表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/208

93草

前回のあらすじ「老婆が美女に!」

―1週間後「リアンセル教・本教会」―


「ふふ~ん~♪」


 鏡に映る自分の姿を確認しながら、上機嫌に鼻歌を歌うアスラ様。髪も白髪から昔のライトブラウンになっており、シミ皺一つない大人の女性に戻っている。そして……体も……。


「服を着ろ!? 幼女ボイスだけど俺って男だからな!?」


「ああ……すいません。ここまで効果があるとは思っていなくて……この感じだと30ぐらい……下手すると20代後半まで若返ってますね……」


 そう言って、衣装ケースから修道服を取り出すアスラ様。形のいい胸、無駄な贅肉が無いお腹、そして形のいいお尻……現在、衣服を纏わない生まれたままの姿を一切隠すことなく着替え始める。


「ウィード?」


「見るな! とか言うなよ? 一応確認しないといけないしな……だから、本人に自主的に隠してもらいたいんだが……」


「必要ですか?」


 そう言って、アスラ様が前を大ぴらに見せつける。うーーむ……ビューティフォ―……。とてもあのよぼよぼのお婆ちゃんとは思えない……。


「はしたないから隠しなさい!」


 俺がその見事なプロポーションを見て思考放棄していると、代わりにドルチェがアスラ様に注意を入れるのであった。


 あの後、誰も止めることをしなかったので、ある方法を用いてアスラ様を1週間で30代前後まで若返らせることに成功した。そして……彼女の着替えが終わったら、王宮に行って王様達にこの美貌をお披露目する予定である。


「しかし……凄いね。この施術を受けたい人が大勢いるんじゃないかな……」


「いるだろうな……まあ、大半は無理だがな」


「どういう事?」


「お城で説明してやる……しかし、疲れたな……」


 この1週間、一度も気が休まることが無かった。この方法……本当に若返らせることが可能なのか以前の話で、これで死ぬんじゃないかと思っていたくらいだ。そうなったら、その責任をどう取らされるのかと思うと……。


「この施術……もうやりたくない」


 寝る事で気を紛らわす事も、精神を休ませる事も出来ない。草に生まれ変わってから一番損をしたかもしれない。


「準備できました」


 俺がドルチェと会話をしていると、アスラ様の着替えが終わった。若返る前のアスラ様の修道服は足にスリットが入っておらず、黒のワンピースでその体形を隠していたのだが……今はその逆で、スリットもあるし、腰の細さを強調するためのベルトを巻いている。


「おお……雰囲気が大分変わったね」


「以前の服装だと古臭いくて年老いた印象にしかなりませんからね」


 アスラ様の言う通りではあるが……その中身は変わっていないはずである。体は若くても中身は老人……そうそう服装も若くなるはずが……。


「何か失礼な事を考えていらっしゃいませんか?」


「いいえ。それより早速、王宮に向かいましょう」


 勘の鋭いアスラ様の追及を平然な様子で否定し、さりげなく移動することを勧めるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数時間後「王都ボーデン・お城の客室」―


「あら……凄いわ! こんなに若返るなんて!」


 王女様が若返ったアスラ様の姿を見て羨ましがっている。どうすればそこまで若返るのか、俺ではなくアスラ様から聞こうとするくらい夢中のようだ。


「私も驚きましたよ。それも彼のお陰ですね」


「彼らだ。ここに居ないあいつらも苦労させたしな……」


「そうだったな。今回の報酬だが……上乗せしておくぞ」


「あざーす……」


 俺は適当な返事をする。王様相手に失礼だと言われそうだが、それを気にする暇もないほど疲れてしまった。


 今、ここにいるのは王様夫妻とアスラ様、そして俺の4人だけである。他の皆はどうしたかというと……恐らく寝ているだろう。


 ちなみにドルチェも話を聞こうとしていたのだが、眠気の方が勝ったようで、俺を置いて部屋に戻ってしまった。


「疲れてるな?」


「この1週間、全員が無茶振りされたからな……当然だ。知らないとは言わせないぞ?」


「分かってる。聖女達が生還したという事を内外に公表したかったからな……その準備で色々苦労させたしな」


 俺がアスラ様に付きっきりの間、他の皆は聖女様が帰れるように、王様と聖女達から様々な依頼をこなしていたらしく、この1週間はドタバタしていたそうだ。


「そう思うなら、生還祝いの式典を明日にしないで欲しかったんだが?」


「すまないな。そこは色々事情があってな……で、そこでもう1つ頼みがあるんだが……」


「何だ?」


「この若返りの……」


「お断りだ! どうせアスラ様の若返った証拠として誰かにやって欲しいとかだろう? 俺のメンタルがすり減るから却下だ!」


「王家の命令を無視するのか?」


「あの方法を人にやるって道徳的にどうかと思うぞ!?」


「あの……そんなにマズい方法なのですか?」


 王女様が俺と王様の話に割り込む。王女様にはまだ話していなかったのか……うん?


「王様? 若返りの方法ってご自慢の部下やドルチェから聞いていないのか?」


「いや、聞いていないぞ? アスラ様に薬を服用してもらい、その様子を長時間観察していたから疲れていた……と思っていたのだが?」


「違う。そんなのは調合の仕事をしながら待っていればいいからな……それは苦では無いんだ。その若返りの方法自体が大問題なんだ」


「……その方法とは?」


「皮化の薬で皮だけにしてから、老化薬に7日間浸して、滅茶苦茶よぼよぼのお婆ちゃんにしてから万能薬wwwを飲んで半日ほど吐くという方法だ」


「……新手の拷問か?」


「ああ拷問だ。下手すると、最後の吐く段階で脱水症状を起こして死ぬ可能性があるからな……アスラ様はそもそもご高齢、そんなのに耐え切れないかもしれないしな」


「……何でそんな方法を思いつくんだ?」


「漬けるという工程を入れたらどうかと思った結果の方法だ」


 俺が思いついた方法……それは老化薬で徹底的に体を老化させてから万能薬wwwを飲むという方法である。しかし、それを成功させるには老化薬を飲むだけではダメそうなので、それなら老化薬を全身……しかも内側と外側から長時間浸かった場合はどうなるかと思って、その方法をラボトリーとフリーズスキャールヴで検討した結果、可能と判断されたので実施した次第である。


「老化薬のわずかな効果時間を寿命が尽きるよりも長く効果を保つことが出来れば、万能薬wwwの効果で若返った後の効果時間も伸ばせると思ったんだ……まあ、その分万能薬wwwの副作用も強く出るんだが……」


「ふふ……命懸けでしたね。死んだ母が見えましたから……」


 そう話すアスラ様の視線はどこか遠くを見ていた。ちなみにその目には光がやどっていない。臨死体験をしたのだから当然なのだろうが。


「ってことだ。やるなら死を覚悟しないといけない」


「それは……怖いですね。でも、若さを手に入れられるなら……!」


「王女様。ちなみに御身にこれを施した場合ですが、漬ける時間が数年単位になりますが?」


「数年!? どうしてですか? アスラ様は7日……まさか」


「ご想像の通りです。歳を取った人ほど魔法の抵抗力が弱くなる。つまり、老化薬の効き目が出やすいんです。だから……この施術を施すには、まだお若い王女様には不要です。もし、これをやるなら……意識が戻った時に、王様がおじいちゃんになっていることを覚悟してください」


 この方法のもう1つのネック……それは、若い人がやるとしたら数年から数十年単位で老化薬に浸り続けないといけないというところである。それだから、体力のある時にこの施術を受けることが出来ず、かといって、老人でこれをやった場合に皮化の薬で体を膨らませる段階か万能薬wwwでの吐く段階で死ぬ恐れがある方法なのだ。


「それは……残念。でも……アスラ様と同じ年齢ぐらいになったら……」


「王様……止めてくれよ?」


「……ウィード。若さを求める女性を止める行為こそ愚かな事だ」


「いやいや……そこは命に関わることだから止めて欲しいんだが……とにかく、下手すると死人が高確率で出る恐れのある施術はしたくないので、お断りさせてもらうぞ」


「なら……研究はし続けてくれるか?」


「そこは問題無いのでやらせてもらうが……ただ、1つ懸念する事があります」


「……ボルトロス神聖国の奴らが使った老化薬か?」


 俺はここで王女様と同じように、なるべく敬語になるように言葉を選んで話す。それが何を意味するのか感じ取った王様も先ほどよりも真剣な表情で話を切り出してくれた。


「はい。アレを自分のアビリティで調べたのですが一部不明な点が出ました。私のアビリティであるオーディンというのは前世では神の名前であり、その力は人の過去の事も知ることが出来るという、とんでもないアビリティなのです。そんなアビリティでさえも分からないというのは、かなりヤバい方法で作られた薬だと判断します」


「なるほど……それが無いと、負担の軽い若返りの方法が取れない……と言いたい訳じゃないな」


「その通りです。ボルトロス神聖国の奴らは何か得体の知れない力を持っている可能性があります……警戒を怠らないように注意してください」


「……分かった。そなたのような力のある者の助言、しかと聞き入れた。ただし……注意するだけでは何も解決にならないからな。何か不審な薬が出回っていないか、またはそれに準ずるような事が起きていないか調べさせるとしよう」


「進言を聞いて頂きありがとうございます」


「うむ……で、お前はそれで喋り続けられないのか?」


「美女なら可能だが……野郎には無理だ」


「何ともまあ……下心丸出しだな」


 王様は苦笑しながら、少し冷めてしまったお茶を飲むのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ