65草
前回のあらすじ「探索2日目」
―その日の午後「宿場町ココット・中央通りの宿泊施設」ビスコッティ視点―
「どう?何かあった」
「何もないね」
私達は盗賊のアビリティを持つアマレッティに内部の探索を任せ周囲を警戒中。一緒にいたモカレートさんは、マンドラゴラ達と一緒に隣の建物を調べています。
「次」
「了解」
アマレッティが調べ終わったので、隣の部屋へと移動して、同じことの繰り返し。
「宿屋だから面倒だね」
「ええ。それでいて同じような建物だから、同じことの繰り返しって感じで嫌になるわね」
ここの宿場町は同じ高さで、かつ同じ作りの建物が並んでいて、宿ごとに部屋模様は多少は違っても、ほぼ似たような造りになっています。
「部屋ごとに調べるのは骨が折れるわね……」
「スケルトンの骨を折ってる」
「それとは違うわよ……」
「はは……」
ガレットのボケにクロッカがツッコミをいれて気を紛らわしますが、その間も周囲への警戒を怠りません。
「うーーん……何もないね」
アマレッティが部屋を調べ終わり、部屋から出て来きます。その際に、チラッと部屋内が見えたのですが……ベットの上に人が寝転んでいた事が分かるように衣服が残されていました。
「どうしたんだ?」
「うん?いや、ウィードさんが言ってた人だけがどうして消えたのかってのが気になって」
「ああ……確かにな」
衣服は多少乱れていますが、ほぼそのまま当時の姿を表現しています。
「逃げてる人がいたり、ここの部屋の人のように気付かない人がいて……どうすればこうなるのかなって」
「ダンジョンの作用って話もあるけどな……」
そう言って、アマレッティが次の部屋の扉を開けて、即座に太ももの投げナイフを投擲しました。
「何かいたの?」
「スライムだ」
アマレッティが部屋に入ったところで、覗くとスライムのゼリー状の体が崩れていました。
「こいつらの魔石を回収しても、大した額にならないんだよな……」
「まあまあ……それ以外の報酬もあるんだから……」
「それよりも……このスライムどこから入ったのかしら?」
クロッカの言う通りで、先ほどまでここの扉は閉まっています。それなのにこいつは室内にいました。手が無いスライムが部屋の扉を開けるのは不可能なので、ここにはスライムが入るような抜け道というのがあることになるのですが……。
「うん?」
「どうしたの?」
「こいつ……魔石が無い」
「え?それじゃあ死んでいた?」
「いや。さっき動いて私を襲おうとしていたんだ。だから……」
ピクッ
「そこどいて!」
私は急いで部屋に入って、自分の盾で倒したはずのスライムを弾き飛ばします。スライムは窓を突き破って外に落ちていきます。
「サンキュー」
「……一度、報告した方が良さそうですね」
「ああ……ん?」
アマレッティのケモ耳がせわしなく動いている……そして、何かを感知したようで上を見上げます。
「何か上で蠢いてるぞ!」
その声に私達全員、武器を構えると同時に、突き破った窓から馬鹿でかいスライムが窓を埋め尽くしながら侵入してきたのに気づき、私とアマレッティは急いで部屋を出て扉を閉めます。
「ウィンド・バースト!!」
「ライトニング!」
すると、廊下にいた二人が、廊下の両脇に現れたスライムへと魔法を使って攻撃を仕掛けていました。ガレットは風魔法で迫って来る大型スライムを吹き飛ばし、クロッカは雷魔法で消し飛ばしています。
「廊下の両端からスライムが来てるよ!」
「どうするリーダー?」
「……部屋内の窓から外に飛び降りよう」
「だね。これはいくら何でも不利だよ……っと!」
アマレッティが事前に調べ終わった部屋の扉を開け、脱出口である窓を見ると、そこには大きなスライムが窓に張り付いています。
「はあー!」
私は剣を振り、パラディンのアビリティである突風撃で窓ごとスライムを吹き飛ばして脱出路を確保します。
「二人共!脱出路を確保したから直ぐに来て!」
私の呼びかけに二人がすぐに部屋へと入っていく。その後をスライムが追ってくるので私が盾で対処して時間を稼ぎます。
「ガレット!あたいの背中に乗れ!」
「ほーい」
ガレットがアマレッティにおんぶしてもらって、一緒に窓から飛び降りていきました。アマレッティは猫に近い獣人のため、高い所から飛び降りても平気であり、ガレットをおんぶして先に下りたのは、私とクロッカをガレットの風魔法で受け止めてもらうため……。
「いいよー!」
ガレットの準備が終わったので、私とクロッカも下りようと窓へ……。
「危ない!」
上の天井が崩れそうになったのが見えた私は、慌てて盾でクロッカを窓から外へと押し出します。
「ビスコ!?」
崩れ落ちてきた天井で窓が塞がっていく中、私の名を呼ぶクロッカ。本当は返事を返せたら良かったがそんな暇はありません。
「えい!」
とりあえず、扉と天井から落ちてきた大型スライムを剣と盾を使って倒したり、弾いたりします。
「どこか脱出できそうな……うわ!?」
すると、大型のスライムで気を取られていて私は、小さいスライムが私の足に纏わりついていたことに気付かずにその場に倒れてしまいました。
「くっ……この……」
私は急いで、足を覆うスライムを取り除こうとします。しかし、それを好機と見た一体のスライムが私に接近して、その体で私の上に覆いかぶさり、口と鼻を塞がれた私はその息苦しさに思わず、どうにか息をしようとして口を大きく開けてしまいました。
「ごふぅ!?」
すると、大型スライムが、なんと私の口から胃の中へと入ってきました。私は何とか吐き出そうとしますが、身動きが出来ない以上、なすすべもなく体内への侵入を許してしまいます。
「うう……」
どんどんお腹が張っていきます……こいつは私を内部から破裂させるつもりで……?
「ごぼ!?」
そして、ついにはウィードさんから、ゆずってもらった肥満薬を使った時のように、私のお腹が膨らんでいきます。しかし、肥満薬を使った時と違って、体内に満腹感や圧迫感というのを感じつつ、私のお腹は膨らんでいきます。
「くっ!?」
すると、今度は胸がきつくなる感じが……そこそこ大きいと思う私の胸が、胸部だけを守る鎧からはみ出していきます。さらに、その膨張は体中に広がっていき、お尻から太ももへ……そして太ももから最後には指先まで。手も同じように膨らみ……最後に顔も頬が膨らんだみたいで、視界が少し狭くなってしまいました。
「ごくん!……ゲホゲホ!」
襲ってきた大型スライムが全て私の体内に入って、体が自由になったところで私は大きく咳をして、吐き出そうとします。それが無駄だとは思っても……。
「……ウィードさんの肥満薬と同じでしょうか?」
私はその場から一歩も動かないスライム達に注意しながら、自身の変わり果てた体を確認をすると、肥満薬の効果とは少し違うことに気付きます。
「何か……張ってる?」
私の体はパンパンに張ったように太ってました。ボタンは飛んでいませんが着てる衣服を内側からパンパンにし、特にお腹は妊婦を思わせるように、大きくパンパンに張りつめています。
「くっ……とにかく、急いで……きゃ!?」
立ち上がろうとする私。足を地面に付けたと同時に不自然な感触と共にバランスを崩してしまい、その場に倒れてしまいました。
「な、何が……」
不自然な感じがする自分の足を見ると、パンパンだった私の足はペシャンコになっていました。例えとかではなく、そのままの意味でペシャンコであって、まるで空気の抜けた風船のように……。
「え!?これって!?うわ!?」
そこから、指先と足先から徐々に体から中身が無くなっていきます。中身が無くなって、肌色の皮だけがだらしなく残った状態……。
「これって……状態異常なの?あ……?」
すると、私の顔の肌がたるんでいく感じがして、指で確認は無理なので、まだ中身が残っている二の腕を近づけて、触ると自分の肌の感触が……。
「いやっ!?」
私はその場でどうにかしようと、ジタバタしますが、その間もどんどん張っていた体はしぼんでいき……。
「だ……た、け……」
喋るのも不可能になった私の体。そんな私の横にスライムが……それが私が見た最後の景色。そのスライムが鏡のように反射して……ぐしゃぐしゃの皮だけになった私の顔が映っているのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ビスコッティが襲われた直後「宿場町ココット・お食事処」―
「うん?」
お食事処と思われる建物内部の探索を終えた俺達が通りに出て来たところで、俺のレーダに変化が起きる。
「ウィード?」
「ビスコッティに何かあったみたいだ。青から黄色になってるな」
「本当かしら?」
「移動してるな……すぐにでも……って、マンドレイクがこっちに来てるな」
通りを全力疾走で走ってくるマンドラゴラ3匹。俺達の前に来ると2匹は立ち止まり、もう1匹はそのまま転んで、ヘッドスライディングを決めてしまう。こいつ、ん-ちゃんだな。
「緊急事態発生……すぐに来て欲しいそうよ」
立ち止まったマンドラゴラから差し出された紙きれを読みながら話すココリス。
「行くしか無いだろう」
「そうだね」
「それじゃあ案内して頂戴」
マンドラゴラ達はその小さな腕で敬礼してから、主人であるモカレートのところまで走り出す。その後ろを俺達は追いかける。
「うん……?」
レーダを見ていた俺は不自然な事に気付く。何故かビスコッティから離れていく。
「……」
これがどういう意味か理解した俺は、下手に伝えると混乱させてしまうと思い、その事は伝えないでおくのであった。