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77草

前回のあらすじ「変わった状態異常はしばらくは出ない模様」

―お昼頃「モゴ湖・対岸の岸付近」―


「来るよ!」


「皆さん! 力を合わせて!!」


「「「「ーーーー♪!!!!」」」」


 雨の中、モカレートの指示でマンドレイク達が一斉にサウンド・インパクトを放ち、ヌルットードの群れを撃退する。


「ふう~……皆さん。お疲れ様です」


 その大根のような体をくねらせて、褒められた喜びを表すマンドレイク達。すると、その内の1体がすてんと転ぶ。


「レーちゃん。大丈夫ですか?」


 転んだマンドレイクに声を掛けるモカレート。ぬかるんだ地面に転んだために泥だらけになったレーちゃんは、直ぐに立ち上がって平気だとアピールする。


「これは思った以上に面倒だな」


 レーちゃんはぬかるんだ地面に足を取られた訳じゃ無く、雨によって流れたヌルットードの粘液で転んだのだ。しかも、これが初めてじゃなく、既にドルチェ達にも影響を及ぼしている。


「うん。転ばなくても、滑って動きが止まっちゃうんだよね……最初は苦戦したな……」


「そうそう、私も騎士の頃にはよく泥だらけになってたわね」


 2人がそんな思い出話をしながら、転んだレーちゃんを見る。雨が降ってるので既に3人の服は濡れて透けて……とはいかず、あらかじめ用意していた合羽を着用している。しかし、その額を見るとうっすらと汗をかいている。


「蒸し暑いのか?」


「そうね……もう少し涼しいと助かるわね」


 そう言って、パタパタと合羽の襟辺りを掴んで仰ぐココリス。そういう系のフェチなら大変うれしいシチュエーションだろう。かくいう俺も……これで薄着で服が透けていたらもっと良かった……。


「涼しむ物か……これから夏になるよな? その時に使う対策グッズとか無いのか?」


「あるわよ。あなたの収納に預けてあるわよ」


「あったっけ?」


 俺はステータス画面から収納を開いて、中に何が入ってるかを確認するとそれらしい物を見つけた。


「手持ち冷却機?」


「そうそう。ちょうどいいから出してもらっていいかしら?」


「ああ……ってこれは……!!?」


 俺は収納からそれを取り出す。間違いない。これは……!!


「ハンディフォンじゃん!! 前世でもよく見たやつじゃん!!」


「あっちにも似た物があるのね」


「そっくりどころか、そのまんまだけどな。違うと言えば動力は魔石って所だな」


 それを使って、3人が涼みながら木の下で休憩する。


「俺の魔法で仮拠点でも設けるか? 問題無く出来ると思うんだが……それにあれから連戦したから、そろそろお腹も空いたんじゃないか?」


「そうね……あなたはどうなの?」


「いい肥料のおかげでまだまだいける。残り半周……問題無くいける」


「なら。私達もいいかな」


「この子達も大丈夫そうなので、そのまま行きましょうか」


 すると、ドルチェとモカレートも話に混ざってくる。


「いいのか?」


「うん。それなら、さっさと終わらせて宿場町に戻りたいから」


 ドルチェの意見に頷く2人。その意見には納得である。


「それじゃあ……さっさと今日の分を終わらせて、宿場町に戻るか」


「ええ」


 ほんの少し休憩した俺達は、再び湖の周りを進むのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―その日の夕方「モゴ湖から近い宿場町・宿屋」―


「はあーー!! お疲れ様!!」


「お疲れ様でした……暑かったですね……」


 宿の自室に戻って来くると同時に、着ていた合羽を脱いで体を冷まそうとする3人。着ている服が薄い物じゃないので透け無いのは非常に残念である。


「それで、どうするんだ?」


「とりあえず、ご飯を済ませてからにしましょう。その後、調合に入りますよ」


「分かった」


 お昼ご飯抜きでヌルットードの討伐をした俺達は、とりあえず一度お腹を満たしてから化粧品作りに入った。宿の部屋内で行うという事はせず、宿場町のすぐ近くにあるストラティオや馬を休ませる馬小屋の近くで行うのだが……。


「結構、人がいるんだな」


 馬小屋近くに在る大きな仮説テントの中へ入ってみると、結構な人数がせっせと解体や調合をしている。


「解体をここでやる奴もいるんだな」


「そうですね。あの場で解体すると、他のモンスターが来てしまう事があるので、自身の無い方々はここで行ったりしますね」


「それなら、俺達もここで解体した方がいいんじゃないか? 収納内なら腐らずに済むし……」


「そうすると、ここの解体する作業場所を圧迫しちゃうでしょ? だからベテラン組はなるべく使わないようにするの」


「なるほどね……」


「おい! ここは俺らが使う! そこをどけ!!」


 そんな会話をしていると、どこからか怒鳴り声が聞こえる。そちらを見ると、屈強そうな男3人とひ弱そうな男性が言い争いをしている。ひ弱そうな男の服装から判断すると、彼は薬師だろう。


「アレはマナー違反か?」


「そうですね……」


「なら、止める必要があるな……とりあえず、平和的に睡眠薬や麻痺薬で……」


「必要ないわ? 最初に言ったでしょ? この仕事は国中の女性の美のために必要なこと……って」


「へ?」


 ココリスの言っている事が今一、掴めない俺。とりあえず、静かにその言い争いの現場を見ていると、周囲にいた女性達、それと濃いメイクをして、どこか可愛らしさがある服を着た体格のいい男性2人が、喧嘩を売っていた男共を囲っていく。


「な、何だお前ら!! 邪魔……」


「「「「私達の……」」」」


「へ?」


「「「「美の邪魔をするなーーーー!!!!」」」」


 気迫のある怒鳴り声が、喧嘩を売っていた男共を怯ませる。その彼らが何か言い返すより早く、囲っていたグループが一斉に攻撃を仕掛ける。時間にして数秒、喧嘩を売っていた男共はボロ雑巾のようにズタボロにされ、さらにトドメの一撃として、濃いメイクをした男性2人から鯖折りを受け、最後には雨が降り続いているぬかるみへと投げ出されてしまった。その後、薬師の男性は皆に頭を下げてお礼を述べている。


「……なるほど。俺も気を付けないとな」


「まあ、あなたはそんな事をする人……じゃなくて草だから問題無いと思うけど」


「こっちが空いてますよ!」


 一緒にいたはずのモカレートが、いつの間にか作業スペースを確保していた。きっと、先ほどの1コマを最後まで見ていないんだろうな……。


「(それぐらい、当たり前の光景ってことか……)」


 そんな独り言を呟きつつ、ドルチェに連れられて、モカレートの確保した作業スペースに来る。


「ウィードさんの調合は特殊ですから、私の作業風景を見てもらった方がいいかと」


「そうだな。俺の場合は道具不要の調合だしな……という事で、先生よろしくお願いいたします」


「ふふ……! それではまず最初ですが……」


 そこから、ヌルットードの素材を使用した化粧品作りが始まる。まずは解体の済んだヌルットードの皮を水の入った鍋に入れて、沸騰しないように煮ていく。


 「この血はどうするんだ?」


「血は蒸留して、薬効成分のある液体を抽出します。それとこの鍋の液体を混ぜる事で、化粧品が作れるんです」


「化粧品……美容液を作ってるのか」


「そうです。これを塗れば驚きの潤い、シミにシワ、ニキビの悩みもこれ1つで解決という素晴らしい美容液なのです!」


「ほうほう……それはいいな。前世では改善、予防までだったしな」


「ご理解いただけたようですね」


「ああ。これは確かに欲しくなるな……」


 俺もニキビが出来やすかったので、そういう薬を使ったりしていたが……これがあったら、ニキビに悩まずに済んだんだろうな……。


 そんな事を考えている間にも作業はどんどん進んでいく。マンドレイク達が鍋をかき混ぜ、モカレートはその間に蒸留装置を使って、ヌルットードの血から薬効成分のある液体を抽出する作業をしている。


 ちなみにそれ以外の素材はどうしたかというと、肉は前世のカエルと同じで鶏肉に近い物らしく、また美容に良いとされる食材らしいので高値で売れるそうなので収納に入れてある……まあ、この肉に関しては内々で処理される予定だろう。何せ俺という貯蔵庫に入れておけば腐らずに済むのだから。ちなみに内臓は地面に埋めて処理している。


「ウィード。収納から瓶を取り出して」


 ドルチェに言われて、出来た美容液を入れるための瓶を収納から大量に取り出す。それに漏斗とろ紙も取り出し、ドルチェとココリスがすぐに瓶に注げるように準備していく。


「なるほど……けど、調合のアビリティってどこで使うんだ? 何か見ているとアビリティは不要な気がするんだが……」


「最後に使うんです。それまでは誰でも出来ますよ」


 そう話しながら、蒸留装置を操作するモカレート。


「……俺も少し試してもいいか?」


「ええどうぞ。とりあえず、しばらくはこのままなので」


「それじゃあ……お言葉に甘えて」


 俺は作業を眺めながら、一連の作業を自分のアビリティであるラボトリー内で行うのであった。

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