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64草

前回のあらすじ「また1人消える……」

―その日の夜「宿場町ココットの外・野営地 ギルドマスター専用のテント」―


「結果が出るには少し時間がいりますね」


「そうですか」


 俺達は暗くなる前に宿場町を後にして野営地に戻って来た。そして、襲われた男が所持していた衣服とギルド証をギリムに見てもらう。モカレートやフォービスケッツの4人は休んでいて、ここには俺達だけが来ている。


「でも、そのダンジョン内にいた男に許可を出していないのは確かです」


「となると……侵入者って事か」


「ですね……あそこには見張りを設けていませんから」


 宿場町ココットへと入れる唯一の入り口である跳ね橋には見張りは確かにいなかった。


「いいのか?もし、万が一にモンスターが出て来たら……」


「ここだけの話ですが……この野営地にちょっかいを出す輩がいるので、こっちの防衛重視しています」


「面倒くささ極まりないな……」


 ここでもインスーラ侯爵家の横槍が入って来るのか……。


「……今の内にありとあらゆる苦痛を凝縮した毒薬でも作っとくか。2人はどうだ?」


「私は……胃腸薬でも作ってくれないかしら……」


「ココリス……」


「心中お察しします……」


 こそこそと邪魔され続けて、ついにココリスの胃がストレスにやられてしまったようだ。まあ……予想していた通りだが。


「もうそれ出来てるから、夕食の前に飲んでくれ……ギリムもいるか?」


「それでしたら、後で必要な人数を確認するのでお願いします」


「……必要な薬があれば言ってくれ。俺の役目の1つとしてここにいる奴らの体調管理をしっかりしないとな……モカレートにも手伝ってもらうか」


 どうやら、この野営地にはストレスで体調を崩されている方が多そうだ。そこそこ大人数で要望も多そうだから、モカレートにも手伝ってもらわないと。


「それで、話が変わるんだが……訊きたいことがある」


「うん? 何でしょうか」


「ここを最初に調査した奴が1人消えたって話だが……それ以外にいないのか?」


「こちらでは、それだけですね……でも、実際には大勢いそうです」


「こっそり侵入した奴らの残した物があるのか?」


「ダンジョン内を見てもらったと思うんですが……今だ衣服や冒険者が使用していた武器が残されていたはずです。それで調査員の中から増えた気がするという話がちらほらと出て来るので」


「なるほどな……そうしたらスキャンでもっと詳しく調べるか。いなくなった奴らに共通点があるかもしれないしな」


「共通点?」


「今のところなら、1人になった時だ。そして男性……でも、他に消えている人がいれば、それも変わってくる……まあ、十中八九だが、間違いなく1人ってのが条件の1つだな」


「というと?」


「理由は3つ。1つは正式な調査を始めてから、およそ一ヶ月以上は経ってるのに、誰一人その光景を見ていない。今回だってドルチェのアビリティで察知できただけで、実際にその現場を見ていない」


「つまり、孤立した獲物を狙ってる訳ね」


「そして2つ目は、スライムの行動だ。あいつら時々、水を吹きかけてきたんだが……その後の行動が同じだった」


「……逃亡ですか」


「その通りだ。あいつらすぐさま逃げようとしていた。ただ単におちょくってるだけかと思ったが……怒らせて単独行動を取らせるためだったとしたら?」


 最初にドルチェに水を掛けたスライムもそうだったが、水を吹きかける奴らは再度攻撃を仕掛けるのではなく、その場から離れようとしていた。


「3つ目は?」


「スケルトン。あいつら弱いが……大勢で押しかけて、グループを分断させようとする動きを見せていた」


「あなた……よくそこまで見てたわね……」


「お前らと違って、頭と草は動かしても、足は動かさないからな……その分、余裕があるんだ」


 今回のこれらの発見は、俺がドルチェの腰に吊られていて、じっくり観察できる状態だったからだ。しかも生死にかかわるのだから、その集中力は普段と比べて、かなり高くなっていたという理由もあるだろう。


「待って?そうなると、今回のモンスター達は……」


「ドルチェが今思ってる通り……何者かによって統率されている」


 俺のその言葉に全員が渋い顔をする。つまり、ここには隊を率いて戦うモンスター……下手するとダンジョンボスがいるとなるからだ。


「複数グループ推奨のレイドボスだな」


「うん?どういうこと?」


「気にするな。俺だけが分かるゲーム用語だ」


「となると……トルテ嬢は?」


「そこだ。それに関してはどうしてかよく分からない。でも……トルテ嬢はダンジョンの外からやって来て、あそこを彷徨っている」


「何かしらの関係はあると思ってるんですね」


「よくあるネタなら、トルテ嬢がダンジョンボスの可能性があるんだが……どうだ事例とかあるか?」


「うーーん……私は聞いたことが無いですね。ドルチェはどうです王族の持つ情報網でそんな話を」


「……トルテ嬢が既に死亡してモンスターとして彷徨っている可能性はあります。前に男爵家の家で惨殺事件が起きて、そこに男爵に似たモンスターが現れたという話があります」


「そうですか……となると、トルテ嬢にも気を付けないといけませんね」


「だな。それにモンスターを統率できるってことは、それだけの知能があるってことだ。知能のあるモンスターほど恐ろしい者は無い」


「明日の探索ではそれらに注意していきましょう」


「そうだね」


 2人の会話を聞いてギリムも、その意見に賛同する。


「そうしたら話はここまでに……」


「待った!もう1つだけ……どうやって人を消したか、何か分かったか?」


「残念ながら……」


「そうか。それさえ分かれば何かしらの対策を打てると思ったんだが……」


「とりあえず、何があってもいいように万能薬wwwとポーションの製作はしっかりしておいて下さい」


「任せろ。そこは寝ずに働ける俺の出番だ」


 話し合いが終わった俺達は、自分達が寝泊まりしているテントへと戻り、全員が寝ている中、夜なべして頼まれた薬を作るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日「宿場町ココット・跳ね橋前」―


「昨日、話した点に注意して探索するわよ!」


 ココリスの掛け声に頷く皆。とりあえず、俺の方でも何があってもいいように回復薬を大量に作っておいた。後は油断せずに探索するだけだ。


 昨日は大雑把に街を探索したが、今日は建物内を丁寧に調べる予定である。屋内は狭く、立ち回りをしっかりしないと、弱いモンスターでもやられる可能性がある。


「……そろそろ。あれを使うか」


「あれって……何を使うのウィード」


「オーディンのアビリティのフリズスキャールヴだ。ここが使い時かなっと思って……」


「道中で練習していた奴ですよね?」


「ああ。相手の全てを見通す……って、言う名の相手の位置情報を教えてくれるアビリティだな」


 このココットに来るまでの間に、俺はフリズスキャールヴの性能をモンスターに使って調べておいたのだが、ドルチェのナビゲーションの劣化版のような物だった。


「全てを見通すって言うから、少し残念だけどな。しかし、ドルチェのナビゲーションと違って、一度掛けたら、俺が解除するか、1日経過するまで続くからな。これをモカレートとビスコッティに掛けようと思うんだが……」


「なるほど……それなら私達に何があっても追いかけて来れるってことですね」


「その通り! でどうだ? 嫌ならやめとくが」


「お願いします。身の安全最優先ですから」


「私もです。まあ……私の場合はこの子達が教えに向かってくれると思いますが」


 モカレートの足元でマンドレイク達が人なら胸の辺りなのだろう。そこを叩いて、任せろ!と訴える……が。


「おい。ん-ちゃんが強く胸を叩きすぎて、悶えてるぞ」


「わわ!?大丈夫!?」


「締まらないわね……」


「はは……まあ、私達はこの位の方がいいのかもね」


 そんなやり取りをしつつも、俺は二人にフリズスキャールヴを掛ける。


「よし。ちゃんと表示されてるな」


 フリズスキャールヴを使用すると、円形のレーダがステータス画面に表示されて、二人の点が青で表示される。


「これで黄色は状態異常、赤になったら瀕死状態って分かるようになるから、すぐに助けに行けるな」


「それはそれで便利よね……」


「ああ。ドルチェのナビゲーションじゃあ個々の様子は分からないからな。ってことで、今日もお仕事を頑張るぞ」


「ええ」


 こうして、今日の探索に入る俺達。そして、このフリズスキャールヴがどれほどインチキ効果なのかがこの後、分かることになるのであった。

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