63草
前回のあらすじ「宿場町ココットを調査中……」
*次回は作者の都合で8/14にアップします。ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いいたします。
―「宿場町ココット・南の路地」―
「そこ。待ち構えてるぞ」
「りょーかい!」
俺はスキャンとエコーロケーションの両方を使って、隠れている敵をあぶりだしていく。それをドルチェは風魔法、ココリスは土魔法と槍で退治していく。
「弱いわね」
「うん」
ここまで、たくさんのスケルトンとスライムを倒したが……どれもこれも弱すぎる。
「こいつらじゃ宿場町の人々全員をどうにかする前に退治されるぞ」
「同感よ。やっぱり別の何かがあると疑ってよさそうね」
「……なあ、訊いてもいいか?」
「どうぞ」
「ダンジョンがいきなり出現するのは不思議じゃないというのは教えてもらったんだが……ここのように町がダンジョン化するのって珍しいのか?」
「いいえ。だって……あなたもこの前行ったでしょ?」
「ああ……エポメノの崩壊した塔か」
「そうよ。あれも突如として現れたみたいだから。だから、この宿場町ココットでも同じことが起きていると考えられてるの」
「エポメノのダンジョンが出来た際に被害は?」
「田畑がやられた程度よ。だから、今回のように住人全員が被害に遭ったなんていうのは初めてかもしれないわ」
「そうか……」
「ウィードは何か疑問になるところがあるのかな?」
「ここって一層だけで、ダンジョンボスが見当たらないらしいからな。少し変に感じるだけだ」
「そこは出来たばっかりだからとなってるけど……そうね。少しだけ怪しいわね」
事前の調査で分かってる事は、ここには、今いる場所以外に上層も下層も無い。そしてダンジョンボスらしきモンスターがいない。周辺を徘徊しているのだろうかと思われていたのだが……今も発見には至っていない。
「助けてくれーー!!」
突如、男性の悲鳴が町中にこだまする。俺達は急いで声のする方へと向かってみる。
「おーーい! 誰かいるの!?」
「いたら返事しなさい!」
ドルチェとココリスが大声で呼び掛けるが、返事が返って来ない。
「ウィード! あなたのアビリティで調べられない?」
「やっている最中だ……うむ」
エコーロケーションで周辺を調べるが、建物という障害物が多く。悲鳴を上げた男性を発見できない。
「すまん。ここだと障害物が多くて、見つけられない」
「なら……ナビゲーション!」
ドルチェがナビゲーションを使って、周辺の情報を探る。
「いた! ここから3つ先の建物の中にいる! それと、そこの建物入り口でスケルトンが待ち伏せしているよ!」
「ドルチェ! 俺を両手で構えてくれ!」
「うん!」
ドルチェが俺を前に構えたと同時にスケルトンの集団が建物から出て来て襲ってくる。それを俺がウォーターバーストという水魔法で一気に押し流して、そのまま男性が隠れているであろう建物へと急いで移動する。
「この上だよ! スライムがいるみたいだから気を付けて!」
2階に上がる階段を見つけ、駆け上がる俺達……。
「あ!?」
「ルチェ! どうしたの!」
「反応が……消えた」
反応が消えた……つまり、男性の身に何かあった……ということになる。まあ、死体が転がってるのだろうが……。
「行くわよ。どうして反応が消えたのかを知るためにも」
俺達は立ち止まらずに、そのまま2階へと上がり、廊下で進行の邪魔をするスライムたちを蹴散らして、男性の反応があった部屋の扉を勢いよく開ける。そこにあったのは……。
「これって……?」
「服だな。鑑定結果は……少し前まで誰かが使用したとなっている」
誰もいない部屋に、男性の服とダガー2本。ベルトをより精密に調べると、ダガーを収納するためのホルダーに試験管のような物に入れられたポーションが未使用で3本……。
「ダガーを調べてみたが……直前までスライムと戦っていたみたいだな。来る前にスライムに消化されたのか?」
「流石にそれは早すぎるわ……それと、こんな風に遺留品が残る事は無いはずよ……」
「とりあえず、遺留品を収納しておくぞ」
「お願い」
「ああ。それと……スキャンと」
俺はこの部屋を調べる。スライムに襲われたのにこの部屋にはスライムは一匹もいない。どこかに隠れている可能性があると思たのだが……。
「そこのベットで隠れているが、そこそこ大きな穴が開いてるな……」
ココリスがそれを聞いて、ベットをどかしてくれる。そこには成人男性が通るには小さいが、スライムなら楽に行き来出来るであろう穴が開いていた。覗くと下の階の床が見える。
「ここでこいつを仕留めた後、そこから、この部屋を出たんだろうな」
「つまり……この男性は追って来たスライム達と一緒にここへ入ってから倒されて、そして、スライム達はこの穴を使って部屋を後にした……。流石に、この穴からスライムが侵入するのは不可能でしょうし……」
この穴から一階の床の間に、障害物は無いため、手足の無いスライムがここから這い上がってくるのは不可能だろう。
「とりあえず、外に出るぞ。ここの調査は済んだしな」
「そうね。あまり、ここで戦うのは得策じゃないわね」
ここはダンジョンのような頑丈な壁で出来てるわけでは無い。ここで戦えば、建物が倒壊する恐れがある。俺達はすぐにこの部屋を後にして、他の部屋も確認しつつ、建物を後にする。
「この建物……宿屋だったな。まあ、宿場町だから当然か」
「そうね」
俺達は静かな路地を進む。索敵を続けているがモンスターは今のところいなそうだ。
「しかし……さっきの襲われた男性って何者だ?」
「ここに住んでいた人では無いでしょうね。そして……冒険者ギルドが把握している冒険者でも無い」
「今日の調査は俺達しか入れないはずだもんな」
朝にギリムと打ち合わせた際に、今日のダンジョン探索は俺達だけで、後のグループは休息日である。
「それを無視した冒険者か、ここが危険なダンジョンと知らないで入って来た野党……もしくは、別の依頼人から仕事を受けて、こっそり侵入してきた冒険者か」
「冒険者カードはあったから、野党では無さそうだがな」
「もしかしたら奪ったやつかもしれないわよ?」
「そうかもな……」
周囲に警戒をしつつ、考察する俺とココリス……あれ?
「ドルチェどうした? さっきから黙っているが……具合が悪いのか?」
「いや……得体の知れない何かがいると思うと、お化けみたいでちょっと怖くて……」
「まあ……何せ、今はゴーストタウンだしな。むしろ、そんなのが登場しても、この世界なら驚かないぞ」
そもそも、今この場所で動く骨を見ているのだ。ふわふわ浮かぶ人魂や怪しい笑みを浮かべるゴーストが、ここに出て来ても不思議ではない。
「というより……お化けが苦手なんだなドルチェは」
「それはそうだよ!? だって、何も効かないんだよ? そんな相手にどう戦えばいいのか……!」
「魔法で消し飛ばせそうだけどな……あ」
俺達の前に再び現れるスケルトンの群れ……まあ、3体だけど。
「またか……それなら」
「待って……ここは私が……」
ココリスが一人前に出て、手を前に出す。
「ソウル・ドレイン!」
ココリスの手のひらから、黒い靄が発生してスケルトンたちを覆い尽くす。
「……効果あるのか?」
「その実験よ。スケルトン3体なら……ん」
ココリスの口から嬌声が漏れる。どうやら効果は……!?
「ファイヤーボール!」
俺は黒い靄を抜けて、そのままこっちに襲い掛かって来るスケルトン3体をファイヤーボールで始末する。
「効果が……無い? ココリス太った?」
「着ている服が少しだけ窮屈に感じるかどうかの僅かな程度だけどね。まあ……その原因はスライムだろうけど」
「スライム? さっきの集団の中にいたか?」
「その集団から少し離れた場所に一匹いたわ。それが、攻撃と同時にタイミングよく近寄って来たって訳」
「なるほどな……」
骨だけとはいえ、動いてるのだから生物判定だと思ったのだが……違うのか……。
「なかなか興味深い問題だな」
「そうね」
「二人共。クエスト中だからね? しっかりしないと……きゃ!?」
ソウル・ドレインについて考察していた俺達を叱るドルチェから、驚きの声が上がる。俺は素早くドルチェの後ろにいたスライムをファイヤーボールで燃やしておく。
「うう……濡れて気持ち悪い」
「悪趣味ね」
「だな」
そんなやり取りもしつつ、路地をひたすら進んでいくと、路地は大きく左に曲がってメインストリートに出されてしまった。辺りを見回すと閉じた跳ね橋らしき物が近くに見えるので、どうやら入り口の反対側まで来たようだ。そして、その跳ね橋の近くでは、つい数時間前に分かれた知り合いが立っていた。
「あ! 皆さん! お疲れ様です!」
「おう。お疲れ。何か収穫あったか?」
俺達はその跳ね橋付近にいたフォービスケッツの4人とモカレートと合流する。
「こちらは特には……」
「弱いモンスターを刈っただけ」
「スケルトンじゃ大した額にならないしね……」
そう言って、溜息を吐くフォービスケッツの4人。モカレートの方も見ると同じようにガッカリしている。
「俺達も似たような物だ。まあ、どこぞの冒険者が襲われて消えたけどな」
「本当ですか?」
「ええ。まあ恐らく、インスーラ侯爵から依頼を受けた奴だとは思うけどね。とりあえず、ここは比較的に安全そうだし昼食しましょうか」
ココリスの提案に皆が賛成を示したので、俺は収納から昼食であるサンドイッチとスープ。それと座る為のレジャーシートを出していく。
「詳しく状況を教えてもらっていいですか?」
「ええ。食べながら説明するわよ……」
この後、昼食を取りながら、互いの成果を発表して午後の探索の案を出し合う俺達。しかし……その話し合いも空しく、午後はこれといった成果を出せずに探索初日を終えるのであった。