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87草

前回のあらすじ「禁断の年齢変化薬作成」

―翌日「王都ボーデン・メインストリート」―


「すいませーん! ここにあるハチミツを見せてもらってもいいですか?」


「ああ! どうぞ!!」


 一夜経って、俺達は王都内中の美容に効果のある素材を集めるため、様々なお店を巡っている。しかし、皆と一緒に行動しているわけではなく、この広い王都内を短い時間で調べるために分かれて探している。


「しかし珍しいな」


「うん? 何が?」


 ドルチェが商店に置かれているハチミツの品定めをしながら返事をする。今、ドルチェが持っている瓶のラベルにはハニービーと書かれており、ミツバチから採れたハチミツということなのだろう。ちなみにその隣にはトリニティヘッド・クリーパー・ビーと書かれているのだが……地を這う三つの頭を持つ蜂だろうか? どんな蜂なのか想像が付かない。


「いつもはパーティーで行動しているのに、皆がそれぞれ、思い思いの場所を探すなんてな」


「まあ……王都内だしね。治安がすごく悪いという訳でもないし、皆強いからね……それだったら、分散して探した方が最適だよ」


「それもそうか……」


 確かに、フォービスケッツの4人にモカレート、そして俺達も戦闘能力は非常に高い。不意打ちじゃなければ負けることはないし、全員が用心深い性格である。騙される可能性も少ないだろう。


「しかし……ハチミツに薬草、モンスターの素材……色々あるんだな」


「そうだよ! 乙女は常に美を求める生き物なの! そのためなら財を投げ出す覚悟さえもあるの!」


「そ、そうか……とりあえず、落ち着け。そんなに迫られても困る」


「ごめん……でも、日夜ウィードの知らないところで、私達は求めてるんだよ! 必死に老化という敵と終わりなき戦いを繰り広げてるの!」


「だから分かった! 分かったって……で、他にも寄るのか?」


「ううん。ここで終わりだよ……これでモカレートの家に向かうよ」


「分かった。そうしたら、さっそく行くぞ」


「うん」


 いくつかのハチミツを購入した俺達は、モカレートに教えてもらった家へと向かう。場所はメインストリートから少し外れた住宅の多い場所である。


「そういえば……モカレートの家ってこれが初めてだな。どんなところなんだろうな?」


「そうだね……お店じゃないんだよね?」


「ああ。あくまで調合するだけって言ってたな。それを知り合いのお店に卸していただけらしいからな」


 モカレートの事だ。きっと、フラスコや試験管、ビーカーが綺麗に整理整頓され、それ以外に大釜などもあって……ゲームのようなオシャレな場所なんだろうな……。


 そんな想像を膨らませつつ、モカレートの家に向かう俺達。もらった地図を頼りに向かってると、一軒のレンガ造りの建物があった。この辺りの家は全てレンガ造りなので、ここではごく一般的な住居なのだろう。


コンコン!


「モカレート! 来たよー!」


 扉を叩き、中にいるはずのモカレートに声を掛ける。が、返事が返ってこない。


「まだ、戻ってきていないのか?」


「かもね。自分でも心当たりのある素材を手に入れてから家に戻るって言ってたから……」


ガタン! ゴロゴロ……ドタン!!


 俺達が会話をしていると、建物の中から大きな物音が聞こえた。まさか、泥棒か?


「ドルチェ!」


「分かってる! 失礼します!!」


 そう言って、扉を開けて勢いよく中へと突入するドルチェ。扉には鍵が掛かっていなかった。


「うわ……酷い」


 中に入ると、ありとあらゆる物が床に転がっており、瓶が割れて中の紫色の薬が床に零れている。


「誰がこんなことを……うん?」


 近くに転がっているすり鉢を見ると、非常に汚れている。それだけじゃない、割れずに転がっているフラスコもどこか汚い気が……。


「あ……」


「どうしたのウィード!? 何があったのか分かったの!?」


「あ……うん。とりあえず、念のためにスキャンを使ってみるぞ」


 気付いてしまった。この家の床……それに、近くにある椅子の汚れっぷり……。


「……スキャン」


 飲み込めるはずのない唾を飲み込んでから、俺はスキャンでこの建物を調べる。結果はすぐに出て、俺の思った通りの内容だった。


「どうだったの?」


「やっぱりか……まさか、モカレートって……」


ガシャン! ドンガラガッシャン!!


 すると、奥の部屋から盛大に物音が鳴る。


「な、なに?」


「すうーーー……モカレート! 来たぞーー!!」


 音魔法を使って、中にいるはずのモカレートに大声で声を掛ける。


「あ、はい!!」


 すると、俺の声に気付いたモカレートが奥の部屋から顔を出す。その顔は煤や埃などで汚れ、彼女の相棒であるマンドレイク達も同じように汚れていた。


「けほけほ……すいません。少し散らかってまして……」


「え?」


「少しじゃないだろうって……ってか、お前こんな汚部屋でよく暮らせるな。スキャンを使って調べたら、綺麗な場所は僅かしかないって出たぞ?」


「ははは……」


「え……ええ!?」


 驚くドルチェ。そう、これは掃除下手な彼女が碌に掃除もせず、ほったらかしにした結果である。 


「……とりあえず、掃除するぞ。こんな状況では作業も出来ん」


「はい……すいません」


 この後、他の皆も来て、一緒にモカレートの家の大清掃が始まるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―掃除を始めてから4時間後―


「ふう……終わったわね」


「はい……辛く。厳しい戦いでした」


 ビスコッティが額の汗を拭きながら答える。その隣にいるクロッカは襟の辺りをパタパタさせて体を冷やそうとしている。


「疲れた……休む」


 綺麗になった椅子で眠ろうとするガレット。それをビスコッティが窘めて、寝ないように注意している。


「ウィードの旦那に感謝だな。雑巾を濡らすための水を出したり、白炎でいらない物を一瞬にして跡形もなく燃やしてくれたり……大助かりだった」


「むしろ、何の薬液が付いているのか分からないゴミを捨て場に置いてはおけないからな。当然のことをしたまでだ。皆もご苦労だったな」


「ご迷惑をお掛けしました……すいません」


 深々と頭を下げるモカレート。マンドレイク達も一緒になって頭を下げる。


「まさか片付けが苦手だったなんて……一緒にヌルットードを討伐していた時には微塵にも感じなかったわよ?」


「あの時は、ウィードさんが何だかんだ片づけてくれましたから……」


「うん? そうだったか……」


 確かヌルットードを使って化粧品を作った後、使った道具を自分の水魔法で洗浄して……。


「ついでだから、一緒に洗ってたな……」


「はい」


「ココットでも洗ったな……そういえば洗濯物はどうしたんだ?」


「ほら、そこらへんは乾いたら畳まずにアイテムボックスにそのまま……」


「……お前の替わりに家事が出来る男性と巡り合えたらいいな」


「……はい」


「ダメなら、ギルドに依頼でも出しなさいよ?」


「……はい」


 頭を下げたまま、静かに返事をするモカレート。まさか、モカレートが掃除が苦手な人だったとは……。


「さてと……とりあえず、話はそこまでにしましょう。皆の持ってきた美容のいい品を出してもらえるかしら?」


「はい」


 俺達は気を取り直して、各自、手に入れた美容に効果のある素材を机の上に出す。


「キラービーのハチミツに植物の種から作られた油……」


「ヨーグルト、キノコに薬草……」


 ここら辺は前世でもよく聞く美容に効果のある素材だな……まあ、キラービーとかいう訳の分からない蜂のハチミツじゃなければの話だが。


「先ほど冒険者ギルドから手に入れたバブルアース・スネークの素材にヌルットードの素材も当然ですね」


「オークの睾丸にベルウルフの睾丸……」


「おい。最後のそれらって本当に美容に効くのか!?」


 ガレットが無表情で、読み上げたその名前に俺はすぐさまツッコミを入れる。血は何となくだがまだ分かる。しかし、睾丸が何の役に立つのか理解できないのだが?


「しかし……集めましたね」


「そうだね。で、どうすればいいかな?」


「調合は俺とモカレート、それとマンドレイク達がやるから、皆には素材を切ったり千切ったりして下拵えを頼む。ガレットは魔法を使って煮沸したり、素材を凍らせてもらうからよろしくな」


「分かりました」


「それじゃあ、さっそく作業を進めるか」


 俺達は作業を分担して新薬の作成を始める。皆が下拵えしている間に、モカレートと一緒に飲み薬にするか塗り薬にするかを話し合い、とりあえず化粧品の知識から考えて塗り薬を作るのであった。

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