていたが……。


「やれやれ……モテる男はつらいな」


「え? 女の子じゃないんですか……!?」


「こんな声だが俺は男だ……多分」


 草なので今の本当の性別は分からない。とにかく、心は男なのだ。モテる男という表現は間違っていないはず……そう思いたい。


 そんな雑談をしながら、教会内の廊下を進んでいくと祭殿が置かれている聖堂に着く。祭殿の前にはアスラ様が待機していた。


「アスラ様。ウィード様をお連れしました」


「お待ちしておりました。お疲れのところご足労いただきありがとうございます」


「いや、俺は基本その場にいるだけだからな。その労いはあいつらに伝えてくれ……で、俺はどうすればいい?」


「アフロディーテ様からの神託だと……その祭殿の中央に置けと」


「そうか……何か捧げものみたいだよな俺」


「それは……そうですね……」


 祭壇の両脇には燭台とその前を彩る花が置かれていて、その真ん中には盃と貢物を置くための小さな台が置かれている。祭壇自体は大きいので貢物を置くための小さな台の上に置く必要は無いのだが……。


「あの台の上に置かれた方がいいのか?」


「恐らく……」


「そうか……まあ、一思いに置いてくれ」


 ミラ様に頼んで小さな台の上に置いてもらう。すると、ミラ様が祭壇から少し下がった途端に、俺の視界にノイズが走る。それは徐々に多くなっていき……気が付くと、一面真っ白な空間に放り出されていた。


「ほうほう……ここが神の世界か?」


「そうよ」


 ふと、どこからか声が聞こえる。辺り一面見渡すが白い空間が広がっているだけで何もいない。


「こっちよこっち」


 声のした方へ視線を向ける。すると、先ほどまでいなかったところに1人の女性……いや、銀髪ツインテールの赤い瞳の女の子が黒いゴスロリ服を着て立っていた。


「ようこそウィード。私の領域へ」


 女の子がそう言うと、一瞬にして周囲が変化し、西洋の宮殿のような空間になってしまった。そして、女の子も玉座のような椅子にいつの間にか腰かけていた。ただ、その椅子が若干大きすぎて足をプラプラさせている。


「うむ……メスガキが女王になったらこんな感じっていうのを体現しているな……」


「ふふ! まあ……これあんたの願望だけどね」


「……え?」


「あんたの心の中にある好みの女性なんだけど……メスガキに罵られたいって……あなたって変態さんなのね」


「ぐはぁ!」


「あら? 傷ついちゃった? でも……あなたってこれがいいんでしょ? ねえ? 変態さん?」


「ぐふぉ……って、それはいいから話を進めてくれないか?」


「あら? 意外にも淡泊なのね」


「この体だからな……イマイチ、性欲が掻き立てられないのだが?」


「それは大失敗ね。よっと」


 そう言って、椅子から飛び降りる神様……。


「えーと……アフロディーテ様でいいんだよな?」


「そうよ。でも……あなたが想像するアフロディーテ様では無いけどね」


「地球とは無関係……じゃないよな? 俺のアビリティにオーディンなんてあるし」


「その通り。地球のアフロディーテは私の上司……私はこの世界のアフロディーテよ。そして、この世界の主神でもあるわ。私が神になる前は地球で修業をしていたの……だから、あなたの知っている神様の名前も知ってるってわけ。まあ……あなたがそのオーディンを手に入れるとは思っていなかったけど……あんな鬼畜条件クリアする人なんているとは思ってなかったし……」


 拗ねた表情でオーディンのアビリティについて話をするアフロディーテ様。どうやら、このアビリティは誰にも取らせる気が無かったようだ。


「残念だが、今の俺は草だからな。余裕とは言わないが勝手に条件をクリアしていたぞ。それにしても主神か……一番位の高い神様ってことだよな」


「ええ。とは言っても……今のところ、この世界で神を名乗れるのは私だけ。あなたのフリーズスキャールヴは……そうね天使と思ってくれればいいわ」


「なるほどな。で、俺をここに呼び寄せた理由はなんだ?」


 雑談をそこそこにして本題に入ってもらうために、こちらから話を切り出す。


「うーーん……いろいろ。この世界の説明と、あなたに頼みたいことがあるの」


「頼み事……どうせ断れないような内容なんだろう?」


「当たり! だって……下手すると、世界が滅んじゃうかもしれないから」


 アフロディーテ様は笑顔でそう答える。果たしてそれは俺達がその依頼を達成してくれると信じているからという女神としての笑みなのか、それとも人が滅びようが自分には関係ないという悪魔の微笑なのか……その、幼さ残る女の子の笑顔から読み取ることは、俺には出来なかったのであった。

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