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72草

前回のあらすじ「もふもふは正義!」

―レザハックを撃退してから2週間後「宿場町ココット・大通りにある宿屋 客室」―


「トルテ嬢。ご気分の方はどうでしょうか?」


「ええ。大分、良くなりましたわ……皆さんのおかげですわ」


 意識を取り戻したトルテ嬢から話を聞くギリム。ここには俺とドルチェ、そしてココリスの3人が来ている。


 被害者数が数百人にも上る今回の事件。幸いなことに全員が皮化していただけで、死んでいなかったのは救いである。しかし、多くの人が気付いたら数ヶ月経っていたという事実に驚きの表情を見せていた。


 そして、このトルテ嬢は万能薬wwwで手当たり次第に回復させていた最中に発見され、胸にあった刺し傷は俺が調合で作ったポーションで手当て済みである。


「それで、トルテ嬢は意識が途切れる前はどこにいたかお分かりになるでしょうか?」


「はい。従者と領土内にある村の視察に向かうため、崖の道を馬車で走っていたところまで覚えてます。ただ……その後は曖昧でして……ここに短剣で刺されたのは確かなのですが」


 トルテ嬢はそう言って、自分の胸の中心辺りを触る。さほど大きくない胸……しかし、スレンダー美人として文句の無いスタイルを持っている。茶髪のロングもいい……。


「ウィード……何か変な事を考えていないかしら?」


「気のせいだって」


 俺は蔦を横に振って、変な事は考えていないとアピールする。一応、これでも事件の詳細をしっかりと聞く姿勢を取っているのだ……そう、取っているのだ。


「襲撃犯の顔は?」


「……分かりません。馬車が急に止まったと思ったら、すぐに馬車内に黒いフードと仮面で顔を隠した男が押し入ってきたので……」


「男ですか?」


「はい。体格的に肩幅が広かったので、それに……叫んだ際に明らかに男性と思える声でしたから。それで……剣で刺されて、すると視界が大きく揺れて…………そこまでですね」


「となると……そこにレザハックがたまたま通りかかって、トルテ嬢を皮化してそのままこの宿場町にやってきた……トルテ嬢はあくまでコレクション用として持ち去ったのかしら?」


「その可能性の方が高いでしょう。ドルチェさんの伝でトルテ嬢とレザハックの二人に面識は無いのは確認済みですから。あの酒蔵をくまなく調べて見つけた研究資料の中にも、そのような文面が多々見られましたから」


 元ホルツ王国の宮廷魔術師らしいという情報の元、ドルチェが王都にいる王様に向けて手紙をだしたところ、すぐに返事が返って来て、その情報は正しかったと教えてもらった。さらに、こいつは身寄りのない若い女性を利用した人体実験を行っていたらしい。そして……そこから衝撃的な事実を知ったのだが、あいつは捕まるに気付いて、すぐに逃亡。追跡の任についていた騎士達によって、利き腕の右手と左足を切断され出血多量の状態まで追い込まれたらしい。そして、レザハックはどうにか逃げようとして近くの川に身を投げたということだった。


「まさか、そんな状態の人間が強力なモンスターになっていたとは思ってもいなかっただろうな」


「ええ。騎士達が提出した報告書を見る限りでは私でも対象は死んだとして処理するでしょうね」


 今回の件で、王家には落ち度が無いように思える。しかし、世間から見れば殺人鬼を逃がし、さらにこのような事件を起こしてしまったと思われてしまうだろう。


「トルテ嬢。申し訳ありませんが、くれぐれもこの件はご内密に」


「私も貴族の端くれです。分かっています。その替わりに、我が領地に援助してもらえると約束しましたし……」


 そう言ってトルテ嬢が不敵に笑う。何せ王家に借りが出来たのだ。我が身に降りかかった不幸で、それだけの収穫があったのなら喜ぶべきだと思ってるのだろう……きっと、この女傑が大切にしている領地は、彼女がいる間は絶対に安泰だろう。ちなみに、既におわかりいただけたと思うが、彼女には今回の件に関して全てを話している。


「それより、そのレザハックは私の体を乗っ取ってここに侵入したのですか?」


「それだけど……ここを警備する門番にも訊いてみたけど、誰もトルテ様を見ていないって」


「皆さんの報告通りなら、わざわざ人のふりなどせずに、この町に侵入することが出来たでしょうからね……」


 ギリムの言う通りで、姿形が自由自在の奴がわざわざ正面から入る必要もないだろう……しかし、そうなると……。


「俺が質問していいか?」


「ええ。どうぞ」


「襲われた際になんだが……短剣はどうだった? 嫌な事を思い出させてしまうんだが……」


「短剣ですか? 確か……私の体に刺さったままだったかと……」


「なるほど……」


「どうですウィード? あなたの考えは」


「……ここに短剣は無い。そもそも、ここにあったら、先に見つけたトルテ嬢の品の中に紛れてるはずだしな」


「まあ……その可能性は高いわね」


 トルテ嬢の持ち物が見つかった辺りで、怪しくは思っていたが……。


「わざわざ刺さったまま移動なんてしないわよね」


「俺がレザハックの立場だったら抜いて……捨ててるな。価値のある剣で売れそうなら、話は別だが」


「そうね……戦ってみた感じ、武器を使うっていうタイプじゃなさそうだし」


「そうだね……」


「……となると、どうしてここに刺客を送ったのでしょうね?」


 ギリムの言う通りで、わざわざここに刺客を送る理由が無くなってしまった。


「まさか、トルテ様の事を諦められずに、本当に救助のために人を送ったとか?」


「トルテ嬢を襲っておいて、それは無いわよ。だから……今回は自身の保身のために、冒険者達を騙してここに送り付けたっていうのが理由でしょうね」


「まさか、ここでも偽の依頼書を出していたとは……な」


 ここに送られて来た刺客……それらの正体は冒険者であった。しかも、当の本人達はトルテ嬢の救助で依頼されたということで、何も知らされていなかったのであった。


「うーーん……とりあえず、ここは一度お開きにしましょう。病み上がりのトルテ嬢にも悪いですし」


「そうだな」


「すみません。何か分かったらお知らせしますわ」


「ありがとうございます。それでは」


 話を終えた俺達はトルテ嬢が休んでいる部屋を後にする。


「トルテ嬢の事は私の方で何とかしますので、皆さんは休んで下さい」


「あら? いいんですかギルドマスター?」


「皆さんのおかげで、昇進へまた一歩近づきましたからね……今後とも、ご協力をお願いしますね」


「喰えない奴だな」


「それほどでも」


 それだけを言って、ギリムはトルテ嬢の部屋を守る冒険者達に軽く指示を出して、トルテ嬢がいる部屋の隣室へと入っていった。それを見届けた俺達はそのまま宿の外へと出る。


「うーーん……! っと……どうしようかね?」


「そうね……どこから調べればいいのか分からないわ……ウィードは?」


「分からん。襲撃者はフードと仮面でしっかり素性を隠していたんだ。何故、そこまでトルテ嬢にこだわるのかが今一、分からん」


 俺がそう言うと、二人は考えるのを止め、すっかり賑やかになった宿場町の大通りを歩き始める。2週間前まではゴーストタウンだったとは思えないほどの賑わい……宿場町に住む住人の働きっぷりに尊敬してしまう。


「あ! 皆さん!」


 声を掛けられ、後ろを振り向くとそこには少しふくよかになったモカレートと、薬の瓶が入った籠を運ぶマンドレイク達がいた。


「どうでしたか?」


「進展なしよ」


「そうですか……」


「それより……どうして、太ってるのかしら?」


「ああ……これですか? 先ほど薬の実演販売をしてまして、それで一番軽い肥満薬を飲んだんですよ」


 そう言って、着ているワンピースを下へと引っ張るモカレート。それによって胸の辺りにある飾り紐が胸に食い込んでいく。ぴちぴちになった服を着ているモカレートの姿。食い込んでいる大きなお尻と柔らかそうなお腹……これはこれで中々、そそるものが……って、俺にはそんな趣味は無い! そう! 無いのだ! とにかく、ここは変な目で見られないようにしっかり話題を振らないとな。


「それで、娼館には売れたのか?」


「はい! バッチリ売れましたよ! マンネリ化した状態を打破するためにちょうどいいって事で作った肥満薬と獣化変身薬の両方とも完売ですよ!」


「そうかそうか! それは良かった!」


 この宿場町には、疲れた冒険者や商人達を癒すために娼館が設けられている。そこで、俺がバリスリーでこれらの薬が売れたと知っているモカレートが作った薬を売りにいっていたのだが……無事に売れて何よりである。


「でも……いいんですか? 元々はウィードさんの作った薬ですし……」


「気にするな。俺は俺で、この宿場町に薬を売ってるからな。それに……バリスリーにも卸さないといけないから、替わりに作ってくれる奴がいて助かってるよ」


「そうですか……それならいいのですが」


「そういう事でいい。それよりも宿に戻るんだろう? 一緒に帰るか?」


「ええ。この姿……結構、恥ずかしいので」


「……それはそうだろうって」


こうして、モカレートとマンドレイク達と合流した俺達は、現在、寝泊まりしている宿へと帰るのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 立ち寄った街の娼館に順調にケモマニアと肉好きが増えていいと思います(にっこり) …皮化薬を反転させたらどんなお薬になるのかしら。 …膨体薬?
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