52草
前回のあらすじ「皆、大好きメスガキ」
―その日の夜「エポメノの崩壊した塔・一層 宿屋」―
「……至福」
「それ……今日だけで2回目だぞ?」
ガレットが宿のベットで、再び肥満薬を飲んでぽっちゃりした体で寝ている。今日、最初に飲んだ物より一つ強い薬を飲んでいる為、着ている寝間着はパツパツになっており、お腹のボタンが飛びそうである。低身長もあって見た目は肥満一歩手前の姿である。
「このポチャポチャ感が堪らない……zzz」
「おい。明日の打ち合わせをするんだよな?寝たぞ?」
「ガレットはアレで大丈夫です。寝てても聞いているので」
「……俺が深い睡眠が取れるような薬を用意しようか?前世の知識から作れると思うんだが」
「大丈夫……単に寝るのが好きなだけ……zzz」
「だそうです」
「そ、そうか……?」
寝ているのにあんな返事をして、本当に大丈夫なのだろうか……?しっかり寝れているのか少々心配である。
それと、何で俺達が寝泊まりしている宿に「フォービスケッツ」の面々がいるかというと、この4人は宿を取らずに、ダンジョンで寝泊まりしていたらしく、そこに明日は俺達と一緒に行動するという事もあって、同じ宿に宿泊することにしたらしい。ちなみに彼女達の部屋は隣である。
「それで……明日は冒険者ギルドで素材搬入の報酬を貰ったら、すぐにでも出発よ」
「了解です」
「移動方法はストラティオによる移動ですが……街道を走るんですよね?」
「それが最短距離だからね。まあ、もう一つあることはあるんだけど……」
「練習が必要だからな……止めといた方がいいだろう」
鳥獣変身薬で空を飛んで移動するのもアリだろうが……飛ぶためには練習がいるのと、この地に長居するのが危険である以上、ストラティオで走り切った方がいいだろう。
「でも……素直に王都まで行かせてくれるかどうかだよな……」
アマレッティがお風呂で濡れた髪を拭きながら、その問題を投げかけて来る。
「そこなのよね……ここまでしといて、何もありません。ってことは無いでしょうし」
「……それでしたら、ウィードさんのお薬とかで移動に都合のいい物は無いのでしょうか?」
「クロッカのその提案……アリかも。どうかしら?」
「俺はどこぞの青ダヌキじゃ無いからな……そんな都合のいい薬なんて……」
俺は自分のステータス画面を見て確認する。
「……あった。薬では無いがな」
「それって?」
「結局、目立った活躍が出来なかったインビジブルだ。これを使えば、俺達の姿を消すことが出来る。で、後はエコーロケーションで敵がいないかを確認すれば……」
「敵の前では姿を消して、無駄な戦闘を省ける訳ね」
「そういうことだ……まあ、確実性は無いがな」
「それでもいいわ。私達では強行突破しか無いわ」
「後は街道を外れて、旧道や森の中を走るしかないもんね……」
「私達もその方法しかないですね……ガレットなら多少の搦め手があると思うんですけど……」
「無理……zzz」
「……やっぱり、その二つしか無いですね」
「後は私がナビゲーションを使う事も考えた方がいいかな……」
「人数がいるから戦力には問題無いだろうし……それもアリね」
「私はどうすればよろしいですか?」
「ヴィヨレはドルチェと相乗り。ウィードも一緒よ」
「分かった」
周囲の敵を確認できる俺とドルチェを一緒にすることで、事前に敵の接近を知ることが出来る。理にかなった分け方だろう。
「後は状況に合わせて乗り換えた方が良さそうですかね」
「ええ。それでいきましょう」
「ふわぁ~……あ、すいません」
明日の予定が決まった所で、ヴィヨレが大きな欠伸をする。無理も無いだろう。今日だけでも色々あり過ぎた。
「それでは……休みますか。私はあっちで眠るから……私のベット使われてるし」
「……zzz」
ガレットがそのまま、本格的に眠りに就いたようで返事をしない。
「じゃあ……お休み」
「ええ……」
就寝前の挨拶を済ませて、フォービスケッツの3人とココリスが部屋を出て行った……うん?クロッカが戻って、俺の前に来る……?
「どうした?」
「すいません……私もアレを貰っていいですか……?」
そう言って、寝ているガレットに指を差す。
「それはいいが……ちなみに5段階の内どれだ?」
「一番軽いので3つ」
「お前ら全員が使うのかよ……まあ、分かった……一つ聞いていいか?」
「どうして太りたいかですよね?」
「そうだ。どうして……」
「ウィードさん……宿屋のベットって硬いんですよ……」
「つまり自身が膨らんで、少しでもぐっすり眠れるようにしたいと……」
「はい!それと飲む量で時間が変わるんですよね?」
「ああ。そうだ……これを持っていけ」
俺はメモリの付いたコップを収納から取り出す。
「今の時間ならコップ一杯で朝まで、半分なら寝ている間に効果が切れるぞ」
「ありがとうございます!」
クロッカはお礼を言って、肥満薬を持って部屋を後にした。
「……ドルチェ。ベットって硬いのか?」
「ううん……ここのベットなら普通の人はそこまで気にしないくらいだよ。気にするのは冒険者である私達くらいかな。ウィードも言ったでしょ?冒険者って肉体に多少なり自身があるって」
「ああ……言ったな。つまり、余計な脂肪が少ないと?」
「そうそう」
「なるほどな……」
花の宿プリムラでトレーニングウェアを着た時の二人の姿を見た時、余分な脂肪が無い見事なプロポーションだとは思った。
「プリムラはそこを考えて硬さを変えてくれたんだけど……他はそうはいかないからね」
「ヴィヨレはいらないとして……ドルチェは飲むか?」
「ううん。私やココリスはいらないよ?それでもぐっすり眠れるから。恐らくフォービスケッツの3人もガレットが気持ちよさそうに寝ているから、試したかったんだと思うよ」
「睡眠のためにコレを飲む度胸に恐れ入るよ……」
「ふふ!それじゃあお休み」
「ああ」
そう言って、部屋を暗くするドルチェ。しばらくすると静寂に3人の寝息が聞こえてきた。
(やれやれ……ヴィヨレに配慮するのも大変だな)
今頃、隣の部屋では一人だけ起きているのだろう。今、ここは安置ではない。ユース伯爵が仕向けた敵がいつ来てもおかしくないのだ。だから、誰かが寝ずの番をしないといけないのだが……その心配をヴィヨレに悟られまいとして、この部屋の分け方だったりする。
(……ここは俺に任せておけよ)
俺はそう思いつつ、進化したアビリティであるラボトリーを使って、見張りをしながら怪しい調合を始めるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―ほぼ同時刻「エポメノの崩壊した塔・一層 宿屋」ココリス視点―
「うわ……ぷよぷよだ。お腹が掴めるよ」
「あたし、こんな体になったのは初めてかも」
「それは当然だと思うわよ……ああ、これは寝やすいわね……」
ほんのりぽっちゃりしたフォービスケッツの3人が、自身の体を触ったり、ベットに寝転がって寝やすさを確かめている。
「あの従魔さん。本当に凄いですね」
「ええ。しかもその薬を売って、大儲けしてるわよ」
「パーティーの資金源にもなって、戦闘に補助、回復……一グループに一草は欲しいですね……」
「譲らないわよ?」
「分かってますって……でも、この薬を一般に販売してくれないですかね?これってかなり有用性のある薬だと思うんですよね……」
「本人は飲ませないと効果が無いから使えないって言ってたけどね……でも、必ずしもそれだけとは限らないのよね」
「そうですね……それで、ウィードさんがいないこの状況で訊きたいことがあるんですが」
姿勢を正して、こちらに顔を向けるビスコッティ。その顔はさっきとは違って笑っていない。
「ウィードさんに関してなんですけど……」
そのビスコッティの言葉に他の二人も反応する。
「……国王からの命令で監視してるわ」
「やっぱりですか」
ウィードだけに教えていないこと。皆がその事は伝えていない。
「他世界から来た転生者……それは……」
「ええ……分かってるわ。彼が……魔王かもしれないってことでしょ?」
「それじゃあ……!」
「アレはないわね……彼は優しすぎるわ」
私はそう答える。彼とはそこまで長い付き合いでは無いが、悪い人……じゃなくて悪い草には見えない。まあ……。
「少々、変態だと思うけど……」
「へ、変態ですか?」
「そうよ。変な薬も作ってるし……それに、あなた達のパンツを見て、鼻の下を伸ばしていたのだから」
私はビスコッティとクロッカにその事を伝える。
「「え?」」
「あなた達とウィードが始めて会った階段で、彼、見てたわよ?真下から」
「「ええーー!!」」
二人が見られた事を知って顔を赤くする。
「そんな奴が魔王なんて思えないわよ……それじゃあ、お先に休ませてもらうわね」
「ちょっと!?」
「はいはい。そろそろ寝ましょうね……見張りよろしく……」
「え、ええーー……」
私は二人の恥ずかしさで、声にならない悲鳴を背中で聞きつつ、眠りに就くのであった。