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71草

前回のあらすじ「事後報告中……」

―夜「宿場町ココットの外・野営地 宿泊用のテント」―


「聞いたことはありましたが……そんな称号があるとは」


「でも……私達にはついていないわね?」


「うちらも何らかしら戦ってたのにな……」


「私は……ついてますね」


 ギリムが自分のステータス画面を見て、そう呟く。


「対人相手だったので、特に気にしてなかったのですが……条件は相手に有効打を与えた者でしょうか……」


「いいえ。恐らくトドメを差した者でしょうね。で、ウィードはアビリティの関係で手に入ったと考えた方がいいかもしれないわ」


「私達が戦ったラーナの称号……それを持ってるのってウィードだけだもんね」


「あの時はラテさんも含んだ全員が有効打を与えていたはずだしな。唯一、違うとしたら……あの時、トドメを差したのは俺だったってところだ。今回は成長促進のアビリティと俺の独特なレベルアップが原因でトドメを差してなくても手に入った感じだな」


「……なるほど」


「それで、アクアの情報を持っていないか? まさか、あのレザハックがいつもアクアを演じてるとかは無いだろう?」


「それはもちろんです。アクアの特徴ですが浮遊した水色の球体……見た目はスライムのような奴ですね。ただサイズは直径は大の男が5人ほどというかなりの大きさを持ち、水属性の魔法とその体を使って、相手を窒息させる攻撃や、その質量で相手をプレスするなどの攻撃をしてきます」


「状態異常で相手を皮化するとかは?」


「そんな話は一度も……」


「そうか……」


「ちょっと待って下さい? 話をまとめると……そんな強力なモンスターにレザハックはなっていたって事になりますよね?」


「モカレートさんの言う通りです。そして……そんな存在になれる方法があるなんて、私も聞いたことがありません」


「あいつはどうやってそんな存在になったのか……いや待てよ。もしかしてアクアを素材に自分を改造した……?」


「どうしてそう考えるの?」


「レザハックはこの国の宮廷魔術師だったらしい。どうしてこんなバカな事をしたのかは分からないがな……ちなみにフリズスキャールヴの情報だから確定だと思うぞ」


「待って!? え? レザハックが私達の国の宮廷魔術師?」


「フリズスキャールヴの結果がそう出ていた。今回の件で、かなり信用できる情報を提供していると分かったしな。間違いないだろう」


「それはそれで大問題ですが……」


 国の中枢で働いていた元役人がこれほどの問題を起こしたと分かったら、国民から王への非難は免れないだろう。


「良かったな。王様を脅すネタが出来て」


「良くは無いですよ……この件はここにいる人だけの秘密ということにしておいて下さい……ドルチェさん」


「うん。王都に戻ったら調べてみますね」


「何か片付いたと思ったら、次の問題が起きて……チェーンクエストみたいだな……とりあえずは目先の問題を、解決していくしかないのか」


「そうだね……」


 まだまだ、このクエストに弄ばれるのかと思って、うんざりする俺たち。とりあえず、明日からは皮化した住人を元に戻す仕事がしばらく続くことになるのだろう。早速、今晩から万能薬wwwを大量生産しなければ……。


 この後、ギリムと少しだけ、明日の予定を話して俺たちは休息に入るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―深夜―


「ウィードに質問。いつ幻影を作れるようになったの?」


 皆がシャワーを浴びて、後は寝るだけというところで、肥料たっぷりのプランター内で万能薬wwwを調合中の俺にクロッカが質問してくる。


「そういえば……そうよね?」


「うん。一緒にいる私も聞いてないよ?」


「ああ……あれか」


 俺は作業を中断して、んーちゃんの幻影を呼び出す。


「こう見ると……本当にんーちゃんにそっくりですね。この葉っぱの丸っぽさとか……」


「え? んーちゃんの葉っぱって、丸みを帯びてなんて……あれ?」


 ビスコッティが一度本物のんーちゃんを見てから、再度、幻影のんーちゃんを見たら、葉っぱが丸みを帯びた物になっていて、違和感を覚えたのだろう。そして……モカレート以外の全員が本物を見る前後で姿形が変わったことに驚くような表情をしている。


「どういうこと?」


「ドルチェとココリスは、これを知ってるぞ」


「これって……ラーナが使った精神にダメージを与える魔法?」


「正解。これはラーナ・ボンゴが使った精神魔法だ。ただし……もっと極悪だけどな」


「どういうこと?」


「ラーナ・ボンゴの場合は音を使って相手の脳内のトラウマを呼び起こす魔法なんだが……これは、音を使って、あたかもそこに対象がいるような錯覚を起こさせる魔法なんだ。しかも五感にさえ干渉する。ただし……対象の無い情報は再現できないがな」


「あ……本当だ。でも、擦り抜けますね」


 モカレートが幻影に触れて、それに熱があることを確認する。他の面々も触れたりして、感触を確認している。


「これを音属性の魔法で再現できるの?」


「音……って言われると本当は少し違うな。実際には物質の振動を使って相手の脳に干渉するというイメージで練習したからな」


「じゃあ……今触れているここには何も無いと?」


「そうだ。今はあるように見えるが……それに干渉しないような……魔道具。例えばこの場を記憶するような魔道具があれば映らないかもしれない」


「へえー……でも、これってレザハックに効いていたんですか? 生物の構造をしていないですよね……」


「効いてた。この振動は空気中の魔素って言われる物にも効果を及ぼしていてな……で、あいつは魔法を使って、あの場を覗いていたから、そこから効果が発揮したらしい」


「らしい……?」


「フリズスキャールヴからの情報だ。それに……俺もしっかり確認できたんだ。だから、心配は無いと思ったけどな」


 あの戦闘中に、生物ではなく植物である俺自身がしっかりマンドラゴラのんーちゃんを視認できたのだ。あいつにも効果はあると思っていた。


「練習中で、ほぼぶっつけ本番だったが……まあ、上手くいって良かった」


「……ねえ。もしかして、初日にも使った?」


「……使った。あの時は猫をイメージして映していたら……スライムが引っかかって、お前のソウルドレインでやられてたがな」


「本当に……あなたって規格外ね。高威力の火と毒に水魔法をそれぞれ使えて、さらに回復、鑑定、攪乱も出来るなんて」


「この体だしな……むしろ、その位のチート能力が無いと割に合わん」


 一生を草として、あの場に留まる生活を送らねばならなかったかもしれないのだ……これ位の融通を利かせても、罰は当たらないだろう。


「魔法名はファントム。これからの旅に大いに役立つ魔法だろうな」


「そうね……で、譲らないからね?」


 ココリスがモカレートとフォービスケッツの4人にそう言うと、全員がガックリと肩を下ろしてしまった。


「しょうがないですね……明日も早いからそろそろ寝ましょうか?」


「だな。あ~~……色々あって今日は疲れたぜ……」


 アマレッティがそのまま、自分の寝床に寝転がる。他の皆もそれを見て寝る準備を……うん?


「何だガレット? また、肥満薬か?」


「ううん……ねえ。あの皮化の薬って作れる?」


「「「「え!?」」」」


 ガレットの一言に全員が驚きの声を上げる。寝ようとして倒れていたアマレッティも思わず起き上がってしまった。


「まさか……お前……」


「いい睡眠を……」


「……どうなのビスコッティ?」


「どうだろう……? 私、皮化した後の事は覚えて無くて……気付いた時も、それどころじゃなかったし……」


 ビスコッティとクロッカの話を聞く限り、いい睡眠というのは無理な気がするのだが……。


「止めとけ……寝た気にならないみたいだぞ?」


「……一回は試す必要がある」


「ちょっと待って下さい……止めとけって言ってますけど、もしかしてウィードは皮化の薬を作ってしまったんですか……?」


 モカレートの言葉にここにいる全員が俺を見る。俺は黙ったまま静かに皆が見えない方向に視線を移す。まあ、目が存在しない草である俺が視線を移したなんて、皆には分かる訳が無いのだが。


「ウィード……?」


「ふっ……また、いらない知識を身に付けてしまった……」


「何でそんな物を作ったのよ!?」


「フリズスキャールヴの効果で、相手の情報として何故か入って来たんだよ!! それで……ギリムに提出するために一個だけ作ったんだよ」


「ああ……なるほどね。確かに見てもらった方がいいか……」


 皮化がどんな物なのかは俺達しか見ていない。だから、それがどんな物だったのかを報告するとしたら、証拠として、実際にそれを見てもらう必要がある。だから……今回の面倒ごとを作ったインスーラ侯爵にでも飲ませようと思っていた。


「じゃあ、私が一度試す」


「そうか! ……って言うと思ったか? 試すなら、戻らなくても問題無い奴にやってからだ。今回は肥満薬か獣化によるふわふわ尻尾に包まれながら寝てくれ」


「むう……」


「あの……獣化薬を下さい。ふわふわの尻尾の抱き枕で寝たいです!」


「よし。正直なビスコッティにはこれを渡そう」


 俺は獣化の改良型でふかふかの尻尾とケモ耳だけが生えるという特殊な薬を渡す。


「このふかふか薬は一瓶で朝まで持つ。ふかふかに包まれながら寝るが良い」


「ははあ~……」


 深々とお辞儀をするビスコッティ。ノリがよくて助かる。ビスコッティがそれを飲み干すと、ふかふかの大きな尻尾とふさふさの狐のような耳が生える。そして、ビスコッティは尻尾を抱きながら横になる。


「ああ……ふかふか……これは癖になりそう……」


「……そう。私もいいかしら?」


「私も私も!」


 自分の尻尾に抱き付きながら、蕩けた表情で眠ろうとしているビスコッティの姿を見て、皆から注文が入る。俺は作ってストックしていたふかふか薬を収納から取り出して皆に渡す。しばらくすると、全員が尻尾に抱き付きながらぐっすり寝てしまった。


「じゃあ……お休み」


 俺はそう言って、消し忘れている灯りを触手を伸ばして消しておく。皮化薬への激しい非難をどうにか乗り越えた俺はせっせと万能薬wwwをひたすら作り続けるのであった。


「「「「zzz……」」」」


「そういえばマンドレイク達って寝るんだよな……何故、俺はダメなんだろう?」

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