表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/209

90草

前回のあらすじ「筋肉ムキムキの女性はお好きですか?」

―1時間後「王都ボーデン・モカレートの家 調合室」―


「うーーん……力が入りませんね」


 近くの壁に寄り掛かったまま、指に力を入れようとするビスコッティ。握りこぶしを作ることは出来るが、力が上手く入らないらしく、すぐにその力を緩めてしまう。ちなみに、体は薬を飲む前と同じ姿に戻っている。


「そうか……ガレット、お前は大丈夫か?」


「……」


 床に突っ伏したまま静かに横たわるガレット。ビスコッティと同じように元の姿に戻り、そして体に力が入らないらしく、返事をするのもままならないようだ。とりあえず……。


「……返事がない。ただの屍のようだ」


「いえいえ!? ウィードさん生きてますよ?」


「安心しろ。前世の由緒正しいネタだ。ここは言っておかないといけない気がしてな……」


「何ですか。その謎の使命感は?」


「はは……で、原因は?」


「身体強化薬による副作用だな。強力な身体強化を付与されるが、その対価として効果が切れたら疲労となってしばらくはまともに動けなくなる。疲労の効果時間は使った薬の濃さと量で変わる感じだろうな……」


「なるほど」


「……スキャンを使っていいか? どれだけかが分かると思うんだが?」


「どうぞ……ガレットも……いいそうですよ」


 ガレットの方を見ると、先ほどまで煎じていた薬草をインク替わりに床に字を書いていた。そこにはいいよ。と……しかし、最後の一文字が中途半端になっており、頑張って伸ばした手が字に触れたままである。何も知らずこの状態だけを見たら、ガレットが最後に残したダイイングメッセージと間違えられるだろう。


「……じゃあ」


 2人から了承を得られたところで、フリーズスキャールヴからのスキャンで2人の状態を調べる。


「バッドステータス衰弱……2人とも20分だ。それでフリーズスキャールヴからの情報だが、俺の思った通り、バッドステータスの効果時間は飲む量と飲んだ薬の濃度で変わるようだ」


「そうですか……となるとあまり使えないですかね?」


「いや、時と場合だぞ? 例えばボス戦前ならこれを飲むことで、強力なボスを相手に十二分以上の力で戦える……時間制限はあるが、そもそも、それだけの長時間ボスと戦うなんて滅多に無いだろう?」


「まあ……そうですね」


「ただし、ビスコッティの言う通りで、ランダム性があるがそのようなデメリットが全くない獣化薬の方が良かったりするな……もう少し、そのランダム性を狭めれば……もしかしたら、そちらの方が有効かもな」


「出来るんですか?」


「そこは……薬師としての見せ所だ。それだから……しばらくの間は、これは身内用だな。お前らも必要なら言ってくれ。貸してやる」


「貸し……ってことは、何か見返りが?」


「報告してくれればいい。実際に戦ってみて初めて分かる欠点とかもあるからな……とりあえず、お前らは休んでいろ。少しの間、細かい作業になるしな」


 ここで、この話を切り上げ、ビスコッティとガレットに休憩を取らせる。今回、新しく出来た身体強化薬。今後の改善点を考えつつ、俺はモカレートとマンドレイク達と一緒に若返り薬の調合に勤しむのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の夜「王都ボーデン・モカレートの家 リビング」―


「結構前からいるのか……」


「うん。大体、4,5年前ぐらいらしいよ。実際に確認したけど、黒いフードどころか黒い手袋も身に着けていたよ」


 夕食の時間、行き詰っている調合を一旦止め、皆と食事を一緒に取る。まあ、口が無いから根っこから水と肥料を吸収しているだけだが……。


「メンバーは恐らく5、6人程度。場所も突き止めてあるぜ」


「意外だな。そんなすぐに分かるとは」


 アマレッティの報告に驚く俺。こんなにもすんなりと怪しい黒いフードの被った奴らの拠点を割り出せるとは……。


「あと……全員、おばちゃんだったな」


「確認できたのか?」


「ああ。バッチリ! この目で全員確認できた」


「あら? それは意外ね」


 アマレッティの報告を聞いて、ココリスとドルチェが意外そうな表情を見せる。


「何かあったのか」


「アマレッティがそいつらを追跡する際に、私とドルチェも近くにいて声を聞いたのよ……かなり若い印象だったけど……」


「うちもそう思ったけど……間違いないよ」


「そうか……」


 おばちゃん集団が黒いフードを被り、若返りにきく物を集めている……。


「まさか……本当はそいつらが薬を欲しているのか? そうなるとアスラ様はそいつらを救うため?」


「でも……そうしたら、やっぱりお二人に依頼をした方が早いですよね?」


「そうなんですよね……」


 もしかして俺の見当違いだろうか……やっぱり薬を欲している? けど、どうしてその依頼をフォービスケッツの4人に?


「ウィードさんの考えなら、本当の依頼はその方々を捕縛するためであり、ただ一筋縄ではいかないから私達に依頼した感じですよね」


「リーダー……それは無いぜ。なんせうちが見張っていることに全く気付いていないみたいだったし。それどころか戦闘経験は皆無だと思うぜ」


「というと?」


「見張っていた時に、重い物が持てずに2人で運んでいたり、1人は結構すっころんでいたりしてたからな……」


「ドジっ子なお婆ちゃんがいるんだね」


 ドジっ子か……これが若い子なら萌えていたんだけどな……。


「そう? 私が見た限りだと、そうは思えないけど……?」


 すると、ココリスがその意見に異論を唱える。


「何かあったの?」


「私、黒フード集団の顔を見ていなかったから分からなかったけど……歩き方とか若々しく感じたけど?」


「必死に若く見せようと頑張ってるっぽい?」


「もしかして……」


 クロッカがそこで一度一旦会話を止める。皆の意識がそちらに向いたところで続きを話し始める。


「若返りの薬の試作品を使ってる?」


 クロッカのその意見に皆が納得する。所々で若く見える理由がそれなら納得できる話である。


「つまり……その人達からそれを奪えと?」


「それって犯罪だぜ?」


「でも、それなら私達でもいい依頼なのよね」


「力尽く?」


 フォービスケッツの4人が物騒な話を始める。しかし、そんな依頼をギルドマスターが了承するとは思えない。そのお婆ちゃん達が何かしらの犯罪をしてなければの話だが……。


「どうするウィード?」


「そうだな……その建物の所有者の名前は分かるか?」


「そこは私とココリスで調べたんだけど……ラフトだったんだよね」


「「「「え?」」」」


 それを聞いたフォービスケッツの4人とモカレートから間の抜けた声がする。そのラフトという名前に心当たりがあるのだろうか?


「おい。そのラフトって何者だ? 皆が驚いているけど?」


「別人だとは思うけど……亡くなられた聖女のお一人がラフトっていうお名前なの」


「ああ、だから驚いていたのか……」


「まあ……正直言って別人よ。ラフトっていう名前の女性なんて、この国に大勢いるし」


「教会が関わっているから、その関係でつい……ね」


 他の皆も同じような意見らしく。2人の意見に頷いている。


「だからウィードも気にしないでね……どうしたのウィード?」


「教会……4、5人のお婆ちゃん……ラフト……か」


 俺は今までの話を頭の中で整理する。この依頼はそもそもフォービスケッツの4人に指名依頼され、それを4人から聞いた俺達も一緒に依頼をこなすことになった。


 アスラ様の依頼内容は若返り薬。それが欲しい理由は新しい聖女を育てるため……。そこで俺達はそれに効果のある素材を集めている中で、黒いフードを被った怪しい奴らの噂を聞くことになる。


 そして、その集団を調べた結果、奴らは死んだ聖女と同じ名前の人が所有する建物に暮らしていて、声や仕草からは想像できなかったが全員お婆ちゃんだった……。


「……まさかな」


「ウィード……?」


「アマレッティ。それとドルチェにココリス……1つ尋ねたいことがある」


「何かしら?」


 俺の中にある1つの仮説。それが本当かどうかを確証を得るためにこの3人にあることを聞く。


「その集団なんだが……去年の夏ごろに新メンバーが入った噂が無かったか?」


「そんな噂……」


「ああ。ウィードの旦那の言った通りであったぞ。背が小さいからすぐに新しい人だって分かったみたいだぜ……って、なんでウィードの旦那がそれを知ってるんだ?」


「去年の……夏?」


 去年の夏ごろと聞いて何かを察したドルチェ。恐らく、その新メンバーが入ったと同時に起きた出来事を思い出したのだろう。


「ドルチェも気付いたか?」


「気付いたって……待って!? まさか……」


「そのまさかだな……」


「2人して……何が分かったのかしら?」


「それは……皆で、そのアジトに殴り込みに行った時に話してやる」


「殴り込み……行くんですか!?」


「ああ……正々堂々、入り口からな。真相は……当の本人達に語ってもらうとしよう」


 俺はそう皆に告げる。今回のこの依頼で戦闘になることは無いだろう。そして、彼女達に会えばこの依頼も、明日には終わるかもしれないと思うのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ