7草
前回のあらすじ「お財布の中がホックホック!」
―「城壁都市バリスリー・魔女ラメルの魔法店」―
「それじゃあ説明するけど……草ちゃんはどこまでアビリティについて知ってるかしら?」
(えーと……全く知らないかな。俺って生まれてからずっとカロンの森にいたから)
「なるほど……それじゃあ説明するわね」
すると、ラメルさんが紙を持ってきてそこに何かを書いていく。そういえば気になる事を訊いてみるか……。
(書いているところ申し訳ないんだが……)
「うん?何かしら?」
(どうして、俺がただ者じゃないって分かるんだ?看破みたいなアビリティがあるのか?)
「ええ。私は看破じゃなくて魔力感知のレベルマックス。それのお陰で、魔力の揺らぎも見えるからあなたがただの草では無いと分かったの」
(揺らぎ?)
「ええ。この世界のどんな物にも大なり小なり魔力を持っているわ。それで生きている人の魔力って感情の変化に合わせて揺らぎも変化するの。私からあなたを見たら草なのにまるで生き物のように変化していたわよ」
(なるほどな……これって隠したりとか出来るか?人型ならともかくこの姿だと……な)
「そうね……彼女達と一緒に行動するなら、隠していた方がいい場合もあるわよね……隠蔽系のアビリティがあれば隠せるけど……」
(隠蔽系か……持っていないな)
願えば出て来るかな……?……と期待を込めてステータス画面を見て見たが……出ていなかった。まあ、普通はそうはいかないだろう。
「そうしたら……この店に隠蔽系のアイテムがあるから、後で見せてあげるわ」
(おお!助かる~!!)
「ふふっ……と、出来たわ」
ラメルさんが先ほどから書いていた紙を見せてくれた。
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―ラメルのメモ書き―
「アビリティについて」
アビリティとはその人の個性ともいえる物である。才能があればアビリティとして目覚め、無ければどんなに頑張っても目覚める事は無い。例えば剣士として訓練を続けても、才能が無ければいつかは限界が来てしまい、才能ある者に越されてしまう。この世界では自分がどんなアビリティに恵まれているかを知るという事が大切である。しかし例外もある。
「通常アビリティ」
日常の努力によって目覚める才能を可視化した物である。きっかけは人それぞれで、同じ剣術のアビリティがあったとして、ある人は毎日、剣術の稽古をしていくうちに目覚めたとか、別の人物は突如、現れたモンスターを周辺に落ちていた木の棒で追っ払ったことによって目覚めたとか、稀であるが包丁を握っただけで目覚めた人物もいる。また生まれ持っていたりと多種にわたる。
「特殊アビリティ」
特殊なアイテムや試練を受けたことによって手に入るアビリティである。そして手に入るアビリティは少し特殊な物になる。例えば魔剣使いというアビリティがある。これが手に入ると剣術のアビリティが幾つか手に入る事もある。変な言い回しの理由はその魔剣の性能次第で手に入る物が変わるからだ。
なお、通常と特殊のどちらにも登場するアビリティもあるので、この考え方はあくまで現状の段階の推察となっている。
「称号」
アビリティとは関係ないが、ステータス画面を開くと稀にあるもので特に使う場面は無い。
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―「城壁都市バリスリー・魔女ラメルの魔法店」―
(へえ~……面白いな。それと分かりやすい)
「ありがとう。書いたかいがあったわ。それで、あなたの特殊アビリティの調合なんだけど。これは自分の作った薬を変異させる性質があるの」
(変異?)
「そう。例えば致死毒を作ったとしましょう。すると調合のスキルが働いて、より強い物に派生させたり出来るの」
(そういえば毒魔法と回復薬で異様な物が作れるようになったな)
「例えば相手を混乱させる毒を作ったら、相手を魅了させる毒だったりしないかしら?」
(おお!あるぞ!)
「見せてくれないかしら?」
(いいけど……器無いか?)
「この場で作るのよね……それなら」
(いや。収納にストックしている。イグニスから手に入れたんだ)
「ああ。なるほど、それならここへ……どこから出すのかしら?」
ラメルさんが持っているガラス瓶をどこに置こうか悩んでいる。
(今、動かしている葉先の近くに置いてくれ)
俺の指示でラメルさんが瓶を置いたので、その口に葉先を近づけて、中に注いでいく。
(どうだ?)
「ちょっと待ってね……」
ラメルさんがじっくりと中のピンク色の液体を眺める。
「かなり品質のいい魅了薬ね……これを娼館とかに売りつければ高く売れるわね」
(何に使うのかは……いや、突っ込まないでおこう)
一晩中、にゃんにゃんするだけだろう。気にする事では無い。
「で、売ってくれる?」
(いいぞ。ドルチェの様子からして信用できる人なんだろうしな)
「ふふふ。ありがとう。お礼にさっき話していた隠蔽系の装備品でいいかしら?」
(いいのか?高いんじゃないのか?)
「そうね……出来れば他にもあれば売って欲しいんだけど」
(えーと……ちょっと待っててくださいね……麻痺毒、混乱薬、睡眠薬に狂乱薬。それと発毛剤に痩身薬に肥満薬……)
「何か後半の薬は変わってるわね……というより女性の味方と敵になる薬の両方を持っているなんて」
(俺も何でこんなのが出来たのか不思議なんだよな……あ、それと食欲増進薬とかもありますよ)
「あなたは誰かを太らせるつもりなのかしら……」
(いや……調合のアビリティのせいか、自分の作った薬の効果も分かるんですけど……食欲増進薬は相手を飢餓状態にし強制的に食事を取らせる状態にする毒です。飢餓状態は各ステータスが上昇するんですけど、食事を取れなければ……栄養失調で死にます)
「……人に使わないでね?」
(危なくて使いません。それより発毛剤はどうですか?これを髪が薄い男性相手に売れば大儲け出来ると思うんですよ)
「そうね……育毛剤はあっても発毛剤というのは聞いたことが無いから、試しに売ってみてもいいわね。それより……痩身薬を売った方がいいんじゃないかしら?女性にとっては夢のような薬よ?」
(それが……こいつ時間制限付きなんですよ。だから一時的に痩せれるって感じです。肥満薬も同じですね。しかも、共に経口摂取じゃないといけないという条件もあって、とてもじゃないけど売れないと思いますよ)
投げつけて効果があるならモンスター退治とかに大活躍しそうだが、飲ませるとなると難しいだろう。それなら他の薬を投げつけてやったほうが早いし簡単だ。
「なるほどね……そうしたら、売ってくれないかしら?」
(え!?)
ラメルさんの売って発言に俺は驚いてしまった。これ使えるのか!?
「出来れば……各時間制限毎、増加や減少毎で作ってくれると嬉しいんだけど……」
(出来るけど……売れるのか?)
「同じ娼館よ。お客好みの体型に変えられる薬として売れば……出来れば、各パーツごとに増減できれば……」
(人間の性欲ってスゲーな……)
「ええ♪お陰で大儲けよ?」
俺……この売り買いだけで生きていけるかもしれない……草(w)じゃ無ければ。
「選びました!!って、どうかしたんですかラメルさん?何かホクホク顔ですけど?」
「この子と商談してたの。楽しそうな薬を大量にお持ちのようなの。それでいいかしら?」
(じゃあ容器をお願いします……)
「分かったわ」
ラメルさんがキレイな小瓶を箱一杯に持って来る。俺はそれに濃度の異なる魅了薬、瘦身薬、肥満薬を入れていく。
(濃度で効果の増減が変わります。色の濃いものほど強いって感じですね。時間は飲む量で変わるんですけど……それは検証しないといけないかな)
「キレイな色だね……薬の効果と利用方法を聞かなければだけど」
(そうだな……)
「検証はこっちでやるとして……」
すると、ラメルさんがその中の色の2番目に薄い肥満薬を少しだけ飲んでしまった。飲んだ直後にラメルさんの体がふっくらと膨らみ始める。
「ら、ラメルさん!?」
膨らみだすラメルさんを見て驚くドルチェ。その間も膨らんでいって……グラマラスと言っておこう、ローブの上からでも分かるほどに太った。ラメルさんが自分の大きくなった胸より大きくなったお腹に太くなった腕、ほんのり肉が付いた顔を触っていく。
「なるほど……こんな薬初めてね……売れるわ」
目を輝かせるラメルさん。いや、乙女の敵の代表格の肥満薬を飲むなんて……。
(何で、試しにそれなんだよ?他の方が良かったんじゃないか?)
「痩身薬はダメね。私の体重からマイナスってなったら死んじゃうかもしれないでしょ?魅了薬は同じ女性でもドルチェちゃんを襲う可能性があるし……消去法でこれね」
「でも、危険じゃないですか。草さんのアビリティのお陰で戻るとは分かっていても……」
「問題無いわよ?戻れなかったら今度はそっちの痩身薬を飲めばいいんだから」
そんな、あっさり言わないで欲しいのだが……。すると、ラメルさんの体が今度はしぼんでいって、元の姿に戻る。
「なるほどね……2番目の濃さで一回り程。それが5段階か……一番上はどのくらいかしら……それと時間はちょっとならすぐに戻れると」
時計が無いのは不便だな……ちなみに俺の体内時計では1分でした。
「正確に測れる物が欲しいわね……そこは娼館の人と相談してみるわ。ということで全部買い取るわ」
(あ、ありがとうございます?)
「どういたしまして。それじゃあ、先払いで隠蔽効果のある装備を草さんにプレゼントするわ。正確な値段が決まったら、またお支払いするわね。あ、それとドルチェの杖の加工もするから貸してくれる?」
「あ、はい……」
(ああ。よろしく……)
ラメルさんはそう言ってカウンターの裏に入っていった。
「草さん……」
(なんだ?)
「世界って広いね……」
(草の俺に訊くなよ……)
この後、ドルチェは白と緑色の魔石が付いた金属の杖を、俺は隠蔽効果のあるリボンを手に入れるのだった。