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56草

前回のあらすじ「ヴィヨレがパーティーから離脱した!」

―ヴィヨレを送り届けたその日の午後「王都ボーデン 王城内・応接間」―


「そなたがウィードだな」


「ああ……いや、その通りです。俺の事は仲間から聞いていますよね」


「はは!ドルチェの報告通りで、礼儀正しい紳士のようだ。口調は崩してもらって構わないよ。ここは謁見の間では無いからな」


「あ、じゃあ……お言葉に甘えて……それで、俺って討伐対象?」


「はははは!それは無い。そなたの活躍は皆から聞いているしな……まあ、少々性癖が歪んでいるらしいが」


「おい!王様に変な情報を教えた奴は誰だ!?」


 俺の主張を聞いて、ここにいた皆が笑い出す。ヴィヨレを無事に送り届けた俺達は、その足で王城に入城し、こうして王様と話をしているのだが……。


「あら?本当の事でしょ?」


「違うからな!そもそもアレらって、何故か作れただけだからな?俺の意思じゃないからな!」


「まぁまぁ……二人とも落ち着いて。アレスターちゃんも困るから……」


 王様をちゃん付けするドルチェ。見た感じは王様の方が年上ぽいのだが、ドルチェがエルフのため実際はこちらの方が年長だ。


「私もすでに子がいる身だからな、そろそろちゃん付けは困るのだが……」


「何か……偉い人と謁見している雰囲気じゃない」


「だね~……うちはこの方が楽だから良いけどさ」


「お茶が美味しい……」


「このケーキも美味しいよ」


 そんな中、一緒にいるフォービスケッツの4人は出されたスイーツに舌鼓を打っている。


「おい。お前ら。話に参加しろよ」


「いや……クエストは一応、終わったので」


「今回は黒。そしてその情報は王家からギルドに報告されていますから……」


「後はギルドに行って報酬をもらうだけさ!」


「うんうん」


 そう言って、クエスト終わりの楽しい打ち上げをする4人。こんな場所でそのノリが出来る豪胆さに感心してしまう。


「いや……お前さん達に依頼したい事がある」


 と、ここで王様の横で静かにしていたランデル侯爵が口を開く。


「依頼……?」


「ああ。そうだ……」


「……そろそろ話しくれないか?俺的には色々訊きたいことがあるんだが……この事件の裏側が今一番訊きたい情報だ」


 俺がそう言うと、皆が静かになった。少しの沈黙の間……ついに王様が口を開く。


「新しいダンジョンが原因だ」


「「「「え!?」」」」


 それを聞いたフォービスケッツの4名が驚いて、声を漏らしてしまう。そういえば言ってなかったっけ。


「新しい……ダンジョン!?」


「そうだ……ちなみに、ドルチェたちには話済みだ」


「そうなんですか!?」


「ええ……ヴィヨレの母親が狙われた理由を訊いた時にね。詳しくはその場では聞かなかったわ。近くにヴィヨレもいたしね」


「ウィードも空気を読んで訊かないでくれたようだしな」


「まあな……で、話を続けてくれないか」


「そうだな……まずは新しいダンジョンについて話そう」


「なら儂が話しましょう。実際に現場にも行ってますからな」


 そこで、ランデル侯爵に皆の視線が移る。


「事の発端は、王都から馬車で2日ほどの場所にある小さな宿場町だ」


「宿場町にダンジョンが出来たんですね?」


「違う……宿場町がダンジョンになったんだ」


「それって?」


「続けるぞ……そこを通ろうとした商隊からの報告で、町の住人が一人残らずいなくなっていたそうだ。その代わりに、人のような何かがいたそうだ」


「……そしてその人型の正体は不明って所か」


「ウィードの言う通りだ。それを見た商隊にいた一人が後を追ったんだが……そいつごと一緒に消えたそうだ。ただ、もう一人その人型の何かを見た人がいたんだが……アリステッド侯爵の娘であるトルテ嬢だったそうだ」


「うん?どういうこと?その……人型の何かがトルテ嬢って……まるでそれが本人じゃないような言い方よね?」


「ああ……何故ならトルテ嬢の乗った馬車はその宿場町の近くの崖の下で発見されたからな」


「え?」


「馬車を動かしていた従者とお付きのメイドの死体は見つかったが……何故かトルテ嬢の死体はそこには無かった。だから本人が姿を現したと思われたのだが……ボロボロの衣服を着て、歩き方がかなりぎこちなかったそうだ」


「それって……幽霊?」


「分からん。そこでお前さん達に調査の依頼をしたい」


「なるほど……で、ユース伯爵はトルテ嬢にその崖の道でどんな事をしたんだ?」


「はあ……分かって聞いてるんだろう?」


「理由は知らん。ただ、明確な殺意を持って殺しにかかった……そうだろう?ここまでの話を聞いたら予想出来る」


「そうだ。しかしユース伯爵は実行犯であって、黒幕じゃない可能性が高い。トルテ嬢と問題があった貴族はインスーラ侯爵だからな」


「インスーラ侯爵……確か、それなりに力を持つ侯爵家の中でも高い地位を持つ貴族だよね。となると……問題はインスーラ侯爵の息子とトルテ嬢の縁談話かな」


「……ああ。その通りだ。インスーラ侯爵家の息子からトルテ嬢に縁談話があったんだ。しかし……この息子が少々、問題があってな。貴族として恥ずかしい行為を度々起こす問題児だった。しかし、ずるがしこい奴でな……自分が不利になるような証拠はもみ消していた。当主もグルになってな」


「それを知っていたトルテ嬢は、縁談を断って、その逆恨みにトルテ嬢を馬車ごと崖下に落とした……」


「証拠が無いがな……」


「読めたぞ……そのトルテ嬢がもし本物で生きていたとしたら、何かインスーラ侯爵家には不都合な事があるんだな?」


「王も儂もそう睨んでいる。そして宿場町がダンジョンになって大分、時間が経っていてな……儂も確認したんだが……骨のようなモンスターとスライムが宿場町のあっちこっちにいた。そこで調査の依頼を王都の冒険者ギルドにして、人を一度送ったのだが……誰も帰還していない」


「そこで、その宿場町の先にある城壁都市バリスリーのアラルド男爵とギリムに相談しに儂が出向ていた……表向きは視察ということにしてな」


「それを良しとしないインスーラ侯爵家は適当なゴロツキに金と毒の付いたナイフを渡してランデル侯爵に仕向けた」


「それがあの事件の真相だ」


「じゃあ……ヴィヨレのお母さんが狙われたのは?」


「それは私の方が原因だな。宿場町がそうなってしまった以上、それを管理する人物が必要になる。そこで、領地を管理するカルティア男爵家……つまりヴィヨレ嬢の父であるオプトに宿場町からモンスターが出ないように管理するよう頼んだのだが……」


「そこをユース伯爵家が割り込んできた」


「そうだ。若輩の男爵家より、古参の私がふさわしいと……他の貴族の後押しも受けてな」


「しかし、カルティア男爵家も王家から依頼を受けた以上は、断る訳にはいかなかった……」


「そうだ。そこで私の方からランデル侯爵に後ろ盾になってもらった」


「はあ……なるほど……ユース伯爵の後ろ盾にはインスーラ侯爵家の行きの掛かった奴らが付いていた。当の本人たちは名前を出さないで……か。で、ユース伯爵家に付いた貴族たちが我慢できなくて実力行使に出た訳か……」


「ウィード……今回の件、すでに犠牲者が多く出ている。その原因を作ったであろうインスーラ侯爵家、そして実行犯のユース伯爵家には厳しい罰を与えなければならない……」


「でも、インスーラ侯爵家の証拠がまだ無い。王家たるとも何の理由も無く裁けば民衆から何を言われるか分からない……」


「ふっ……理解が早くて助かる」


「ココリス……今回の報酬はどれくらいだ?」


「そうね……王様?安い金額では受けませんよ?」


「ちょっと!?二人共?」


「ドルチェ。ここはあなたの身内でも安くはしないわよ?」


「だな。こんな面倒ごとを依頼してきたんだから当然だよな?」


 ふふふ……。と笑いながら俺とココリスは答える。悪い奴に見えるかもしれないが、こちらはモンスターとの戦闘で命を張る以外での、命の危険を背負って受けるのだ。当然、見合った報酬が欲しい。


「もちろんだ。1つはウィードの従魔扱いを冒険者としての扱いにするようにギルドに推薦しよう。それと王都で冒険者としての拠点として利用できるよう王城に君達の活動スペースを用意しよう」


「君達……?それって私達もですか!?」


「フォービスケッツの諸君もだ。詳しい契約は後々決めるとして、大切な物を置いておくにはちょうどいいだろう?それと、城の施設の使用も申請をしてもらえば許可しよう」


「施設……城内にある書庫の閲覧も!?」


「禁書や国家として知られて欲しくない情報以外ならな。それに入浴施設に稽古場も使えるようにしよう。後は……そうだな、金貨で20枚でどうだろうか」


 3つの報酬を提案をする王様。「フォービスケッツ」の4人は乗り気である。


「ココリス?この報酬はどう思う?俺としては悪くないと思うんだが……」


「そうね……後は冒険者を引退することで王城の拠点を手放す際にも美味しい条件を付けて頂けると、よりいいのですが?」


「はははは!これは厳しいな!!分かった。手放す際にはいい住居が手に入るように王家として協力する。それでいいか?」


「ありがとうございます♪いいお家を確保しておいてくださいね?」


「やれやれ……ドルチェの護衛騎士様は手厳しいな」


「ゴメンね。今の私達は冒険者だから……」


「いいのだ。この国の法で王家から去ったドルチェの手助けにもなるからな」


「ありがとう。アレスターちゃん」


「だから、ちゃん付けは止めろ……」


 ドルチェの言葉にゾクゾクっと震える王様から、新しい依頼を受けた俺達。この時、誰が予想できたであろう?あんな状態異常が待ち受けていることに……。

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