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85草

前回のあらすじ「大金の予感」

―バブルアース・スネーク討伐してから1週間後の夕方「王都ボーデン・冒険者ギルド」―


「おお……!! これはデカいな!!」


「これほどのサイズを持つバブルアース・スネークはいないですよね。どうです? かなりいい値が付くと思うのですが」


「もちろんだ! 状態もいいしな……薬の研究用にも少し素材の一部が欲しいんだよな?」


「そうです。もちろん……問題はないですよね?」


「ああ。今日、急ピッチで解体させるから明日の昼頃にでも来てくれ」


「分かりました。それで……」


 モカレートがバブルアース・スネークの解体についてギルドマスターと相談している。あの後、宿場町の代表者に報告して、バブルアース・スネークの素材は全てこちらで引き取ることが出来た。他の躾のなっていない冒険者からやっかみを受けたが……まあ、丁寧な対応をしたら、すんなり引いてくれたから良かった良かった。


「そういえば……何か複数の冒険者グループからいちゃもんを付けられたって報告を受けたんだが……で、アレはいつになったら戻るんだ?」


「あ……あはは……ウィードさん?」


 自分では分からないことを訊かれたので、俺にその話題を振ってきた。


「2日前には治ってるはずだぞ」


「だそうです」


「そうか……あいつらずっと痺れているせいで、ちょっとの刺激で敏感に反応して、まともに寝れないし、飲食も出来ないし……涙を流しながら許しを懇願していたそうだが……まあ、自業自得だからいいんだがな……」


「そうだったんですね……あの後、すぐに移動したのでどうなったのか気になっていましたが」


「あんた……どれだけ危険な薬を作ってるのよ」


「ただの麻痺薬だぞ? 解毒すれば5日間も待たずに治るし……」


「ははは! どうやら、そいつらは装備品の管理を怠っていたようでな! 持っていなかったそうだ! 事情が事情だからな……持っている奴らも売ったり渡す気にはなれなかったそうだ」


「罰にならないもんね……自業自得かな。それとも何か問題でも?」


「いやいや、治っているならそこは問題ない。っと、留まらせて悪かったな」


「いえいえ……それじゃあ失礼しますね」


 俺達はギルドマスターに挨拶をして、そのまま冒険者ギルドを後にする。


「少しは自重しなさいよ?」


 冒険者ギルドを出たところでココリスが俺に注意する。


「いや……全然、普通の薬を使っただけなんだがな……」


「どこに効果時間が5日間の麻痺薬があると思ってるのよ」


「モカレート? これって無いの?」


「ずっと麻痺状態にするならありますけど……効果が長時間続くのは無いですね」


「……そうか。じゃあ効果時間1日ぐらいがちょうどいいのか」


「そうですね。その位なら、高価ですがあると思うので問題ないですよ」


「それより……今日はもう帰るよね? 移動し続けて疲れちゃった」


「そうね。ヌルットードを追って、ひと月ずっと動いていたし……1週間は休みたいわね」


「だね……ウィードとモカレートは調合に励むの?」


「だな。モカレートとマンドレイク達でさらにいい化粧品なり薬を作らないとな」


「何か案はあるのかしら?」


「これからだな。とりあえずは……」


「あ、皆さん! 帰ってきたんですね!」


 俺達が会話をしていると、そこにフォービスケッツの4人が走って寄って来た。冒険者ギルドがある方向とは別方向から来たが……。


「久しぶりだな。もしかして、これから冒険者ギルドに行くのか?」


「はい。ギルドからの依頼で頼まれていた仕事だったんですけど……その報告に」


「ギルドからの依頼? 結構、厄介事かしら?」


「はい。先ほど依頼者から話を聞いてきたんですが……ハッキリ言って無理ですね」


「そんなのがあればうちらが欲しいぐらいだね……将来のために」


「私はまだまだいらないかしら……エルフだし」


「私も。お母さんの見た目って50年前から変わっていないって、お父さんから聞いたし」


 フォービスケッツの4人の話を聞いて、その依頼内容が何となく分かってしまう。


「もしかして、その依頼の内容って……若返り薬を持って来いとかか?」


「ウィードの旦那の言う通りだよ」


 そう言って、アマレッティが大きな溜息を吐く。そのケモ耳と尻尾が力なく垂れている所から見ても、かなり面倒な相手だったのだろう。


「何でそんな依頼が通ったのかしら? 普通は冒険者ギルドで止めるでしょ?」


「それなんですけど……この依頼者ってアスラ様なんですよ」


 アスラ様……その名前が出た途端に、ココリスとモカレートがかなり渋い顔をしている。


「ああ……アスラ様ね。それは無下に出来ないか……」


「おーーい。そのアスラ様って誰か教えてくれよ」


 ドルチェ以外の全員が渋い顔をしている中で、唯一、いつも通りのドルチェが口を開く。


「ウィードって、この国の国教って何か知っている?」


「国教……国が認めた宗教か。すまないが知らないな」


「そうしたら……王都にある教会に行く道中で説明してあげるね」


「行くの?」


「私とウィードだけ。他の皆は王宮に帰ってていいよ。ってことで、フォービスケッツの皆には悪いんだけど……私もちょっと話を聞くね」


「いえいえ! 困っていたので助かります。ギルドマスターに伝えてもいいですか?」


「うん」


「さっさと終わらせるのよ」


「分かってる。じゃあ行ってくるね」


 そう言って、ドルチェが皆から離れる。腰に括りつけられた俺も連れて。


「……俺も話を聞いていいのか?」


「もちろん! いや……恐らく、ウィードの力を借りないと解決しない問題な気がするんだ」


「ほう……俺に若返り薬を作れと?」


「出来れば……ね」


 教会関係者が若返り薬を欲する……宗教の教えがどんなものか分からないが、この国の国教となる位だ。このような薬など神への冒涜と受け取られそうだ。


「教え的には問題ないのか?」


「あるよ。ただ……今回はイレギュラーかな」


 そう答えるドルチェの表情はどこか寂しそうだ。それだけで、そのイレギュラーというのがかなり訳アリだという事が分かる。


「……国教の事、詳しく教えてくれ」


「この国の国教はね。リアンセル教って言うんだ。ボルトロス神聖国とは違って人々の平和を祈り、何か災害とかで家を失った人がいれば、その人達に手を差し伸べる……人々が手を取り合うことを大切にする宗教なんだ」


「真っ当な神様の教えで助かるな」


 どこぞのアニメに出てくるような、わがまま過ぎて神としての職務を放棄しているとか、人々で殺し合いをさせて、それを高みの見物している神とか……そんなやば過ぎる神じゃなくて本当に良かった。俺のアビリティからして、少なくともそんなのでは無いだろう。


「それで、神様の名前はアフロディーテ様って言うんだ」


「……え? あの愛と美を司る女神様のこと?」


「そうそう……知ってるの?」


「あ、ああ。ギリシャ神話に出てくる神様だ。前世にもいたぞ」


「そうなんだね」


 待てよ……俺のアビリティにオーディンがあるってことは、この国教の主神であるアフロディーテは前世のアフロディーテと同一人物なのか? 前世ならオーディンとアフロディーテは別々の神話の神様として存在しているし……。


「とりあえず、簡単だがどんな宗教かは分かった。それで、フォービスケッツの4人から話が上がっていたアスラ様って誰なんだ」


「この宗教の一番偉い人物であり、聖女と呼ばれるお方だよ。今年で70歳になるお婆ちゃんだよ。ただ教えを唱えるだけじゃなくて、災害があった時は現地に出て炊き出しをしたりして、皆から愛されている方なんだ」


「……話を聞く限りだと、永遠の命や美を求める人じゃなさそうだな」


「そうだね。そんなのには興味が無いと思うよ。それよりも、この後のリアンセル教のことかな」


「なるほど……読めたぞ。後継者がいないから、その後釜が見つかるまでもう少しだけ自分が現役で聖女をしなければならないんだな?」


「その通り。けどね、昔はいたんだ。アスラ様が自身の後を継いでもらうために、教えていた女の子が……それで、次期聖女としてお披露目する段取りも決まっていたんだけど……」


「亡くなったか」


「うん……洪水で被災した土地で活動していた時に土砂崩れに飲み込まれて……去年の夏ぐらいだったかな」


「そうか……だから薬を作って欲しいんだな」


「うん。アスラ様の願いが叶うまででいいから、若く元気に動き回れる薬を……多分、そんなところだと思うんだ。あの子は……」


 あの子……アスラ様とドルチェは知り合いということか。しかもアスラ様が幼い頃からの。


「……とりあえず、話を聞いてからだな。なるべく、ご要望に沿った物を作るとしよう」


「うん……」


 夕暮れで家路に帰る人々で賑わう中、俺とドルチェは静かに教会へと続く道を進むのであった。

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