91草
前回のあらすじ「真相に気付くウィード」
―翌朝「黒いフードを被ったお婆ちゃんが住む家の前」―
「来たけど……どうするの?」
「任せろ」
アマレッティの案内で黒フードのお婆ちゃんが住む家の前にやって来た俺達。この玄関を開けてもらうため、ドルチェに頼んでドアの前まで来てもらい、俺はさっそく蔦でそのドアを叩く。
「……はい」
中から聞こえる若い女性の声。とてもお婆ちゃんとは思えなかった。
「アスラ様からお使いを頼まれました!」
俺がそう言うと、そのドアは簡単に開き、中から背の小さい白髪のお婆ちゃんが出て来た。黒いフードは被ってなかった。
「ご苦労様……え?」
俺達の姿を見て戸惑うお婆ちゃん。慌てて黒いフードを被ろうとしている。
「どうも。聖女ミラ様……その状態異常について調査に参りました」
「え!?」
「ウィードの旦那……何を言って……」
「あ、あの……」
「嘘を吐いてしまい大変失礼致しました。俺はこういう者です」
俺は自分の冒険者カードを見せる。
「え……Aランクの冒険者?」
「はい。それと、他のメンバーもAランクの冒険者であり、俺とこちらのモカレートは薬師としての仕事をしています。アスラ様から若返り薬を依頼されていたのですが……どうやら、あなた方聖女の方々に訊いた方がいいと思いまして……どうでしょう? あなた方のリーダーに取り次いでいただけないでしょうか?」
「それは……」
「それと……どうにか出来そうなお薬を持ってきています」
「……少々、お待ちください」
そう言って、扉を閉めて中に戻るお婆ちゃん……いや、聖女ミラ様。
「え? どういうこと? 今の方が聖女?」
「聖女ミラ……去年の夏に洪水に巻き込まれて亡くなられた聖女」
「ガレットの言う通りだ……表向きはな」
「それって……」
「あの~……」
すると再度扉が開かれ、ミラ様ともう1人……長身の老婆が一緒にやって来た。恐らくだが……。
「そちらラフト様とお見受けられますが。どうでしょうか?」
「セラから聞きましたが……まさか、草が本当に喋るとは……それに……ドルチェ様まで……」
「あ、その声……ラフトだ」
「見た目がよぼよぼのお婆ちゃんになったのに、声だけで私だと分かるとは……」
「信じられないけど……あなたなのね」
「ココリス様もお久しぶりです」
「2人は知り合いなのか?」
「アスラ様とよく会ってたからね……一番年長のラフトとも交流があったよ。まあ……ウィードの推理が無かったら分からなかったけど……」
「そちらが……ウィード様ですか?」
「ああ……そうだが。俺を知ってるのか?」
「謎の冒険者……雑草のような冒険者と聞いていたのですが……」
「確かに……見た目まんまの雑草だからな。驚いたか?」
「……はい」
素直に返事されるラフト様。この王都で、そのような噂になっているとは……俺も大分有名人になったものだ。
「とりあえず中へご案内いたします。ここで話すのも何なので……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「王都ボーデン・リアンセル教 倉庫 居住区」―
「へえー……ここってリアンセル教の倉庫なんだ……」
「はい。私達がこんな姿になってしまい。人前に現れるのが憚れたので……そこで、この倉庫の管理と元の姿に戻るための方法を模索していたところなんです」
この施設が何なのか、そして何をしていたのかを説明するラフト様。他のよぼよぼの姿になってしまった聖女様達も一緒に説明してくれた。
「しかし……人を老化させる薬なんて……」
「女性の敵」
「許せないわね……」
フォービスケッツの4人が聖女様達の身に起きた事を聞いて、怒りをあらわにしている。まず、彼女達の身に何が起きたかを順序を立てて説明すると、最初の事件は5年前、ラフト様含めた聖女4人が近くの村での支援活動を終え、その帰りの道中に起きた。
突如、現れたボルトロス神聖国の奴らに襲撃され、一緒にいた騎士達によって追い返すことに成功したが、その際に掛けられた薬の効果でこのような姿になったという事だった。
あまりにも見た目が変わってしまった4人の聖女。この事件が王都周辺で起きた事、信者に説明するのが難しいのと、まだうら若き女性達がそのような姿を人前に晒す真似をしたくなかったアスラ様の計らいで、一度彼女達には死んだことにし、この関連施設で元に戻るための研究をしていたそうだ。
そして去年。今度はセラ様が標的になった。その時は飲み物にその毒を入れられたようで、それを飲んでしまったことでお婆ちゃんの姿になってしまったそうだ。
「王都周辺に突如現れたボルトロス神聖国の奴ら……誰かが手引きした可能性があるわね」
「はい。それを危惧したアスラ様が陛下と内密に会談され、私達を守るために一度死んだことにして、その当時警備に当たった騎士達にはこの建物周辺の警護をさせることにしたんです」
「そんな奴らいたか? うちが昨日ここを見張っていた時には一度も遭遇しなかったけど……?」
「多分、騎士には属しているけど、本来は王様の身辺を裏で守る暗部の人達だと思うよ。あの人達ならそれが可能だし」
「となると……既に俺達が接触したことは王様とアスラ様の双方に伝わったってことか……それと、このタイミングで俺達を合わせたってことは……また、インスーラ侯爵家絡みか」
「ウィード様のご推察通りです。双方の事件にインスーラ侯爵家の息が掛かった者がいたので、内密に調べていたのです」
「そこを俺達が別の不正を行っていたインスーラ侯爵家の不正を暴き、奴らの首がリアルに飛んだ所でどうどうと奴らの所有していた建物内に入り、中にある書類等からインスーラ侯爵家に与していた奴らを調べ上げ、そちらの一連の事件の真相が分かったと」
「はい。既に関わった者達は密かに始末され、私達の身の安全がある程度保証できたということで、今回、アスラ様の方から依頼を掛けたのかと……」
「ただし、まだ聖女様達を脅かすう奴らがいる可能性ががあるから、一度フォービスケッツの4人に入ってもらって、そこから俺達を紹介してもらう手筈だった……ってところだな」
「また……インスーラ侯爵家が関わるんだね」
「そうね……はあ……」
真相を聞いて、ここにいる全員で溜息を吐く。死しても俺達の邪魔をするとは……。
「なあ、ネクロマンサーっていうアビリティあるんだよな?」
「え? ありますけど……」
「そいつらにインスーラ侯爵家の奴らを蘇らせて、直々に焼きを入れるとか出来ないか?」
「屍だから痛覚とか無いから意味が無い」
「屍に効く激痛薬とか作れないかな……」
「聖女様の前で何を言ってるのよ……とにかく、事情は分かったわ。ウィード?」
「分かってる。その前に、1人だけでいいから一度身体を調べさせてもらうが……いいか?」
俺はいつも通りフリーズスキャールヴからのスキャンを使って一度調べる。状態異常として老化があり、フリーズスキャールヴから治療法が伝えられる。まあ、予想通りである。
「これを一本服用すれば元に戻れるぞ」
俺は収納から万能薬wwwを5本取り出す。
「それじゃあ……!」
「ただし! こいつには究極の欠点がある!」
「え? その欠点って……?」
俺は聖女様達が飲む前に一番の注意事項を伝える。
「マズい。余りにもマズ過ぎてトイレにしばらくの間、籠ることになる。ここにいる全員がトイレにいけるのか?」
「……2人までですね」
「そういうことで、2人ずつ飲んでくれ。飲んだら素早くトイレに向かってくれ」
「分かりました……ただ、疑う訳じゃないんですが……」
「効果を確かめるために、1人が試してから……か?」
「はい。そういうことで一番の年長である私が試しても?」
「構わない。患者が5人だからどちらにしても余るしな」
「ありがとうございます。それでは……」
万能薬wwwの入った瓶の蓋を開けて、勢いよく飲み干すラフト様。
「……」
「ラフト……大丈夫?」
一気に万能薬を飲み干したラフト様。何も言わず呆然としているのでドルチェが心配になって声を掛ける。すると、その顔に変化が起きる。たるんでいた肌がどんどん張りを取り戻し、深い皺も薄くなっていく。
「あ。元に戻ってるよ!」
「本当だ!」
他の聖女様が騒いでいる中、静かに呆然としているラフト様。その間にもドンドン若返っていき白く痛んでいた髪も元の鮮やかな金髪に戻っていく。
「やった! 完全……あれ? 何か若過ぎない?」
「う、うん……ラフト様って45歳のはずだけど……今の姿はどう見ても20代よね?」
他の聖女様がラフト様の姿を見て驚いている。理由は分からないが、どうやら元の年齢以上に若返ってしまったようだ。
「……」
「ラフト……?」
元の姿どころか、もっと若返ったのに何の反応も示さないラフト様。
「大丈夫かしら?」
「……フリーズスキャールヴ?」
(意識を取り戻すまで10秒前……)
「モカレート。済まないがそこの扉を開けておいてくれ……」
「え? はい……」
扉に近かったモカレートに頼んで扉を開けてもらう。その瞬間、ラフト様の意識が戻り、勢いよく席を立ち、この部屋から出て行ってしまった。
「さっきまで気絶していたらしい」
「……あなた達。それなりの覚悟を決めなさい」
ココリスのその言葉に、4人の聖女は何とも言えない表情をするのであった。