80草
前回のあらすじ:ウィード「どうして、こんな話を書いたんだ作者?」
作者「11月29日の前後だったから」
*作者の都合のため、次回の更新は12月18日になります。お手数をお掛けしますがよろしくお願いします。
―「モゴ湖・入り口近くの森林」―
「ひゃあ……ひくわ…よ」
「いいよ!」
「覚悟は出来ました!」
体を大きな布で隠したドルチェとモカレートが勢いよく返事する。俺は見ていないが……あの大きな布の下は何も着ていないはず……。
結局、ココリスに付いた脂肪を2人に渡すしか方法が無いので、移されるドルチェとモカレートも覚悟し、そのままだと衣服がビリビリになってしまうので、問題が起きないように用意しておいた大きな布で体を隠す予定だ。
「じゃあ……いくわよ」
3人がココリスが発生させた黒い靄に包まれていく。その外にいる俺には内部でどんな事が起きているのか視認する事は出来ない。
「……あれ?」
「ココリスさん? あの~……?」
黒い靄からドルチェとモカレートの声が聞こえる。何か困ってるような感じがするのは気のせいだろうか?
「何も起きないけど……?」
「ドルチェさんもですか?」
2人の会話が続く。どうやらソウルチャージが正常に働いていないようで、2人の身に脂肪がいつまで経っても付かないようだ。
「え? 私、痩せたけど?」
「「え?」」
ココリスがそう言うと、体の変化が無くなったのだろう。黒い靄を解除してしまった。そこには大きな布で体を隠したココリスの姿があった。ただし、布の面積が足りなかったのだろう。大分、きつく巻いてその身を納めているのが分かる。何せ布が体内の脂肪に押されて張っているのだから。
先ほどは巨大な肉塊が転がっていると言われていてもおかしくなかったココリスの姿だったが、今はちゃんと人型になっている。が、全身が太い。体は大樽を思わせるような体型になってしまい、お腹は前に張り出して下に垂れてしまっている。腕や足もたっぷりの脂肪が付いていて、少し動くだけで大きく揺れてしまっている。また、ココリスは俺から見て正面を向いているのだが、何故か正面からお尻の肉が見えてしまっている。そして……顔もパンパンに張っていて首が消えて体とくっついているし、目も下から押されて細くなっている。唯一、俺にとって嬉しいのはその大きな胸なのだが……お腹の脂肪に乗っかって形が変形してしまっている。
「テレビで見たびっくり人間のような太り方だな……」
こんな女性が好みで、さらにここから太らせようとする猛者もいるのだから、改めて人間の性癖ってすげぇーなと思ってしまう。
「こんなに太った女性なんて初めて見ましたよ……その魔法が広まれば、こんな事故の時に見られるようになるかもしれませんが」
「いや。娼館にいけばいくらでも見れるだろうって、5段階目の肥満薬を使えばここまで太れるだろうしな」
「そうでしたね……薬を作るだけで、その後の効果を試したことが無かったので……今度、飲んでみますね!」
「するなするな……それは、娼館の奴らにさせておけって……」
「それよりも! どうして変化が起きていないか確認しなくていいの?」
ドルチェの主張に、俺とモカレートはさっそく何が起きているのか確認する。
「あ! 2人共新しいスキルを覚えてるな」
「ですね……名前は魔力タンク。効果は一時的に体内に魔力を溜めて置ける。また体に付く余分な脂肪を魔力に変換するとも書いてあります」
「おお……これは嬉しいね。ということは肥満薬が魔力回復薬になるってことだよね」
「そうだな」
これで、ココリスが闇魔法ソウルドレインをバンバン使って脂肪を付けて、それを2人に移して魔力を回復させるということも出来るようになった。これはかなり便利なのでは……?
「そうしたら後はココリスの体が戻ったら……うん?」
何か言おうとしたドルチェが言うのを止めて、お腹に手を触れた。
「どうかしましたか? ……あれ?」
モカレートもドルチェと同じように、お腹に手を触れる。
「どうしたんだ?」
(魔力タンクのアビリティレベルは1なので、脂肪の場合は数分程度しか留めておけません)
俺の疑問をフリーズスキャールヴが答えてくれるとは……やっぱり、そんな美味しい話は無いのか……。布のせいで分からなかったが、よく見ると指の間からお腹の肉が溢れている。
「うわわ……」
布がズレ落ちないように手で押さえている間にも、ドルチェのお腹が前にどんどんせり出していく。それと同時に体のあっちこっちが膨らんでいく。
「ああ……一時的って、本当にわずかな時間だけなんですね……」
モカレートもお腹が膨らんでいく、こちらも体全体が膨み始めている。こう見ていると、途中で太り方が変化する。ドルチェは胸が他のところより脂肪が付いていき、モカレートはお尻にどんどん脂肪が付いていく。
「200キロ増えるのは同じでも……太り方は違うんだな……」
俺が無心で静かに見守る。2人の体が風船に空気を入れるかのごとく大きく横に広がっていく。脂肪が波打ちながら太っていくなんて、地球で見る事は出来ないだろうな。
「ううーーん!」
体が膨らんでいくのが気持ちいいのか、声を出さないように、片手で口を押さえ必死に堪えるドルチェ。その腕もどんどん膨らんでいき、クリームパンのようになっていく。
「なるほど……太ると下が全く確認できなくなるんですね……」
こちらは、冷静に自身の体を観察するモカレート。既に100キロを超えた体を、その大きくなった腕で、布の上から触って確かめている。
最後に脂肪のせいで首が無くなり、顔が体と繋がった所で2人の変化が納まった。ココリスと比べるとドルチェは胸とお尻に脂肪が多く付いており、モカレートはお尻が他の2人より大きくなっている。どうやら、このソウルチャージで太る場合、痩せていた時の体型で一番大きい場所はより大きくなるように太るようだな。
「は、恥ずかしい……」
太った体を、その太い腕で隠そうとするドルチェ。しかし、体に脂肪が付きすぎたせいで手が届いていない。それでも、何とかしようとするのでムニュムニュと体の脂肪が様々な形を変わっていく。
「大丈夫だから……心配はいらないわよ」
モカレートは急激に太った事に驚いたマンドレイク達を落ち着かせている……が、あれはモカレートから見えていないだろうな。マンドレイク達ももう少し離れないと、太鼓腹のせいでかがめなくなり、顔の脂肪で視界が狭まってしまったモカレートからは視認できないだろう。
「ふう……こんな巨体の女性が3人。しかもこんな森でほぼ素っ裸なんて……変人扱いされてもおかしくないわね」
太った2人を見て、ココリスがそう呟く。確かにここで他のパーティーに見られたら痴漢ならぬ痴女扱いだろう。
「とりあえず30分間はどこかで身を隠さないと……」
「そうね」
「あ……」
ドルチェが何かに気付き、口から声が漏れる。それだけで、何があったのかが分かってしまう。
「ドルチェ。人とモンスター……どっちだ?」
「ひ、人がこっちに来てる」
それを聞いたココリスとモカレートが困った表情を浮かべる。マンドレイク達もモカレートの近くで慌てふためいている。
「さっさと移動しないと」
そう言ってドルチェが一歩を踏み出す。
「お……お、重い……」
のしのしとゆっくり歩くドルチェ。
「いや……身体強化のあるココリスならともかく、2人は無理だろうって……足がめちゃくちゃ太くなってるし、お腹が垂れ下がっているせいで、足を前に出すのが阻害されているし……」
「う!?」
俺の指摘にダメージを喰らうドルチェ。どうやら、そこまで太ってしまった事を認めたくないらしい。とりあえず、俺はこの後の事を考えて、討伐したモンスターの死骸にビリビリに破けた衣服の破片などを収納に入れておく。
「でも、どうしたら……」
「任せろ。マンドレイクの諸君! 俺をドルチェの所まで連れてってくれ!」
俺の指示を聞いて、マンドレイク達全員で俺を担ぎ、ドルチェの近くまで寄ってくれる。そしてドルチェが俺を手に取ろうとするが……。
「あ、あれ……? 届かない……?」
ドルチェの脂肪が邪魔をして、足元にいる俺を手に掴もうとするのを妨げている。
「……マンドレイク達。俺を上に投げてくれ」
マンドレイク達はすぐさま円形状になって、胴上げの要領で、俺を上に投げ飛ばす。それをドルチェが太った体で何とかキャッチする。
「ドルチェ。来ている奴らから隠れるようにそこの大きな木に隠れろ……他の皆もドルチェの近くに寄ってくれ」
マンドレイク達も含めた全員が木に近寄る。3人が木に体を預けた瞬間にミシッと鳴った気がするのだが……聞かなかったことにしておいて……。
「インビジブル」
俺は全員の姿が他者から見えなくなるようにインビジブルを発動させる。そのタイミングで人の話し声が聞こえ始める。俺達は気配を消し静かにする。
「……あれ? ここ誰か戦った後があるね」
「だな……ヌルットード以外のモンスターとも戦闘したか」
「恐らくはグレートボアだろうね……しかし、これは何の後だろう? 何か大きな物体がここにあったみたいだけど……」
「きっと、討伐の際にそんな跡が付くアビリティか魔法でも使ったんだろう。それより早く帰るぞ。今日捕獲したこいつらで化粧品をまた作るんだろう?」
「だな。作業場が混んだ後だと大変だしな」
そう言って、俺達の近くまでやってきた集団は離れて行った。十分に距離が離れたところで3人が溜息を吐く。
「危なかったね……」
「ですね」
「ウィード。収納からレジャーシートをそこに出してくれない?」
ドルチェの指差す方向。この木々が生い茂る中、太った3人が体を横にするには十分なスペースが広がっている。
「……なら」
俺は収納から大きなレジャーシートを広げた状態で出現させる。すると、ドルチェはすぐさまレジャーシートの上に寝転がる。
「ふう~……」
急激な体重増加で足がきつかったのだろう。そこで疲れを取り始める。その際に俺を地面に置いてくれたので、蔦を地面に当てて今までの経験値を獲得しておく。
すると、ココリスとモカレートもその上に寝転がり始める。3人の体の脂肪は横に移動するが、それでも胸と腹の山はそびえたったままだった。
「とりあえず……戻るまで休憩ね」
「賛成です……皆さん。周囲の警戒をお願いしますね」
「こんな姿で寝っ転がるなんて……ウィード。誰にも見られないように見張っててね」
「分かった」
俺、男だというのを忘れていないか……? と思いつつ、3人が元の姿に戻るまで俺とマンドレイク達で周囲の警戒を行うのであった。