79草
前回のあらすじ「変わった状態異常は出ないとは言ったが……既出の状態異常は出ます」
―「モゴ湖・湖周辺」―
「まずは……ソウルドレイン」
戦闘前に発生させていた黒い靄で、襲ってくる3匹のヌルットードを覆うココリス。靄が晴れると、そこには凍死したヌルットードの姿があった。
「うぷ!」
ボン!!っと擬音が出たんじゃないかと思うような太り方をするココリス。胸が大きい以外はスタイリッシュな体型をしていたが、今ではお腹が胸と同じくらいの大きさになっていて、お尻もなかなかの物になっている。
「闇魔法って、こんな事が出来たんですね……視界を防ぐ魔法だと思ってましたよ」
「モカレート? そうしたら、この後がもっと驚く事になるわよ」
そう言って、ココリスが黒い靄を動かして、自分とモカレートを包む。
「ソウルチャージ」
「お……おお……!!」
モカレートから驚きの声が漏れる。しばらくして黒い靄から現れた2人はぽっちゃり体型になっていた。2人とも身に付いた脂肪が服を内側から押し上げてパツパツにしている。
「肥満薬……下から2番目ぐらいでしょうか……」
「ってことで、この脂肪を相手に移せるのよ」
「こうやって肩代わりさせることが出来るんですね……けれど、全部では無いんですね」
「そうね。あくまで痛み分けってところかしら」
「へえー」
自身のポヨポヨのお腹を触るモカレート。その後、大きくなった胸を横から押したりして感触を確かめている……なかなか、エロい事をするな。
「これって、どのくらいで戻るんですか?」
「それは……」
(ヌルットード1匹で5分間10キロの増加……3匹なので15分間30キロ。それを分散してるので、1人当たり、約7分間15キロになります)
「えーと……この前、使用した砂時計で2回転とチョットだ」
「ああ……なるほど、ウィードさんの世界で言うなら6分~8分ほどってことですか」
モカレートが素早く時間計算を行う。ここに来るまでの道中で時間について話したのだが……もう、そこまで出来るようになったのは驚きである。
「あ、ああ……そうなるとクラリルの時はどうだったんだろう……」
ここでフリーズスキャールヴが教えてくれるといいのだが、何せこれを習得する前の話だから、流石にそれは無理だろう。
(クラリル1匹で10分間80キロの増加……6匹なら1時間480キロの増加になります)
「ぶふーー……!!」
フリーズスキャールヴからの回答を聞いて、口が無いのに思わず吹き出す俺。
「大丈夫?」
「大丈夫……じゃないかも……」
まさか、そんな過去の事を遡って教えてくれるとは……いや、レザハックが元宮廷魔術師だって教えてくれたしな。この位は朝飯前なのか……。
「次、来たよ!」
ドルチェの声に反応して、皆が戦闘態勢に入る。今度はマンドレイク達と俺でヌルットードの動きを止めて、そこにココリスがソウルチャージで仕留める。
「ん……!」
艶かしい声を出しながら、太っていくココリス。大きな胸はスイカ並みに膨らみ、お腹はそれより前に出ようと膨らんでいく。
「……さっきより太り方がゆっくりだな」
そう思ってる間にも、ココリスは太っていき、お尻は桃のように両足は大根足のようになっていき……両腕も振ったらプルプルと揺れるような贅肉が付く。
「……終わった……みたいね」
ハアハアと息をしながら話すココリス。その顔にも贅肉が付いて2重顎を形成していた。
「えーと……ヌルットード1匹で5分間10キロで、それで倒したのが5匹だから25分間50キロってことか」
(ご名答です)
フリーズスキャールヴからそのような返事が返って来た。こいつ……本当に何なのだろうか。
「そして、またソウルチャージでドルチェさんにやるとおよそ12分間で25キロの増加になるんですね」
「いや、時間は累積するみたいでな先ほどの7分と足して19分間に伸びて、体重もココリスが増えた分の65キロから半分の32キロだそうだ」
「え? 私?」
「モカレートは既に太ったしな……ってことで、覚悟するんだな」
「……はい」
ドルチェの覚悟が決まった所で、ドルチェとココリスの二人を黒い靄が包む。ドルチェの腰辺りにいる俺も一緒に靄に飲み込まれるのだが……本当に何も見えないな。
「う、うん……」
現在、いつも通りにドルチェのベルトに括り付けられているのだが、そのため草の一部分がドルチェに触れている。だから……膨らむ感触というのが分かってしまう。
(なるほど……こんな感じか)
太ももがパンパンとなっていくのを肌で……いや、草の部分で感じる。これが人の姿だったら、ドルチェにぶっ飛ばされていただろうな。
「うわー……」
黒い靄が晴れて、ドルチェの姿を視認できるようになった。顔は二重あごになっていないが丸くなっており、体もどこもかしこもパンパンになっている。モカレートより増加分が多いため、お腹も前に大きくせり出している……のだが、それよりも胸の方が大きい。
(ココリスの方が太ってるのに、ドルチェの方が胸が大きいというのは……これが不平等という物か)
食べた物は全て胸にいく……このソウルチャージでも同じことが起きてしまうのかと思ってしまう。ちなみに、ここにいる全員の服は破れておらず問題無く着れていたりする。念のためにそのような衣服に変えていたのが功を奏している。
「うーーん……太るのはこのぐらいまでね。これ以上は槍を振るのに邪魔だわ」
ポン!とお腹を叩くココリス。さっきよりは痩せたが、ぽっちゃりとかグラマラスと言うには太り過ぎである。
「うう……ウィードも一緒にいたのに影響が出ないのは何でなの……?」
「そういえば……そうだな。脂肪として蓄えられないからか?」
一応、ステータス画面を開いて確認するが……特に変わった所は無い。
「そういえば、皆の場合はこれって状態異常って表示されるのか?」
「されるわよ。肥満化って」
「そうか……となると、俺には影響は出ないようだな。ありがたいような……もう、人としてはかけ離れた存在になってしまったようで淋しいような……」
「ウィード……?」
「……何でもない。気にしないでくれ」
俺がそう言うと、周囲に微妙な空気が流れ始める。こんな嬉しくない状態異常でも、羨ましく思えるとは……。
「そうしたら、皆が痩せるまで、ココリスは身体強化のアビリティを使用した状態で体を動かしていくぞ。慣れない体でケガしやすいからな気を付けろよ!」
「う、うん……」
とりあえず、リアクションに困っている皆に激を飛ばし、次へと進むのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―夕方になる少し前「モゴ湖・入り口近くの森林」―
「ふ~う……ふ~~う……」
ココリスが、曇った荒い息で必死に呼吸を整えようとする。
「えーと……大丈夫?」
「だ、だいひょうぶ……」
「いや……ダメだろう。これは……」
あれから、順調にヌルットードの狩りをしていた俺達だったのだが……もう少しで湖を1周という所で思わぬハプニングに見舞われてしまった。
恐らく、今日最後の狩りになったであろうヌルットードとの戦闘でそれが起きた。痩せて元の体型に戻っていたココリスがヌルットードの群れにソウルドレインを使用していると、いきなりそこに別のモンスターの群れが突っ込んで来た。そして……そいつらごとソウルドレインしたことで、脂肪がココリスの衣服をビリビリに破きながら体を膨らまし、それだけでは飽き足らず、手足を飲み込んでしまうほどの急激な体重増加をしてしまったのだ。
「大きな猪だな……何て名前だ?」
「グレートボアですね。この湖の周辺に生息するモンスターで、大人になると屈強な男10人ほどの重さ、大きさは見ての通り、私が寝転がって2人分になる巨大な猪型のモンスターです」
(……しっかりとした換算すると、体長3mで高さ2m、体重1トンの大物です。これによるココリスへの体重増加ですが5体なので50分間500キロ。さらにヌルットードの群れで10匹で50分間100キロ。合わせて90分間で600キロになります)
フリーズスキャールヴって凄いな……あっという間に分かりやすく答えて……いやいや!?
「死ぬって!! 身体強化使ってるから何とかなってるような物だろうそれって!!?」
俺は再び、ココリスの方へと視線を向ける。そこにあるのは山。しかも瑞々しい肌色をしている。そこにちょこんと見える手足と、足元に散らばるバラバラになった衣服、さらにてっぺんの胴体に飲み込まれる寸前の頭が無ければ新種のモンスターと捉えていたかもしれない。
「ひゅ~……これ……やふぁいの……かしゅら……?」
「身体強化を決して解除するな! それやったら死ぬからな!?」
「ど、どうすれば……!?」
慌てるドルチェ。俺もどうしたらいいのか見当が付かないのでここは……。
「フリーズスキャールヴに聞いてみる……って、やっぱりそうだよな」
一瞬の間に返答が返って来た。それによると解決方法は……たった1つである。
「そうか! 痩身薬で痩せれば……!!」
「ダメらしい。あれはあくまで自身に付いた脂肪であって、このようなイレギュラーな物には対応していないらしい……」
「つまり……?」
「……痛み分けするしかないだろうな。ちなみにドルチェとモカレートに移せば、30分間200キロの増加だそうだ」
「それって私達の衣服もボロボロですよね……?」
「……だな。ちなみに90分間耐える前にココリスの身体強化の方が限界がくるらしいから、早急にやらないとダメのようだな……」
俺がそう告げると、ドルチェとモカレートが脂肪の塊になっているココリスの方を見るのであった。