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8草

前回のあらすじ「怪しい薬で大儲け」

―「城壁都市バリスリー・商業地区」―


「それでお金を使わなかったと……」


「うん。無料でやってもらっちゃった♪」


 ドルチェが新品の杖を見て目を輝かせる。本体はミスリルで出来た物になっていて、強度と軽さを優先した物になっている。また、魔力の伝わり方もいいとのこと。


「ココリスは?」


「私は青鉄鋼で出来た槍よ。硬さとそれに重さを優先ね」


(青鉄鋼ってなんだ?)


「普通の鉄に加工した魔石を混ぜた物なの。それによってただの鉄より硬く、錆びにくい青鉄鋼が出来るの。名前の由来は光の反射次第で青く見えることからね」


 そう言って、ココリスが槍を動かす。確かにキラキラと青く光ったりしている。


「前の武器が軽かったから、もっと重い物にしようかなと思っていたけど……丁度良かったわ」


「私も。木だとモンスターの攻撃を防ぐのに心許なかったんだ」


(それはよかったな!)


「草さんもよかったね。そのリボンをもらえて」


 ドルチェがいうリボン。それは今、幾つか生えている草の一つに結ばれている。これに隠蔽効果があるらしく。そう簡単には見破られることは無いとのこと。


(会う奴ら全員が、俺に気付いているからそれが普通だと思っていたよ……)


「私達の方が少ないわよ?この看破のアビリティだって危険な場所にいって、危険な体験をして手に入れた物だし」


「私が手に入れた時は……ミミックを見破った時だったかな……」


「あの時は危なかったわよね……」


(おーーい。帰って来ーい!)


 二人が何か遠い目をしている。そのミミックにどれだけのトラウマを植え付けられたのだろうか?


(それで、どうするんだこの後?)


「次は防具に回復薬……それと」


 ココリスの視線が変な方向を向いている。そのココリスの視線の先を見るとオシャレなカフェが……。


(立ち寄っていいからな?)


「でも、辛いんじゃないの?転生者……しかも人だったんでしょ?」


(まあ、辛くないかと言われれば辛いが……本来ならあそこで終えた人生を、今度はあちらには無かった魔法を使える草として新たな人生を謳歌しようとしているんだ。気にしないでくれ)


「人生……?」


(そこをツッコむなよ?何だ植生とか言えばいいのか?)


「それだと意味が元の意味と違うでしょ?……草生?」


(それも……いや、間違っていないか。俺、草(w)だし)


 ステータス画面にそう載ってるのだ。というより誰だ!こんな名前を付けた奴は!!


「草(w)か……変な名前だよね?」


「というより……その(w)って何?あなたが、かっこわら。って言ってるからそう呼んでるんだけど……」


 どうやら、俺の名前になっている草はしっかり翻訳されているみたいだが、(w)の部分は翻訳されずにまるで何かの記号みたいになっているらしい。


(俺の世界だと、文章の表現に使われるんだけど、書いた人が笑ったとか話している人が笑いながら喋っているとかの意味になるんだけど……微妙に使い方が違うような?)


「どういう事かしら?」


(それは……そこでお茶しながらでいいんじゃないか?)


「それもそうだね!」


 ドルチェがそのカフェに向かって小走りで向かう。どうやらココリスよりこの子の方が楽しみにしていたようだ。


「ココリス!早く!」


「全く……はいはい!いくわよ!」


 そうして、オシャレなカフェの店内へと入っていくのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「城壁都市バリスリー・冒険者ギルド」ギリム視点―


「どうしてあの危険な草を一緒にさせたんですか?」


 書類整理している私に対して、追加の書類を持ってきたラテが訊いてくる。


「頼りになるからです。かなり腕が立つようですし……」


「草に腕なんてありませんよ?」


「例えですよ」


「……それでも納得いきませんよ。あんな不思議な植物なんて見たことも聞いたこともありません。動く植物なんて人を襲って自身の栄養にしようとするトレントやマッドプラントのように危険な奴らしか聞いたことがありませんよ!」


 ラテの言い分はもっともだ。神の目で彼には悪意が無いのは読み取れた。しかし不思議な存在である彼を、この目でしっかり見定められているのか怪しい所があった。それは神の目でも見れなかったアビリティがあったのだ。しかも2つ。それによって鑑定のアビリティが歪められたのかもしれないと思い、彼を危険な存在かどうか判断するために昨日の夜、話を詳しく聞いたのだが……なんと転生者だった。


 昔、ある上級鑑定アビリティ持ちが転生者を鑑定した際に、幾つかのアビリティが読み取れなかったことがあったという話を聞いたことはあった。さらに、彼は自分の見れなかったアビリティに言語理解があるといっていたのだ。そのアビリティは今までの転生者がほぼ必ずといってもいいくらいに持っていたアビリティなのだ。そして彼が元は草では無く異世界の住人ということなら、あれほど流暢に話が出来るという理由も納得できた。


「まあまあ。私の方で安全を確認しているので安心して下さい。それに……今は戦える戦力が必要なんです」


私は指を組んで話始める。


「……何かあったのですか?」


「どうやらボルトロス神聖国があっちこっちで活動を活発におこなっているそうなんです」


「活発に?」


「ええ……他のギルド支部からも被害報告が出ているんですが。どうやら今回のドルチェさん達と同じで、それなりの強さを持つ兵が赴いているそうなんですよ」


 ドルチェさん達が持ち帰った杖を調べた結果、ボルトロス神聖国の侵略部隊の隊長。それも中隊を率いるほどの実力者に配備される物だと判明した。


「ボルトロス神聖国の怪しい動き……何か異変が起きているのかもしれません」


 ボルトロス神聖国は人族絶対主義。その信条に異を唱える者は容赦なく罰せられる。そのくせ国内から出ようとする者、国外から入ってこようとする者も罰せられるという訳の分からない国である。それらの思想はギルドにとって賛成できない物であり、そしてあちらも自分達の信条を認めようとしないギルドの設置を認めていない。そのため情報が全く入って来ず、国内の内情が掴めないのである。


「大丈夫でしょうか?」


「だからこそ……今、戦える戦力が一人でも……いえ、一草でも欲しいのです」


 彼にはグリフォンを倒して欲しいと言ったが……実際の理由はこちらである。


「とりあえずは様子を見ましょう。これから何があってもいいように……」


 私は立ち上がって、窓へと移動する。そこから見えるのは下でお喋りに興じているご婦人方、その近くではお店の前を掃除している顔なじみの店主、それ以外にも大勢の人が笑顔で行き交ている。こんな平和な町並みを見て、私はこれからもこの平和が脅かされることが無いことを祈るのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ほぼ同時刻「城壁都市バリスリー・商業地区」―


「なるほど。本当なら草wか草(笑)が正しい使い方ってことね」


(ああ。こんな使い方は無かったと思うんだよな……)


 テーブルに置かれている俺はログを使って、美味しそうなケーキを食べている二人に説明している。


(まあ、考えられるのは俺を転生させた奴がそれを知らずに使ったとかだな)


「それって……神様とかだよね?」


(さあ?生憎、会ったことは無いな)


 死んだと思ったら、すぐにあの森にいたのだ。仮にそんな存在がいたとして、どうしてこんな名前を付けたのか、俺に何をさせたいのかは不明である。


(まあ、考えても答えは出ないと思うし、無駄な事は止めるとしようか)


「そうね……でも、草って呼び方も変だよね?」


「そうね……色々、不便かもしれないわね」


(そうか?そんな気はしないような……)


「あの草にモンスターが!とか、ここに生えている草…とか色々と使うわよ」


(確かに……ややこしいか)


 彼女達は冒険者。当然、草が生い茂る場所とかにも出向くのだろう。その際に、草が俺を指すのか、別の何かを指すのか分かりにくいというのは少々問題である。


(じゃあ名前を付けてくれよ)


「名前か……草…グリーン?」


「それはややこしいって……草の先端が尖がってるから、トンガリとか?」


(ダサいぞ。それ)


 流石に、そんな名前は嫌なのできっぱりと否定する。


「くっ!?」


「ココリス……ネームセンスゼロだから……」


「分かってるわよ!それならあなたは無いの?」


(俺か?)


「そうよ!何か無いのかしら?」


 そう聞かれて、考える……草、グラス?ハーブ?……何か違う気がする。どう見たって雑草と言う表現がふさわしいだろう……となると。


(なら。ウィードでいいか?あっちで雑草の意味なんだけど)


「ウィード……いいんじゃないかな?ねえ。ココリス?」


「そうね……そんな言葉、聞いたことがないから何かと聞き間違える心配も無さそうだし……それにしましょうか」


(よし!それなら今度から俺の事はウィードと呼んでくれ!)


「分かったわよウィード」


「改めてよろしくねウィードちゃん」


(おう!)


 俺は草(w)という名前を卒業して、ついにウィードと言う新しい名前を得るのだった。

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― 新着の感想 ―
草(w)から、ウィードに進化、おめでとう!(違う) ここからが、草としての大冒険の始まりだ!!(打ち切りされる少年マンガの最終回みたいな応援、やめてっ!) 別作品では、大陸全てを地面から支配してい…
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