68草
前回のあらすじ「ボス戦開始!」
―「宿場町ココット・中央通りにある酒蔵」―
「皆さん!サウンド・ショット!」
モカレートがマンドレイク達に指示をして、音の衝撃波で皮を被ったスライムを次々と弾き飛ばしていく。サウンド・インパクトとは違い、威力は弱いが速度の速い音の衝撃波を6体のマンドレイクがそれぞれ狙いを定めて撃っている。そのため皮を被ったスライムはモカレートに近づくことが出来ていない。
「バブル・バースト!」
そして、当の本人も自身の武器であるステッキを前にかざして、無数の泡を撃ち出す。それらが残ったスライムとスケルトン達にぶつかると、激しく爆ぜてその数を減らしていく。
「あれはスゲーな……まるで、指揮者と奏者の関係だな」
「よそ見しないの……で、どうすればいいのかしら?」
「とりあえず、皮を被ったスライムは弾き飛ばして、それ以外は討伐してとにかく数を減らすぞ」
「なら、私はスライムとスケルトンの破壊をするわ。二人は吹き飛ばしてくれるかしら?」
「そのつもり……エアロ・バースト!」
ココリスの提案に賛成しながら、ドルチェが皮を被ったスライムがなるべく多くいる所に風魔法を放って、全ての敵を後ろへと吹き飛ばす。
「うーーん……そうなったら、炎で対抗するか……白炎」
俺は白い炎でスライムとスケルトン達を燃やし尽くす。
「やり過ぎじゃない?」
「スケルトンはそうかもしれないが……スライムは跡形もなく消す方がいいだろう。どんな条件で皮化の状態異常が発動するか分かった物じゃ無いからな」
戦闘が始まってから、しばらく経つのだが、ここにいる誰もが皮化をしていない。となると、皮化する状態異常には面倒な条件があるのではと踏んでいる。
「下手すると、スライムとスケルトンの死体を媒介にして皮化が発動するかもしれないからな」
「なるほどね」
そう言って、ココリスがチラッとレザハックを見る。レザハックは先ほどの位置から一歩も動いておらず、自分の周りに皮を被ったスライムを配置して静観している。
「何を企んでるかな……?」
「それはお前らをどうやって皮化するかだろう。老若男女問わず、多くの皮を収集するのがご趣味のようだ」
「最悪の趣味ね……」
「オラッと!」
「ガレット!こっち!」
「はーーい」
俺達がそんな会話をしていると、俺達と離れた場所で戦っていたフォービスケッツの3人がこっちに合流する。
「すいません!ビスコッティがあの状態のせいで、押さえつけられなくて……」
そう話すクロッカが見る方向には、スライムを守る皮になってしまったビスコッティの姿が……本人もあんな姿にされて不本意に違いない。
「しょうがないわ。アマレッティは私と一緒に前を、クロッカはココリスと一緒に皮を被ったスライムをどんどん弾き飛ばして!ガレットは残った奴らを!で、ウィードは臨機応変に攻撃して!」
「りょーかーい」
「いきます!」
そう言って、クロッカはココリスと一緒に風魔法で、皮を被ったスライムをどんどん飛ばしていく。そして残ったモンスターの群れを、ココリスとアマレッティがそれぞれの武器で倒し、ガレットは雷魔法で倒し損ねた奴らを片づけていく。
「俺だけ適当だな……まあ、いいか」
俺は自分が危ないと思う所に魔法を撃ちこんでいく。皮を被ったスライムは水魔法で水の勢いで吹き飛ばして、それ以外は白炎で焼却していく。さらに、レザハックの様子も確認してるのだが……全然、動かない。
「静観……いや、俺らが疲れて弱った所を襲う気か……?」
「そうかも……でも、これだけの召喚長く続かないはずなんだけど」
「うん?どういうことだ?」
ドルチェの言った一言が気になって、もしかしたら現状の打開策に使えるかもと思って訊いてみる。
「召喚魔法って媒介が必要なの」
「それって……スケルトンなら骨が必要とかか?」
「そうだよ」
「うん?まさか、ここの住人の骨を使ってとか……」
「それは無いはずだよ。同族の骨を使ってスケルトンを呼ぶと自分の骨も使用しちゃうから、だから別の生き物の骨を使うの」
「あれは……既に人間を止めてるが?」
「ああ……」
レザハックの全身は既にスライムと同じ物である。皮化する際に骨が不純物として出されて、それを利用してスケルトンを呼んでいたら……。
「召喚に人骨は使えない。これ常識」
すると、俺達の会話を聞いていたガレットがそれを否定する。
「そ、そうか……それは良かった」
「うん。もしそれだったらビスコッティの骨を使って、スケルトンが呼ばれていると思ったら……」
「骨の無い状態で、元通りになるかもしれないか……」
「ウィードさん、ココリスさん! 変な話をしないでくれませんか!」
「すまないクロッカ。けど……そうなると、あいつはどこから召喚してるかってことになるな」
まあ……どこから呼んでいるのかは分かってるのだが。
「うーーむ……しぶといね君達?」
「それはどうも。私達はそれになるつもりは微塵も無いので」
そう言って、ココリスがレザハックを睨みつける。しかし、レザハックの表情に変わった所は見受けられない。
「うむ?そんな態度を取っていいのかな?その気になれば……」
自分を守らせる皮を被ったスライムの頭を掴むレザハック。そして、それを勢いよく握りつぶす。それによって、目から勢いよくスライムの体が漏れ出していく。
「くっ!」
遂に脅し始めたか……皮の状態で潰されてるから、皮化した人が死ぬことは無いと思うが……。
「どうしましょう……」
それを見て、クロッカが動揺している。仲間であるビスコッティがあの状態になっているのだ。次は彼女の番じゃないかと、頭によぎったのかもしれない。
「あの状態なら、握りつぶされて死ぬことは無いから安心しろ。それよりも、気を付けないといけないのは動揺で冷静な判断ができなくなることだからな」
「え、ええ……」
「なら、今は敵を倒すことに専念しろ。しっかし……あいつ、こっちの動揺を誘ってるな」
「うん……」
ニヤニヤと下卑た笑みで静観するレザハック。きっと、俺達が勝てないと踏んでるのだろう。例え、自分を守る皮を被ったスライムを退けて、自分に攻撃を当てたとしても……。
「まあ……利用させてもらいますか。ココリス!このままだと、埒が明かないぞ!」
「……こうなったらアイツを狙うしかないわね」
「わ、私も賛成です!」
モカレートがマンドレイク達を引き連れて俺達と合流する。
「このままだとジリ貧です!反撃しないと……!」
慌てるモカレートの目線を追うと、マンドレイク達の葉っぱがしおれている。魔法を使い過ぎて、魔力の残りが少ないのだろう。
「ウィードは?」
「俺はポーションで補給してるから、まだまだいけるぞ。モカレート。これ」
俺は収納から魔力ポーションを6本を出す。
「急いで補給してくれ。あいつがいつ変な事をするか分からないからな」
「はい!皆!」
モカレートが魔力ポーションをマンドレイク達に飲ませ、最後に自分も飲んで回復する。
「ははっ!雑草がまさか収納持ちとはね!これは珍しい!しかし……これでは時間がかかるな……」
レザハックが俺の収納を見て、何かを考え始める。きっと、俺達がすぐに音を上げると思っていたが、俺という補給係がいたことで予想が大きくずれてしまった……と、いうところだろう。
「お前達……気を付けろよ。俺の収納を見て目の色を変えやがった」
「分かってるわよ……」
自称天才という名の狂人であるレザハックの考えてる事は分からない。もしかしたら、疲れた所で俺達を皮化する算段を変えるかもしれない。
「しょうがない……」
すると、今まで皮を被ったスライムを盾にしていたレザハックが前に出て来た。
「この私が直々に君達を手術してあげよう……」
すると、形を変えてそこら辺のスライムと同じになるレザハック。
(レザハック……現在、後方に移動しました)
俺はフリズスキャールヴの忠告を受けて、後ろを確認する。そこにはレザハックの姿は無い。しかし……このフリズスキャールヴの効果を考えると、確かにこっちにいるのだろうが……すると、一体の皮を被ったスライムが手を前にかざしているのが見えた。
「ウォーター・バレット!!」
そいつが何かをする前に、俺は素早く魔法を放って吹き飛ばす。
(レザハックが再度移動中……)
また流れるフリズスキャールヴの音声……やっぱり、そう言う事か。
「あいつ……動かないけど何を?」
「分からないわ……」
アマレッティとココリスが動かないレザハックだったものを、まだ警戒している。
「気を付けろ!レザハックはそこにはいない!別の体に移動してるぞ!」
「えっ?それどういうこと?」
「それは……よっと!!」
俺は再度、同じ動きをしている皮を被ったスライムに水魔法で吹き飛ばす。
「さっきのがレザハックだ!こいつ、意識だけを移動させて他のスライムに乗り換えてるぞ!」
それを聞いた全員が、モンスターの群れを相手にしながら周囲に警戒を張る。
「これは驚いたな!まさか追跡のアビリティも持ってるとは!!」
右からレザハックの声が聞こえた……が、それは直ぐに移動して……。
「そこ!」
俺は素早く、前の皮を被ったスライムに攻撃して吹き飛ばす。
「ウィードの旦那!旦那がさっきから攻撃してるのがそれかい?」
「そうだ!あいつは皮を被ったスライムに乗り移りながら移動している!」
「なら……手を前に出した奴がレザハックってことかしら……」
「ははは!なら……これはどうだい?」
どこからか聞こえるレザハックの声。そして、その言葉の後に皮を被ったスライム全員が右手を前に出す。
「うわわ……!?どれがレザハックなの!?」
いくつものスライムの体を持つレザハックに翻弄される俺達……。
「こっちだよ」
「えい!!」
クロッカが声のする方へ、とりあえず風魔法で皮を被ったスライムを全て吹き飛ばした……が。何故かまだそこにいる。
「ここだよ?」
その声……クロッカの横にいたモカレートの近くから聞こえた。すると、かなり小さなスライムがモカレートの足元にいて、そのままモカレートの頭へと飛び跳ねて顔にくっつく。
「ぐぽっ!?」
すると、スライムはモカレートの顔でその体積を増大させて、ついにはモカレートの頭を覆い尽くしてしまった。それに驚いて口を大きく開けたモカレート……すると、スライムはそのままモカレートの口の中へと入っていってしまったのであった。




