57草
前回のあらすじ「王城で一泊」
7/1:馬車の説明箇所を修正しました。
―翌日の朝「王都ボーデン・メインストリート」―
「おお!!これはスゲーな!!」
高い建物に高級そうなお店から、庶民的なお店が並ぶメインストリートにやってきた俺達。
「この国一番の栄えている場所よ。どうかしら?」
「何か……王都って感じがする」
綺麗に舗道された道に、オシャレな装飾を施した街灯。また馬車が通れるように車道も整備されている。ここを通る馬車は路線バスのような働きをしていて、常に王都内を周回しているそうだ。これは兵士が行っている巡回と同じような効果があり、王都内の犯罪を減らす一因になっているそうだ。また王都内には学校があり、そこへ通う学生の通学バスとしての役目もある。
「ふふ……!私が王族の頃に頑張ったからね!ウィードの世界よりも凄かったり……」
「俺の住んでいた所なんて、道路や線路が無数に引かれていて、車や電車の往来が激しくてな……後はこれの3倍ほどの高さのビルが近くに在った時には、日差しを遮られて困ったもんだよ。それと比べたら暮らしやす……って、どうしたドルチェ?両手と両ひざを地面に付けてるが?」
「何でもない……何でもないよ……」
俺が喋っていると、何か敗北したような素振りを見せるドルチェ。
「ココリス?ドルチェはどうしたんだ?何か敗北したようなポーズをしてるんだが……」
「原因はあなただからね?」
「え?俺……何か言った?」
「……ええ」
俺を両手で運んでくれているココリスが呆れたように俺を見ているが……何か失礼な事を言ってしまっただろうか?
「すまん……前世で済んでいた所より住みやすくていい町だと思ったんだが……」
「大丈夫……フォローはいらないから……」
「正直な感想なんだが……それより、今日はどうするんだ?明後日の出発を前に準備をするんだろう?それとニトリルの商会にも……というより、あいつらは王城に置いてっていいのか?」
俺達は3人で行動していて、フォービスケッツの4人とは別行動である。まあ、別行動というか寝かせたままにしている。
「アレだけのストレスが溜まるクエストをこなした後なのよ……休ませてあげましょう」
「それに午後になったら商会に来ると思うから、そこで落ち合えばいいからね」
「じゃあ……俺達は何をするんだ?」
「空き家の調査よ」
「ああ……あれか」
フォービスケッツの4人が依頼を受けたクエスト。ヴィヨレをその空き家まで連れて来いだったな……。
「いるのか?」
「多分いないわよ?」
「昨日、城門前であれだけ騒いだからね……きっと撤退してるよ」
「なるほど、今回はその空き家に何か残っていないかを調べるのが目的か」
「そういうこと……そんな事に兵士を回すのも迷惑だから、私達がその隣にあるパン屋に行くついでに見に来たってこと」
「それは俺が得意な仕事だな……スキャンで丸裸にしてやる!」
「頼んだわよ」
スキャンの性能をより調べるには、ちょうどいい仕事である。証拠をどれだけ集められるのか楽しみである。
「しかし……ドルチェが王族でココリスが護衛騎士とはな……」
「二人共、元が付くけどね」
「ドルチェのお父さん……つまりその当時の国王様がハーフエルフと結婚したのよ。それで本来なら人とハーフエルフの血を引くから、少しだけ長寿で不老しにくい人族の子供が生まれるはずだったんだけど……ドルチェだけ先祖返りしたみたいなの」
「で、あまり一人の王族が長くいても困るから、兄妹の死をきっかけに王族を抜けて、冒険者になったの。それでココリスも騎士団を止めないといけない年数になったから、それじゃあ一緒にやろうって」
「なるほどな……世代交代の事も考えると、あまり長くいるのは悪手なのか」
「ええ。エルフが代表を務める国でさえも、ある程度の年数を務めたら別のエルフが代表を継ぐようになってるわよ」
「そうか……なら、花も買わないか?ドルチェの家族のお墓に花を添えるべきだよな」
「墓参りは済ませてきたよ。ただいま。ってね」
「そうか……それならいいか……」
「うん」
俺はそう言って、静かに前を見る。一人だけ長く生きている彼女は家族のお墓の前で何を話したのかと思うと……。
「今は特殊な性癖を持つ草と冒険をしてるって……」
「家族が心配して永眠できねーよ!!それは!!」
もっと、家族が安心するような事を話していただきたい……顔も知らないご家族の皆様……どうかご安心して下さい……変な事は絶対にしないので……。
「あ。そこを右に曲がって。それで例の場所に着くよ」
そんな会話をしていると、ドルチェが目の前の十字路を右に曲がるように指示するので、ココリスがその指示通りに曲がる。その通りもなかなか人通りが多く、また商店も多く並んでいる。
「目立つな……これは」
「そうね」
人を攫って監禁するには人通りが多すぎる。近くのお店を見ると、居酒屋のようなお店にオシャレなバーのようなお店もあったりして、どう見てもここは夜も賑やかな場所である。
「どうやら、犯人達は本当に適当な空き家を、アジトとしてでっちあげただけのようだな……」
「だね……まさか、こんな所に連れて来るなんてあり得ないもんね」
「どうする?そこの雑貨屋さんなんて、なかなか面白そうな物が売ってそうだが……」
「ちゃんと確認するわよ。覗くのはそれから」
ココリスがそう言って歩きだし、その横をドルチェが並んで歩く。しばらく通りを道なりに歩いているとパン屋を通り過ぎた所で、二人が立ち止まる。
「ここか……」
「ええ」
そこには2階建ての空き家があった。壁はボロボロでは無いが、コケなどが生えていて手入れされていないのが分かる。木で出来た扉も穴が空いている。
「窓は……カーテンで中の様子が伺えないな」
「音は……周囲の雑音のせいで分からないわね」
一応、ここが空き家なのは事前に王様から報告を受けている。だから、そのまま扉を開けても問題無いはず……しかし、もし中に人がいたら逃がす可能性がある。
「ココリス。扉の穴の近くに俺を近づけてくれ……睡眠薬を噴射する」
「分かったわ」
俺の指示を受けて、ココリスが扉の穴に俺を近づける。
「ウィード……準備はいいかしら?」
「ああ。いくぞ」
念のためにポイズンパフュームを使って、扉の穴から睡眠薬を濃度は高めにして、一気に噴射する。
「……よし。少し待ってから中に入るぞ」
「便利よね……それ」
「うん」
二人が俺の有能さに感心している中、俺は散布した薬が無効化するタイミングを計る。
「よし。もういいぞ」
俺の合図を受けて、ドルチェが空き家の扉を開けてココリスと俺が先行して中に入る。周りを確認すると……。
「zzz……」
カーテンのせいで薄暗くなっている部屋の中で一人の女性が床で横になって寝ている。その服は胸元が大きく開いた魔女のような格好をしていて……目つきが少し鋭いが美人だ。
「……これって刺客だと思う?」
「いるんだから、恐らくは……!?」
すると、ココリスがバックステップでその場から後ろに遠ざかって、襲ってきた何かから避ける。俺は慌ててスキャンとエコーロケーションを二つ発動させて、この部屋を調べる。
「小さいな……」
大人のひざ下位の身長の何かが複数体いる。
「何だ……こいつら」
「えい!」
すると、いつの間にか室内に入ってきたドルチェが近くの窓のカーテンを開ける。室内に光が入る事でその小さな何かの正体が分かる。
「白い……大根?」
そこには大根をゆるキャラにしたような、かわいいマスコットがいた。
「マンドレイクね」
「え?これがマンドレイクなの……?」
想像していたマンドレイクは、某有名魔法学校のような不細工な奴を想像していたので、その可愛らしさに俺は呆気に取られてしまった。
「ということは……」
「zzz……♪」
気持ちよさそうに寝ているこの女性こそ……例のマンドレイク使いの魔女ってことか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―数分後―
あの後、気付け薬で寝ていた魔女を起こしてあげて、隣にあるパン屋のテラス席で朝食を取っている俺達。マンドレイク使いの魔女もこちらのおごりで買ったパンを食べている。
「まさか……一瞬にして落ちるとは思いませんでした……」
鋭い目つきをしているので、強い口調で喋るのかなと思っていたら、可愛らしい声でしゃべり始める魔女。椅子に座っている彼女を一体のマンドレイクがテーブルの上に立って、その頭を撫でている。他のマンドレイク達はその周囲に座っていたり、中には仰向けになって寝ている奴もいる……って、鼻提灯出せるんだな。
「すいませんでした……人さらいのアジトってことで念のために薬を散布したので……」
「いえいえ。お気になさらずに……私もギルドに頼まれて調べに来ていたので、この子達と一緒に室内を調べていたんです」
「あの暗い部屋の中で灯りを付けずに?」
「はい。私のアビリティに暗視というのがありまして、それだから暗くても見えるんです。この子達も、それと似たようなアビリティを持っているみたいで、暗くても周囲に何があるか分かるんですよ」
「へえー……凄いんだね!」
ドルチェがテーブルの上に立っているマンドレイクにそう言うと、マンドレイクはデレデレしながら、自分の後頭部を触り始める。
「マスコットキャラみたいで、かわいいやつだな……」
「それで……あなた達は?」
「私はココリス。こっちがドルチェ。そしてこの草がウィードよ」
「へえ……同じく植物型の従魔を従えてるんですね。あ、自分の自己紹介してませんでしたね。私はモカレートといいます」
丁寧にお辞儀をするモカレート。こうして俺達は噂の魔女に出会うのであった。