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66草

前回のあらすじ「マイナーな状態異常」

―ウィード達がマンドラゴラ達に呼ばれてから1時間後「宿場町ココット・中央通りの宿泊施設」―


「これって……」


「ああ。ビスコッティの物だ」


 天井が崩れて、ボロボロの室内。そこにビスコッティの衣服と身に付けていた武器が乱雑に放置されている。スライムの襲撃を警戒して、ここの調査には、アマレッティとココリス。そしてココリスのベルトに吊り下げられた俺が来ている。


「ここで倒れて、本人だけがどこかへ行ってしまったようね」


「くそっ!?うちがもっと早く気付いていれば……」


「そう責めないの……ウィード」


「本人はここから移動している……中央の通り沿いの店だな。とりあえず、これらを回収しとくぞ……っと、その前にスキャン」


 俺は、何か情報を得られないかと思って、念のためにスキャンでビスコッティの衣服ごと周囲を確認する。


(謎の状態異常で、内部から衣服を引っ張られた痕跡を確認。また、状況からして本人は何かを残す前に手足を封じられた模様)


「うん?」


 ビスコッティの衣服をスキャンしたところ、ステータス画面にそれらの情報が表示、しかも女性のような機械音声での案内も始める。


(さらに、スライム達は扉から逃走。そのまま、廊下側の小さな窓からビスコッティを連れて逃走した模様)


「ほうほう……」


(状態異常の鑑定……データ不足。何らかの方法でビスコッティの体を圧縮できるような物と推定します。現状の解決策は万能薬www。必要量は不明)


「……」


「ウィード?」


「どうした旦那?さっさとそれを回収して……」


「は……」


「は?」


「は、はははは……!!」


「ちょ、何を笑ってるんだ!ビスコッティが……」


「すまない……フリズスキャールヴのチート能力が何なのかが分かってな……本当に馬鹿げているな」


 フリズスキャールヴはそれだけでは不完全なアビリティだったとは……その、真骨頂はスキャンとの同時使用によって詳細な情報を得られるアビリティだったとは……。


「あなたが使用したのはスキャンよね?どんな結果が出たの?」


 俺は鑑定結果をそのままそっくり二人に話す。


「何だそれ」


「つまり、未知の状態異常持ちのスライムにやられて、そのまま、廊下のあの窓から逃げたそうだ」


「ここから?」


 そう言って、ココリスは鑑定結果で逃亡ルートと表示された足元のガラスの割れた地窓を確認する。幅も高さも狭く等間隔に設置されたそれらは人が通るには狭すぎるだろう。


「この窓って……何でここについてんだ?」


「これは地窓ってやつでな。庭の景色を魅せるのに効果的だったり、普通の窓と違って、ここから見えるのは足元だけだからな、お客のプライバシーを守ることが出来る……だが、俺としたらもうちょっと高さと幅を持たせた方がいいと思うんだがな」


「仕方ないわ。反対側にも建物があって、恐らくこれ以上高くすると、そっちから中が見えてしまうんでしょうね」


「へえ……って、そんな事を言ってる場合か!?」


「お前が言い出しっぺだろう。しかし……この小さな窓を通り抜けるほどに圧縮か……」


 このサイズではギリギリ女性の顔は入っても、体は無理だろう。


「縮小化?いや……」


「ウィード?」


「小さくなっただけなら、何かしら出来たはず……もしかして、ねむり系の状態異常が?」


(鑑定……直後まで動いていた様子あり。また、そのような状態異常は確認できませんでした)


「便利だな!?」


 俺は自分のアビリティにツッコむ。まさか、そんな事も分かるとは……。


「ウィード。どうしたの」


「ビスコッティほどの高ランクの冒険者が何も残さないというのは不自然だからな。眠らされたのかと思ったんだが……自分のアビリティに否定された」


「それは……凄いわね」


「ああ……これなら相手の全てが分かるっていう理由も分かるな」


(ビスコッティの身長、体重、スリーサイズ、弱点などを表示……)


「しなくていい!!?」


 おいおい。いきなりとんでもない情報を……。


「どうしたんだい?」


「気にするな……それより、さっさと助けに行くぞ」


「ええ。そうね」


 まさか、術を掛けたお相手の体型を詳細に教えてくれるとは言えずに、何も無かったと演じる俺。二人もそれ以上は聞かなかったので、とりあえず、そのまま俺達は下で待っていた連中と合流して、さっそく調査結果を伝える。


「特殊な状態異常?」


「ああ。そんな結果が出た。さらにスライム達は小さな地窓から脱出……女性の顔がはいるかどうかの大きさだ」


「そこまで小さくされた……ですか」


「そうだ。だから気を付けろよ。俺の薬で解除可能みたいだが、高ランクの冒険者であるビスコッティが手足も出ない状態になったところからして、ただ小さくなっただけじゃなさそうだからな」


「分かった。ビスコッティ取り戻す」


「ええ……早速行くわよ」


 ココリスの掛け声で、俺達はビスコッティの反応がある場所へと走り出す。


「ウィード?」


「うん?どうしたドルチェ」


「昨日、言わなかった状態異常って何?」


「あれか?あれは無いだろう……もし、そうだったらビスコッティは死んでると思うんだが」


「状態異常なのに?」


「そうだ。状態異常は皮化って言ってな。相手の中身を何らかの方法で消して、皮だけ残す……ようはぬいぐるみのワタだけを抜いた状態だ」


「あっちではそんな状態異常が……」


「無い。空想の話だ。かなりマニアックな性癖でな、好きな女を皮化させて、それを変態が着て……イケないことをする……いや、ドルチェさん?何でそんな目で私を見るのかな?」


 ドルチェが何か変態を見てしまったような目で俺を見ている気が……。


「え?マニアックな性癖なんでしょ?それを知ってるって……」


「知り合いにいただけだ……断じて、俺は違う」


 それが描かれた薄い本を見せてもらったが……うん。目の無いぐしゃぐしゃ顔が怖かった事を思い出してしまう。


「本当に?」


「本当だ。絵で見たんだが……美女がただの皮になって、本来あるはずの目が空虚というのは恐怖を感じるところがあったよ」


「そう……」


「で、話を戻すが……そんな中身を抜かれて生きている人間なんていないだろう?だからありえあない。あったら神様に文句を言ってやる」


「そう……それなら」


 それだけを言って、再び皆に遅れないように走ることに集中するドルチェ。


(皮化の可能性……52%)


 フリズスキャールヴの突然の解析結果を聞いた俺。心の中で勘弁して欲しいと思うのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数分後「宿場町ココット・中央通りにある酒蔵」―


「ここね」


「そうだ。ここの建物内に反応が出ている」


 町の中央通りのちょうど真ん中辺りに着いた俺達。レンガ造りの大きな建物が目の前にある。


「ここは……何の建物かしら?」


「そこに看板があるよ」


 ドルチェの指差す方向にこじんまりとした看板が立てかけてあった。


「パルボ酒屋……酒蔵……」


「なるほど、宿に卸す酒を扱っていた店ってところか」


「でも、ここは鍵が掛かってるわよ……」


 酒蔵の鉄の大扉は閉まっている。すると、一匹のマンドレイクがモカレートのスカートを引っ張って、酒蔵の脇へと案内し始める。


「中に入れそうな大きな穴がありますね……けど、建物が近いためにここから侵入するのは……」


 モカレートの覗いている場所は酒蔵と隣の建物の隙間である。入れてもネズミやそれを追いかける猫ぐらいだろう。俺はドルチェに頼んでそこまで連れて行ってもらってスキャンをする。


「……その穴からビスコッティは酒蔵に入ったようだ」


「ここからですか!?……それだけ小さくなる状態異常なんて驚きです」


「とりあえず……蔵の扉を開けないと」


「少々、手荒でもよければこの子達に開けてもらいますけど」


 モカレートの申し出に皆が賛成して、俺達は蔵から少しだけ後ろに下がる。


「では皆さん!お願いします!」


 マンドレイク達が集まって、上の草を擦り合わせていく。


「ウィードもあんな感じなの?」


「ああ。同じように草を擦って、音の力を溜めて……一気に放つ感じだ」


 俺がドルチェに説明する間も、マンドレイクの頭の草が徐々に強く振動していく。


「いけー!」


 モカレートの掛け声と共に放たれるサウンド・インパクト。それは見事に鉄の扉に命中して、扉を蔵の中へと押し倒した。


「よし!これで……全員!すぐに戦闘準備!中から何かが来てるよ!……って!!?」


「ちょ!?」


 ココリスが慌てて顔を覆う。いち早く敵の接近を知らせたアマレッティも同じで、さらに他の皆も似たような反応をしている。仕方ないだろう、なかなかイケメンの男性が素っ裸で出て来るとは誰が思うだろうか。まあ、あの大きく膨らんだビール腹は残念だが……。


(ビスコッティの皮化の可能性……100%)


 その音声に、それがどういうことか理解する俺。そしてイケメンの皮を被ったそれに一番近いのは……!


「モカレート!後ろに下がれ!そいつは人の皮を被ったスライムだ!」


「え!?」


 俺がモカレートに叫ぶと同時に、イケメンの男性の目がスライムと同じ水色になって、そこからだらっと目だった物が流れ出て来る。


「ひっ!?」


「ウォーター・ショット!」


 そのホラーな光景を見て、立ちすくんでしまったモカレートを助けるために、その男を魔法で吹き飛ばす。すると、中から老若男女、様々な皮を被ったスライムが現れる。


「一気に燃やす!」


「ストップだ!こいつらまだ生きてるからな!」


「え!?」


「ど、どうするの!?」


「一旦、ここは引きたいんだが……無理そうだな」


 俺達の周りを囲う大小様々なスライムとスケルトンの群れ。しかも隣接する建物の中からぞくぞくと現れる。そして……人の皮を被ったスライムも配置されている。


「囲まれたわね」


「ああ……」


 こんな状況に陥るのなら、冗談でも皮化の状態異常を話しておくんだったな……と、俺は後悔するのであった。

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