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84草

前回のあらすじ「カエルといえば……蛇だよね」

―およそ1時間後「宿場町近くの森の前」―


「そうしたら……えい!」


 ドルチェが、数匹のヌルットードの死骸の前で風魔法を使い、森に向かって風を吹かせる。森の中にいるバブルアース・スネークの真ん前から吹かせてるので、きっと獲物の臭いを嗅ぎ取るだろう。


「これでいいかな……」


 バキ…バキ……


「あら。早いわね」


「さっきの音……風魔法で折れたとかじゃないよな」


「違いますね。その証拠に今でも枝の折れる音が聞こえますから」


 ココリスとモカレートと話をしている間にも枝の折れる音が大きくなっていく。しかも、獣や鳥の鳴き声も森の中から響いている。


「情報通りね……準備はいいかしら?」


「いつでも……皆もいいかしら?」


 モカレートがマンドレイクに向けて言葉を掛けると、マンドレイク達は手を上げて自分達も準備が整っていると事を伝える。


「ナビゲーションは使わなくていいよね?」


「ええ。風魔法と回復魔法よろしく」


「頑張れー! 後ろで応援してるからな!」


「……あんたも戦うのよ」


 呆れた表情をするココリス。しかし、あながち間違っていなかったりする。


「前衛1人だしな。こちらにある程度、引き寄せてもらわないと困る」


 今回のパーティーは前衛1人でマンドレイクを含めた他のメンバーは後衛なのである。あまりにもバランスの悪すぎる編成……どうしても他のメンバーよりココリスの負担が多くなってしまう。


「分かってるわ。最初のヘイトは私に向けるだけよ……しっかり、援護してよね」


「来たよ!!」


 ドルチェが叫ぶと同時に、森から現れたバブルアース・スネーク。周囲に設置した焚火で照らされたその姿は一般の木の幹よりも三周り以上の胴体を持つ大蛇だった。


「すげえ……」


「クイック!!」


 バブルアース・スネークが姿を現したと同時に、身体強化の速度魔法を発動させてから駆け出すココリス。槍を手に持っているのに、あっという間にバブルアース・スネークの足元まで接近する。


「シャー!!」


「はあーー!!」


 バブルアース・スネークがその牛さえも一瞬にして丸のみに出来るような大きな口でココリスを食べようとするが、ココリスはそれを簡単に避けて、そのままバブルアース・スネークの右側の胴体を槍で突く。


「シャーー!」


 しかし、その硬い鱗のせいで槍の攻撃は防がれてしまう。そして、ココリスが攻撃によって隙が出来ている所に、バブルアース・スネークは口から泥を吐いて攻撃する。


「ウィンド・バースト!」


「ウォーター・バースト!」


 俺とドルチェは高威力の魔法を使ってそのブレス攻撃を弾いたり、本体に当ててブレス攻撃の方向をずらして、ココリスが逃げる隙を作り出す。


「サウンド・ショットガン!!」


 ココリスがその場から離れたと同時に、モカレートがマンドレイク達と一緒に無数の音の弾を打ち出す。しかし、その攻撃も鱗によって防がれる。


「……硬いな」


「シャー!!」


 すると、俺達からの攻撃の連発を受けた際に、頭に付いた水や土を落とすために頭を左右に震わせていたバブルアース・スネークがこちらに視線を向けたまま、尻尾で地面を強く叩き出す。


 叩いたと同時に地面が揺れ、地面が陥没したり隆起する。さらに尻尾を叩く回数を重ねていくと、さらに地面が揺れ、地面が大きく陥没していく。


「うわわ……!!」


「踊れ! フレイム・ロンド!!」


 ドルチェが振動のせいで四つん這いになっている中、俺はドルチェに攻撃が当たらないように気を付けながら、火球をバブルアース・スネークの真上に来るように打ち出す。火球はバブルアース・スネークの頭上まで来ると、バブルアース・スネークを閉じ込めるような炎の渦になっていく。


「シャァ!?」


 自分を囲う炎に気付き、尻尾による地属性の魔法を止めて、その攻撃に対して警戒を始める。


「ウィード! あの攻撃は?」


 揺れが治まったところで、少し離れていたココリスが戻ってきた。


「フレイム・ロンド。ああやって、対象を炎の渦に閉じ込める魔法だ。一応、高温によって肌や呼吸器官に対して徐々にダメージを与える魔法なんだが……素材として回収したいから温度は低めだ」


 儲けを考えなければ、これを倒す方法はいくらでもある。それこそモカレートとマンドレイク達の渾身のインパクトボイスや、俺の白炎やドレッドノートボイスで跡形もなく吹き飛ばすというだけで済む。


 しかし、今回の目的はこいつという素材である。ヌルットードを好物にしているこいつ……恐らく他の薬師とかも試しているはずだがモカレートが知らない以上、成功はしていないのだろう。しかし、俺にはスキャンやフリーズスキャールヴという優れた解析アビリティがある。それらを使えばもしかしたら……。


「そう……で、あれ倒せると思う?」


「いけるな。後はあの鱗を貫通できる高威力の攻撃で急所を狙えば……」


 なるべく素材を痛めつけず、一撃で敵を仕留める……。


「ドルチェ……風魔法で人を上に打ち上げる魔法ってあるか?」


「あるけど……あ、もしかして」


「そのもしかしてだ。モカレート!」


「は、はい!!」


 俺は隆起した地面の隙間にはまっている1体のマンドレイク……恐らく、んーちゃんに手を伸ばして救出中のモカレートに声を掛ける。


「ココリスが一気にバブルアース・スネークを仕留めるから、そのサポートをしてくれ!!」


「わ、分かりました!!」


 そう言って、んーちゃんを掴んで上に引っ張り上げるモカレート。安全な場所で待機していた他のマンドレイク達も集合して反撃の準備を整える。


「シャアーー!!」


 すると、バブルアース・スネークが奇声を上げ、口から水のブレスを放ってフレイム・ロンドを消火する。


「よし! そうしたら俺、モカレートとマンドレイク達で気を引くから、ドルチェとココリスはトドメを頼む!」


「了解!」


「任せて!」


「皆さん! 来ますよ!!」


 俺達の話し合いが終わったと同時に、バブルアース・スネークが地面を抉りながらこちらに向かって突進を仕掛けてきた。


「ウィードさん! インパクトボイスを!」


「安心しろ……準備は出来ているぞ」


 俺はこいつが襲ってきたと同時に草を擦り合わせて、インパクトボイスのエネルギーのチャージを始めていた。


「そうしたら……皆さん! 行きますよ!!」


 モカレートが杖を前に出す。それを見たマンドレイク達もその方向……バブルアース・スネークに向かって整列をする。


「インパクトボイス!!」


 モカレートの掛け声と同時に、インパクトボイスを放つ俺達。


「シャ、シャ……」


 こちらに突進していたバブルアース・スネークにインパクトボイスが命中。その威力のせいでバブルアース・スネークの胴体が持ち上がって、こちらへの突進が止まる。


「フォロー・ウィンド!!」


 ココリスに向けて魔法を放つドルチェ。ココリスはその魔法によって頭上高く飛び上がり、そして地面に向かって落ちてくる。


「いけーー!! ココリスーー!!」


「パワーチャージ! そして……!!」


 ココリスが身体強化でも攻撃力を上げるアビリティを発動し、そのまま地面に衝突。本来なら致命的なダメージになるのだが……。


「リバウンド!!」


 その落下時の威力を自身の攻撃力にするリバウンドを発動させ、そのまま胴体が持ち上がったバブルアース・スネークへと槍を前に構えた状態で突撃。その威力はすさまじく、かなり太いバブルアース・スネークの胴体を貫通し、バブルアース・スネークが声を上げる間もなく胴体を2つに分けてしまった。


 そして、バブルアース・スネークの頭の方が地面に落下。少し遅れて胴体の下の方も地面に倒れる……バブルアース・スネークとの戦闘の最中、被害を免れた焚火の音が聞こえ始め、周囲に静けさが戻ってきたことを告げる。


「……ふう」


 俺はバブルアース・スネークに向かって収納のアビリティを発動。生きていれば収納は出来ないが……バブルアース・スネークの死骸が目の前から消え、俺の収納欄にバブルアース・スネークの名前が表示された。


「……収納完了」


「みたいですね……」


 モカレートが杖を下ろし、警戒を解く。その下では、マンドレイク達が飛び跳ねながら万歳をして喜んでいる。


「お疲れ様」


「ああ……お疲れ」


 ドルチェに声を掛けられ返答する俺。無事に戦闘が終わってホッとする。


「ふう……お疲れ」


 突撃したココリスが歩きで戻ってきた。


「お疲れ様でした……おかげでいい状態で素材を手に入れられましたね」


「ええ。武具の素材としても使えそうだし……少しは売りに回してもいいかもしれないわね」


「ですね。それだから一回、冒険者ギルドに持って行った方が良さそうですね」


「そんなのは後でいいから……宿場町に戻ろうよ。眠いし疲れたし……」


「そうね……ウィード」


「はいはい」


 俺は出されていた焚火、そしてその残骸を収納内に回収する。そして、最後にココリスが地属性魔法を使って隆起した地面を軽く均す。


「元通りにするのは難しいからこれでいいかしら?」


「冒険者ぐらいしか森にはいかないだろうからいいんじゃないか?」


「そうしたら戻りましょうか」


 そう言って自身のカバンからカンテラを取り出したモカレートを先頭に宿場町へと戻る俺達。いつの間にか空を覆っていた雲が晴れていて、夜空の星々が見える。


「あ、流れ星」


 ドルチェが指差す方向を見る。流れ星なんてすぐに消えてしまうから見えないと思ったが……運良く次の流れ星が流れていった。


「奇麗だね!」


「ええ……」


 俺達の勝利を祝福してくれているかのように流れていった流れ星。そんな嬉しい出来事を話題にしながら宿場町へと戻っていくのであった。

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