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54草

前回のあらすじ「王都への移動開始」

―エポメノを出発して二日目・お昼頃「王都へ続く街道・草原地帯」―


「後ろから来てるぞ!」


「マッドプール!」


 ココリスが俺達の真後ろに底なし沼を魔法で作ると、そこに俺達を追いかけている黒いストラティオに乗った奴らが引っかかって沼地にハマる。いつもならそのまま沈めたり、そこに追撃をするが高速で移動中なのでそのままにして置く。


「ウィンド・バースト!」


「トルネード」


 草原から仕掛けようとする奴らを風魔法で吹き飛ばすドルチェとガレット。


「ライトニング!」


 クロッカが杖の先端から雷撃を飛ばして敵を蹴散らしていく。この雷魔法もかなり珍しい魔法の部類で回復魔法も使えるクロッカはガレットと同じ天才の部類なのだろう。


「ウィード!反対側をよろしく!」


「あいよ!さてと……今回の楽しいお薬はこれ!ってことでポイっとな!」


 俺は新しく作った薬をポイズン・パフュームで周囲に散布する。


「今回はどんな薬を?」


「食欲増進薬だ。今回は濃度高めにしたからな。すぐに効果が出るぞ」


 すると、襲ってきた奴らが乗っていたストラティオから落ちて、自分のお腹を押さえながら地面に転がっていく。


「早く何かを食べないと餓死するからな!さっさと撤退しろよ!」


「恐ろしい薬をばら撒きますね……」


「本来なら、この薬って飲まないと効果が出ないんだけど……ポイズン・パフュームは霧状にすることで、鼻から体内へと吸収されるようになってるからな。今まで使えないと思っていた薬が恐ろしい状態異常薬として使用できるようになったぜ」


「だから、肥満薬であの冒険者崩れ達を太らせることが出来たのね」


「そうだ。ぶくぶくに太らせるのも良かったんだが……それだとモンスターが街道に集まって大変な事になるしな」


「食べ応えのあるお肉が転がってるのと、同じだもんね……それなら痩身薬は?」


「ありだな……次はまたそれをばら撒くか。アレも死ぬことはないからな」


 痩身薬をこの襲ってきた奴らより先に来た奴らに使ったのだが、全員がガリガリに痩せ細っただけで、死んでいなかった。この時は手加減せずに一番濃度の高い物を使っている。だから痩身薬はどの濃度を使ったとしても、相手が生きていられるギリギリの体型までしか減らせないということが分かった。そしてそれと対照的な肥満薬も同じで、生きられる限界までしか太らせられない事が判明している。


「敵は……どうやらさっきのが最後か。しっかし……相手も見境なくなってきたな」


「多分、ユース伯爵が仕向けた奴らだね」


「目的はヴィヨレと神緑の葉、それに俺の収納の中に入っているナイフと契約書か……これを王様に提出されるのがよっぽど嫌なようだな」


 エポメノの崩壊した塔で襲ってきた冒険者崩れ共が持っていたこれらの証拠は、エポメノの冒険者ギルドマスターからの依頼で王都へと運搬している最中である。


「これが終わったら、しっかり休ませて欲しいものだな」


「その前に王様から根掘り葉掘り聞かれると思うけどね……」


「それよりもお母様に薬を届けないと……」


「……色々やる事が溜まってるな。さっさと終わらせて、王都散策を楽しみたいものだ」


「そうだね……」


 ドルチェが何かを想像しながら涎を垂らしているところからして、王都で何か食べたい物があるのだろう。


「それで……今日はどこまで進むんだ?」


「えーと……ココリス!今日はどうする?」


 ココリスが呼ばれたことに気付いて、ストラティオを操作して俺達の横を並走し始める。


「そうね。昨日は宿場町に泊ったけど……この先も無事に泊まれるかと言われると難しいわね」


「かと言って、それだとお前らが十分に休めないだろう……ほら今も」


ぎゅるるるる~~…………


 恥ずかしそうに慌ててお腹を押さえるドルチェ。朝からずっと移動して一度も休息を取っていなかったのだ。だから、こうなることは分かりきっていた。


「そろそろどこかで休憩を取らないと……ストラティオも疲れているでしょうし」


 ココリスが片手でストラティオの頭を撫でる。それに対してストラティオは嬉しそうに鳴いている。 


「この草原地帯を抜けたところで、一旦休憩ね。前の4人もいいわね?」


 前を走る「フォービスケッツ」の4人もその意見に同意する。


「よーし……頑張っているお前らに俺が美味しいドリンクを用意してやる」


「太らないわよね?」


「飲み過ぎれなければだな。前世でも良く飲まれていたドリンクを再現出来たから、それを出すだけだぞ?」


「飲み物?」


「ああ」


 俺は次の休憩で皆に飲んでもらう為のドリンクを急いで作るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「王都へ続く街道・川沿い」―


「えーと……昼食の素材はこれでいいか?」


「ありがとうございます!じゃあ……ささっと作っちゃいますね!」


 ビスコッティが包丁を手に取り、俺が出した材料を切っていく。それと同時に、あらかじめ横に切り開いたバケットの切った面をトーストしていく。


「サンドイッチか」


「はい!でも、ただ材料を切ってパンに挟むだけじゃあ物足りないので、少しだけアレンジしますね!」


 いくつかの調味料を使いソースを作っていくビスコッティ。


「お、美味そう!」


 そこにアマレッティがお花摘みから戻ってきた。他のメンバーは周囲の警戒や同じようにお花摘みに行っている。


「リーダーの飯は格別だからね♪」


「なるほど……このパーティーのリーダーの座を手に入れた方法は、料理で皆の胃袋を掴む……なんてな、そんな訳が……」


「……ウィードの旦那。それ冗談抜きで本当だ」


「……マジ?」


「マジだ。うちらがパーティーを組んだ際に誰をリーダーにするか話し合った時にビスコッティとクロッカのどちらかになったんだけど……最後にこれが決まり手になった」


「なるほど……強さだけじゃダメなんだな」


「ああ。そうだな……」


 手際よく料理していくビスコッティを見守るアマレッティ。その間にもどんどん料理が出来ていく。


「アマレッティ。手が空いてるなら少しだけお手伝いを頼んでいいか?蓋をしてもらうだけなんだが」


「蓋をする?」


「ああ。ラボトリーを使って前世で飲んでいたドリンクを作ったんだが……そのまま置いておくと、炭酸が抜けるんだ」


「タンサン?」


「お試しに飲んでみるか?」


「少し恐いけど……ぜひ」


「それじゃあ……」


 俺はオレンジ色の炭酸水が入ったコップを収納から出す。


「これは……?」


「オレンジジュースに炭酸を加えたものだ……飲んでみろ」


「それじゃあ……いただきます」


 アマレッティはコップを手に取って、まずは一口だけ口に含む。


「お!?」


 初めての感覚に驚いているのだろう。そのまま一気に飲み干してしまった。


「美味い!……ケプッ」


 ゲップをしながら、感想を述べてくれたアマレッティ。


「どうだ?」


「ゲップが出るのはマイナスだが……いいね」


「そうかそうか……こっちの世界でも売れそうだな」


「あら?何を飲んでるのかしら?」


 そこに、ここにいなかったメンバー全員が戻ってきた。


「俺の作ったドリンクを試飲してもらったんだ。それでどうだった?」


「怪しい人影や襲ってきそうなモンスターは近くにいないみたい。少しだけ休憩できるよ」


「みなさーん!昼食が出来ましたよ!」


 ビスコッティがお皿に具だくさんのサンドイッチを載せていく。


「それじゃあ……ほい」


 俺はそのタイミングで他のジュースで作った炭酸水を容器に入れて状態で収納から出していく。


「紫色のそれはブドウジュースに炭酸を加えたもので、こっちのオレンジ色はオレンジジュースに炭酸を加えたやつだ」


「ゲップが出やすいから要注意だぜ」


 アマレッティの忠告を聞いて、少しずつ皆が飲んでいく。


「シュワシュワして美味しいです」


「これは新鮮ね……」


「うん♪」


 俺の作ったジュースは高評価で皆が飲んでいく……しかし。


「私は少し苦手かも……」


「ああ……クロッカはダメか。炭酸のシュワシュワが苦手な人もいたしな。無理せずに普通のジュースを出すぞ?オレンジとブドウのどっちがいい?」


「ブドウでお願いします」


 俺はクロッカのコップにブドウジュースを注いでいく。皆の飲み物が決まった所で昼食を取り始める。


「ラボトリーってこんな飲み物も作れるんですね」


「たまたまだけどな。ジュースを調合に使っていた時にふと思ってな」


「ウィードの旦那はこれ以外のドリンクを作れるのか?」


「後、一つ……スポーツドリンクが出来ないか試してるんだが、もう少し時間がかかるかな」


「それは楽しみだな……どんな美味しいドリンクか……」


「アマレッティの期待を裏切るようで悪いが……これは普通に飲んだら美味しくないドリンクだ」


「美味しくないドリンクなのに作ってるの?」


「水分補給が目的で作られたドリンクでな。人が汗をかくと、水分と一緒に体内のミネラルが出て行ってしまうんだ。このドリンクはそれを飲んで補うためのものでな。そして、これを喉が渇いていない状況で飲むと、美味く感じられないんだ」


「へえー……冒険者向けのドリンクね」


「かもな。出来たら試飲を頼みたい」


「いいよ!どんな味か気になるから!」


「ケプ……おかわり」


 皆が会話を楽しみながら昼食を取っている中で、ガレットはマイペースで俺の作ったジュースをどんどん飲んでいく。


「ほどほどにしとけよ?すぐにトイレに行きたくなるぞ?」


「大丈夫。問題無い」


 親指を立てて答えるガレット。何が問題無いか説明して欲しいところだ。


「太るからな?それに糖分の過剰摂取で病気になると困るしな」


「え?そうなの!?」


「甘みのあるジュースをがぶがぶ飲んだら、そうなるだろう?適量だったら問題無い」


「それもそうね……コップ一杯ぐらいなら問題無いわよね?」


「ああ。問題無い……例えるならお酒と同じだと思ってくれてもいい。子供も飲めるがな」


「それは……分かりやいわね」


「ところで……話は変わるんだが、この後はどうするんだ?」


「あ……出来れば宿に泊まりたいわよね……」


「あ、うちにいい案があるよ!ここから3つ目の宿屋に……」


 昼食を取りつつ、この後の行程の打ち合わせをする俺達。この追跡者を退けつつ王都への移動するという油断の出来ない中で、平和なひと時を過ごすのであった。

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