70草
前回のあらすじ「レザハック撃破!」
―「宿場町ココット・中央通りにある酒蔵」―
「この薬、凄いね……」
「だな。こんな意味不明な状態異常を回復できるなんて……」
万能薬wwwのインチキ効果についてドルチェと話しながら、モカレートを回復を見守る俺。くしゃくしゃになっていた体は、ついに人型に広がって、そこから空気を入れるかのように厚みを増していく。
「これって……どうやって、戻ってるのかな?」
光の粒子が目と口と耳から噴き出したか思ったら、すぐにそれは治まってしまって、何とモカレートの瞳が戻っていた。どうやら意識も戻ったようでこちらを見ている。
「上手くいったんですか?」
「うん! ばっちり!」
口の中も戻ったらしく、モカレートが自分が皮化してしまった後の事をドルチェに訊いている。その間もモカレートの体は厚みをましていき……その立派な胸も元に戻ろうとして……うん?
「どうです? 大分、戻って来たみたいですけど……」
「そうですね……まだ、体に力が入らないですね」
二人がそんな会話をしてる……その間にも、体は戻って行く。一度、皮化してしまったため、今、その体は素っ裸のまま……。それだから、アニメとかなら謎の光の線が入るような所が元に戻って行くのが、はっきりと見える……そう、はっきりと。
バレたらマズい。そう頭は思っているが目を離せない。何せ、モカレートがたまに、ううんー! と嬌声を上げるのだ。今も、自身の太ももが戻った際に太もも同士をむずむずさせつつ声を上げたので、俺はそっちに注視してしまう。
「あっ!? ドルチェ! 出歯亀いるわよ!!」
「えっ? どこに……ああっ!!?」
ココリスが大声を上げて変態野郎になっている俺に注意しろと叫ぶと、それで気付いたドルチェが慌てて俺に布を被せてくる。
「絶対! それを透かしちゃダメだからね!?」
「分かってる」
「えーと……ドルチェさん。つまりこれって、ウィードに私の体を……」
「……はい」
「……きゃああああーーーー!!!?」
布の外でモカレートの悲鳴が響く。何も見えない俺は頭の中に記録したモカレートの裸体を思い返すのであった……。
「(俺の草生……一片の悔いなし!)」
そんな声を漏らしつつ、俺は心の中で右手を天高く突き上げるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それからしばらくして……―
「ビスコッティ大丈夫?」
「うん……でも、裸を見られたって事だよね……」
「大丈夫。ぐにゃぐにゃしてて分からないから」
「それでも見られたことに変わらないからね……」
ビスコッティとクロッカの二人のやりとりを聞いて、ガレットとアマレッティが笑ってるのが聞こえる……本当に良かった……。
「ウィード?」
「大丈夫……もう心残りは無い……」
「あんんたねえ……反省しなさいよ」
布袋に入ったまま地面に置かれた俺。そしてドルチェとココリス、そして笑顔だが、内心激おこのモカレートとその下に整列するマンドラゴラ達……絶賛、叱られてる最中です。
「いや。俺って草だからさ。反省してるのかどうかってイマイチ分からないだろう? それだから、ボコられる覚悟をしておかないと……」
「そうしたって、あんた草で痛覚とか無いんでしょ?」
「そうだが……いつ、何で少ないHPがゼロになるか分かったもんじゃ無いからな。案外、意外な理由でぽっくり逝くかもしれん」
何せHPはたったの1なのだ。今のように武器を構えた女性という危機が自分に迫っても逃げることができず、植物特有の塩害や凍害というので死ぬかもしれない。しぶといように見えて、案外、この身は酷く脆いのだ。
「だから……いつ逝っても後悔しないように、しっかりと覚悟を決めないと……冥途への土産はしっかり頭に刻んだぜ!」
「そうですか……では、あの世に逝ってください……」
ステッキを構え、彼女の護衛であるマンドラゴラ達も整列済み……唯一、んーちゃんがいないことで、攻撃力が若干下がってる事か……。
「どんどこい!!」
「ボイスキャノン!!」
マンドラゴラ達が一斉に音魔法を発動させて、俺を吹き飛ばす。その瞬間、俺が入っていた布袋が破け、土は周囲に散乱する……そして、俺はそのまま地面に落ちていった……こうやって、草と根っこだけっていうのは初めて……うん?
「ふう……スッキリしました」
「それは良かったわ。ウィードもこれに懲りたら……」
「があぁああ……」
「……ウィード?」
俺を呼ぶ声が聞こえる。しかし、それに答える余裕が俺には無い。何せ全身を複雑骨折したかのような激痛が走ってる。トラックに轢かれて死んだときは呆気なく痛みも感じずに逝けたが……今世はそうはいかないようだ……。
「ふっ……我ながら…情けない死…だな……」
「ちょ? ウィード……?」
ドルチェのその言葉を最後に、俺の意識が途切れるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―夜「宿場町ココットの外・野営地 宿泊用のテント」―
「……うん?」
「ウィード?」
ふと視界が明るくなり、意識もハッキリしていく……目の前にはドルチェがいて、俺を心配そうな顔で見ている……。
「うむ……どうやら、俺の悪運はまだ尽きていないようだな……」
「よ……よかった……!!」
泣きながら俺の意識が戻った事を喜ぶドルチェ。すると、すぐにテントから出て行ってしまった。
「かなり心配させてしまったか……しかし何が起きた?」
とりあえず、俺は俺で今の状況を把握しようとする。今、俺がいるのは皆が寝泊まりしていたテント内……そして、俺を回復させる為だろう大きなバケツに土を入れて、そこに植えられている。
「あの後、ここに連れて来たのか……」
俺はその後、ステータス画面を開いて何か変わっていないかを確認する。もし、変わってなければ俺の死ぬ条件は土の無い状態で野ざらしにすると、全身に激痛を起こして死ぬ。となるのだが……。
「これって……」
「ウィード! 目が覚めたの!」
俺がステータス画面の確認をしてると、討伐に参加していた全員がギリムも一緒に連れてテント内に入って来た。
「ああ。心配させてすまなかった」
「ご、ごめんなさい! 少しは手加減したのですが……!」
俺を殺す寸前までやってしまったと思っているモカレートが顔を青ざめたまま、頭を下げる。それを見たマンドレイク達も頭を下げている……何故かその場にいなかったんーちゃんも一緒なのはどうしてだろう。
「いや! お前等は悪くない! どうやら俺のレベルアップが原因のようだ……」
「レベルアップっていつもの?」
「そうだ……ほら、あの時、俺の根っこが地面にくっついただろう? その時にいつものアレが起きたんだ……まあ、全身に激痛が走ったけどな」
「どういうこと? 今までそんな事なかったよね?」
「ああ。けど……ステータス画面を見ると、項目が増えてるからな……恐らくこちらが原因だろう」
俺は称号の欄に増えたある物に目を通す。
「それより……あの後、どうなった?」
「それよりってね……あなたが返事しなくなって、慌ててたから、ほぼ何もしてないわよ」
「じゃあ、フォービスケッツの4人に、今回の作戦がどんな物だったとかも伝えていないのか?」
「ああそうだけど……そういえば、ギルドマスターが何故かモカレートさんのマンドラゴラ1体と一緒に駆けつけたのが不思議だったんだけど……」
「そうか……それなら、そこから順を追って説明するか。とりあえず、レザハックにトドメを差したのは……ギリムか?」
「ええ。そうです」
「それって……どういうことですか?」
「あいつ……本体である核を別の場所に置いておいて、自分の安全を確保した状態で戦っていたんだ」
俺は頼んでドルチェに地図を広げてもらう。そして……新たに手に入れた蔓で地図を差す。
「え? それって?」
「何か手に入っていたからな……これで少しは楽になる。それで、この宿場町に隣接している川のどこにいたんだ?」
「ここですね。そこにご自慢の防御魔法を張ってありましたが……集めた冒険者で一気に叩き割って、最後に私が壊しました。皆さんがレザハックの気を引いている間にね」
「じゃあ……うちらって囮?」
「すまなかった。早くいうべきだったんだが、あいつがビスコッティを人質にしていたからな……上手く調子に乗せておいて、時間を稼ぐ必要があったんだ」
「なるほどね……で、伝令にはそのマンドラゴラを使った訳か」
「あれ?でも6体全員いたわよね?」
「おそらく1体はウィードが作った幻影。戦闘中にモカレートに6本ポーション渡していたけど、本人も入れれば7本必要」
「その通りです。その時にはんーちゃんはこっそり宿場町から脱出して、ギリムさんに即席の手紙を渡していたんです」
「あれにはビックリしましたよ。ボスの本体が川のどこかにいるから叩いて壊してくれって……慌てて待機中の冒険者を集めて討伐しましたよ」
「いつから、あれの本体がそこにいるって分かったんですか?」
「戦闘開始直後だ。フリズスキャールヴで相手の弱点が載っていて、本体の核がここにあるって教えてくれたんだ」
「便利すぎません!? え? 相手の弱点が表示されるんですか?」
「そうだ……ちなみに、ビスコッティとモカレートのは見ていないからな?」
「「……」」
疑いの目で俺を見る二人。先ほどの覗きの代償だと思って……下手な言い訳をせず、話を続けよう。
「ということで、俺達の勝利って訳さ……まあ、こんな終わり方だから実感は無いと思うがな」
「私達はまだいいわ……あんな状態異常になっていたビスコッティとモカレートは何があったのか分からないままだったでしょ?」
「私は倒される直前だったので……ほぼ、把握してますから……」
「……私だけ。役立たず……?」
「あなたが時間を稼いで、3人を逃がさなかったら負けてたのかもしれなかったのよ? もっと胸を張りなさい」
「はあ……」
ビスコッティを元気付けるココリス。ココリスの言う通りで、彼女のおかげで敵の情報を引き出せたのだ。何か囮みたいで悪いが……まあ、気を落とさないでもらいたい。
「しかし……どんなアビリティがあれば、自身をモンスターに……」
「……ギリム。そこなんだが、少しヤバそうな情報がある」
「それはどういうことですウィード?」
「称号に……アクアが載ってる」
その一言に、ギリムの目が大きく開く。
「ここに来るまでの道中で手に入れたとかは……」
「さっき、手に入れた……それだけで十分だろう?」
この一言に頭を悩ませるギリム。その間に事情を知らそうなモカレートとフォービスケッツにもアクアの称号がどんな物かを説明するのであった。