61草
前回のあらすじ「王都出発!」
―王都を出発して二日後「宿場町ココット・野営地」―
王都をストラティオで走る事二日後、特に妨害を受けることなく到着した俺達はここを指揮しているギルドマスターに挨拶をするために、宿場町ココットから離れた場所に設置してある野営地の中で一番大きいテントへとやってきた。
「お久しぶりですね。3人とも」
「よう! 魔王様のご登場だぞ? 頭がたかーーい! 控えおろーーう!」
「ははーーっ……」
片膝をついて、頭を下げるギリム。
「ノリがいいな……」
「ははっ! 騙してたのがバレましたからね……この位は」
「そうか……で、どうしてここに?」
「何でかというと……ここが私の管轄内だからです」
ニコッと笑うギリム。果たしてそれが本当かどうか怪しく思えてしまうような笑顔なのだが、この街道の先には城壁都市バリスリーへ繋がっているので嘘では無いだろう。
「そろそろ本題に入ってもいいかしら? 後ろの皆が困ってるわよ?」
そう言って、後ろを指差すココリス。確かにフォービスケッツの4人とモカレートが困り顔をしている。
「そうですね……それでは、こちらへ……回収品とかを見てもらった方がいいかもしれないので」
回収品を見てもらった方がいい? どういうことだ? ギリムはそれ以上は何も言わずに、隣に設置されているテントへと案内する。
「これは……?」
「宿場町で回収した品々……いなくなった者達が残した物です」
「ほうほう……これは妙だな」
俺以外の全員も不思議に感じているようで、ギリムから許可をもらってそれらを手に取り確認する。
「鞄とか靴とか……それは分かりますけど……」
「まさか、下着も含めた衣服まで残ってるなんて……これ洗濯した物が落ちてたとかじゃないのよね?」
俺もドルチェと一緒に棚に置かれている物を見ているのだが、いくつかの持ち物と一緒に名前の書かれた紙が挟まっていたりして、これらの荷物が一人の持ち物だということが分かるようになっている。つまり、この女性は素っ裸にされた状態でダンジョン内に消えて、荷物はそのまま放置されたことになる。うーーん……このブラの大きさ……いいお胸をお持ちで……。
「それらしいのは除いています。だから、それらは個人の持ち物なんですよ。衣服に身に付けていた物も全部含めて……しかも、これで全部じゃないですから」
「ダンジョン内部……いや、町中にはまだまだ、これらが残ってるって訳か……」
「はい。だから……突如として、人だけがどこかに消えてしまってるんですよ」
「こりゃあ……厄介かもしれないね」
「そうだね。荷物だけじゃなくて衣服も一緒なんて……しかも、衣服に破れが無いのが不思議です」
ここにいる全員が不自然な点に気付く。残っている衣服が全てキレイなのだ。それは多少なり逃げる際に着いた土汚れとか、何かに引っ掛けたような破れとかはあるのだが……服を無理矢理破いたような形跡は全く無い。
「スキャン」
俺はそれらを鑑定するが、俺が思っているのと同じような内容が書かれている。
「どうなのウィード?」
「ダメだ。破れた原因も表示されてるんだが……どれもこれも「逃げる際に」が付いている」
「そう」
「驚きました……鑑定系のスキルを手に入れたんですか?」
「無機物限定だけどな。今、他の荷物から有力情報を得られないか見てるんだが……ん?」
「どうかされましたか?」
「いや!?すまん。気にするな……」
さっきのブラ……パット3枚使用した形跡があるって載っていたな……やり過ぎだろうって……。
「……ドルチェ。少し奥に進んでもらっていいか? 奥の方の荷物も調べる」
「うん。ゆっくり進んだ方がいいよね」
「ああ。手間をかけて済まない」
「いいんだよ。むしろ私達の手間が省けるしね」
「だったら、ここはウィードさんに任せて私達は宿場町の周りを調べてきますね。何か分かるかもしれないですから」
リーダであるビスコッティの意見に他の3人が頷く。
「なら、私も一緒に行きます。この子達も外の方がいいですから」
モカレートがそう言うと、マンドラゴラ達は何かしらの反応をして同意するのだが……おい。そこ、女性の下着で遊ぶなよ。モカレートもそれに気付いて、そのマンドラゴラ……ンーちゃんを嗜める。ってか、本当にマンドラゴラから一文字ずつ名前を取ってんだな……。
こうして互いに分かれて、情報収集する俺達。さて、ドルチェとココリスだけなら訊いてもいいだろう。
「ギリム。どうして俺をこいつらと組むことを勧めたんだ? 魔王かもしれない俺と?」
「王家の出身であるドルチェ様のご命令、それと、私自身も少しあなたに興味があった……それと、前に話した通り……大きく言うと、その3つです」
「そんな理由か?」
「そうよ。それに考えてみなさいよ?うっかりあなたが悪い奴らの手に渡って、好き放題、変な事を吹き込まれでもしたら大変なんだからね?」
「まあ……そうだな。お前らを助けるために、追手の上半身を消し飛ばしたしな……それだけの事をが出来る草なんて、ほっとく訳にもいかないか……」
「はははは……だけど、私達を助けてくれたし、それでいて気遣いもしてくれたでしょ? だから、悪い人……じゃなくて草じゃないと思ったの」
「そして、その夜に俺と会話している間に魔王の可能性が出たから、俺の意見を尊重したかのように見せかけて、あそこから連れ出したんだよな……もし俺があの場に残るって言ったらどうしてたんだ?」
「増援部隊を呼んで……すぐさまに雑草駆除を……」
「あぶなっ!? 俺っていつの間にか死亡フラグをへし折ってたんだな……」
「悪運はイイみたいね。それよりも怒らないの?」
「え? そんなの……俺がそっちの立場だったら同じようにするかもしれないしな……それに、結局それは起こっていない以上、誰に何に対して怒ればいいのか分からん」
「あなたって……存外お人好しね」
「無駄な事はしないだけだ……ああ!!?」
「ど、どうしたの?」
「そこ! そこのドレス! それトルテ嬢の物だ!」
「「「え?」」」
俺の言葉を聞いて驚く3人。俺もスキャンの結果で、その名前が出て驚いているのだが……。
「衣服と一緒に置かれているペンダントからトルテ嬢の名前が出た。間違いないぞ」
ギリムがそれを皆が見やすいように、近くのテーブルの上に置いて、それらを広げていく……うむ。なかなか刺激的なランジェリーをお好みの様で……。
「妙ですね……確認された彼女は確かボロボロの衣服のはずです……こんなしっかりとした衣服では無いと思うのですが……」
「ここ。破けてるわね……」
ココリスがドレスを広げて胸部辺りを指差す。そこに絞ってスキャンを掛けてみる。
「……ビンゴ。刃物によって破けたって結果が出てる……形状的には剣やナイフで一刺しってところだな」
「至急、ランデル侯爵に連絡します。それと、ウィード。その証拠はあなたの収納に入れておいて下さい。あなたが金庫番なら安心です」
「任せろ。しかし……トルテ嬢とこの宿場町の異変……何か関係があるのか?」
「こことは関係ないところで襲われた彼女が何故かここにいる。その時点で何かあるんでしょうね。しかし……胸部を刺されたのに、ドレスに血がそこまでついていません。恐らく剣……いえ、ナイフのような短い凶器が体に刺さったままだったのでは?」
「読めたぞ……インスーラ侯爵達が捜してる物……トルテ嬢襲撃の際に使われた凶器。きっと、それに個人を特定できる何かがあるんだろうな」
「となると……私達が探すのは、ダンジョン内を彷徨っているトルテ嬢とその犯行に使われた凶器って所ね」
「ああ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夜―
「……って訳よ」
ココリスがここにいるビスコッティとガレット、それとモカレートに、こちらでの収穫を伝える。あの後、調査を終えた俺達は夕食を取った後で、互いの成果を発表している所だ。
「なるほど……それならマンドレイク達の活躍する場所がありそうですね……よし。完成!」
すると、一足先に夕食を済ませていたモカレート。先ほどから簡易調合キットを使って調合をしていたのだが、ついにそれらが出来たようだ。
「ウィードさん。鑑定をお願いします」
「どれどれ……」
俺がコップに入ったそれらをスキャンで鑑定すると、獣化変身薬と肥満薬が表示される……。
「獣化変身薬と肥満薬……しっかり出来てるな」
「やった!」
喜ぶモカレートの横で、マンドレイク達も万歳をしたりして、一緒に喜んでいる。
「ふう……お先に失礼したわ」
「さっぱりした!」
すると、俺が用意した即席のシャワー室から戻って来たクロッカとアマレッティが、髪を拭きながらこっちにやってきた。
「そうしたら、二人が先に入っちゃいなさいよ」
「いいんですか?」
「昨日は私達が先に使わせてもらったからね……お先にどうぞ」
「私もです。少しだけ完成の余韻に浸っていたいのと、調合器具を片づけないと」
「分かりました……それじゃあ、いこうか」
「うん」
クロッカとアマレッティと交代でシャワーを浴びに行ったビスコッティとガレットを見送る。ガレットは眠そうな表情で行ったが……寝ないよな?
「しかし……便利ですね。ウィードさんのおかげでこうやって体を洗えるのは、ありがたいことです」
「宿場町が使えない以上、野宿が決定だと思ったからな、出発する前にニトリルに頼んで正解だったな。あいつらが使ったらお湯の補充が必要だと思うから、誰か運搬をよろしく頼む」
「任せて」
「うん? あれ……ここにあった薬は?」
モカレートが台の上にあった薬が無くなってるのに気づく。一体どこへ……あ。
「ありがとう。ちょうどよかったわ」
「喉が潤ったぜ!」
何かを飲んだクロッカとアマレッティ……そして、何も入っていないグラスを持っているマンドレイク達。
「うわーーーー!!!! 皆、何してるの!? それはお薬なのよ!!?」
「「え?」」
「どっちかは太って、どっちかは獣になるのか……」
「え?ちょっと……?」
「何でそうなるんだ!?」
「知らん! 怒るならマンドレイク達とモカレートに怒ってくれ!」
「私もですか!?」
「その子達を使役してるんだから当たり前でしょう……」
「おいおい!具体的な説明を……うわ……」
アマレッティが伸ばした手が光りながら獣のそれになっていく。その現象がどんどん体中へと広がっていってる。
「きゃっ!?」
クロッカの悲鳴が聞こえて、そちらを見ると、クロッカの体全体がぷくぷくと少しずつ膨らんでいき、着ていた服を中から外へと引っ張っていく。さらに体が横に広がっていくのも分かる。
「うう……こんなに太るなんて……」
そう言って、脇腹のお肉を掴むクロッカ。どれだけ太ったのかが、その厚みで分かる。
「こっちは手足が獣のそれになって……おう!?」
何かを言おうとしたアマレッティの体がどんどん小さくなっていって、着ていた服がぶかぶかになっていく。その右隣に座っていたクロッカは、胸よりお腹が大きくなって、体に衣服が張り付いているようになっている。見えている手足も先ほどより、脂肪が揺れている。
「この手足からすると……もし、にゃして……?」
小さくなっていくアマレッティの体。そしてついに顔にも小さくなっていく以外の変化が起きて、頭の上に猫耳、そして口元にはノズルが形成されていき、毛むくじゃらになっていく。
「うっぷ!?」
クロッカの方も少し丸くなっていた顔に贅肉がどんどんつき始めて、首と顎が贅肉で繋がってしまった。さらに、お尻も大きくなって座高が上がる。また正面からでもそのボリューム感が分かるぐらいに脂肪が付いてしまった。
「にゃー!にゃにゃ!!」
「いぃやぁ……服がボロボロにぃ……」
クロッカの衣服が内圧に負けてビリッと破けて、ブクブクに太った裸体が顕わになる。膨れたほっぺを赤くしつつ慌ててブルブルと震える両手で、大きく膨らんだお腹の上に鎮座する胸を必死に隠そうとする。アマレッティはその体が完全に猫になってしまったようで、着ていた衣服の山から脱出していた。猫になったせいなのか前足で顔を洗っている。
「……なあ、宿場町の人たちが全員いなくなったのって……アマレッティみたいに……」
「あら? あなたって、よそで転売できるほどに薬を作ったのかしら?」
「それは無いな……でも、衣服の状況だったらそれっぽいよな……」
「うわわ!? とにかく、クロッカはこれで体を隠して!! で、アマレッティはどうすれば!?」
「わ、私もお手伝いします!!」
現実逃避する俺とココリスを横に、変わり果てた姿になった二人をどうにかしようとドルチェとモカレートが慌ただしく動くのであった。
「えーと……クロッカもアマレッティも一時間程で戻るから安心しろ!」
「にゃ!!(できるか!!)」
「むぅりぃです~!!」