表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/229

53草

前回のあらすじ「肥満薬の有効活用」

―翌朝「エポメノの崩壊した塔・一層 宿屋」―


「おはよう。よく眠れたか?」


 特に何事もなく夜を過ごした俺達、今はヴィヨレに両手で運んでもらいながら部屋を出ると、宿屋の廊下で待っていたもう一つの部屋で休息していた4人がいたので尋ねる。


「ええ。良く眠むれたわよ……ねえ、皆?」


「ああ!ウィードの旦那からあの薬を定期的に売って欲しいくらいだ……なあ?」


「う、うん……」


「そう…ですね……」


 ココリスとアマレッティの問いかけに、言葉に詰まるビスコッティとクロッカ。


「どうした?薬が合わなかったか?」


「いえ!?よく眠れました……よ」


「そ、そうね……」


「どうしたんだ?何かあったのか……?」


 何か俺を見て恥ずかしがっている二人……。


「あなたがパンツを覗いていたって話したのよ」


「ああ……なるほど。っておい!!?うら若き乙女に何を言ってるんだよ!!?」


「覗きをしたあなたが悪いのよ。それと後輩への注意喚起」


「あの時は迎撃態勢を取っていたから仕方ないだろう!?」


 バレないように上手く注意して、俺の評価を上げたつもりだったのに……!!


「まあ、そんな事を気にしていたら冒険者ってやってられねえけどな……私みたいにズボンにすればいいのに……」


「うーん……やっぱり可愛さとかもあるから……」


「そうそう」


 アマレッティの提案に二人がそう答える。そう考えると……。


「皆の服って実用性もあるけど……何か可愛いというかオシャレだよな」


「それはもちろんですよ!やっぱり女の子として……オシャレは欠かせないんです!」


「それに、他のパーティーに会った時とかにいい印象を受けてもらえますからね」


「なるほどな……ブランドとかもあるのか?」


「ありますよ。冒険者御用達の購入しやすい物から家一軒が買えるくらいの服とか」


「家一軒か……それはどんな服か見てみたいな」


「どうせ王都に行くから、その時にでも行ってみる?」


「お!それは楽しみだな。前世ではそんな服を見たことが無いしな」


「まあ……その前に、色々やらないといけないことがあるけどね」


「だな……」


 そんな話をしつつ、朝食を取るために一階の食堂で食事を取るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―朝食後「エポメノの崩壊した塔・一層 メインストリート」―


 宿を後にした俺達は冒険者ギルドで素材の買取報酬を貰い、このエポメノの崩壊した塔の出入口へと歩いている。このダンジョン内にある街をゆっくり見れずに王都に行くのは残念だな……。


「いや……本当にウィードさん譲ってくれませんか?」


「ダメだって」


「宿の朝食に毒が入ってるのを見破るなんて……」


「毒じゃなくて睡眠薬だけどな」


 皆が食べる前に、一応確認したらそれが入っていた……。宿の主人をスキャンすると、微量な睡眠薬の成分が衣服に付着していることが分かったので、主人がわざと入れたことに間違いはないようだ。


「まあ、襲撃が無かったからな。こんな手に出るとは思っていた。で、ココリス?」


「ええ。今も私達の後ろを付いて来ている奴らがいるわよ……」


「屋根からこっちを見ている奴らもいるみたいっすよ」


 アマレッティが目を動かしてどこにいるかを示す。俺を運んでくれているヴィヨレと一緒にそちらを見たが……あ、いた。


「何人いるんだこれ?」


「下手すると何十人ね……」


「それで、このまま出発でいいんだよな……何か腹に入れなくて平気か?」


 朝食に毒が入っていたために、俺以外の全員が腹ペコである。


「あ、あそこの屋台の料理……」


「……どれ。スキャン」


 ドルチェの指差した屋台に向けてスキャンを放ってみる。


「……止めとけ。あの店主……毒の入った瓶を持ってるぞ」


「「「「……」」」」


 俺の言葉を聞いて、そのまま、その屋台を素通りする。その瞬間に舌打ちするような音が聞こえたが……気のせいだろう。


「本当に……便利ですね」


「ふふ……!この魔王の魔眼で見抜けぬものは無い!!」


 おふざけで中二病患者のセリフを言う。前世で言うのは恥ずかしいが……このファンタジーの世界なら恥ずかしくは無いな。


「え?やっぱり魔王なんですか!?」


「はは!冗談だ……そんな魔王なんて……うん?」


 今のビスコッティの言葉……何か変だったぞ?


「……ビスコッティ、今なんて言った?」


「え!?いや……魔王って言うので……そんなのいないのに」


「……やっぱりって言ったぞ。ほら。ココリスを見ろ。呆れた表情と怒りに満ちた表情を同時にしているぞ」


「え……」


 ビスコッティが恐る恐るそちらを見て……その顔を真っ青にする。アレを見る限りでは後で説教だろうな……。


「おーいココリス。お前のその表情もダメだからな?明らかに俺って魔王みたいな話になるからな?」


「あはは……」


 変な笑い方をするドルチェ。まあ、ココリスがこれならドルチェは当然、俺が魔王って知ってるんだろうな……。


「でだ、俺って魔王なの?というか……これってギリムも……いや、もしかしてこれって一般的な知識か?」


「「「「……」」」」


「いや、皆して黙るなよ。それって肯定してるのと変わらないからな?それに、その事で別に気にしていないし」


「そうなの?」


「仮に魔王になれって言われてもお断りだ。誰がそんな面倒な事を……もしかして、俺以外の転生者の多くが好き勝手やっていたのか?」


「ええ……侵略して大量虐殺とか資源を独占したりとか……それこそ魔王と名乗ってモンスターで襲わせたり……中には好き勝手やれるんだ!とか」


「同じ世界の住人として、深くお詫び申し上げます!!本当にすいませんでしたーー!!」


 俺は草を一生懸命に曲げて、最敬礼で謝罪する。気分的にはスライディング土下座で謝罪したいくらいだ……神よ……転生する人をしっかりと厳選しろよな!


「あなたがやった訳じゃないでしょ?それに大丈夫よ。私達の評価でもそれは無いって判断だから」


「私達って……どこまで?お前らより上の奴らが動いてるよな?」


「……王様まで」


「だから、こんな早く謁見しろとかうるさいのか!!は!?もしかしてこの事件ってそういう裏が……!?」


「違うわよ。それは無いから……本当にたまたまよ」


「そう……なのか……?」


「そうそう……話の続きはストラティオに乗ってからね」


 ココリスに言われるまで気づかなかったが、いつの間にか入り口前に着いていた。


「分かった……ちなみにヴィヨレは?」


「知ってました。ただ、お二人に……」


「そうか……」


 とりあえず移動を優先するために、この話はここで一旦、終わりにするのであった。


―1時間後「王都まで続く街道」―


「うーーん……何か反応はあるが……はっきりしないな」


「数は?」


「2だな」


 エポメノの崩壊した塔からストラティオを走らせておよそ1時間。遠くからでも見えていた塔もすっかり見えなくなって、今は草原地帯にある街道を走っている。


「……普通に会話されるんですね」


「うん?それは……な。気にしていないって本当だし」


 1時間前に明かされた真実に対して、すでにこの感じである。


「もっと驚くと思っていた」


「ですね……」


 クロッカとガレットも俺の反応が意外だったらしく、少し疑問に思っているようだ。


「人は誰しも隠し事があるもんだ。今回はそれが俺の今の立場だったということだけだからな……むしろ、そんな危険極まりない奴をどうして始末しないで連れ回しているのかが気になるんだが?」


「発展……といえば分かるかしら?」


「……なるほどな。こっちの技術がなんだかんだで入って来たのか」


「ええ。さっきの中ではモンスターを操る魔王のおかげでテイマーという職業が生まれたわ。それ以外にも汽車や銃もよ」


「なるほどな……」


「それだけじゃなくて、街づくりや住宅技術……魔王は面倒ごとを持って来る奴らだけど、恩恵も持ってきてくれるのよ」


「じゃあ俺は変わった薬か?」


「それだけじゃなくて色々な知識を持っているでしょ?王様としてはその知識が欲しいのよ」


「ふーーん……別に構わないぞ。どうやら話が分かる相手みたいだからな」


「いいの?少なからずあなたを騙していたのよ?」


「気にしていない。むしろ俺が逆の立場だったら、かなり怪しんで……連れて行くという発想はしなかっただろうしな。むしろ感謝している」


「そう……」


「女性は秘密を着飾って美しくなるっていうしな。俺はそれを許せないみみっちい男じゃない。それに……ここまで自由にさせてくれる王様なら、酷い扱いをすることは無さそうだ」


「そこは大丈夫だよ。安心して」


 上から見下ろすように俺を見るドルチェ。その言葉からしてドルチェが何者なのか分かってきた気がする。


「そうか……まあ、後はドルチェの秘密を知るだけだしな」


「え?」


「楽しみにしているぞ?ちょうどいい機会なんだから、後輩にも教えてやれよ?」


 俺がそう言うと、ココリスが頭を押さえ始める。これまでのドルチェの所作や様子からして間違いないだろう。ドルチェの困った顔を見つつ、俺は再び周囲を警戒するのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ