51草
前回のあらすじ「同業者との戦闘」
―1時間後「エポメノの崩壊した塔・一層 冒険者ギルド 尋問部屋」―
「こいつら……私達がココリスさんたちに話した冒険者達ですよ」
「それって先にボス部屋に入ったグループだよね」
「はい」
縄で縛られて動けず、恨みつらみを訴えるように睨みつけてくる俺達を襲ってきた冒険者達。一層に下りて来た俺達はそのままギルマスに事の詳細を話し、こうやって尋問に立ち会っている。
「それで……あなた達はどうしてこんなことをしたのかしら?」
「「「「……」」」」
ギルマスの問いに、誰も答えない。というか奴らの態度は余裕さえ感じられる。
「大人しく答えた方が、あなた達のためになるわよ?」
「さあ……何のことでしょうか?そもそもそっちの奴らが言っているだけで、我らには心当たりが無いんですが?」
「何を言ってるの?私の足を刺して……」
「その傷口はどこでしょうかね……?」
「こいつ……!」
クロッカの発言に対して証拠が無いと言いがかりをつける一人の男。なるほど、それだから余裕なのか。
「うーーん……困ったわね……」
ギルマスが首を傾げる。彼女も今回の事件はこいつらが黒だと思っているのだろう。しかし、証拠が無い今、強く言及も出来ないのだろう。
「……あいつらの荷物にそれを示唆する物があれば追及できるんじゃないのか?」
「そうね……そうしたらあいつらの荷物を広げてみましょうか」
俺の意見を聞いて、皆が捕まえた冒険者達の荷物を床に広げていく。ちなみに捕まえた冒険者達は、今の会話でヴィヨレが両手に持っている麻袋に入った草……つまり俺が従魔だと気付き、そして自分達がこんな目にあった恨みを、その目に込めて睨みつけてきた。
「広げたけど……何も無いかな……」
「そうですね……」
広げた荷物に不審な物が無いかを調べているドルチェ達。確かに見た感じは、冒険者が持つ荷物らしく、これと言った違和感が無いのだが……。
「(スキャン……)」
俺は小声でアビリティを発動して、周囲を確認する。様々な情報が一気に可視化され、視界一杯になる。
(……これは必要ないから)
そこから不必要な情報を取り除いていく……これが人間の体で発動させたなら、果たして頭が大丈夫だろうか気になる所だな。
(これは建物の壁の情報……そういえば、人物の情報は出ないんだな……)
人物の情報があれば、あいつらをスキャンして情報を引き出せると思ったが……そうは上手くいかないか。
(それに……そんな事が出来たら仲間のプライバシーとか完全に無視だしな……無くて良かったような…良くないような……うん?)
俺はある一つの短剣の情報が気になり、その情報を再度確認する。
「……おい。そこにある予備のナイフの一つにユース伯爵からもらった物が混じってるぞ」
俺の発言に、さっきまで余裕を見せていた冒険達の表情が途端に暗くなっていく。
「ユース伯爵……?それは本当ですか?」
「ヴィヨレは知ってるの?」
「いいえ。私は知らないんです……ただ、前にお父様がその名前を出されていて……その時に注意しないといけないとか言ってたのを偶然聞いたことがあります」
「ユース伯爵か……あまりいい噂を聞かない人だね。怪しい奴らと関係を持っているとか、そんな話を聞くから……」
「ドルチェさん詳しいですね?私達あまり知らないんですが……」
「うんうん」
ビスコッティとガレットの二人が、俺と同様にドルチェの情報に感心している。というより……王都の情報量が豊富な気がする。さっきは王都のここのパン屋が美味しいとか言ってたし。
「たまたまだよ!それより……ウィード?どの短剣がユース伯爵からのもらい物なの?」
「左から2番目だ。一見ただのナイフに見えるが、その持ち手のハンドル部分のボルトを外すと、刀身に刻印が刻まれているみたいだぞ」
「ドルチェさん。ここはうちがやるよ……同じ獲物だから取り扱いも分かるしね」
アマレッティがそのナイフの持ち手であるハンドルのボルトを外していく。
「……ウィードの旦那の言う通りだ。刻印があるよ。ドルチェさん。これってユース伯爵家の物であってますか?」
アマレッティがナイフに刻まれている刻印をドルチェに確認してもらう。
「……うん。間違いないよ」
「嘘だ!そんなの……!」
「しっかり調べれば分かる事だよ。それで、どうしてこんなのを持っているの?」
「それは……」
ドルチェの問いに言い淀む男。先ほどから話をしていたこいつが黙るということは、これはきっと何かあるのだろう……。
「スキャン」
俺はさらに何か無いかを確認する。特に……先ほどから話をしていた男……こいつが何か持っていないかな……と。
「その男の靴……かかとが外せるようだな……何を隠しているのかな~……?」
「なあ!?このアマ!!?」
「あ~!その反応……何かやましいのを隠してるんだな~?」
「あ、いや……」
このロリボイス……相手を怒らせたり、油断させたりするのに、かなりいいのかもしれないな。それじゃあ……。
「こーんな草に負かされるなんて、おにーさんのザーコ……くやしい?ねえ。くやしいー?」
「てめえ!?」
怒りのあまり、縛られているのに俺を襲おうとして立ち上がろうとする男。しかし、手足を縛られているのだから、そのまま床に転んでしまった。
「お!ちょうどいいね~」
男が転んだ事で、靴を脱がせやすい体勢になったところを、すかさずアマレッティが素早く脱がしとった。
「これのかかとだったよね……お?」
パカッとかかとの部分が外れた……そこから折りたたまれた紙切れが一枚。ギルマスがそれを手に取って内容を確認する。
「神緑の葉を奪い取る。それとヴィヨレという少女の始末……これは決定的な証拠ね」
「しかもご丁寧に印も押されているわね……この刻印と同じ印が……」
「ギルティだね~!」
証拠もこれで出た。後は……。
「さて、ギルマス?こいつらの処分は如何いたしますかね~?」
「確か、あなたって様々な薬を使えるのよね……何かいい物があるかしら?」
「え~と……麻痺に魅了、狂乱……それと、肥満に痩身ですかね~。肥満でこの部屋を自身の贅肉でぎゅうぎゅう詰めにも出来ますよ?」
「どうしてそれをチョイスするのよ?」
「冒険者だから、自分の体には自信があると思うんですよね~。そんな体が贅肉で見るも哀れな姿になったら~……どんな反応するか楽しみじゃないですか~!!」
「ひっ!?」
「……それじゃあ、お願いしてもいいかしら?死なないようにね?」
「分かりました~!じゃあ、みなさん!この部屋から出て行きましょう!」
男共の持ち物を再度集めて、この部屋から廊下へと男共を残して非難する俺達。
「じゃ~あ。行きますね~!!おにーさんたち……バイバ~イ!」
男共が命乞いをする中で、俺はポイズン・パフュームで肥満薬を部屋に充満させる。男共が縛っていたロープや着ていた衣服を引きちぎるように太り始めたのを確認してから扉を閉めてもらった。
「さてと……これはあなた達が王都に持っていってもらった方がいいのかしら?」
「そうですね。この後、あちらに行く予定ですし……下手すると王様に会う予定もあります」
「あら。ちょうど良かったわ。そうしたら私からの指名依頼ということで、これを王都のギルマスに届けてちょうだい。私の手紙も一緒にね」
「はい」
「それで……いつ、出発するかしら?」
「……明日すぐにでも」
「分かったわ。移動用にストラティオをこちらで用意しとくわね」
「ありがとうございます……それで、あなた達も来るの?」
フォービスケッツの4人に確認するココリス。
「確かにここでクエストの報告すれば、それで終わりなのですが……ここは最後までお付き合いさせて下さい。皆もいいよね?」
「もちろん!」
「賛成だよ」
「王都に行くべき。こっちに被害出てる」
4人の意見も一致したところで、明日はここを離れて、いよいよ王都へと向かう事になる。その前にしっかり旅の準備をしないと……あ。
「それと新緑の葉をここのギルドにおすそ分けした方がいいんじゃないですか~?この一連の事件のせいで大変じゃないんですか~?」
「そうね……そうしてもらえると助かるけど……いいのかしら?」
「大量に採れたので大丈夫です……それよりウィード?その変な口調はいつまでするつもりなの?」
「メスガキって意外に楽しくて……つい」
メスガキムーブ……ここまで楽しい物とは……な、何かに目覚めた気がする……!
「あなたオスでしょ?毛が薄い……」
「言うな!前世はふさふさ……そう、ふさふさだったんだ!」
「はいはい……それじゃあ、新緑の葉を査定してもらったら宿に戻って、打ち合わせしましょうね」
「「「「はーーい!」」」」
そう言って、皆が移動を開始する。
「(俺はふさふさ……そう、ふさふさだったんだ……)」
「それ。余計に自分が禿げていたって言ってるのと同じじゃないですか?」
「グファー!!?」
ビスコッティの慈悲無き一言に、小声で必死に気持ちを立て直そうとする俺の心に大きな傷が刻まれるのであった。