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67草

前回のあらすじ「人の皮を被ったスライム大量発生中!」

―「宿場町ココット・中央通りにある酒蔵」―


「どうする?」 


「それは……」


 大勢の敵に囲まれてピンチの俺達。俺はここで起きた今までの事を整理し、この状況を打開する方法を閃く。イチかバチかだが、やってみるか。


「任せろ……おーーい! 聞こえてるんだろう?召喚術士さんよ!」


「ウィード!?」


「旦那。召喚術士って?」


「これはダンジョンじゃない。恐らく召喚術が使える単独、もしくは複数犯! じゃなければ、こんな風に人の皮を被ったスライムを配置しないだろうしな……! お前らはこの人の皮を人質にしようと魂胆なんだろう!」


 遠くまで聞こえるように大声で話す俺。これまでのモンスターの動きを振り返ると、どうもモンスターが操っているというより、人間がモンスターを使役しているような雰囲気がある。だから、何もかも知ったフリをして、こちらを密かに監視しているそいつらを呼びよせるつもりで喋っている。


 仮にこの考えが間違っていても特に状況が悪化する訳でも無いだろうし……むしろ、最悪なのはこのまま親玉が隠れっぱなしという状況である。隠れっぱなしでは手も足も出せない……あ、俺って草だから手も足も無いじゃん!?


「……クク」


 自分自身にツッコミをいれていると、酒蔵内から気味の悪い笑い声が聞こえる。どうやら引っ掛かってくれたようだが……一人分の笑い声しか聞こえない。複数と思っていたが単独犯だったのか。


「イヤー……まさか、バレるとは……」


 すると、酒蔵の奥から現れる何か……それは透き通った青い肌を持った中年の男性……いや、スライムだった。


「はは! まさか、鑑定系のアビリティ持ちの雑草とはね……」


「モンスター……?」


 ドルチェがその姿を見て、モンスターと判断する。確かに、こいつはモンスターで間違っていないだろうが……何か変だ。


「残念……私は人間だよ。天才魔術師のレザハックとでも覚えていてくれたまえ……天才以外はどこにでもいる一般市民と同じだが?」


「一般市民の意味を調べた方がいいぜ……」


 ナイフを両手に構えてアマレッティがレザハックを煽る。


「ふふふふ……もう少し時間が欲しかったが、鑑定系のアビリティ持ちがいてはこの辺りが限界か……」


「攫ったビスコッティはどこにいるの!!」


「それなら……ここだよ」


 レザハックが後ろを振り返ると、ビスコッティ……の皮を被ったスライムが現れる。先ほどの男性と同じビール腹で、体のところどころでは皮膚に皺が出来ている。顔はビスコッティのまま……だと思ったが、長時間それを保つのは難しいようで、すぐに目と口からスライムが漏れ出す。美女の裸なのだが……こんな姿で見れても嬉しくはないな。


「そ、そんな……」


「生きてるの?」


「ああ……ここにいる全員生きてるよ?もし攻撃したら……どうなるか分かるかな?」


 フリズスキャールヴが現在もビスコッティは状態異常を示す黄色で表示されている以上、ビスコッティは生きている。しかし……あの皮にダメージを負わせたら?それは、ビスコッティをあんな姿にしたレザハックというスライム以外、誰も分からないだろう。


「……卑怯者」


「ふふ……さてと、私も色々忙しいのでね。手短に済ませてもらうよ」


 レザハックが指を鳴らすと、俺達を囲っていたモンスター達が一斉に襲い掛かって来る。


「皆!風魔法!」


 モカレートがステッキみたいな魔法の杖を前に出してマンドレイク達に指示する。するとマンドラゴラ達が一斉に風魔法を放って、自分達に襲い掛かるスライム達を吹き飛ばしてしまった。


「エアロ・カノン!」


 クロッカも錫杖の先端から、風魔法を放って吹き飛ばしていく。残った奴らはアマレッティとガレットが自身の武器だったり魔法を使って、皮を被ったスライム以外のモンスターを蹴散らしていく。


「乱れ咲き!」


 ココリスが石打の方でスライム達を高速で突いていく。皮を被ったスライムは弾き飛ばされ、それ以外は形を崩していく。ドルチェもそれに負けずに風魔法で吹き飛ばしていく。


「ははは!やるねえ!でも~……その威勢がどれだけもつかな?」


「甘く見るなようちらを!!」


 アマレッティが強がりを見せるが……このままだとこちらが不利である。何故なら……皮化したビスコッティを人質に脅せば、こいつらを止めさせることが出来るし、そもそも周囲を覆うほどのモンスターの群れに、手加減という制限を課された状態でどれだけもつだろうか……。


 まあ……それは俺の持つ切り札が無かった場合の話だが。


「(……最後の一回を残しておいて良かったな。フリズスキャールヴ!)」


 俺は小声で、今日最後である3回目のフリズスキャールヴをレザハックに向けて放つ。すると、ステータス画面に表示中の円形のレーダにレザハックが表示される。


「(そして……スキャン!)」


 レザハックにフリズスキャールヴがしっかりと掛かった事を確認した俺は、スキャンを使ってレザハックの情報を表示させる。


(レザハック……元ホルツ王国の宮廷魔術師。召喚術と水魔法のアビリティ持ち。自身の欲望を満たすために自信の体をスライム化する)


 ほうほう。宮廷魔術師って……こいつ、本当に天才だったんだな。それで欲望は人の皮化だよな? いや……今はそんな事を知りたいんじゃない。


(レザハックが脅す確率100%。脅し文句を言うまで10分以内と推測)


 おいおい!時間が無いぞ!……弱点!弱点!と強く懇願する。


(弱点……再度、スキャンを行ってください)


「ドルチェ! すまないが一度だけでいい。レザハックの方を向いてくれないか?」


「分かった!」


 ドルチェは襲い掛かるモンスターに注意しながら、レザハックの方を向く。


「よし!スキャン!!」


 俺は再度、レザハックに鑑定魔法を放つ……さあ、弱点は?


(弱点……)


「え?」


 フリズスキャールヴから伝えられたこいつの弱点……これが本当ならこいつにいくら攻撃しても勝てないことになる。


「どうするか……」


「ウィード?」


「……ドルチェ。あいつの弱点が分かった」


「本当?」


「ああ……ただ、少し難点がある」


 俺はこいつの弱点を教える。それを聞いたドルチェも困った表情になる。


「どうするの?」


「モカレートにも手伝ってもらう。そうすれば後は何とかなるだろう」


「分かった……それとココリスにも手伝ってもらうけどいいよね?」


「だな。さてと……俺も手伝うか。ドルチェ。それじゃあ……上手くやってくれよ?」


「うん!」


 俺は自分の使える魔法の中で、傷を負わせることが無い水魔法で皮を被ったスライムを弾き飛ばしつつ、俺達の前で戦っているココリスと合流し、同じ話をする。


「そんな事……出来るのかしら?」


「知らん。でも、そう鑑定結果が出てるしな……」


「私はウィードの鑑定結果は正しいと思うよ。それなら、このスライムの大量の群れの説明も付くから」


「スライムに必要な媒体……なるほどね」


 ココリスがドルチェの話を聞いて納得する。スケルトンが骨ならスライムに必要な媒体はそのサイズと同等の水である。そして、レザハックは今、酒蔵の前で自分の自信作である皮化したスライム達を盾にしつつ、自分の前に用意した魔法陣から、スライムを高速でどんどん召喚している。


「あいつ自身がスライムだから、体内の水を媒介にして召喚してると思ってたけど……」


「先ほどから観察していたが……それ以上の水を消費してると思うぞ。ほら。今なんて自分より大きいスライムを召喚したし」


「はあ……そのようね。とりあえず、モカレートにすぐに頼みましょう」


「ああ」


 この後、襲ってくるモンスター達の隙を付いてモカレートの元に近づいた俺達は、あいつを倒すための作戦を伝えて、すぐに行動に移すのであった。

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