55草
前回のあらすじ「少女達、移動中……」
―「王都へ続く街道・王都を眺められる丘」―
「アレが王都か?」
「ええ。そうよ……ホルツ王国の王都ボーデンよ」
少し高台から見える立派な城壁と大規模な城下町、そして、青い屋根と白い壁が特徴的な立派なお城……。エポメノの崩壊した塔を出発して4日目。ついに俺達は王都ボーデンまで辿り着いた。
「後、もう少しですね」
「そうね」
ヴィヨレが王都を静かに見ている。心中では様々な事を考えているのだろう。
「で、ココリス。質問したいんだが」
「何かしら?」
「……あの列は普通なのか?」
俺は、遠くからでも分かる城門から続く長蛇の列について質問する。
「普通よ。王都で商売する人はたくさんいるもの」
「そうか……で、それを確認する兵士達は買収されてる可能性は?」
「そうね……どう思うルチェ?」
「ここまで来ると可能性ありだね……」
そう答えるドルチェ。ここに来るまで大量の刺客を追っ払ったが、明らかに盗賊と思われる連中から、冒険者らしきパーティーと種類豊富だった。エポメノでも屋台で料理を売っていた奴が毒殺を仕掛けてこようとしたのだ。兵士も例外とは言い切れないだろう。
「どうします?流石に強行突破は難しいでしょうし……」
「それなら心配いらないよ?奥の手を使うから」
ドルチェがそう答えてストラティオから下りる。
「ウィード。鳥獣変身薬……効果時間が短い物で」
「俺が持っている砂時計で何回だ?」
「3回かな?」
「3回か……となるとおよそ10分……それだと15分のを用意できるが、それでいいか?」
「うん。大丈夫だよ」
「はいよ……よっと」
俺はラボトリーで即座に鳥獣変身薬(15分)を調合して、出来た物をドルチェにコップに入れた状態で渡す。
「さてさて……俺達は堂々と正面から行けばいいんだな?」
「うん。任せて!」
ドルチェは鳥獣変身薬を飲んで、白い羽を持つ鳥人間姿になった所で王都へと飛び立っていった。
「ドルチェさんが飛んで行った……」
「あ、ああ……そうだな……」
フォービスケッツの4名が飛んで行ったドルチェの背中を見ながら呆然としている。まあ、いきなり人が飛んだらこうなるよな……。
「ヴィヨレ。ストラティオを操作できるかしら?」
「ドルチェさんに教えてもらっていたので大丈夫です」
「そう……そうしたら行くわよ!そこ!ボケっとしない!」
「あ、はい!」
ココリスがフォービスケッツの4人に喝を入れた所で、俺達は王都の城門へと移動を開始するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから30分ほど「王都ボーデン・城門前」―
「おい!お前達!」
王都へと入る為の列に並んでいると、城門から三人組の兵士が近寄ってきた。
「何か御用でしょうか?」
「そっちの紫髪の女性に訊きたいことがある。少しばかりお時間を頂けるだろうか?」
「お時間ですか?」
「ああ。そうだ」
「それでしたら、まずはご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「ダメだ。これは少し問題があってな。大人数が行き来するここでは話せない」
「それでは……どこでお話を訊くおつもりで?」
「この列から少し離れた場所で訊く。だから……」
「お断りです」
三人組の兵士に対して、あまり見ることが無いニコニコとした笑顔で答えるココリス。
「なっ!?」
「ここで列から離れたら王都へ入るのが遅くなってしまうわ。それなので王都に入ってからでもいいかしら?」
「ダメだダメだ!怪しいお前達を入れる訳には……」
「私はBランクの冒険者。こっちの4人組はAランクよ?何なら冒険者カードを見せるけど?」
「お前達は問題無い。問題があるのはそこの女だ」
「私達はこの子の護衛をしてるの。連れて行くなら理由をしっかり申してもらわないと困るのよ」
「だから……!」
何かと難癖をつけてヴィヨレだけでも引き離そうとする三人組の兵士。いかにも怪しいその三人を見て、フォービスケッツの四人が、ヴィヨレを守るようにストラティオを移動させる。俺もいつでもいいように薬を投げる準備をしておく。
「分かってるのか?これは王家への……!」
「王家への反逆罪になるってことですか?」
「そうだ!だから……」
「ほうほう……王はそのような指示をしていないはずだがな?」
声のする方へ振り向くと、数名の高そうな鎧を着た兵士を連れてやってきた見慣れたおっさん……その横にはドルチェがいる。
「久しぶりだな!お前ら!!」
「お久しぶりですランデル侯爵」
深々とお辞儀をするココリス。それを見た怪しい三人組の兵士も慌てて、ランデル侯爵の方へ振り向き敬礼をする。
「はははは!そんな堅苦しいのはいらんぞ!そこのウィードに共犯だとバレたしな!」
「俺としては色々、文句を言いたい所なんだがな……で、本当に王様は指示していないんだよな?」
「ランデル様!これは先ほど……」
「ルチェ?あなたの親戚はそう言ったのかしら?」
「「「え?」」」
「言ってないよ。逆に王族の名前を借りて不正を働こうとするあなた達に話があるのだけれど?」
「う!?」
自分達が不利な状況に陥ったことに気付いて慌てて逃げようとする。
「えい!」
「待て!」
そこをフォービスケッツの面々が攻撃を加えて、静かになった所を取り押さえる。
「この不届き者達を捕えなさい!」
「「「「はっ!」」」」
ドルチェの命令を受けて、後ろにいた兵士達がそのまま、捕まえた三人を連れて行ってしまった。
「やっぱり、ドルチェってこの国の王族だったんだな」
「詳しく話すと、ちょっとだけ違うけどね……それにしてもウィードにはバレていたんだね……」
「初めて会った時にカーテシーをしてお礼を言ってたからな……あれって前世でも貴族がやるような挨拶だったしな。後はアラルド男爵でのパーティーでの立ち振る舞いとか、普段のお前の所作とかが妙に綺麗だったのが理由かな……で、ココリスはお姫様の護衛役か?」
「元ね。今はただの冒険者仲間よ」
「そうか……」
「だはは!まあ、その話は後だ。それよりもそちらの嬢ちゃんの母親の具合が悪いんだろう?」
「いいのか?てっきり王様とすぐに謁見するかと思ってたんだが」
「その位で不機嫌になる方じゃないからな。ということで、異論がある奴はいるか?」
ランデル侯爵の問いかけにフォービスケッツの4人は元気よく異論が無いと返事をして、ヴィヨレは首を振って異論が無い事を示す。
「よし行くぞ!すでに門番の許可を取っている。儂の後ろを付いてくるようにな!」
俺達は王都に入る為の列から離れて、ランデル侯爵と一緒に王都ボーデンを守る城壁の門を潜り、無事王都へと辿り着くのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―城門での一悶着から2時間後「王都ボーデン・カルティア家邸宅 マリーの寝室」―
「それじゃあ……ほい」
俺はラボトリーの機能を使って、神緑の葉から薬を精製、それをコップに淹れてからテーブルの上に出す。名前は……生彩薬か。
「ふう……何か調子が良くなったみたい」
「よ、よかった……!」
ベットから体を起こした母親に抱き付くヴィヨレ。
「とりあえず……5回分は飲めるようにこれを置いておくな」
俺はヴィヨレの父親であるオルトからもらった、高そうなピッチャーに生彩薬を淹れて、先ほどと同じテーブルの上に出しておく。それと生彩薬の作り方を教えて、それに必要な神緑の葉も渡したところで俺の仕事が終わる。
「ありがとうございました……!娘の護衛に解毒薬になる素材の確保……どうお礼を言えばいいのか……」
「気にするな。それに報酬はいただくぞ?」
「もちろんです。今すぐ店から従業員を呼んで……」
「いえ。この後、王様との謁見があるからいいわ。明日のお昼過ぎにでもお店に赴くわ」
「分かりました。皆さんの来店を心からお待ちしております」
「皆さん!ありがとうございました!」
母親に抱き付いていたヴィヨレがこちらを向いて、俺達に感謝を述べる。
「いいんだよ。だって私達は冒険者なんだから……ねえ二人共?」
「ええ」
「だな」
ドルチェの問いに俺達はそう答える。その方がカッコイイしな。
「しかし……まさか、あなたがドルチェ様だったとは……」
「はは……私が王族だったのは大分前ですから。私達の顔を知ってるのは限られてるかな~……」
「そうでしたか……そういえばランデル侯爵はご存知だったようですが……」
「エポメノから通信機を使って話していた時は、このウィードのお目付け役でしたから……彼は魔王候補で」
「魔王ですか!……となると転生者で?」
「ああ……何か先に来た奴らがご迷惑をお掛けして申し訳ない……これって一般常識なんだよな?」
「いえ。魔王=転生者というのは一部ですね」
「そもそも転生を知らない地域とか国もあるんじゃないかな」
「そうか……」
「でも、あなたが魔王だろうが妻の命の恩人には変わりません。ぜひとも明日はいらっしゃって下さい」
「ああ……楽しみにしとく」
その後、俺達は玄関先で手を振るヴィヨレとオルト、それと使用人達に見送られながら屋敷を後にする。
「これでクエストクリアだね」
「ええ……何か淋しくなるわね」
「だな……短い間とはいえ一緒に行動してたしな」
ヴィヨレと一緒に行動していたため、それがすっかり当たり前となっていた。だから、こうやって終わって別れてみると寂しく思ってしまう。
「これも冒険者の醍醐味だな」
「うん……」
各々、突発的であったこのクエストが終わったことに感慨に浸っているのだが……そろそろ現実に戻らなければならない。
「さてと……そろそろお前達の正体を詳しく話してもらおうか?」
「分かってるって……でも、王城で待っているあの子達と一緒でいいかしら?」
「いいぞ。いちいち説明するのも大変だろうしな」
「ええ……」
この後、どんなことが待ってるのか……やれやれと思いながら、いつもの定位置であるドルチェのベルトに括り付けられている俺は王城へと連れて行かれるのであった。