62草
前回のあらすじ「誤飲にはご注意」
―翌朝「宿場町ココット・町の入り口付近」―
「ふう……昨晩は酷い目に遭いました……」
「だな……」
昨晩、猫になったアマレッティと極度の肥満体となったクロッカが歩きながら昨日の出来事を思い出している。
「あはは……あれは災難だったね」
「うんうん。私もあそこまで太る気は無い」
「私だってなりたくてなった訳じゃ無いからね!?」
「うちだって、猫になる気はなかった!」
「そう言ってるけど……にゃーにゃー! って言いながらボールにじゃれて遊んでいたくせに……」
「言うな!! 思い出させるな!!」
「ほら! そろそろダンジョン入り口に着くんだから、気を引き締めなさい!」
「へえー……確かにこれはダンジョンっぽいな」
野営地から歩いて10分ほどで宿場町ココットに到着する。町の周辺には他の宿場町にもあった石で出来た高い壁、その壁の前には深い堀があり、モンスターに襲われても対処できるようになっている……はずだったのだが、今回の超常現象は防げなかったようだ。
「跳ね橋は下がりっぱなし。入口から見える町の中は白い靄で遠くまでは見通せないか」
中は謎の白い靄のせいで遠くまで見ることが出来ない。しかも、不思議な事にその靄は町を守るための壁から外に漏れていない。
「昨日は周囲を巡ったけど、入れるのはここだけ。反対側の跳ね橋は上げられていました」
「それと、手分けして周囲の森や草地も確認したけど、これといった発見は無かったな」
「後は……本命のこの宿場町の中だけですね」
「謎の靄に覆われた町なんて、怪しさ満点だな……中はスケルトンとスライムが出るんだよな?」
「そうよ。どちらも大した相手じゃないわ。ただ、数が多いから後ろを取られないように気を付けるように」
「分かった……ちなみに、宿場町の住人を衣服だけ残して中身をどこかに攫うとか、スケルトンとスライムに出来るのか?」
「スライムなら出来ると思うよ。けれど、スライムは臆病で人を襲わないし、仮に死体に群がったとしても衣服も全て溶かしちゃうから違うかも」
「ルチェ。それは普通のスライムの話でしょ? ここのスライムは魔法で攻撃をしてくるって言ってたわよ?まあ、弱いからそんな脅威ではないみたいだけど……衣服を濡らされるのは癪かも」
「そうか……」
「で、ウィードはここまでの話を聞いてどう考えているのかしら?」
宿場町に入る前の跳ね橋で、ココリスから訊かれる。俺の発言に興味があるのか全員の歩みが一度そこで止まる。
「……あくまで予想だぞ?」
俺は一度前置きをしてから、昨日の薬の誤飲事件で思いついたことを話す。
「中で原因不明の状態異常が起きている。ただ……効果が何なのかは不明だな。それでも想像できる範囲内、かつこの世界の仕組みを考慮すると……獣化による小型の獣への変化、もしくはモンスターへの変異。後は縮小化とか……で」
「それって……出て来るモンスター全員が町の人の成れの果てってことですか……?」
「いやいや。そうは言ったがそれはなさそうだ。回収品を確認した後、ちょうどモンスターを刈ってきたグループと遭遇してな。それをスキャンして、町の住人じゃないのは確認済みだ」
「分かるの?」
「ああ。なんせ同じだったからな」
昨日、男性3人で構成された散策チームが宿場町の中で調査していたようで、そこでスケルトンの残骸を持ち込んでいたので、こっそりスキャンしたのだが……。
「頭蓋骨の構造が3体とも一致した。だから、同一とみなしていいみたいだぞ。もし生きている人間の成れの果てって言うなら、頭蓋骨が全く同じ形状とかはありえないしな」
「同一……?」
俺の話を聞いて、何かに気付いたドルチェが口元に手を当てて何かを考え始める。
「そうだが……どうしたドルチェ?」
「ううん……何でもないかな」
「言ってみろよ? とんちんかんな俺の予想より当てになりそうだしな」
「……皆は召喚術士っていうアビリティを知ってる?」
「え? 確か……モンスターを呼び出して戦わせるレアアビリティですよね。今の私もそれに近いですけど」
「モカレートさんはマンドレイクちゃん達を使役して戦ってますからね……召喚術士は何もないところから、いきなり呼んで戦わせるんだけど……その中にスケルトンもいるの」
「まさか……」
「同一のスケルトンを呼ぶの。寸法狂わず、全く同じ存在を……」
それを聞いた俺はチョットだけビビる。つまり、中にスケルトンを呼びだす召喚術士がいて、そいつが今回の宿場町の人たちを消した……下手するとトルテ嬢がこの町で彷徨ってる原因も……。
「死霊術士じゃないのか……それ」
「死霊術士は死体を使う。だから同一は恐らくない」
「そうか……ってかあるんだな。そんなアビリティ……」
「それよりも……召喚術を使う何かがいるってことですか?」
「ルチェの説明に補足するなら、スケルトンを使役するモンスターがいるかもしれないってとこかしら」
「つまり、スケルトンを呼ぶ召喚術士かモンスターがいるってことか」
「そういうことよ」
「でも……そうなると、いなくなった住人はどこへいったのかだな……目に見えないほど小さくなったという可能性もあるんだが……」
どこかのホラーサスペンスだったら、この白い靄が今は無き住人から作り出された呪いの霧とかあるのだが……これは気分を害しそうだから、言わないでおこう。
「とりあえず、何が待ってるか分からないからな……くれぐれも単独行動はするなよ」
俺の言葉に全員が頷く。跳ね橋を渡り、町の中へ入る俺達。その中は想像以上に綺麗な町並みだった。
「てっきり、靄の影響でカビとか朽ちていたりとかあると思っていたが……随分と綺麗だな」
「ええ……そして驚くほど静かね」
宿場町のメインストリートを歩く俺達。本来なら行き交う冒険者や商人で賑わっているのだろうが、今は人っ子一人いない静かな通りである。
「ここの大通りを挟んで、左右に路地があるいたってシンプルな作り……うっかり道に迷うことは無さそうね」
この宿場町の町並みは大まかに言うと歪んだ長方形のような形をしている。これは近くにある川と森が原因で、モンスターが出る森から距離を取りつつ、そして水源になる川に沿って宿場町を設置したいという理由のため、縦に長い宿場町になったそうだ。
「シンプルなのはいい事だが、そうなるとどうして人がいなくなったのかが不明だな」
「どうします? ここは分かれて調査しますか?」
「うーーん……どうしようかココリス?」
「この人数で調査するのは多過ぎるわ。ここは二手に分かれましょうか」
「そうしたら私達はパーティーで行動した方がいいですね」
「そうしたら、私とココリスにウィードは一緒で……」
「そうしたら、私達はフォービスケッツのメンバーと一緒に行きますね……ウィードさんなら広範囲での索敵が出来ますし、さらにドルチェさんも索敵に適したアビリティ持ちですよね」
「そうね……こっちはアビリティでの調査。そちらは大人数での人海戦術で調査しましょう」
「分かりました。そうしたら、私達はあっちの通りを調べますね」
「じゃあ、私達はこっちだね。で、調査が終わったらこのメインストリートを一緒に調査だね」
「そうしようぜ。さっさとやらないと夜になっちまう」
「アマレッティの意見に賛成」
「じゃあ……クエスト開始よ!」
「「「「おおーー!」」」」
こうして別れて調査することにした俺達。南側の路地へとドルチェの腰に吊り下がった状態で進んでいくうちにある事に気付いた。
「(そういえば……ホラー物だったらこれって死亡フラグだよな……)」
「何か言ったかしら?」
「いや。気にするな……しかし、モンスターがいないな」
「そうだね……っと、そう思ってたらいたよ」
俺達がメインストリートから南側の路地へと入ると、すぐ前を歩く一体のスケルトン……そいつは俺達に気が付くと、手に持っていた剣を振り上げ、こちらへと走って来る。
「はあーー!!」
それをココリスが槍で頭を一突きして、頭蓋骨を粉砕する。
「生きているやつだったら、大惨事だなこれ」
血がブシャー!と噴き出さないのは素晴らしいことである。モンスターを退治していると、そんな光景をよく見るのだが、元一般人の俺にとって、アレは今だになれない。
「一撃だったね」
「ええ。対して強くないわ……でも、どれだけの数がいるのか分からないから気を付けましょう」
「うん」
「そうだな……ファイヤーボール!」
俺は背後にいたスライムにファイヤーボールを放って、蒸発させる。
「お見事」
「ふふん! スライムごとき魔王の我に勝てると思ったか!」
ロリっ子ボイスで魔王の定番セリフを言ってみたが……どこか幼稚っぽいなこれ。
「えい!」
すると、ドルチェが杖で何かを突き刺した。下を見ると、スライムだった。
「気を引き締めて行きましょう」
「おう!」
モンスターが出現するのを確認した俺達はさらに気を引き締めて、南側の路地を進んでいく。
「あ。そういえばウィードに訊きたいことがあるんだけど……」
「ん? 何だ」
「あなた……状態異常でさっき話した以外にも何か言おうとしなかった?」
「ああ! アレは正直言って無い!そんな確殺アビリティがあってたまるかって!」
そう。そんなのがあったら……それを見たら俺は絶対にトラウマになる自信がある。
「そう? それならいいけど……」
「そうだ……っと、団体様のご到着のようだ。気を付けろよ」
すると、家からスケルトンの集団が現れて、進行方向を封鎖してしまった。
「ほら! いくぞ!」
「うん!」
「分かったわよ!」
俺達はスケルトンの集団に向かって攻撃を繰り出す。スケルトンの集団をものの数分で片づけた俺達は近くにあった民家に入って、調査を開始するのであった。
この時、俺はその状態異常を教えるべきだったと思う。そうすれば、こんなことにならずに済んだのかもしれないのだから。