49草
前回のあらすじ「後輩登場!」
―「エポメノの崩壊した塔・屋上 ボス部屋前」―
「あっという間だったな……」
「先にこの子達が倒しちゃったもの。いなくて当然よ」
あの休憩後、俺達はモンスターに遭遇したり、氷嵐に襲われたりせずに一気にボスの部屋の前までで来れた……その扉から右を見ると壁の隅にテントが立っていた。
「さてと、これは撤収しますか」
「フォービスケッツ」の4人がテントの解体を始める。それはあっという間に、一つの鞄に納まってしまった。俺達もその間に防寒具を脱いでいつもの格好に戻っておく。
「ここで寝泊まりしてたのか……誰か来なかったか?」
「えーと……二組ぐらい来ましたよ。中堅クラスのパーティーでしたね」
「……少ないわね。私達がここで稼いでいた時はもっといたはずよ」
「防寒具高い……商隊が襲われている頻度が上がっているのが理由」
「そうなんですか?」
「このダンジョンまでに続く街道全てに盗賊が現れているようです。それによって値段が軒並み上がってるんです……それを重く見たギルドが討伐依頼を出して、対応に当たってるそうです」
「価格上昇による物資不足、そして討伐依頼による人員減少……とことんやってるな……」
「そうだね……でも、どうしてここまで?」
「ドルチェさんの言う通りですね。ここまでやったら、明らかにバレバレですし……」
「国も馬鹿ではありません。きっと、何者がこんな事をしているか調べもついているはずです」
「そうなると……どうしてそいつらを裁かないのかだな。すでに死者も出ている。こんなのが世間に知られたら、王家の威信に関わるだろう?」
「そうね……国も手出しできない相手……かなり厄介かもしれないわね」
「4人とも……嵌められたね」
「それを言うなら、皆さんもですよね?」
ドルチェの言葉にクロッカがそう返す。そして少しの沈黙の間の後、全員が大きな溜息を吐く。どんどん面倒になっていくこの件。これ以上の面倒ごとに巻き込まれたくない。
「さっさとヴィヨレのお母さんの為の薬草を取って撤収だな」
「そうよ。それだけを終わらせて、さっさと王都に行って仕事を終わらせちゃいましょう」
「お母様の体が早く治るなら、私は何もいいません」
全員が手を前に出し、その場で円陣を組み気合いを入れる。
「それじゃあ!私達から行くとしますか!」
「本当に後でいいのですか?」
「ヴィヨレは冒険者になって数日よ?しっかり計画を立てないと彼女がついていけないわ」
「そうですか……なら、お言葉に甘えて。皆!」
リーダーのビスコッティを先頭に、「フォービスケッツ」がボス部屋に入っていった。
「それじゃあ、あの4人が終わる前に計画を立てるわよ」
その後、ボス部屋の扉に付いている魔石の色が、入室可を表す緑色になるまで打ち合わせをする。
「あ、緑色になりました」
打ち合わせが済んだのと同時に、扉の魔石が緑になったので、打ち合わせ通りにアビリティを使う。
「全てを包み隠せ……インビジブル」
俺とヴィヨレの姿を隠す。
「完璧に消えてるね」
「じゃあ……行くわよ!」
ボス部屋の扉を潜り、中に入ると、一部の柱、壁が崩れた古代の闘技場のような場所に出てくる。そして空は清々しい程のいい天気だった。
「はあ〜……本当に外に繋がってるんだな」
「天気は晴天……そして……」
すると、前方の石畳の床が暗紫色に輝き、そこから2頭を持つ大きい鷹のようなモンスターが現れる。輝きが収まると、すぐさま翼を広げる。
「「プリズム・レーザ!」」
このタイミングでドルチェとヴィヨレの二人が光魔法を発動させる。狙いは翼。その翼に穴が開き、そこから他の羽が燃えていく。ツイン・ヘッド・ホークはその火を消そうとして翼を何度も動かしたり、地面に擦って消化させる。しかし、その羽は既にボロボロであり、とても羽ばたける様子では無い。
「ウインド・カッター!」
「ウォーター・カッター!」
すかさず、ドルチェと俺の風と水の魔法刃でツイン・ヘッド・ホークを切り刻み、出血によるダメージを与える。そして……俺達が魔法を放ったと同時に駆け出したココリスがその槍でツイン・ヘッド・ホークの左胸辺りを貫く。恐らくそこが弱点なのだろう。ツイン・ヘッド・ホークはそのまま倒れてしまった。
「……って?終わりかよ!?姿を消した意味が無くないか?」
俺はインビジブルを解除する。ヴィヨレに攻撃が向かないようにするために使ったのだが……意味が無かったな。この戦いでツイン・ヘッド・ホークは何もしてない。現れて、翼を広げて……ほぼそれだけしかしていない。
「いやいや!ちょっと待てよ!ボスだろう!?もっと何かあるだろう!こう特殊な攻撃とか?」
「だって……登場の仕方はいつも同じだから、そこを狙って攻撃すれば……」
「それに今回は高火力の魔法攻撃を放てるのが4人もいるのよ。私がトドメを差すために抜けたとしても、3人で翼をボロボロにして、相手の隙を作るなんて簡単なのよ」
「そんなんでいいのかボス!?」
「普通に戦えば強いんだけど……まあ、やり方さえ分かれば、この程度よ。それにいいのよ……楽だから」
「うんうん」
頑張って上って来たのに……ボスの強さがこれでいいのだろうか……?確かに二人の言う通りで楽なのはいいんだけどさ……。何か残念で仕方がない。
「ウィード?これを回収お願い」
「……あい」
俺は残念なボスであるツイン・ヘッド・ホークを回収する。見た目は強そうなのにな……。
「それと……今回は宝箱がどこかに……」
「あ、あれですか?」
ヴィヨレが指差す方向に、ゲームでお馴染みの形をした木製の宝箱があった。
「おお!!ごまだれのアレだ!」
「ごまだれ?」
「気にするな。それより……この中身にあるのか目的のアレが」
「そうよ……まあ、入っていればの話だけど。ヴィヨレ……開けてみて」
「はい……」
ゆっくり宝箱に近づくヴィヨレ。俺を横に置き、宝箱の蓋に手を掛ける。
「……いきます」
ゆっくりと宝箱を開けていくヴィヨレ。蓋を開けきったところで、中の物を取り出した。
「……ハズレですね」
その手に持っていたのは、淡い緑色の布らしき物……。明らかに神緑の葉ではないだろう。
「アネモスのマントね。風の魔法が施されていて、物理、魔法の両面の防御力を上げてくれるわ。それも当たりの部類よ」
「でも……今回はハズレですね」
「そうだね……」
落ち込む3人。ここはダンディな男の大人として……。
「お前達……そ~~~~い!!?」
あのレベルアップの際に起きる刺激が発生する。思わず変な声が……でも、どうして?
「どうしたのよ」
「いや、いつものアレなんだが……どうしてだ?」
「うん?ウィード。麻袋に穴が空いてるよ?」
なるほど、そこから根っこが床に触れてレベルアップしたのか……何が変わったのか……な!?
「調合が……」
「どうしたの?」
「調合が無くなった」
「「「え?」」」
「そして……新しいアビリティになっている」
お世話になっていた調合が無くなり新しいアビリティが出来ている。その名も……。
「ラボトリー……研究所か?」
「何よそのアビリティは?」
「分からん……チョット待て……」
俺が心の中でラボトリーと唱えると、ステータス画面似た物が表示される。そこにはいくつものメニュー欄があり、その一つに調合があった。俺がそれを選択すると、いつもの調合の画面……じゃなかった。
「やばいな……これ」
俺がポーションを選ぶと、何といくつものパターンが表示される。俺が吸収した養分からこの割合で合成すると表示され、それがどれだけの効果があるのかが書かれているのだ。さらには、もし材料から作るとしたらその調合方法も記されている。
「待てよ……」
俺は特殊な薬である肥満薬や痩身薬も確認すると、何と材料から作る際の調合方法が表示されたではないか。これを薬師に伝えれば、俺じゃなくても作れることになる。
「どうしたのよ」
「肥満薬や痩身薬が俺じゃなくても作れるようにレシピが表示されるようなった……それだけじゃなくて全ての薬が……」
「え。待って。あの万能薬wwwって奴も?」
「ああ……そうだ…な。材料は表示されている。この材料がどれだけの価値があるのか分からないが……それでも、材料さえあれば作れるぞ……それ以外にも……」
「まだあるの?」
「ラボトリーは複数のアビリティを一つにまとめたような能力だな……精密鑑定の中にスキャンっていうのもある」
「それはどんな能力なのかしら?」
「……スキャン」
俺がそう唱えると、周囲のありとあらゆるものに対して、説明欄が表示される。
「……凄いな。例えばここの床の材質は石。経年劣化による損傷が見られる。しかし、ダンジョンの力が働いているようでこれ以上の経年劣化は起きなさそうだ。と表示されているぞ」
「周辺の物を全て鑑定する能力ってこと!?」
「ああ……うん?」
俺が手当たり次第にスキャンを使用していると、ある一ヶ所に目が行く。
「おい……」
「どうしたの」
「神緑の葉が生えているぞ」
「「「え?」」」
「ヴィヨレが向いている方向の右側。そこの壁の裏に神緑の木ってのがあって、その葉が神緑の葉のようだ」
「「「……」」」
皆が右側の壁を見る。見た目は普通の石を長方形に整形して積み上げたような壁である。しかし、その裏にあるとスキャンの結果には表示されている。
「サウンド・インパクト!!」
俺が音の衝撃波でその壁に攻撃をする。壁が崩れるとそこには一本の木が生えていた。その木に皆が近寄り観察する。
「間違いないわね……神緑の葉よ」
「やった!これで採取できるね!」
「はい!」
喜ぶドルチェとヴィヨレ。まさかボス部屋にこんな空間があるとは……ヴィヨレは俺をココリスに預けて、ドルチェと一緒に採取を始める。
「ウィード……?」
「なんだ?」
「今、複数のスキルって言ったわよね?」
「……ああ。調合に精密鑑定、それとシミュレーション」
「シミュレーション?」
「それがどんな効果を発揮するかをモデルを使って分析する方法なんだが……攻撃予測とかもあるな……」
「攻撃予測……それって相手がどんな攻撃を仕掛けて来るか分かるって事!?」
「もしくはどんな攻撃なのかを教えてくれるアビリティかもしれないな……とにかく、これはヤバい……うん?」
「まだ何か?」
「お知らせ?」
お知らせという欄がある。どういうことだ?というか……誰からのお知らせなのだろう?俺がそれを開くと、そこには……。
「おめでとうございます!2か所のダンジョンボスを討伐、ネームド討伐2体達成記念としてこちらのアビリティを贈呈します。また、この際に重複する物はこちらに統合されますのでご確認ください。か……ご丁寧にどうも」
「誰がそんなのを書くのよ?」
「それは……神様にしとこう。というか、そうしか思えないのだが……」
こんなアビリティに何か出来る存在なんて、それしか思えないのだが……。
「そう……ね……信じられないけど」
「俺もだ。というか今さらかよ……」
この不思議な現象に、俺とココリスは頭を捻るのであった。




