5草
前回のあらすじ「やっと始まりの町へ到着」
―その日の夜「城壁都市バリスリー・冒険者ギルド 庭」―
(……失敗した)
俺はあの後、解毒薬を作るために冒険者ギルドの庭に埋めてもらってそこから土の養分と光合成を使って魔力を回復しつつ、アビリティで解毒薬を作っていく……のだが。
「それじゃあ、また明日ね」
(おーう!朝までには終わらせとくから、しっかり休めよー!!)
二人をしっかり休ませるために、紳士的な対応として宿に戻ってもらったのだが……今日二人のあの体を拝める計画が……む、無念……目には涙が……出ないんだった。
まあ、しょうがない。あの二人のおかげで町に来れた。そんな二人を無理させたくないしな……と、灯りが見えるけど誰だ?
「起きてますか?」
(起きてるよ。待ってろ灯りを点ける)
俺は草の先端から火を出して周囲を照らす。そこにいたのはギルドマスターのギリムだった。
「本当に便利ですね」
(ああ。土があればいくらでも魔法を使えるぞ……いや)
「どうしたんですか?」
(あ。いやさ。俺、あのカロンの森でずっといたんだけど、その時は幾らでも魔法を使えたんだ。けど、ここの土とかはどうなのかなって思っただけ。これで土の状況を悪くさせたら申し訳ないからさ)
カロンの森は強いモンスターが生息する地域だ。そんな場所にある土が普通なのかと考えると、そうは思えない。
「そんな心配していただきありがとうございます。終わったら後で、肥料を足しておきますよ」
(よろしく頼むよ……それで俺に話だろう?)
「ええ」
そう言って、ギリムは俺の横にそのまま座る。
「単刀直入に訊きます。アナタは何者ですか?」
(草だ)
「それは分かります。けれど、あなたはずっとあの森に一人でいた。おかしいですよね。そんな君が言葉を話したり、言語が分かるなんて」
(それもアビリティなんだ。生まれた時からあった)
「……それは言わない方がいいですよ」
(うん?何が問題なんだ?アビリティとしてあるんだから当然……)
「そのようなアビリティを持つ者……それはこの世界とは違う世界から来た人だけですよ」
(ああ……それは失敗したな。いや。むしろ忠告してくれたから運がいいのか)
「ということはお認めになるんですね?」
(ああ。ただこの世界の事は何も知らなかったからさ。何か分かるまでは異世界から来たなんて黙ってるつもりだったよ)
「当面はそうしといて下さい。バレると悪い奴らに狙われますから」
(分かったよ。それも神の目の効果なのか?)
「いえ。これはあくまで私の勘です。礼儀がしっかりしてましたから、気になっていたんですよ。それで何か訊きたいことが出来たんじゃないですか?」
(ああ。少し多いけど……いいか?)
「ええ。どうぞ」
(それじゃあ……)
俺はギリムにこの世界の事を尋ねる。この世界の文明についてだが……何といえばいいのだろうか。この街には通っていないらしいが汽車に近い物が存在していて、電気もあってそれを使った道具も武器もある。しかも予想外な武器として銃もあるらしい。ただ威力と費用を考えるとかなりお高い武器になるのと、魔法や魔道具による遠距離攻撃が可能なのにいるのか?ということで流行っていないらしい。
しかも魔道具が多く流通しているお陰で住宅事情もかなりいいらしく、アパートのような部屋でも水洗トイレにお風呂が完備、料理用のコンロもあって、新聞もある。無いのはスマートフォンなどのネット環境……つまり何が言いたいかと言うと……。
(超ご都合主義な世界じゃないですかーー!!いやだ!もう!)
「何か言いましたか?」
(問題無い。続けてくれ)
小声で叫んだ俺のどうでもいいツッコミをスルーしてもらって、話をさらに聞いていくが……どうやら、異世界転生でありきたりな設定である大事な使命とかもなさそうだ。何せ魔王なんて名乗る悪者なんて過去を振り返ってもいないのだから。お隣の問題国さえ、各国が協力すれば問題ないとのこと。早計だと思うが俺はたまたまこの世界に転生したと判断した。
「……というところです。他にも分からない所があれば僕や彼女達に訊いて下さい」
(二人にも訊いていいのか?)
「彼女達とパーティーを組むんですからそのくらいは……」
(分かった話してみるよ……で、訊き忘れていたんだけどさ)
「イグニスについてですよね」
(そうそう。そのイグニスって何なんだ?これ使うにしても使えないし)
アビリティに分類されているのだから、何かしらの効力があると思ったのだがこれと言って確認できずにいた。
「我々では称号みたいな物と扱っています」
(称号……ね。つまり、俺より以前に持っている人達も分からなかったと)
「その通りです。ただ、それを持っているとギルドの昇格の参考になりますし、これが王族や貴族に分かれば、近衛兵に抜擢されるくらいに凄い称号ですよ」
(草じゃ意味が無いってwww!……もしかしてこんな称号が他にもあるのか?)
「ええ。確認されているものではイグニス、アクア、ヴェントゥス、テラム、ルックス、テネブリス、サーナの7つの属性です」
なるほど、ゲームでお馴染みの火水風土に光と闇。そこに音か。何でラテン語なのかはこの際置いておこう。
(でも……ドルチェが凄い呪文って言ってた気が)
「ええ。一応、呪文として使えるという噂……いや、伝説ですね。あることはあるそうです。何でも一つの国が一夜にして消し飛んだとか……」
(あぶな!!??)
「とは言っても、今の草さんみたいに、稀に持っている人が現れて、今の今まで何も発動させられなかったので違うとは思いますが」
(そんなに倒している奴がいるのか?)
「ええ。いますよ。例えば町を襲いに来た個体を討伐した時にとか、たまたまダンジョンに現れたりとか」
ダンジョン!!ダンジョンってあのダンジョンだよな?ゲームでお決まりの強敵に罠アリ、そして財宝アリのあのダンジョン!!テンションがあがるぜ!!……って。
(この称号を貰えるモンスターって決まった場所にいないのか?)
「それが、これらの特徴ですね。それゆえに出会ったら最悪、倒したら大儲けのモンスターになりますよ」
(うん?大儲け?)
「あのイグニス・ドラゴン……どれだけの価値になることやら……」
「それって二人は働かずにして豪遊生活が出来ると?」
(豪遊……とはいかないでしょうが、そこそこ遊べる生活は出来ますね。そうはならないように手を打っておきましたが……)
(あ!もしかして俺をあの二人に組ませたい理由って!)
「それを条件に数年がかりでお支払いを……流石に有望なBクラスの冒険者を辞めさせる訳には!」
うわ……。悪い笑みを浮かべている。
「それにあなたもその方がいいのでは?」
(……まあ、そうなんだよな)
草である自分は動けない。そんな俺が積極的に動くには、冒険者に付いていくというのは実に理にかなっていたりする。まあ、そこに自分の自由は無いのだが。
(贅沢はいってられないか)
「それに最初に話した通り、あの二人は若くしてBクラスの冒険者……そんな彼女達に付いていけるのは同じくらいの強さかそれ以上となると……丁度いいんですよね」
(はいはい。分かりましたって。むしろあの二人以外だと、どう扱われることやら)
ここで断って他のパーティと考えると、むさ苦しい男だらけのパーティ、同じ女性でも俺をこき使うだけ使って暴言吐きまくりの女性パーティとかに組まされる可能性があるのだ。それなら今のままでいい。
「ご理解いただきありがとうございます。それでは、この話はここで……」
(で、他には?)
「いいえ?以上で終わりですよ?ギルドマスターとして……」
(なら、ギリムとしてはどうだ?)
そう言うと、ギリムは真剣な表情を浮かべる。
「実はそれだけの強さを持つあなたにあるダンジョンの探索をお願いしたいと思ってます。ただギルドマスターとしては、このパーティだけを贔屓するわけにはいかないので」
(あるダンジョンって、どういうことだ?何か問題があるのか?)
「実は……出るんですよ。称号の一体……ヴェントゥスの称号を持つモンスター……グリフォンが」
(……なるほど。そいつがいる事でそのダンジョンから得られる収入が減っていてお困りとのことですね……?)
もし、俺に顔があったならニヤニヤして訊いていただろう。ダンジョンから得られる素材などを収入にしているなら、それはそれは大変な事になっているはずだ。
「ええ。今はまだ急を要した案件にはなっていないんです。それに幾つかのパーティが協力すれば倒せる可能性もあるのです。ただ、いつまでも長居されると困るので、倒せそうな可能性のある方にご相談させていただいているという感じですね」
(その討伐時に二人も行って欲しいという訳でもあるのか)
「そうなればAクラスとして推薦しやすいんですよね♪……私がグランドマスターになるためにも」
(結局、お前のためかーーい!!)
「ふふっ。半分は冗談ですよ」
それって半分は本当って意味じゃないか!!騙されないからな!?
(はいはい……でも、やるかどうかはこっちが決めるからな?)
「分かってます。それでは明日以降のご活躍を楽しみにしてますよ」
(うん?明日じゃなくてか?)
「武器が壊れたりして明日は準備や休息で終わってしまうでしょうから。明日以降もそんな重い仕事をしないと思っていますが」
(だろうな。むしろしようとするなら止めるぞ)
「……あなたならあの二人をお任せして大丈夫そうだ」
(おう!任せとけ!)
俺がそう言うと、優しい笑みを浮かべたギリムは建物へと戻っていった。
(……さてと、解毒薬精製の続きをしますか)
満点の星空を眺めつつ、俺は解毒薬を作っては収納していくのだった。