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88草

前回のあらすじ「モカレートは片づけられない女」

―「王都ボーデン・モカレートの家 調合室」―


「規格外の大きさだったバブルアース・スネークの素材……その鱗を細かく砕いて出来た粉を、ヌルットードから作った薬液の中に入れて……」


 モカレートがフラスコに入ったヌルットードの薬液を熱しながら、バブルアース・スネークの鱗から出来た粉を少しずつ加えていく。すると、毒々しい紫色をした液体は……。


ポン!


 と、フラスコの注ぎ口から紫色の煙が発生する。


「ゴホゴホ!!」


 すると、一番近くにいたモカレートが酷い咳をし始める。俺は慌ててそのフラスコを中の液体ごと収納する。その後、収納内で変異をしまくって水にして無毒化させる。


「だ、だいじょう……けほけほ!」


 そこに慌てて俺達の方へ近づいたドルチェが、まだかすかに漂っている煙を吸って咳をし始める。


「ウィンド」


 すると、床に座って薬草を乳鉢内で細かくしていたガレットが、杖を片手に風魔法で煙を窓の方へと吹き飛ばす。そのおかげで煙は室内から消え去ったのだが……。


「髪がボサボサに……」


 2人が乱れた髪を手で整えていく。


「失敗のようね」


 そこに果物を絞って果汁を搾り出していたココリスが、搾り取れた果汁を器に入れて持ってきた。


「はい。マルムの果汁よ。一応、美容にいいらしいけど……効果はどうなのかしらね?」


「果物は様々なビタミンを含んでいてな。だから、肌の健康状態を維持するには効果が期待できるぞ。元に戻す……っていうことには意味が無いかもしれないが、維持するには活躍するぞ」


「へえ……それも、前世の知識かしら?」


「まあな。そのマルムはポリフェノールが豊富で抗酸化力が高い果物だな。多分」


「最後の多分は何なのよ」


「いや。俺の知っている果物だったならの話でな。見た目はそっくりだが、中身は違う恐れもあるしな……」


 赤いお馴染みの果実。マルムって名前からして同じだとは思うのだが……。


「そういうことね。で、この後どうすればいいかしら?」


「今度はウーバを頼む。前世通りなら、これも効果のある果物でな……ちなみに、こっちは若返り効果があるらしいぞ」


ガタッ!!


 すると、話をしていたココリス以外の全員が何かしらの反応をする。


「そ、それって……本当ですか?」


 ビスコッティが若干、興奮気味で俺に訊いてくる。


「あ、ああ。ウーバもポリフェノールが豊富でな。ただマルムとは少し違って、こちらは肌の弾力を改善したり、肌荒れや肌の老化を防ぐらしいぞ……って、食べるなよ?」


 ギラギラとした視線で、ウーバを見る女性陣。その気迫に俺とマンドレイク達は若干引いていたりする。


「……少しはいいでしょ?」


「……モカレート?」


「問題ありませんよ。皆が食べても薬を作る分はありますから」


「それじゃあ……!」


 ビスコッティがそのままウーバを持って台所へと向かう。水洗いをして、皮に付いた汚れを落としに行ったのだろう。


「そうしたら皆は休んでくれ。薬を作り始めてから、結構時間が経ったしな」


「ウィードは?」


「そこまで肥料と水分を消費していないからな。問題ない」


「そう? それならいいけど……適当に休みなさいよ?」


「ああ。分かってる」


 マンドレイク達も含めた皆が休憩のため台所へと向かう。今、この部屋にいるのは俺だけである。


「さてと……」


 俺は皆を適当な理由でこの部屋を追い出したところで、これまでの事を考える。


(……いくら何でも都合が良すぎるな)


 ヌルットードの件が終わって、そのすぐ後にこの依頼……何か怪しい気もする。そもそも……アスラ様は何でこんな依頼を冒険者ギルドに頼んだのか。そもそも最初にフォービスケッツの4人から聞いた話の時点でおかしかった。


 アスラ様から依頼を受けた冒険者ギルドはこの依頼をフォービスケッツに頼んだ。しかし、あの4人は戦闘や討伐系に特化したパーティーであり、このような依頼には向いていないはずである。それなら……。


(冒険者ギルドに登録している薬師……それこそ、俺やモカレートに来る依頼だ)


 しかし、俺達が冒険者ギルドに素材を受け渡しに行った段階で、ギルドマスターからそんな話は振られなかった。まるで、そんな依頼など無かったかのように……。


 そうなると、アスラ様の依頼である若返り薬が欲しいという依頼。この依頼自体はフェイクであり、アスラ様の本当の依頼内容は戦闘や討伐に関わる内容なのではないか?


(……討伐?)


 もしかして……いや。まさかな……。


(若返り薬……それに関係する何かの討伐?)


 それなら話が合う。若返り薬の噂を集めたフォービスケッツの4人が、その情報を元にその何かを討伐し素材を捕獲する。これなら彼女達の領分である戦闘、討伐関係である。


(一応、フォービスケッツが俺達とモカレートと親しくしているから、そこから俺達に依頼が回ってくると判断したから……とも考えられるが、ずいぶん回りくどいしな)


 王都のギルドマスターとアスラ様……恐らく何かしらの話があったはずだ。


(じゃあ……何で素直に言わないのか? 何か正直に言えない理由が……?)


 そうなると……この依頼は……。


「ねえ!ウィード! 聞こえてるの!!」


「あ、ああ!! すまない……熟考してて周りの声が聞こえてなかった」


 ドルチェの怒鳴り声を聞いた俺は慌てて返事をし、すぐに返事をしなかったことに謝罪する。


「それは気にしなくていいけど……疲れてるの?」


「いや、チョットだけ考えていただけだ……それで、何の用だ?」


「一応、水だけでも上げようかと思ったんだけど……」


 そう言って、手に持っている如雨露を見せるドルチェ。


「あ、ああ……そうだな。無くなる前にちょくちょく補充しないとな」


 俺はドルチェに頼んで土に水を注いでもらう。根っこから吸収された水が全身に満たされていくのを感じる。


「ウィード……何かあったの?」


 俺の様子がおかしかったことに不思議……いや、不安そうな表情を浮かべるドルチェ。今の俺の考察は何の証拠もない。ただの推測である。ここで伝えても困らせるだけだろう。


「気にするな。薬の仮設を立てていただけだ。内部を若返らせるという意味なら、前世にあったニンニクやレバーにニラという滋養強壮のある物を使うべきかと思ってな。ただ、レバーは生物であって、残り2つは臭いがキツイ。正直言って、薬に出来るのかな……と思ってな」


「それならいいけど……」


「安心しろ。本当に何か困った事が起きそうなら、すぐに皆に知らせる……一蓮托生だしな」


「いちれん……たくしょう……?」


「要は何かあれば、互いにその影響を受ける……そういう意味だ」


「う、うん……」


 傾けていた如雨露を戻すドルチェ。どうやら水をあげ切ったようだ。


「ほら。俺の事はいいから、さっさと皆の所に戻れ。早くしないと美に飢えたあいつらがウーバを食い尽くすぞ?」


「……うん。分かった……無理しないでね?」


「分かってる」


 ドルチェにそう返事を返して、彼女が部屋を去るのを見届ける。


(さてと……そこに関して、頭の片隅にでも置いといて……とりあえずは本当に薬が作れないのか試していくか)


 俺はヌルットードの薬液以外に、体を元気にするという理由で精力剤の2つを原液として、そこに様々な素材を加えていくのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日―


「う……うーーんーー」


 早朝の太陽の光を浴びながら、薬の作成を黙々とやっていると、他の皆と床で寝転がっていたクロッカが起き上がり背筋を伸ばす。


「よう。目が覚めたか?」


「ええ……私達、ここで寝ちゃったのね」


「ああ。ココリスも少しだけ寝るって言って、そのまま熟睡してるしな……起こすのも悪いから寝かせとけ」


「分かりました。ウィードさんは一晩中、配合を?」


「ああ……寝れない以上、こんな風に何かやっていた方が気がまぎれるしな。おかげでお目当ての若返り薬じゃないが、役に立ちそうな薬を作れたから少しは実りがあったな」


 俺はクロッカと話しながら、収納内にあるつい先ほど完成した薬を確認する。効果を見る限り戦闘で大活躍するだろうな。


「何か悪い気がしますね」


「気にするなって……寝れるなら寝た方がいい。不眠は体に悪いし、いいアイデアも浮かばないからな」


「それもそうですね」


 そう言って、クロッカは乱れた長い金髪を手で直し室内を見渡す。床に簡素な布を引き、その上で気持ちよさそうに寝ている皆を見て、苦笑している。


「なあ。質問したことがあるんだがいいか?」


「私に?」


「そうだ」


 クロッカ1人だけ起きているという状況、ちょうどいいと思い昨日考えていた事に関係することを訊いてみるのであった。

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