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92草

前回のあらすじ「1時間ほどトイレに籠っていた模様」

―「王都ボーデン・リアンセル教 倉庫 居住区」―


「うーー……あんな薬。2度と飲みたくない。それに……元に戻ったのかなこれ?」


「いいんじゃないかしら? あれから5年経っているから、どんな老けた顔になっているのか覚悟していたもの。それなら若い方がマシよ」


「それもそうか……」


 2人の美女……若い聖女達が楽しそうに話している。先ほどの黒いフード姿ではなく、アスラ様が着ていた物にそっくりな修道服を着ている。しかし……修道服ってどうしてこうもそそるものがあるのだろうか……。しかも、この2人の修道服……足元にスリットが入っており、時折見える生足が……。


「ウィード……口からよだれが出てるわよ?」


「口が無いのによだれなど出るか! それより……全員の老化の状態異常を解除出来たようだな」


「はい。忌々しい老化の状態異常が消えています。皆さん、ありがとうございました」


 ラフト様が深々と頭を下げる。それを見て他の3人の聖女達も一緒に頭を下げる。


「私達は何もしていないわよ。このウィードとモカレートにお礼を言ってちょうだい」


「礼はいらん。そこのミラ様に悪いしな……」


 俺は視線をソファーの上でうなされているミラ様に向ける。トイレで何度も吐いた後、この部屋にふらつきながら戻って来たミラ様。その時の顔は顔面蒼白。あまりの姿にここにいる全員が心配してしまうほどだった。


「やはり、味も改善しないとな……せめてせんぶり茶ぐらいにまでは……」


「何それ?」


「とても苦いお茶の名前だ。罰ゲームとかに使われるくらいには苦いぞ」


「苦い……そんな一言では表せない程の味でした……」


 ラフト様の主張に、後ろにいた聖女達が首を縦に振る。唯一、これを飲用したアラルド男爵と同じ感想を述べているな。


「本当に申し訳ない……」


「いえ……元はといえば、ボルトロス神聖国の奴らのせいですから……」


「それで……皆はどうするの? すぐにでも教会の方へ出向く?」


「そうですね……それがいいとは思うんですが、ミラの体調が回復次第ですかね」


「それもそうか……それとは別に私達もアスラ様への報告が必要かな?」


「……いや、それは不要だと思うぞ。どうせここを警備していた連中が報告に向かってるだろうしな。なんせ聖女達が元の姿に戻って大分時間が経っているし……むしろ、来るんじゃないか」


「それは……」


「あら。陛下の言う通りで、なかなか鋭い子ね」


 すると、アスラ様が護衛と一緒に室内に入って来た。2人とも女性で、シーフや隠密を思わせるような服装で口元を布で隠している。


「アスラ様!? すみません! すぐにこちらから……」


 ラフト様と他の2人の聖女が慌てて立ち上がり頭を下げる。アスラ様は温和な表情でその3人に頭を上げるように言ってから話を続ける。


「いいのよ。皆も元の姿に戻って……若干、違ってはいるけど……まあ、良かったわ」


 先ほどの温和な表情から、どこか険しい表情で口ごもりながら話しをするアスラ様。きっと自分の記憶にある彼女達の姿と今の姿がかなり違っていて困っているのだろう。


「アスラ……残念だったね」


「お姉さま……からかうのは止めて下さい。心の底から羨ましく思っている最中なので」


 そう言って、本格的に拗ねた表情を浮かべるアスラ様。老婆とは思えないほど表情豊かな女性である。


「あはは……ウィード様にモカレート様。若返り薬ありませんか?」


「アスラ様に頼まれて作っていましたが……出来ていませんね」


「ああ……そう、だな」


 拗ねるアスラ様を何とかなだめようとするために、自分達と同じように若返らせる効果のある薬が無いかを尋ねるラフト様。そんな都合のいい物があって……。


「ウィードさん。今、何か言い淀んでいませんでしたか?」


「なってた。つまり、薬は無いけど方法は思いついた感じだと思う」


「ギクッ!」


「心の声が口に出てるわよ」


 ビスコッティとガレットの指摘を受けて、うっかり声が漏れてしまった。


「あら? あるのかしら……?」


 笑顔で尋ねるアスラ様。しかし目が笑っていない。先日の様子だと見た目の若返りは出来たらいいぐらいの感じだったが、方法があると聞いた途端にめちゃくちゃ食いついてきたな……!


「……ある」


 俺の発言にここにいる全員が俺を見る。その表情は喜々したものだったり、中にはそんな方法が存在する事に驚いていたりしている。


「あるの!?」


「ある……簡単な話だ。同じことをすればいい」


「それって……老化の状態変化を起こす薬を飲んで、それを万能薬wwwを飲むってこと?」


「そういうことだ。とは言っても……ボルトロス神聖国の奴らが使った薬がどんな物か分からないからな。方法はあっても実践するのは無理な話だ……あ」


 俺はここでフラグを立ててしまったことに気付く。そして……この後、何が起きるかも分かってしまった。


(……聖女達の状態異常を解析。新たに老化薬のレシピを追加しました)


「やっちまったーーーー!!!!」


 そう、俺が分からない時、フリーズスキャールヴが教えてくれるということに。


「老化薬……作れるようになったの?」


「……ああ。覚えちまった……どうしようこれ? これって破棄出来ないかな……こんな危ない情報を覚えておきたくないんだけど……?」


「とりあえず、確認したら? ほら、万能薬wwwを使わないで解除できる薬を作ってからにした方がいいかもしれないしさ……?」


「ああ……それもそうだな」


 ドルチェの提案を受けて、一度老化薬の情報を確認する。


「えーと……老化薬は相手を一時的に老化状態にする薬。あくまで見た目だけであり、身体能力を衰えさせるものじゃないらしい。後は薬の濃さで老化具合を調整できるみたいだな。それと……ああ、あった。老化解除薬の作成方法も載ってる。これを使えば万能薬wwwで起きる若返りの副作用も治せるが……」


「「「いりません!!」」」


「ですよねーー」


 倒れているセラ様以外の聖女達から予想していた通りの回答が返って来た。まあ、よっぽどの理由がなければ年老いた姿に戻るっていう理由もないか。それより……この説明文がおかしなことに、俺は気付く。


「効果は一時的なんだよな……」


 老化薬の説明欄に載っている一時的……セラ様で1年、他のの聖女達は5年間も老人の姿として過ごしてきた。それを一時的と言えるものなのだろうか……?


(……効果時間の違いは不明。謎の要因が働いている模様。また、この老化薬からの若返りの効果も一時的になります)


「うーーん……?」


「ウィード。どうしたの?」


「ああ……」


 俺はそこで皆に老化薬の説明欄から得られた情報と、そこで気付いたおかしなことを話す。また、これらの情報を得るために使用したフリーズスキャールヴのアビリティについても聖女達とその護衛の2人のために説明しておいた。そして……一通りの説明が済んだところ、聴いていた皆が首を傾げてしまった。


「人の過去の経歴さえも教えてくれるアビリティでも分からないですか……」


「ああ。それと言った通りで、アスラ様の場合は一時的なものでとどまってしまうそうだ」


「残念ね……本当に……」


 非常に残念そうな表情を浮かべるアスラ様。他の聖女達が若返ったのに自分だけ仲間外れされたことに凄く……非常に……こちらを呪うかのような視線を向けながら残念そうにしている。


「……少々お待ちを」


 俺は自身の持っているありとあらゆる物を総動員してどうにかできないかを確認する。通常の方法では不可能だろう……そうしたら……。


「アスラ様。申し訳ないんですが、フリーズスキャールヴを御身に使用してもよろしいでしょうか?」


「ええ。どうぞ」


 俺はフリーズスキャールヴをアスラ様に掛けてから、考えた方法が上手くいくかをラボトリーとフリーズスキャールヴのアビリティを使って検証する。


(……安全性……多少難あり……効果時間と寿命……7日ほど……検証結果を表示します)


 俺はフリーズスキャールヴから提供された検証結果を確認する。


「検証終了……可能だが……何だこの拷問……」


 俺は自分の考えた方法を検証してもらっているのだが……冷静に考えると、拷問だよなこれ。


「その方法は!?」


 アスラ様が立ち上がってその方法を尋ねる。俺としてはこれを言っていい物か迷う内容なのだが……ここは素直にアスラ様に伝える。それを伝え終えると、静かに聴いていた他の皆からブーイングが起きる。


「ダメよそれは……」


「どうして、そんなひどい方法を……」


「いや……ほら、薬を肌に塗ってから、しばらくの間放置してから洗い流すとかあるだろう? あれの要領で……」


「かと言って……どうしてそんな方法が思いつくんですか?」


「やっぱり……アレと同じ趣向が……」


「ねえから! ってことで、そんな方法しかないから止めといた方が……」


「やらせて下さい……! ぜひ!」


「……護衛の方々」


 護衛の2人に止めてもらおうと声を掛けるが、2人とも首を横に振ってそれを断る。


「おい。誰か止めろよ」


 俺はここにいる誰かに静止役を求めるが、誰も止めようとしない。


「お前ら!? アスラ様が心配なら止めろよ!?」


「いや……止めたいんだけど、アスラの気迫がね……」


「ええ」


 額から冷や汗を流すドルチェとココリス。俺は恐る恐るアスラ様の方に視線を向けると、止めたら何をしでかすか分からない雰囲気を醸し出している。


「聖職者が出すような気迫じゃねえからな!?」


「これは一人の女として……譲れませんので……」


「いやさ……これ、え? やんないといけない感じ? アレをまたやらないといけないのか?」


 聖女に……お婆ちゃんにこれを飲ませるのって……。これが原因で死んでしまうのではないだろうか?


「そうですね……大至急1週間分の予定をどうにかするので今日の夜にお願いします」


「……あ、はい」


 もう止まらなさそうなので、覚悟を決めてやることにしよう。1週間後……上手くいっているだろうか……。

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