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69草

前回のあらすじ「無限スライム」

―「宿場町ココット・中央通りにある酒蔵」―


「モカレート! 大丈夫!?」


「うぷ……大丈夫です? 一体、どうして私の体に……ん!?」


 喘ぎ声を出すモカレート。すると、その体がどんどん膨らんでいき、その魔女っぽいワンピース服を内部から引っ張っていく。中々の大きさを持っていた胸も膨らんで、胸当たりの飾り紐を内側から負荷を掛けていく。


「うぷ……」


 大きくなったお腹を押さえるモカレート。必死に何かを吐こうとしているので、何かが胃を圧迫しているのかもしれない。すると、膨張が収まったようで、ムチムチ姿のモカレートがそこにあった。顔も膨らんで、目が細くなり首も見えなくなってしまっている。


「何が……?」


「皮化の条件……それはスライムが体内に侵入する事……か」


 ドルチェの質問に俺はそう答える。すると、モカレートのぱんぱんになった手足が細くなっていくと思ったらぐにゃりと折曲がってしまい、その現象は体から頭と順に起きていき、あっという間にモカレートの中身が無くなってしまった。


「う、嘘……」


 それを見た皆が驚いている。まさか、こんなあっという間に人の中身が無くなるなんて思っていなかったのだろう。マンドレイク達もその場で頭を抱えて困っている。唯一、んーちゃんだけはそれを静かに見ている。


「ふふ……」


 皮化したモカレートから聞こえるレザハックの声。それは徐々に不完全な人型となっていく。


「なるほど……お前は人の皮を収集する変人だと思ったが……その皮を被って、その人に成りすますことがご趣味の変人って事か」


「ははっ!ははは……その通りだよ!」


 先に皮化してしまったビスコッティと同じように、ビール腹と目と口から流れ出るスライムの体液……。一度、皮化してしまったことで服が脱げてしまい裸の状態なのだが……やっぱり、しわしわの裸体をいくら見ても嬉しくない。


「なるほど……ここにいる皮化したスライムは全てお前だったってことか」


「その通りだ……だが、私は変人じゃない。天才だ!」


 この場合は才能ではなく、災害の方の天災だろう。何せ町一つがこいつのせいでゴーストタウン化してしまったのだから。


「こんなやつ、あたしは変態で十分だと思うんだけど……!」


「ふふ……そんな強気な姿勢でいいのかな?」


 すると、自身が乗っ取り中のモカレートの頭を、その手で掴むレザハック。こいつの命は自分が握ってるといいたいのだろう。


「卑怯だぞテメェー!!」


「戦いにおいて卑怯もへったくれも無いだろう? 勝てば官軍さ」


「ああ……その意見には同意だな」


「ウィード!?」


 俺が敵の意見に同意した事に、皆が驚いている。


「ほほう……草である君が、この天才である僕の意見に同意するなんてね……」


「まあな。いくら取り繕っても、最後は勝った方が正義と言い張る事が出来るというのは間違い無いからな。お前のその意見も、もしかしたら別の場所では、正しいと判断されるかもしれないしな」


「ちょ、チョット……ウィードの旦那!?」


「何、敵に賛同してるのよ……」


「いや……前世にも同じような趣味をお持ちの奴がいてな……で、逆に皮化してみたい、かなり意識の高いドMというのも……」


「はははは! まさか、僕の意見に同意する者達がいるなんて! もしかして君もかい?」


「俺は違うぞ。流石にその姿の奴らを見ても可哀想にしか見えない……やるなら同じ趣味の奴らを集めて、その中で交流するんだな」


「それは残念……それに、僕の趣味は人の皮の収集……同じ趣味だけじゃあ、大量に集めるのは不可能だね」


「そこは自粛してもらいたいところだな。それだったら人の趣味で済ませられるんだが……ここまで来ると、モンスターとして始末しなければならないからな」


「始末? はははは!!」


 一段と大きな笑いをするレザハック。リアルに手も足も出ない俺が始末すると言ってることがとてつもなくおかしいのだろう。


「これだけの人質がいるんだが……それらを犠牲にして討伐する気か?」


「それこそ、さっきの話と同じだな。大多数を助けるために、少数は犠牲は仕方ない……」


「ウィード……」


「それはそれは……中々、冷徹な考えを……」


「まあ……お前の本体がここにあればの話だがな」


 俺のその言葉を聞いて、レザハックが笑いを止め、こちらを驚いた目で見てくる。


「お前……まさか?」


「ああ。知ってたぞ? ここにいるお前であるスライムをいくら倒しても死なないってことをな」


「え? ウィードさん!? 何でそれを伝えてくれなかったんですか!?」


「いや……ほら、騙すなら味方からって言うからな。お前達にはあえて話さなかったんだ」


「お前達って……え? じゃあお二人は知ってたんですか」


 クロッカがドルチェとココリスに問うと、二人は頷いて答える。


「それと……モカレートも知ってたわよ」


「え? そうなんですか……?」


「……どういうつもりだ? それでは……先ほどの戦いは全て無駄だと自分で言ってるようなものじゃないか!?」


 先ほどから黙って話を聞いていたレザハックが耐えかねてこちらに尋ねてきた。


「そうだ。お前の言う通りで、この戦いは……ある意味無駄だ。そもそも……お前が召喚するモンスターを吹き飛ばせる俺達なら、一方向に攻撃を集中してこの包囲網から抜け出すってことも出来たしな」


「はあっ!?」


「やっぱり……」


「ガレットは気付いていたか」


「うん……ただ、ここで戦うには勝算があると思ってたから、二人とほぼ同じ」


「それを早く言って欲しかったわ……」


 そう言って、クロッカが頭を押さえる。そして違和感に気付いていたなら話せよ……と目を細めてガレットを睨み始める。


「待て! お前は何を言ってるんだ!? お前らは……一体何の目的で……」


「それは……」


 俺は先ほどから流れているフリズスキャールヴの音声に合わせて、時間を稼いでいたが……もう、その必要も無さそうだ。


「お前は……もう死んでいる」


 どこぞの漫画の決め台詞を言う俺。しかし……それしか言いようがない。何故なら……。


(……ゼロ。対象の始末を確認)


 フリズスキャールヴがそう告げたのだから。


「くっ!?がぁああああーーーー!!!?」


 フリズスキャールヴがゼロと言った瞬間に、苦しみ始めるレザハック。そして、周囲にいたスライムは形の無くしてただの水溜まりに、スケルトンはサラサラと徐々にその体を風化させていく。そして……レザハックも徐々に形を保てずに、その体を崩していく。


「い、一体何が……?」


「さあな……何があったかは、あの世で考察するんだな」


「こ、コノ……卑怯モノ……」


「勝てば……官軍だろう?」


「が……ハっ……」


 モカレートに入っていたレザハックがその場に倒れ、モカレートの体から水となって流れていく。しばらくして、そこに残ったのは皮化したモカレートと水で濡れた彼女の服だけだった。


「か、勝ったの……?」


「そう……みたいだね……」


 敵の無力化を見て、武器を下ろすアマレッティとガレット。他の皆も安全を確認して武器を下ろしていく。


「ちょ、ちょっと……?」


 ドルチェの足を引っ張って、どこかへ連れて行こうとするマンドレイク達。んーちゃんだけは立ち尽くしたまま、どこかを見ている。


「すまん。俺に用事があるようだ……主人を元に戻せっていいたんだろう」


 皮化してその場に放置されたままのモカレート。俺とドルチェはその近くまでやってくる。


「さてと……とりあえず万能薬wwwを出して……」


 皮化したモカレート……飲ませる……。


「口に突っ込めばいいのか?でも、漏れそうなんだが……」


 目と鼻、そして耳からもスライムの液体が漏れていたのだ。このまま口から入れたら、その辺りから漏れるのではないだろうか。


「だったら……(ズキューン!バキューン!!)に入れたらどう?」


「同じ女性ならそこは止めてやれーー!!?」


 全くとんでもない事を、ドルチェはサラッと言うな……。王族の人間ってこんな感じなのか?


「っと……とりあえず、試しにそのまま皮膚に掛けてみるか。わざわざ入れなくてもいいかもしれないしな」


「分かった。やってみるね」


 俺の意見を聞いて、万能薬wwwの入った瓶の蓋を開け、上から注いでいくドルチェ。


「何も変化が無い……?」


「……いや。フリズスキャールヴから連絡が来た。そのまま注いでくれ。だって」


 フリズスキャールヴの指示を聞いて、万能薬を注いでいく俺達。すると、乾燥ワカメを水に浸したかのように徐々に皮が伸びていく。


「あ!上手くいってる!」


「おお!良かった良かった!激マズのこれを飲ませる必要が無くていいのは良かった。この場で吐かれるのも困るしな……」


「そうだね」


 無事に元に戻れそうな光景を見て喜ぶ俺とドルチェ。そう……この時、俺は油断していた。だから、少し考えれば回避できたハプニングをうっかり起こして、この後、盛大に皆から非難されるとは夢にも思っていなかったのだった。

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